悪鬼†無双   作:市中見廻り組

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悪鬼羅刹

 響きをわたる銅鑼の音。それは盗賊達に群が来たこと教えるための物。

 だというのに、出撃の合図と勘違いしたのか砦から盗賊達が出てくる。

 曹操はそんな馬鹿どもを呆れ、取り敢えず撤退を申しつける。

 

「カカ!こんな馬鹿どもに策なんていらなかったんじゃねーか?」

「烏合だろうと馬鹿だろうと、数は力よ。策は犠牲を減らすため、必要よ」

 

 そういって後退を開始する。時折弓などが飛んでくるのが春菊が刀を振るう度に空中で斬れ狙いが剃れていく。

 

「飛ぶ斬撃なんて初めて見たわ」

「そうかい。俺は最近覚えたばかりだがちょっと前まで戦ってた相手は普通に使ってたぜ」

 

 春菊は初めて自分の攻撃を受け流すでもなく正面から受け止めた蟲人を思い出しながら言う。その言葉に曹操はへぇ、と興味深そうに笑った。それほどの腕を持つ者が跋扈する国、どの様な国なのだろうか。

 

「お、二人も動いたみたいだな」

「そのようね」

 

 盗賊団の背後から別働隊の夏候姉妹の軍が見える。

 

「総員反転!数を頼りの盗人どもに、本物の戦が何たるか、骨の髄まで叩き込んでやりなさい!総員、突撃っ!」

「「「「オオオオオオオ!!」」」」

 

 曹操の合図に一糸乱れぬ動きで反転する兵士達。春菊も刀を二本抜き、かける。

 

「カカカ!痛み無く逝きたい奴は前に出な!」

「な、なんだ此奴!」

 

 盗賊達は後ろから現れた伏兵に混乱し、さらに他の者を置き去りに飛び出してきた春菊に動揺するも何人かは剣を振るい、切り裂かれる。

 

「う、うわ!」

 

 恐らく賊の中の幹部だったのであろう何名かは鎧を着て盾をつけていたが諸共切り裂かれ鮮血が舞う。距離をとっても関係ないというように斬られる。

 防御不能、逃亡不能の斬撃。唯一の救いはあまりの切れ味に手足でも切り裂かれない限りは痛みを感じるのは僅かな時間で住むと言うことか。

 人を苦しめ、痛めつけてきた彼等には上等な死に方であろう。

 

 

 

「な、なんなんのよあれ……あり得ないわ」

「わー、おじちゃんすごーい」

 

 筍彧は目の前の光景が信じられないというように呟く。隣で季衣が呑気な評価をしてるが、あれは凄いなどという言葉では片付けられないだろう。

 筍彧は人が人を切り裂くなど不可能だと思っている。肉の弾力、骨の硬さ、それを考えれば途中から人の身は斬れるのではなく膂力に千切られているのだと思っていた。切り裂かれた二つを合わせても綺麗に合わないだろうと思っていた。

 しかしあれは違う。皮膚も肉も骨も綺麗に切り裂かれている。それこそ切断面を合わせ押し付ければ時間とともにくっつくのではないかと錯覚するほどに。

 恐怖と同時に、武人でもない筍彧さえ畏敬を覚えてしまう型も何もなくそれでいて鮮やかな剣筋。

 王であると同時に軍師であり、また武人である曹操はより魅せられた。

 そして思う、なんて不器用な生き方なのだろうと。彼は斬った者全てを背負うと言った。

 薄情な言い方だが、100や200を越えた当たりから人を殺すことに躊躇もなくなるし重みも消えぬが増えることもなくなってしまうし、徐々に薄くなっていく。

 強い者ほど、より多く殺し、その重さがより早く薄くなる。なのに春菊は、アレほどの力を持ちながら、これから先誰かを救うために人を殺し続けるのであろうに、背負うのだ。

 人の生き方ではない。人はそんなに強くない。なら、あれはいったい何なのだろう。

 

「……あ、悪鬼、羅刹」

 

 ふと賊の一人がが怯えるように呟いたのが聞こえた。なる程悪鬼羅刹。足が速く怪力、人では適わないとされる魔物名を二つも関した言葉。

 賊徒にすら慈悲を与える彼に果たして似合う言葉かは解らぬが、人を殺し、人を犯しそれでも人のつもりの獣どもにとって春菊はまさしくそれだろう。

 ならばその悪鬼、使いこなせずして何が覇王か。彼の力は間違いなく敵に回れば驚異になる。いや、それを抜きにしても、力を持ちながら命の重みを忘れない彼を、曹操は気に入っていた。

 

 

 

 報酬を渡すために城まで来て欲しいと曹操の軍と共に陳留を目指す春菊。

 季衣は曹操の軍に入ることになったらしい。

 

「カカ。しっかし付いてるぜ、猿酒が見つかるなんてな」

「おじちゃん森からだいぶ距離あるのにいきなり走り出したよねー」

 

 季衣が呆れたように言う。因みに猿酒とは猿が木や岩の窪みに隠した果実が自然に発酵して出来る天然酒だ。諸説あるが蜂蜜酒に並ぶ最古の酒の一つとされている。

 

「ところでおじちゃん、向こう何話してるんだろ?」

 

 と、季衣は何やら話している筍彧と曹操達を見る。

 筍彧が覚悟決めたような顔をしたり恍惚とした表情になったり、何やら面白そうだ。

 

「ま、俺には関係ねーよ」

「そっかー……所でおじちゃんはこれからどーするの?」

「さて、ね……一応曹操達に大阪や江戸をしらねーか聞いてみたが、なさそうだ。身の丈を越える虫けらどももいねーみたいだし、どうしたもんかねー」

「おじちゃんも華琳様に仕えないの?」

「………ま、それもありかもな」

 

 どうせ恩人も守りたい者もいない世界だ。目的もなく彷徨くより、目的でも決めて居座った方が楽だろう。報酬も貰えりゃ酒だって買えるし。

 

「あら、それは良いことを聞いたわ」

 

 と、そこへ何時の間にか会話を終えたのか曹操がやってきた。

 

「ならば恋川、私の下でその剣を振るうというなら貴方に真名を預けましょう。我が真名は華琳、これからよろしくね?」

「俺には真名なんざねーんでな。取り敢えず春菊とでも呼んでくれや。んで、酒は出るんだろうな?」

「ええ、なんなら私が造ってあげても良いわ」

「そりゃ楽しみだ」




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