悪鬼†無双   作:市中見廻り組

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春菊の仕事

「んぐ、ごく………かぁ~!うめえ!」

「そう?気に入ってくれて何よりよ」

 

 春菊は華琳のお気に入りという店から買ってきたらしい酒を飲みご満悦の様子だ。自分のお気に入りを誉められて悪い気はしないのか華琳も笑みを浮かべていた。

 

「それで春菊、あなたに一つ頼みがあるのだけど」

「頼みだ?面倒な奴じゃねーだろうな?」

「面倒かどうかの判断は個人でしか出来ないわ。でも、先払いで報酬はわたしたでしょう?」

「……………」

 

 華琳の言葉に酒瓶を見つめる春菊。視線を華琳に戻すと解っているじゃないというような笑みを浮かべてきた。

 

「もうある程度文字は覚えたのでしょう?治安維持の草案を本案に仕上げてみなさい」

「おい大将、冗談だろ?俺ぁ元盗賊でしかも奉行所勤めの時も同僚以外だとゴロツキとしか連んでねーぞ」

「そのゴロツキの中に罪を犯した者はどれだけいるのかしら?」

「…ぬ」

 

 いない、訳ではないが数割りにも見たないだろう。春菊は元来、人を殺せず父に殴られていた過去を持つ、心根の優しい男だ。真性の悪人とはまず連まない。というか斬る。

 皆確かに身分が低く、学が足りぬ故粗暴な性格だが自分を兄貴などと慕ってくれる気の良い奴らだ。

 

「別に期待しているわけではないわ。何が出来るか、どの程度出来るか、それを知るための試練だと考えなさい。期限は……まあ、二週間かしら?でもそうね、良い案が出せたらご褒美をあげるわ」

 

 と、華琳はどこか蠱惑的な笑みを浮かべる。が──

 

「そうか、なら酒を頼むわ」

「…………」

 

 春菊は酒にしか興味がないようだ。

 

「期限はやっぱり一週間よ。本案にする可能性があるだけだもの、そんなに時間をかける必要なかったわね」

 

 

 

 

 さて面倒なことになった。酒を飲みながら春菊は町を見て回る。

 そもそも彼は見廻り組などという組織に所属してこそいるものの、相手は悪人ではなく蟲だ。勝手が違う。

 もちろん悪人も何度か捉えたことはあるが例えば喧嘩に巻き込まれ酒瓶が割れたり、目の前で絡まれている女を助けり(その後女は悲鳴を上げて逃げた)りというような者ばかりだ。

 つまりは見廻りを増やせば犯罪は置きにくくなる。単純だ。問題は増やせないから案を出せ、ということ。

 

「たくよー、そんなん俺に考えつくわけねーだろうがよ~」

「旦那、飲み過ぎですぜ」

 

 酒精の高い酒を何瓶も飲み干しすっかり酔った春菊に店主は呆れたように言う。

 

「あっしには良く解りやせんが、こうなったら悪人が動きにくいと思わせりゃ良いんじゃねーですか?」

「………なる程。後は給金か」

「税が増えりゃ給金も増えるでしょうよ。んで、あっし等流れ者は平和な町に税を払う。要するに平和なら人が集まるし税も増える。正の循環って奴ですよ。あっしの友人の商人がいってやした」

「………ふむ」

 

 

 

 

「つーわけで俺なりに考えた案だ」

「………へぇ」

 

 華琳は春菊が纏めてきた案を見る。とはいえ江戸を参考にした詰め所の設置や、市中見廻り組が寺社見廻り組や武家見廻り組に良いように使われていた頃のように予備としての役割、この場合は予備軍としての役割を与えると言うもの。

 こき使われこそされ給金が払われちゃんとした扱いだったらだったら文句は言わなかったつもりだ。

 

「で、経費はどうするのかしら?これだけの規模だと、活動費も今と桁が違ってくるけど」

「取り敢えず纏めた後、盗賊狩りをして金かき集めた。当面はその金で良いだろ」

「…………盗賊?どうやって情報を掴んだの?」

「俺ぁ元盗賊だぜ?隠れ家なんて直ぐ見つけるさ」

「………そう。でも、そう言うことは先に言いなさい。倒した賊の数と周辺の村を教えなさい。村人からもらった以外にも、私個人から支給するわ」

「おう、じゃ酒も忘れんなよ?案を出したんだからな」

「………細かい根回しは私がやっておいてあげるわ。酒は暫く我慢しなさい……」

「げ、まじかよ。暫く安酒すら買えそうにねーのに」

 

 春菊が嫌そうな顔をすると華琳の嗜虐心が刺激されたのかクスクス笑う。春菊は速まっちまったかねーとその場を後にした。

 

 

 

 

「ま、文官向きではないわね」

 

 華琳は春菊から渡された書類を見て笑う。穴だらけで、荒い政策。しかし発想は面白い。

 ならば形にするのは王の役目だ。

 

「そういえば、今夜は秋蘭が来るのだったわね。ふふ、今夜は寝かせてあげられそうにないわ」


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