てんせいぐらし! ~キチガイ二人は地獄を往く~   作:青の細道

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そろそろ「あく本編に移れ」とどこからかツッコミが入りそうですがユルシテ……ユルシテ……。


きゅうそく

「準備はいいですか?」

下駄箱まで慎重に降り、周囲を確認し近場の感染者が遠ざかるのを待ちながら俺は後ろに控える生存者たちへ振り返る。女性教員二人を先頭に、殿を男性教員。子供達を間に挟んだ陣形。

 

 

教員三名は頷く。すると男性教員が「本当に大丈夫なのか?」と不安な顔で俺の顔を見てくる。

 

 

「ええ」

 

 

「しかし……『君たちを囮に』するなんて……」

作戦は至ってシンプル。駐車場に行き、車で脱出するまでの間俺が感染者たちを引き付けその間に脱出という簡単な作戦。だが焦らず迅速に行動する必要がある。時間は既に午後16:45。春先であることも相まって既に夕暮れ、やがて夜が来れば危険が増える。できるだけ日の出ている内に遠くの方へ逃げれるようにしたい。

 

 

「俺は構いません──ただ」

そこまで言って、不意にズボンを掴む小さな手に力が込められる。視線を向けると絶対に離さないと言いたげに足にしがみつく若狭妹。

 

 

「なぁ、考え直すなら今だ。先生たちと一緒に脱出した方がいい。危ないんだ……お前が無事なら俺もお姉さんも安心できるんだ」

だが若狭妹は無言のまま首を横に振る。

 

 

「──その娘は、私達よりも君の事を信頼しているんだね」

何処か悲しげな笑みを浮かべる女性教員。溜め息を吐き、校門へ視線へ向ける。

 

 

「……行くぞ」

校門付近から感染者が遠退いた隙に駆け出す。若狭妹の手を引きながら集団を置いてけぼりにしないよう歩幅を合わせ、周囲へ注意を向ける。声は出さず手招きで誘導し校門を出て駐車場のある区画へと向かう。

 

 

「ひぃっ!?」

曲がり角から現れた一匹の感染者。後続から悲鳴が上がるよりも先に、ナイフを引き抜き若狭妹の手を離すと同時に全力で前へ飛ぶ。低姿勢のまま駆け込み下からナイフを脳髄まで突き立て、重力に従ってガクンと力なく崩れる感染者の亡骸を寝かせる。

 

 

一瞬の出来事に見えたためか唖然とする集団。「急いで」と淡々とする俺の手を、若狭妹はすかさず握り締める。俺は手綱を引かれる犬か何か?

 

 

駐車場までは一分ほどで到着し、直ぐに渡した鍵の車を探す。黒のハイエースらしいが、似たような車は幾つかあった。

 

 

「急げ!」

一つ一つをしらみ潰しに鍵を差し込んでいく。

 

 

 

一台目、外れ。

 

 

二台目、外れ。

 

 

 

三台目……外れ。

 

 

 

 

 

四台目…………外れ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁあああああああ!!!」

すると突然一人の子供が悲鳴を挙げてしまった。車の影から出てきた感染者に、限界まで保っていた緊張の糸を断たれ恐怖が心を支配してしまったようだ。

 

 

「く、くそぉ!」

持っていた槍で感染者の腹を刺し、近づかせないようにしている男性教員だが腰が引けていることもあってどんどん押し込まれていく。

急いで男性教員から槍の柄を奪い、一気に押し上げ姿勢がくじれたところへ頭部にナイフを突き立て、引き抜いた勢いのまま背後から女性職員の一人に襲いかかろうとしていたもう一匹の頭部に投げつける。吸い込まれるように回転しながら感染者の頭にダーツのごとく突き刺さるナイフと俺を交互に見て冷や汗をかく一同。

 

 

「早く!」

先程の悲鳴で周囲の感染者が引き寄せられ、金網から見える範囲だけでもかなりの数が迫ってきているのが見えた。

 

 

「おねがいおねがいおねがいっ…………っ、開いた!!」

五度目の正直、ようやく鍵に合う車を見つけた生存者たちがハイエースへと乗り込んでいく。

 

 

「よし行くぞ!」

俺はポケットから取り出した複数の『ソレ』から伸びる紐を掴み、若狭妹に視線を向ける。両耳を塞ぎ、コクりと頷いたのを合図に一気に引き抜く。

瞬間。警報にも似た耳をつんざくような音が鳴り響く。小学生なら誰もが持ってる防犯ブザー、車のエンジン音にも負けないほどの煩さを放つブザーに感染者たちはより近い俺の方へと惹き付けられていく。

 

 

「行けぇ!」

聞こえていたかどうかはわからないが、そう叫ぶと車は生存者たちを乗せて発進した。数匹の感染者を撥ね飛ばし、やや荒い運転で脱出していくハイエースを眺めながら防犯ブザーを明後日の方向へ投げ捨てる。

 

 

「俺たちも行こう」

若狭妹の手を取り、俺たちは直樹たちの待つ場所へと走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」

走り出して5分足らず、仕方ないとはいえ小学生の体力では1kmを走るのは相当疲れるだろう。俺は途中で血濡れた上着の袖を腰で縛り、若狭妹を背負う。

 

 

腐っても鍛えてきた体だ。子供一人なんてことはない、ただこの状態で襲われたら人溜まりもないが背に腹は代えられない。

来た道を戻りつつ、二つ目の曲がり角に差し掛かった俺の目に映ったのは──。

 

 

 

通りを埋め尽くす感染者の群れだった。

 

 

「嘘だろ……?」

まさかあれだけでここまで集まったのか? それだけ周囲一帯に音が無いと言うことなのか。

 

 

「仕方ねぇ、もう少しの辛抱だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、日が沈み夜になっても先輩が帰ってくることはなかった。

少し早めの休息を取り、女性と娘さん。そして圭は車の中で眠っている。私はと言えば何となく寝ていられなかったので見張りとして外に出て、民家の塀を伝って家の屋根に登っていた。

驚くほど静かな夜。夕暮れの時に遠くから警報のような音がしてからというもの。この一帯には静寂が訪れていた。家の明かりも街灯の明かりもない真っ暗な夜、なのに空に浮かぶ月と星明かりで視界は僅かに確保できた。

 

 

あまりの静けさに、私は思わずこれが夢であればいいのにと思わずには居られなかった。何もかもが夢で、こんなことにはならず、目が覚めれば家の布団で目が覚めて……いつも通りに朝食を食べ、いつも通りに学院へ行き、いつも通り勉強に励み、いつも通り圭と一緒に家に帰る。何気なく続いてたはずの日常が戻ってくればいいのにと……思わずには居られない。

 

 

それでも頬を撫でる冷たい風が、全身を現実へと引き摺り下ろすように私の意識を覚まさせる。

 

 

「どうしてこんなことに……」

膝を抱え、小さく言葉が漏れる。答えてくれる人はいない……。いや──。

 

 

──もしかして、彼は『こういうことが起こるのを事前に知っていた』んじゃないかなって──。

 

 

頭の片隅で残留するあの言葉。もし本当に先輩何かを知っていて、それをひた隠しにするのは何故なのか。映画であれば黒幕の一味……なんて展開もあり得たかもしれない。

 

 

でも何となく、そうじゃないと……そうであってほしくないと思う自分がいる。

 

 

木村 秀樹──という先輩の事をあまり良くは知らない。ただ学院で浮いた人であるというのは噂程度で聞いたことがあった。歳上だし異性だし、これといって気にはならなかったからすぐに思い出せなかった。

ただ今にして思えば先輩の評判は決して悪い物ばかりではなかった記憶がある。

 

 

成績は優秀。自ら立ち上げた部活動での奇行を除けば、学校行事やボランティア、オリエンテーションなどでは協力的で、無表情な割に色々な人を助けていると聞いた。

 

 

同級生や下の学年からの評判は総じて「無表情で怖いけど悪い人ではない、ただ近寄りがたい」と言った印象。私も初めてあったリバーシティでの印象は、やはり怖い、というものが第一だった。

 

 

声や仕草は人のソレだがあまりにも表情が固すぎる。私もよく仏頂面だと言われることがあるがそれ以上に彼は表情を変えない。試着室であった時も、私達を助けるためとはいえ……感染者、と彼が呼ぶ人の姿をした物をナイフで貫いた時に見えた顔も。やはり無表情だった──。

 

 

彼は信用に値するのか……知っていることがあるなら問いただすべきなのか……問いただした場合、彼はどんな行動に走るのか……。もしも──もしも仮に、彼が持つ刃が私に向けられてしまったら……私は──。

 

 

「やめよう……」

疑いだしたらキリがない。

 

 

「……」

ふと、私は先輩から護身用にと渡された一本のナイフを引き抜く。彼が使っていたナイフよりも遥かに小さいが凶器と呼ぶには十分すぎる刃を持つそれは月明かりを反射し、怪しく光っていた。

先輩は「投げナイフの一種だ」とは言っていたが私の手には十分すぎる大きさのナイフ。料理で使う包丁などとは違った重みを感じるのは気のせいだろうか。全体的に丸みを帯びた刃、持ち手の部分には黒い紐が巻かれている。置いていったリュックサックを、無断で漁ると他にも同じナイフや携帯食。地図や方位磁石といった小物が多く入っていた。なぜこんなものを彼は持っているのか、いつから持っているのか。

 

 

いつか、聞かなければいけないだろう……でもそれは『今』じゃない。

 

 

 

 

 

ザリッ──

 

 

 

 

 

 

「っ──!」

反射的に飛び起き、私は音のした方へ視線を向ける。たしかに聞こえた足音……聞き違いじゃない。

身を屈め、屋根からゆっくり様子を伺う、目を凝らすが民家が月の影となって姿は確認できない。もしも感染者だったらどうしよう……どうにかしないと圭たちが……。

 

 

「ハァッ……! ハァッ……!」

気づかないうちに呼吸が乱れ、ナイフを握る手が震え汗が吹き出す。

 

 

「っ……」

意を決して呼び掛けるべきか悩んでいると聞き覚えのある声が影から聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

「よかった、まだ居てくれたか」

心底安堵したような声。コツコツと歩み寄ってくると足からゆっくり月の光に照らし出されていく。彼の後ろに続いて現れた小さな影にも驚かされた。小学生ほどの少女だろう、怯えながらも彼の足にしがみついている。

 

 

「先……輩?」

やっと見えた彼の表情はいつも通り無表情……だが、どこかその目は僅かに笑みを浮かべていたような気がした。

 

 

 

緊張がほどけたからか、彼は車に乗るやすぐに眠ってしまった。初対面の私達を警戒してか先輩の連れていた女の子は彼から離れようとせず助手席に座る彼の膝の上で一緒に寝息を立てている。言葉短く「知り合いの妹だ」と聞かされた女の子。どちらかと言えば先輩の妹なんじゃないかと言うほど親しそうな雰囲気があったが、窮地を脱した二人への模索はせず、ゆっくりと大通りを抜け学院へと向かっていた。

 

「それにしても良く寝てますね……」

 

「余程疲れていたのでしょうね……いくら凄いって言っても、この子もまだ子供なのに」

女性の言うとおり。彼はたった一つしか歳が違わないはずの青年だ。どんなに優れた才能を持っていても、彼もまた一学生にしか過ぎない。それなのに彼は多くの困難に立ち向かい、母娘や圭。そして私やこの幼い少女をも助けてくれた恩人なのだ。

 

 

「美紀?」

圭が私の顔を除き混む。

 

 

「ううん、何でもない」

微かに残った靄が払いのけ、私は窓から空を見上げた。

 

 

そう言えば今日は満月だったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スゥ……──フゥー」

四人が寝静まった頃。オレは再び黄昏たように煙草を吹かしていた。秀との通信後、今後のために下の階だけでも制圧しようと出ていこうとすると必死になって佐倉センセーと栗毛の女子が止めに入るが秀の事やアイツが連れてくる他の生存者を招き入れる用意をしておかないといけないと静止を振り切ろうとするオレを、逆に「行かせてやれよ」と睨みを効かせるツインテ。ついでに二度と戻ってくるなとも言われたが中指を立てながら断った。

 

 

アイツからすれば想い人を殺したオレが憎くて堪らないんだろう。だがいい加減こいつらには現実を受け入れて貰わなきゃ困る。このまま足枷になるだけだったら助けた意味がないからな。

下の階は比較的ゾンビの数が少なかった。やはり階段の登り降りは苦手なようだ、一匹一匹をシャベルで始末し、廊下や階段付近にゾンビでは突破できない程度のバリケードを築いていく。

 

 

時間にして2時間。ようやく三階の掃除が終わり、適当なカーテンや職員休憩室などから仮眠用の布団などを拝借し。今日一日は屋上で過ごすように佐倉センセーへ言伝てを頼む。大丈夫かと問われたが何に対しての大丈夫なのか分からなかったがとりあえず「ああ」とだけ答えた。

 

 

「ふぅ……」

吸殻を屋上から投げ捨て、息を吐き。オレは気配のする背後に振り返らぬまま声を掛けた。

 

 

「ヤりたきゃヤれよ、だがこっから先は責任取れねぇぞ」

ピタリと動きを止め、やがて荒くなっていく呼吸。小さく「何で……」と呟くツインテの声。

 

 

「オレが憎くてしょうがねぇんだろ?」

 

 

「っ……おまえが!」

打ち捨てられたシャベルが甲高い音を鳴らし地面に落ちる。背を向けていたオレの胸ぐらを掴むと、ツインテはいろんな感情でグチャグチャになった顔でオレを睨み付ける。

 

 

「おまえが先輩を殺したんだ!」

 

 

「そうだ」

 

 

「何で殺したんだ!!」

 

 

「そうするしかねぇからだ」

 

 

「何にも感じないのかよ!?」

 

 

「感じねぇな、アレはもう『人間』じゃ無かった」

 

 

「違う! 先輩は人間だ!」

 

 

「いいや違わねぇ」

 

 

「っ──うぅ! あぁあああっ!」

振り上げられた拳が目前まで迫り、寸前で止まる。殴られる覚悟も殺される覚悟もあったが、どうやらツインテは思い止まったらしい。

 

 

「っ……わかってんだよ。言われなくたって! おまえがあたし達を守ろうとしてた事くらい!」

握りしめた拳をポスンと弱々しく何度も胸に叩きつけてくる。

 

 

「こんな……こんなことが夢じゃないって事くらい……」

 

 

「……」

 

 

「先輩が……死んじゃった事くらい!」

 

 

「……」

 

 

「でもっ……納得できないよ……なんでこんな……何で!」

騒ぎを聞き付けた他のメンバーが駆けつけ、どういうことかと説明をしてほしそうな顔を向けられるが、オレは溜め息を吐きながら手で「失せろ」と払う。

 

 

四人が居なくなった後、煙草を咥えようと紙箱を取り出すが中身は空っぽ。さっきので最後だったようだ。

 

 

「はぁ~~~~……早く来てくれぇ」

溜め息混じりに呟いたオレの言葉は、夜の闇に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に目が覚める。スッと頭を持ち上げれば外は僅かに明るくなり始めていた。

車内には誰も居らず、被せられていたブランケットを剥ぎ車外へ飛び出す。

 

 

「あ、おはようございます。先輩」

土手沿いの川で血に塗れていた俺の上着を洗っていた直樹と、俺のリュックサックに入れておいたファイヤースターターを用いて缶詰などに火をかける母娘。キョロキョロと辺りを見渡す祠堂。そして俺を見つけるや飛び付いてくる若狭妹。

流石に俺のいない間に全員居なくなってる……なんて事はなかったかと内心安堵する。

 

 

「おはよう、よく眠れた?」

笑みを浮かべながら焚き火の様子を娘に任せた女性が歩み寄ってきた。俺は「おかげさまで」と答えつつ周囲を警戒する。すると俺の様子を察してか周囲に感染者の姿は見えないこと、既に学院の近くまで来ていることなどを細かに説明してくれた。

 

 

ふと疑問に思ったことを訪ねてみる。

 

 

「鍋なんてどこから?」

するとばつが悪そうに「その辺の家から拝借しました」と白状する。「あまり危険な行動は避けてください」と注意するが、なぜか慈愛に満ちた目を向けられ頭を撫でられる。

 

 

「心配してくれるんだね、ありがと」

軽く腕で払いのけ、そういうのではないと言うがニコニコと笑うばかり。

調子が狂うな。

 

 

「さて、そろそろ朝御飯の時間ね。顔と手を洗っておいで」

言われるがまま顔と手をペットボトルの水で軽く洗い、俺を含め6人での朝食を取るついでに若狭妹を救出するまでの経緯を話し、他の生存者が居たことなども話していく。

 

 

「その人たちは大丈夫なんでしょうか?」

直樹の言葉に「さぁな」と素っ気なく答えるとムスッとした表情を見せ、祠堂と女性はクスクスと笑う。

 

 

簡単な食事を終え、俺は今後の予定を説明する。

 

 

「俺たちはここから『徒歩』で学院へ向かいます」

俺の発言に全員の目が集まる。

 

 

「ここから先は車での移動は『奴ら』を学院付近まで引き寄せる……それに──」

視線を母娘に向ける。小首を傾げる二人。

 

 

「これ以上お二人を俺の勝手に付き合わせるわけにはいかない」

そんな、と抗議の声を上げようとした直樹を静止する女性。

 

 

「いいのよ、それが一番『良い』んでしょ?」

含みのある言い方に、俺は少し間を開けながら頷く。どこまでも察しの良い人だ、他のメンバーは理解できていない様子だが、要するに「これ以上、学院での生活水準を下げるわけにはいかない」ということだ。人が増えれば資源の消費は早くなる。資源が減れば調達に向かう回数が増える、そうすれば自ずと危険も増える。

 

 

つまり少しでも負担を減らすためには切り捨てる必要がある。

 

 

「……すいません」

 

 

俺は深々と頭を下げる。女性はいいのいいのと良いながら微笑む。

 

 

「私も旦那のところに行かなきゃだし」

 

 

「……餞別とまではいきませんがこれを」

俺は腰に掛けていたナイフ二本を女性へ差し出す。

 

 

「少し重いかもしれませんが、何かの役に立てば」

受け取ったナイフを引き抜き、少し刃を眺めると小さく頷き鞘に仕舞う。彼女には世話になった恩があるし、こんなことじゃ何の恩返しにもならないだろうが。

 

 

「ありがとね」

 

 

「いえ」

 

 

「ねぇ、最後にちょっといい?」

そう言って手招きし、耳打ちするような仕草をする彼女へ耳を向けると突然抱き寄せられた。

 

 

「ちょっ──」

 

 

「色々辛いことがあるだろうけど、がんばってね。ほんの少しだけど貴方に出会えてよかったわ。息子が居たらこんな気持ちになるのかしらね」

もう一度小さくありがとう、と呟き腕を解いた彼女の目は微かに赤くなっていた。ズキリと胸の奥が痛む。良心の呵責を感じるくらいには情が移ってしまったか。

 

 

「もう一度、貴方の名前を聞かせて?」

 

 

「……俺は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走り去るミニバンを見送りながら、俺は若狭妹の手を握る。

リュックサックを背負い、直樹と祠堂の二人に目配せすると二人は無言のまま頷く。

 

 

「行こう、巡ヶ丘学院へ──」

 

 

 




名前すら出ることなく退場となった母娘の二人。最初はまったくただのモブで終わらせるつもりだったのに、なんか原作キャラより目立ってる……?

正式メンバーに加えようかとも考え、めぐねぇ含めダブル保護者枠で荒ぶる主人公二人の手綱を引く役割にしようと思ったり、実は前世の母親が転生した存在でしたーとかそういったネタも浮かんだが、やっぱり基本は原作キャラをメインにして行こうと思います。

あとあと再登場するかも検討中。

しかし主人公1が情緒不安定な感じになってしまっている気も。
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