悪鬼†無双   作:市中見廻り組

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見知らぬ地

 ああ、青空が綺麗だな。

 

「…自分にとって恋川殿は、悪人なんかじゃありませんでしたから…!」

 

 全く最後まで、人の話を聞かない馬鹿な奴だったな、兄ちゃんは。

 でもよ、俺は知ってる。この馬鹿は、誰よりも人を救おうとした馬鹿だ。そんな馬鹿が、出会ってくれてありがとうなんて言って来やがる。

 なあ、千鶴。俺は、たくさん殺した。そんな俺でも、さ………情けねー話だが、まだ生きたいって願うのは、図々しいか……?

 

 

 

 

 

「…………あん?どこだ、ここ……」

 

 荒野の中心で恋川春菊は目を覚ます。見覚えがない場所で目を覚まし混乱し、頭をガリガリかく。

 

「……あ?」

 

 頭を、かく?どうやって、そんなのは不可能なはずだ。何せ春菊はつい先程両腕を失ったはずなのだから。

 

「───!」

 

 慌てて自分の体を見回す。傷跡は大量にあるが血を流す新しい傷は一つもない。

 何がどうなっている?

 

「まさか、ここは地獄か?」

 

 地獄にもお天道様があったのかと空を見上げる春菊。

 

「しかし俺を裁く鬼も俺みたいな罪人の亡者もいやしねーとは、随分な場所だな地獄って」

 

 てっきり日もない場所で毎日毎日鬼を相手にすると思っていたのだが、これはとんだ期待はずれだ。おまけに帯刀を許されていると来たもんだ。腰に下げられた三本の刀を見て春菊は首をゴキリと鳴らす。

 さて、現実逃避はやめよう。どう考えたってここは地獄なんかでは断じてない。地獄がこんな場所で、数え切れない命を奪った自分の死後がこんな場所に来るはずがない。

 何せ神もいる世界に生まれたのだ、理由は知らないが生き返り、どこか知らぬ地に飛ばされたとしても今更驚くことでもないだろう。いや、十分驚愕に値する事ではあるが。

 

「しっかし酒がねーのはいただけねーな。気が利かねえ」

 

 春菊はそういうと歩き出す。金は持ってないが、何処か村で酒でもくれる心優しい奴でもいればいいのだが。ゴロツキ相手にゃこの人相は当たりが良く、初対面でも酒をおごってもらったこともある。

 

「………ん?」

 

 不意に春菊は立ち止まる。春菊の耳に、ある音が入ってきたからだ。

 鉄と鉄がぶつかるような金属音。しかし音が僅かに鈍い。大きな鉄の塊に刀をぶつけるような音。

 

「……蟲でも現れやがったか?」

 

 春菊の暮らしていた江戸には良く蟲と呼ばれる身の丈が人を優に越す化け者共が現れた。彼等の大半は鉄で切れぬほど硬い。そこに刀を打ちつければ大抵こんな音が鳴る。

 

「カカカ。んじゃ、虫けらだったらお勤めを果たしに行かなきゃならねーな」

 

 春菊はそういうと駆け出した。これは新中町奉行所通称蟲奉行所の市中見回り組の一人、つまりは蟲退治こそ彼の勤め。故に蟲の可能性があるなら赴き蟲を斬る!

 

 

 蟲退治にと駆け出したはいいが、春菊はそこで胸くそ悪くかつ不思議な光景を見た。

 

「……人って飛ぶんだなぁ」

 

 たった一人の少女に大の男達が寄ってたかって得物を振るう。ここまでが春菊の気に入らない光景。

 大の男達がたった一人の少女の鉄球に天高く吹き飛ばされる。ここまでが春菊と不思議な光景。少女が持つ鉄球が振り回され、男達が吹き飛ばされているのだ。

 あの少女、何という剛力。ひょっとしたら蟲奉行所に来たばかりの頃の猪突猛進で、しかし嫌いになれないあのバカな侍並ではないだろうか?

 先程の音はどうやら少女が持つ鉄球と男達の持つ剣がぶつかる音らしい。

 つまり争っている。春菊ははぁ、とため息をはくと再び走り出した。

 

 

 

 少女、許緒は肩で息をしていた。村を襲う盗賊、守ってくれない領主。故に、自分で自分の村を守るんだと勇んで飛び出し村に向かっている盗賊達を見つけぶつかった。

 許緒は強い少女だ。村じゃ幼なじみの女の子にしか負けたことがなく、彼女との勝負も勝ったり負けたりと互角。力には自信があった。実際何人も倒した。

 しかし数が多い。オマケに子供にやられたのがしゃくに障ったのか、一向に逃げる気配もない。と、その時。

 

「嬢ちゃん、しゃがみな!」

「へ?」

 

 不意に聞こえてきた声にとっさにしゃがむ許緒。瞬間、盗賊の半数が切れた。肉も骨も鎧も剣さえ歪みなく両断され地面に落ちる。

 

「よお嬢ちゃん無事か?」

 

 その男は、許緒のいた村の男達より一回りは大きく腹には晒しを巻き、着物ははだけさせ髪は頭に巻いた布で坂だった、全身傷だらけの見事な──

 

「あ、新しい敵!?負けないぞ!」

「………は?」

 

 ──悪人であった。




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