てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~ 作:青の細道
「おう、お前もな」
そう言い終え、通話を切りトランシーバーをケツポケットに押し込み。チラリと横目で4つの視線を向ける存在に溜め息を吐く。願わくば相方が早くこっちに到着することを祈るばかりだ。
「おい、いつまで縮こまってんだよ」
俺は手摺にもたれ掛かりながらそう問いかけると露骨に肩を震わせる『四人』。察しの悪い奴だと昔から言われてきたオレでも流石にわかる。明らかに自分が怖がられてるってことくらい。
まるで人質を取った犯罪者みてぇだな。と、相方だったら鼻で笑っていただろうが今は冗談を交わす相手もいない。オレは空を見上げ、もう一度大きく溜め息を吐いた。
『事』が起きる直前まで、オレは屋上の隅で煙草を吹かしていた。前世でもチョビっとだけ吸ったことのある煙草だが以前は依存するほど嵌まらずだったが『こっち』に来て10何年も別の意味でストレスが増えたことから、いつの間にかオレは喫煙家の沼に落ちていた。
ぼーっと校庭を眺めながら三本目に火を着ける。
授業をサボり、ただただだらけているように見えるが違う。……いや違くもないんだが。
とにかくオレは待っていた。物語──というより事態が起きた後。どういうルートを通って感染の波が学院にまで及んだのか。どっち道抑えられないのだから意味は無いんじゃないか? と思ったが相方曰く「波が来た方向とは別の方向を逃げ道にする生存者の誘導をしてほしい」らしい。
事前に助けるのは原作キャラだけだったはずなんだが、パンデミックが発生した後の処理やら手間を省かせたいらしく出来るだけ数を減らしておきたいらしい。
実際。校門から入ってきた不審者(感染者)を取り押さえようとした教員が襲われ、パニックが起きた時点で校庭に飛び出したオレが「走って裏門から逃げろ」と叫ぶと一斉に人が駆け出した。
既に襲われゾンビ化した教師や一部の生徒が次々と他の人間を襲い始めている。朝礼台に登り目を凝らす。逃げる生徒の顔を確認しながらオレは目標を探す。すると目標の一人……濃い青紫色のツインテールをした女子と茶髪の男子生徒が一緒に走っているのが見えた。
ゾンビ共からはそれなり離れた位置に居たため感染の危険はないだろうと安堵したのも束の間。男子生徒が立ち止まり何故かゾンビ共の方へと走り出した。
「っ! なにやってンだ馬鹿!」
台から飛び降り全力で駆け出す。そういやどういう経緯であの男子生徒が感染したのかオレも相方も知らない。原作やアニメでも既に噛まれたorゾンビ化した後の末路しか知り得なかった。
「先輩! 戻って!!」
悲鳴のように叫ぶツインテールを通りすぎ、何匹かのゾンビが纏わり付いていた生徒に手を伸ばそうとしていた男子生徒を取っ捕まえる。
「テメェ何してンだ! 死にてぇのか!」
「離せ! 『一葉』ァ!!」
必死の形相で腕を振りほどこうとするアホを自慢の腕力で押さえ込む。こいつが呼び掛けたのは女子生徒の一人だ、既にゾンビ化し生きた人間を一心不乱に喰らっている化け物に集られ、唯一伸びていた手がビクビクと痙攣している。
「もう手遅れだ! 早く逃げろっ──いって!」
綺麗に脇腹へ肘鉄が突き刺さり、少し緩んだ隙に抜けられた。もう一度手を伸ばしたが制服の袖を掴み損ねる。
「クソがっ!!」
何でこう一々面倒くさい方に事が運びやがるんだろうか。
「一葉から離れろ!」
男子生徒──ああもう面倒くせぇ、馬鹿でいいや。馬鹿がゾンビ共を押し退け、息絶えた女子を奪還する。が、再度襲いかかってきたゾンビ共に足がすくんだ馬鹿の真上を飛びドロップキックをお見舞する。
ボーリングのピンのように気持ち良く倒れたゾンビを見て「ハッハー! ストライクだ」と思わずガッツポーズを取る。
「おい、さっさと逃げ──」
振り返ったオレが見たのは、目を見開き驚愕の表情を浮かべながら首を噛み千切られる馬鹿の姿と、直後嫌に響いたツインテールの悲鳴だった。
気がつくとオレは馬鹿を担ぎながらツインテールの後を追いかけ原作通り屋上へと逃げると、既に3人の生存者が居た。
内一人。生徒ではなく教員である女がオレの顔を見るや、若干顔を曇らせたような気がしたが特に気にも止めず馬鹿を適当に下ろし、ゾンビが押し込んで来ようとする入り口を押さえる。
これでもかなり鍛えたつもりだったが物量差が大きすぎる。流石に一人では押さえきれない。
「おいっ! 手伝えアホ!!」
そう怒鳴り付けると、これまた露骨に怯えられたが緊急事態ってこともあってかすぐに扉を押さえ始める三人。が、ツインテールだけは放心態で虫の息になっている馬鹿を見ていた。
「恵比寿川さん!」「くるみ!」
「先輩……」
起き上がった馬鹿は小さく唸り声を漏らしながらゴキゴキと全身の骨を軋ませる。その顔に生気はなく、口や目からは血を垂れ流し、もはや人のソレじゃなかった。
「離れろツインテ! そいつはもう手遅れだ!」
座ったまま呆然とするツインテにゾンビ化した馬鹿の手が伸びる
「先ぱ──」
「っ、ちょいと踏ん張れや!」
伸ばされた手を掴もうとツインテが手を持ち上げるのを見たオレは飛ぶように扉から跳ね、半転し勢いを付けた蹴りで横凪ぎにゾンビを蹴り飛ばす。
「っ! 先輩に何すんだお前!!」
クッとオレを睨むツインテが手摺に叩き付けられ、倒れ伏すゾンビへと駆け寄ろうとするが襟首を引っ掴み、後ろに下がらせる。
「よく見ろボケ『アレ』はもうオメェの知ってるセンパイじゃねぇ」
足元に落ちていた一本のシャベル。本来であればこれの持ち主自らゾンビを介錯するのが流れだが、オレはそのシャベルのさじ部を踏み、カンと音を立て勢いよく持ち上がった握りを掴む。
軽く振ってみる。少し軽いがなるほど。たしかに「戦争で人を多く殺したことのある武器」とよく言われた得物だ。
こいつなら──。
「おい……待てよ……」
「下がってろ」
腕に力を込め、一歩目で距離を積め……二歩目で腕を体ごと大きく回転させ──。
「やめ──!!」
そして現在に至る……と。
「あの……田所くん……」
手摺にもたれ、空を見上げながら呆けているオレに桃色の髪に紫の服。この場で唯一の成人である女。『佐倉 慈』が恐る恐る、といった様子で声を掛けてきた。「なんスか」と問えば萎縮したように目を泳がせる。
お前のベトナム帰りみたいな顔と体格で高校生とか草。とは相方の談。
たしかに前世よりも体格に恵まれたとはいえ高校生で身長180の筋肉モリモリマッチョマンの変態になった覚えはない。
「さっき、無線機で話してたのって……木村くんよね?」
そうっスけど、と返せば「そっか……無事だったのね」と安堵の表情を見せる。朝から姿を見せなかった相方である秀を心配していたのだろう。
「それで、何て言ってたのかしら?」
とりあえずオレは秀が別の生存者と行動を共にしていること。学院へ向かっている事を告げる。
鞣河小に向かう事や一部を省いて。オレは秀が合流するまでの間、何としても原作通りの流れが起きないように阻止しなければならない。早くて明日、長く見積もって3日といったところか。
さてさて序盤から原作ブレイクしたことが裏目に出るかどうか……。
「本当にいいの?」
不安そうに眉を潜める女性に、俺はもう一度「ええ」と答え感謝の言葉を伝える。
「ここから先は俺一人で行きます。エンジン音は『奴ら』を引き付けてしまうんでなるべく静かに、ただ危険だと感じたらすぐに離れてください」
もしもの場合を考慮してトランシーバーの使い方などを一通り教え、車の扉を閉める。腰の後ろへ鞘に入ったナイフを固定し、リュックに入れておいたタクティカルグローブを両手に装備する。
「正気ですか一人で行くなんて」
後部座席の窓から顔を覗かせる直樹と祠堂。
「複数で動くより俺一人の方が迅速に動けるだろ、というかお前らは『アレ』とやり合えねぇだろ」
そうはっきり言うと口ごもる二人。現状では他の人員は足手まといになるのが関の山である。さすがに面と向かって言うことではないので言わずにいるが何となく察しているような雰囲気が見て取れた。
「気を付けてね」
女性に直樹たちを任せ、俺は鞣河小より約1kmほど離れた位置で車を止めてもらい、奴らを引き付けないように隠れて貰う。基本的に奴らは光を放つもの、音を立てるもの、動くものに向かう習性がある。そして何より車は生存者の目にも止まるし乗員が居れば尚更標的に成りかねない。
「……」
細い路地を進み、身を屈めながら曲がり角を覗き見る。都合のいいことに近くに奴らの姿は見られない。大規模に移動したか、何かを追いかけていったのか……。血溜まりや瓦礫、壊れたスマホやらバッグなどで散乱した住宅街は驚くほど静かだった。
適当なバッグを漁れば女性ものの財布を見つけ、中から小銭を拝借していく。自前の小銭はあるが数が多いことに越したことはない。
一見ただの火事場泥棒にしか見えないのは黙っておこう。
「──っとぉ」
数分ほど慎重に進み、踏み切り近くに差し掛かったところで数匹の感染者を捉えた。数は6。どうにか出来る程度の数だが不必要な体力の消耗は避けたい。
さっそく拾った小銭が役に立つ。6枚ほど10円玉を握りしめ、思いっきり投げ飛ばす。チャリーンと地面に接触した小銭が金属特有の甲高い音を立て引き付けられた感染者たちの脇をそそくさと抜けていく。
その後も小規模ながら感染者の群と何度か遭遇するも交戦は避け、30分ほどで目的の鞣河小が見えてきた。当然だが小学校特有の子供たちが楽しそうに騒ぐ声は一切聞こえない代わりに、無数の転化した感染者たちの呻き声。汚れた校門や所々に付着している血の手形……転化した後に誰かの手によって始末された数匹の感染者らしき亡骸。校庭には散乱した遊具や子供用の靴。生存者の影は欠片も無さそうに思えた。
原作ではここに来るのはもっと先で、その頃には既に全部が遅かった……だがもし今なら間に合うかもしれない。全員は無理でも、僅かに残っている生存者が居るなら──。
──いや、違う。何を考えてるんだ俺は……お人好しになったつもりか?
俺が助けるのは一人だ。目的は単に原作キャラの精神を維持させるためだ。物理的に守ることができても心まで助ける事はできない。依存する何かを与えなければ彼女たちはやがて内側から壊れていってしまうかもしれないんだ。だったら一つでも希望が持てるものを増やすべきだ。
「……」
校門を潜り、校舎の中へと足を踏み入れる。電気は消えており、窓から差し込む日差しと手にあるペンライトだけが光源として頼りだった。
いつでもナイフを引き抜けるように右手は片方のナイフのグリップに添えておき、ペンライトを構えながら慎重に歩く。床に散乱したガラス片などを踏んで音を立てないように一階、二階と探索していく。
「……? 声?」
僅かに聞こえた声。聞き違いかと思いつつ目を閉じて聴覚に集中する。やはり聞こえた。感染者の唸り声じゃない……子供が啜り泣く声と、それを元気づけるように宥める声だ。
「やっぱり……生存者は居たんだな」
原作で彼女達がここを訪れた際にはバリケードが築かれた教室は内側から感染が広まったらしく、結局生存者は見つからなかった。だが何ヵ月も前に俺が来たならば少なからず変化があるだろう。
「……」
ライトを消し、息を飲む。ゆっくりと話し声のする教室の戸を軽く叩くと複数の悲鳴が聞こえ、それを押さえるように「静かに」という声が聞こえた。
「誰かそこにいるのか?」
俺が小さく問いかける。ざわざわと生存者たちが騒然とし始め、やがて男性の声が帰って来た。
「だ、誰だ……?」
「……俺は外から来ました。友人の妹を探してて……この学校に通ってるって聞いて……『若狭 悠里』の妹……名前は──」
「りーねぇ? ……もしかして『ひーにぃ』……?」
最初は、関わるつもりなんてなかった。平和である間は特別かかわり合うことはせずにパンデミックが起こった後にでも偶然を装って遭遇するという初期の計画に従って入学からずっと、例え同じクラスになっても学校行事以外で原作キャラとの接点は出来るだけ作らないようにしていた。
いざという時、最初から見知っておいて信頼を築けていれば物事が楽になるかもしれないが、俺は逆に親しめば親しむほど情が沸いて判断を鈍らせる原因になってしまうと思った。
自分の考えが全て正しいとは思わないし、もっと上手くやれたんじゃないかと思うことなんていくらでもある。
だから本当に関わり合うつもりもなかった。
始まりは原作キャラの一人──若狭の妹が公園で一人遊んでいたのが始まりだった。最初は誰なのか気づかなかったが、やがてその子供が若狭の妹であると気付いて変に関わり合うのは避けようと思い、その場を離れようとした時。不意に若狭妹が泣いているのが分かった。
今思えば、あの時の行動は計画を狂わせる第一歩だったのかもしれない。
「どうかしたのか?」
現実だったら『夕暮れ時、幼い少女に声を掛ける事案』として通報されてもおかしくはない行動だったが悲しいかな、この世界はそこまで歪んではいないという皮肉。
知らない男に声を掛けられたのにも関わらず、若狭妹は涙ながらに事情を話始めた。曰く最近の姉が忙しそうで一緒に遊んだりお話しする時間が減ったのが寂しいとのこと。小学生の若狭妹に対して姉は高校三年。卒業後の進路やらで忙しいのは同じクラスの俺もよく知っている。
自分が姉と同じクラスであると知るや、学校での姉について色々と訪ねられた。正直そんなに若狭の事を見張ってるつもりはないので全部が全部知っているというわけではなかったがクラス委員として皆の中心におり、信頼のできる良い奴であるとだけ答えた。
すると若狭妹は先程までの暗い顔が嘘のように晴れ、笑顔で姉の良いところを一から十まで楽しそうに話始めた。外見や性格。どれだけがんばっているかとかそんな姉が大好きだという気持ちが嫌でも伝わってきた。
「じゃあきっと、お姉さんも同じくらい君を大切に思ってるんじゃないか?」
不意に出てしまった何とも臭い台詞。思わず顔から火が出そうになり顔を反らす。
それからというもの。何故か若狭妹に懐かれ、定期的にお話相手として公園で交流が始まった。最初は断るつもりだったのだがその旨を伝えようとすると泣きそうな顔をされ、心が折れた。
ぅゎょぅι゛ょっょぃ
それからたった数日。名前も名乗っていなかったはずなのに俺が自分の妹と親密になっていることが若狭本人にバレた。どうも妹から聞く人物像と印象が俺と合致したらしい。
はぐらかそうともしたが、結局自白する。ハイライトのない目で睨むりーさん怖いよりーさん。
てっきり「妹に近づくな」と釘を刺されると思っていたのだが、どうも感謝の意を述べられた。
曰く──。
「私の代わりにるーちゃんの話し相手になってくれた」
かららしい。学業や将来の事で色々と悩む時期だったと自覚していた若狭本人もまた、妹を構ってあげれてなく心に靄が掛かっていたらしい。
よくも悪くも真面目すぎる若狭の性格だ。全部を全部完璧にしようとすればするほど自分を追い込んでいこうとする節がある。もっと肩の力を抜いた方がいいと伝えると驚いた様子で「そんなこと言うのね」と言われた。
学院での俺や拓三の評判は嫌でも自分達の耳に入ってくる。やはり若狭も含めほとんどの生徒が俺たちの事を避け身も蓋もない噂を耳にし怪訝な目で見ていたのは事実で、最初は妹と関わろうとした俺の存在に嫌な予感がしたらしいが、どうにも妹の話す俺への印象が噂と大分違うと思い、色々と俺の様子を探っていたという。えっなにそれこわい。
それからというもの。俺は若狭姉妹と度々関わるようになり、俺は拓三にプランの微調整を相談した。ちなみに最初拓三はニヤニヤと意味深な笑みを見せたが「そういうのではない」と一蹴する。
あくまで俺たちは目的のために動いてる。誰か一人に肩入れしすぎるなんてことはしない。
ガラリと教室の扉が開く。相当疲弊しているのか、顔を覗かせた男性……おそらく教員の一人であろう。中を覗けば10人弱の子供と男性以外に女性教員二人が子供達を守るように身を寄せあっていた。
「ひーにぃ!」
男性の下からひょっこりと頭を出した若狭妹が、俺の顔を確認すると笑顔を浮かべた。人差し指で「しー」と静かにするよう促すと両手で口を塞ぐ若狭妹。
「……生存者は、これだけですか?」
問いかけると一瞬だけ顔を曇らせた男性教員は、無言のまま頷く。
「とりあえず君も中へ」
招き入れられた俺は教室の中へと入る。空になったペットボトルや菓子袋が散乱した、汚れた布やカーテンなどで簡易な寝床が置かれた室内。パンデミックが発生してから数時間。これではすぐに食料などが枯渇するだろう。おそらく外に出て資源調達の際に感染し、そこから広まってしまったのだと推測できる。
それはつまり──。
「ひーにぃ?」
「っ……いや、何でもない」
グローブを外し、軽く若狭妹の頭を撫でる。
「これからどうするつもりですか?」
俺がそう訪ねると、教員たちは目を合わせ首を横に振った。
「このままじゃ食料もすぐに無くなる。立て籠るにしてもあまりに粗末な環境だ、脱出した方がいい」
「し、しかし外は……」
恐怖で顔を伏せる教員。校舎の中でも散々地獄を見てきたのだろう。完全に頭に染み付いてしまった恐怖が支配し、行動の妨げになっているのか。
「……わかりました、ちょっと待っててください」
俺はバリケードを潜り、廊下に出る。
「ど、どこに行くつもりだい!?」
その声色と表情は、驚愕というよりも「見捨てられる」という感情が露になったものだ。
「物を集めてきます。必ず戻ります」
「ねぇ、二人は彼とリバーシティで合ったのよね?」
木村先輩が出ていって10分ほど。何となく沈黙が続いていた車内で。車を運転していた女性が私達に問いかけてきた。
「え、ええ……まぁ」
すると女性は「ふーん」と何かを考えているのか顎に手を当てている。
「前にも言ったけど、私も彼に命を救われたの。娘の前で襲われて、もうだめだって思ったときに現れたのが彼だった」
まるでヒーローみたいだったわと苦笑する女性。なんだか私達の時とは大分違うようでモヤっとする。
「それで彼が言ったの。『早く逃げた方がいい。非常階段も空いてるはず』ってね」
圭が「ほんとにヒーローみたいですね」とはにかむ。
「それで実際に私も含め、何人か非常階段を使って外に出たの。駐車場近くの階段ですぐに車に乗って、鍵を刺したところでふと思ったのよ。『どうして非常階段が空いている事を知ってるのか』とか『自分よりも他人を逃がそうとしたのか』ってね」
「どういうことですか?」
「もしかして、彼は『こういうことが起こるのを事前に知っていた』んじゃないかなって」
思わず目を見開いた。どういうことなのだろうか、この騒動を……あんな地獄が起こることを知っていた? 先輩が?
「先輩が……何かを隠してるってことですか?」
「そうねぇ……会って少ししか経ってないけど、彼……あんまり感情を顔に出さないでしょ? 何となくだけど分かるのよ、ああいう人って隠し事をするとき、いつも誰かのためだったり、良心からだったりするの」
私の旦那がそうなのよ、と唐突にのろけ話を始めそうになったがジーと睨むとオホホとわざとらしく笑う。
「何かを知っているのは間違いないかもしれないけど、彼も色々考えて隠してるんだと思うわ。だって人を助けるために恐怖に立ち向かえる強い子だもの、きっと悪い人じゃないわ」
「……」
「あの、どうしてそれを私達に?」
「んー……何となく? 学院に行くってことは今後彼と行動を一緒にするってことでしょ? 何かあった時に彼が一人ぼっちになっちゃったら可哀想じゃない……だから──」
彼の事、見ていてあげてくれない? なんだか目を離したら消えてしまいそうな気がするのよ。
時間にして40分ほど。
ある程度の物資を纏め、血のついたナイフや頬をタオルで拭いながら教室の前まで戻り声を掛ける。
「俺です、戻りました」
ガラリと男性教員が扉を開き俺を見ると、顔を青くした。
「だ、大丈夫か君!?」
服に付着した大量の血液を俺のものだと勘違いしたのだろう。俺は「ただの返り血です」と答え、集めた物質と共に教室に入る。血塗れの俺に怯える子供達。唯一若狭妹だけは俺を心配そうに側に寄ってくる。
俺が持ってきたのは職員室や家庭科室などで見つけた僅かな食料や飲料、適当な車のキー。同じく家庭科室で見つけた数本の包丁とアイロン台、布類。図工室から工具、ワイヤーや木材。理科室からはアルコールランプとマッチ。廊下の掃除用具入れから数本のモップ。
「こんなに……一体これからどうするつもりだい?」
「ここから全員脱出させるんですよ」
俺はそう言って作業に移る。アイロン台やモップの余計な部分をドライバーやペンチで外し、アイロン台には木材や衣類で簡易的な盾を作り、モップの先は包丁をテープやワイヤーで固定し槍擬きを作る。アルコールランプはそれ自体を火炎瓶として利用する。
「どれがどの車の鍵か分からなかったんで適当に引ったくってきましたけど、とにかく隣接の駐車場にある車のどれかなら数打ちゃ当たるはずです」
キーを渡すと「○○先生の鍵」と一人が呟いた。
「無茶だ、脱出なんて……外には『アレ』がいるんだろう!?」
ガタガタと目に見えて怯える男性教員。俺は歯を食い縛り、静かに……それでいて怒気を含ませながら男性教員の胸ぐらを掴む。
「いつまでもビビってんじゃねぇ! 大人ならガキを助けるために体の一つでも張って見せろ! あんたらがやんなきゃこの子達は遅かれ早かれ死ぬぞ! あんたらだけが子供達に残った最後の拠り所なんだ、こんな薄暗いところで腐ったまま死なせるつもりか!?」
まるで偽善者のような持論を述べながら、俺は不甲斐なさを掻き消すようにして声を荒げる。結局俺が言いたいのは「これ以上重荷を背負うのはごめんだからテメーらで勝手にどっか行け」ということだ。
俺は若狭妹さえ無事ならそれでよかった。他の生存者なんてはっきり言ってどうでもいい。だが俺が良くても若狭妹にとっては学友であり教師である連中を見捨てるわけにはいかない。
どうにかここで決意して貰う必要がある。
「選べ、生きるか。死ぬか、もうこの世界は『そういう』場所になっちまってんだ!」
「っ……あ、……っわかっ……た。言うとおりにしよう」
震えながらも、ようやく恐怖以外の感情が目に宿った男性教員。胸ぐらから手を離し、簡易槍を突き出しと男性は少し悩んでから顔を決意に満たし受けとる。
「よし、じゃあ手順を説明する──」
タイトル詐欺(キチガイ要素が入ってないやん!)が続きますが、最初から狂ってるというよりも徐々に徐々に狂わせていく放心ですけど、どう狂わせようか……サイコパスかシリアルキラーか、え? どっちも一緒?
原作とは別に多くの生存者と関わる事を吉とするか凶とするか。
この先の展開も考えながら作っていく所存、どうすっかなー(思考停止
今回から主人公1(木村)は一人称を「俺」主人公2(田所)は「オレ」にしてます。