悪鬼†無双   作:市中見廻り組

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背負うべき罪

 盗賊の砦を前に春菊はどことなく懐かしさを覚えていた。

 山の影に隠れるようにひっそりと建てられた砦。盗賊自体隠れ住んでいた砦を思い出す。もっとも、あそこも今では取り壊されているだろうが。

 

「しっかし大将、あんたも随分豪気じゃねーの」

 

 今回の作戦は、総大将である曹操自ら囮になり夏候惇─春菊に切りかかった黒髪の女──と夏候淵──夏候惇をいさめていた青髪の女──が後方から奇襲するというもの。ある程度賊を引き連れ下がる必要がある危険な仕事だ。

 

「先程も言ったけど、これだけ勝てる要素の揃った戦いに、囮の一つも出来ないようでは覇道などとても歩けないわ」

「覇道ね……それを歩むのが天命とでもいうつもりか?そりゃ誰が決めた道だ?天か?」

「もちろん、私よ。私が歩いた道こそ覇道。私が決めたことこそ天命。それが曹猛徳よ」 

「カカ。豪胆な上に傲慢と来たか……まあ気の強い女は嫌いじゃねーぜ」

 

 曹操の言葉に春菊は笑いながら腰に手を伸ばし、しかし手は何も掴むことなく空を切った。

 

「どうしたの?」

「ん?いや、そういや酒がねーなって」

「呆れた。これから戦闘だと言うのに酒を飲むつもり?」

「カカ。間違えるなよ大将、これは戦闘でも、ましてや戦争でもねー。ただの殲滅だ………それに、どんなに酔ってようと人を斬った感覚に気づかなくはならねーよ」

 

 春菊はそういって己の手を見る。

 傷だらけの手。そして、蟲から人を守ってきた手。しかし、その手は人の血にまみれすぎている。たくさん殺した。数え切れぬほど。例え酒で誤魔化そうと、例えどれほど鋭い剣が振るえるようになろうと、人を斬る瞬間の感覚を忘れたことなど一度もない。

 

「……………」

「あんだ?」

「いえ、そんな極悪人みたいな顔をして、貴方は案外優しいのね。でも、その生き方は、一々命を背負う生き方はいずれ貴方を押しつぶすわよ?」

「カカ!極悪人みたいな、じゃなく俺ぁ極悪人だぜ?押しつぶされて死ぬなんざ、悪党に相応しい最期じゃねーか」

「……そう」

 

 春菊の言葉に曹操は何も言わなかった。ただ、憐れむような目を一瞬だけ向けた。

 

「まあ良いわ。貴方は季衣同様、私の護衛を頼むわね」

「あ?誰だそりゃ?」

「許緒の真名よ。聞いてなかったの?」

「…………真名?」

「……真名を知らないの?」

 

 曹操は信じられないというように春菊を見る。

 

「生憎この辺の出身じゃねーんでね。言ったろ?」

「それはそうだけど……まさか真名が存在しないほど遠くだなんて…………良い?真名というのは言葉の通り真の名、それを教えると言うことはその人間の全てを教えるのに等しい。無断で呼べば斬り殺されても文句を言えない名よ。気をつけなさい」

「そりゃ危なかったな」

 

 真名というものを早く聞けて良かった。曹操の真名、夏候惇達が呼んでいる名をうっかり口にしていたら斬られても文句を言えないなど、此奴も夏候惇も夏候淵も間違いなく食ってかかるだろう。

 

 

 

 

「あ、おじちゃん!」

「あん?」

 

 戦闘まで後少し、その間少しだけ曹操から離れ砦を眺めていた春菊に声をかけるモノがいた。許緒だ。

 

「さっきはごめんなさい!早く謝るべきだったんだけど、直ぐに言い出せなくて」

「………?………ああ、気にすんなよ!いきなり襲いかかられんのは馴れてるからよ」

 

 一瞬何を言っているのか解らなかったがそれが襲いかかってきたことだとわかり春菊はカラカラ笑う。 

 

「でも……」

「構うこたぁねえよ……俺は実際、極悪人だ」

「へ?」

「昔は数え切れないほど人を斬ってきた悪ーい奴だ。故郷じゃ町を歩けば石が飛んでくる」

「………でも、おじちゃんは市民を守ってたんでしょ?」

「…ま、恩人への礼と、贖罪だ……俺の手は人を斬る以外にも出来ることがあるって言ってくれたのに、結局その後また人を斬っちまったからな」

 

 春菊はそういって自嘲するように笑う。許緒は良く解らないのかんーと唸っている。

 

「おじちゃん、ボク、馬鹿だから良く解んないや」

「────!」

 

──解んない、あたし馬鹿だから──

 

 その言葉に、彼女を彷彿とさせる言葉に春菊は息を呑む。そして許緒は春菊の手を掴む。

 

「じゃあさ、これからはボクもいーっぱい、賊を倒すよ!ううん、違うよね…賊を、殺すんだ。でもおじちゃん1人だけに背負わせない。これから先の人を斬る罪は、ボクも一緒に背負ってあげる!」

「…………く、くく……カカカ!」

「あー!何で笑うの!」

 

 許緒の言葉に春菊が爆笑すると許緒はむー!と頬を膨らませる。が、次の瞬間濃密な殺気がその場を包む。

 

「……ふざけんなよクソガキ、一緒に罪を背負うだ?そんな単純なもんであって良いはずねーだろ。人を殺すんだぞ」

「……え………あ……」

 

 感じたこともない殺気に、許緒は無意識に後ずさる。が、春菊は唐突に殺気を消しはぁ、とため息を吐く。

 

「でも、嬢ちゃんがそんなこと言っちまうのが今の国の状況なのか」

「………」

「こっから先、人を殺すことになる道は嬢ちゃんが嬢ちゃんで選んだ道だ。止めはしねー。けどな、俺は俺の罪を誰にも背負わせねー。これは俺が背負うものだ」

「………うん」

 

 許緒はコクリと頷くと春菊を見上げる。

 

「ボクの真名は季衣だよ。よろしく」

「俺にゃ真名はねーからな。ま、俺等の国じゃ親しい奴には下のなを渡す。春菊だ」

「うん!よろしく、おじちゃん!」

「…………………」

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