ガールズ&パンツァー~黒森峰からやってきた狼~   作:疾風海軍陸戦隊

77 / 98
準決勝前の家元たち

菊代が弘樹に会いに行っているのと同じころ、島田流の家では

 

「お母様……ちょっと良い?」

 

「ん?……………あら、愛里寿。どうしたの?」

 

、それなりの広さを持つ敷地に建つ家の一室に座っていた千代を、愛里寿が訪ねていた。

義弘から譲り受けたボコのぬいぐるみを、大事そうに抱いたまま部屋に入ってきた愛里寿は、千代の向かいに座って言った。

 

「大洗の試合、見に行きたいの」

 

「えっ?」

 

愛里寿からの頼みに、千代は呆気に取られたような返事を返した。 

 

「急にどうしたの?前なんて興味無さげだったのに、今になって行きたいだなんて………」

 

「……………」

 

「もしかして会いに行きたいの?武藤義弘君に?」

 

義弘に会いたいのか訊くと愛里寿は小さく頷く

 

「うん・・・・・義弘お兄ちゃんにちゃんとお礼言えてなかったから・・・・」

 

「そう・・・でも準決勝はとても寒いところよ?着れる限りの防寒着を着ても、寒いかもしれないわ」

 

千代はそう言うが、愛里寿は気にしないとばかりに首を横に振った。

 

「大丈夫……………お兄ちゃんのためだから……………」

 

「そう、余程彼に懐いているのね……………まぁ良いわ。なら、それまでに準備しておくのよ?」

 

「うん………ッ!」

 

そう言って、愛里寿は満面の笑みを浮かべて立ち上がると、相変わらずボコのぬいぐるみを抱き締めたまま部屋を出ていった。

それを見届けた千代はスマホを取り出し、次の大洗の対戦相手や試合会場を調べ始める。

 

「プラウダ高校……去年の優勝校が相手なのね………それもそうだけど、あの愛里寿があんなにも懐くなんて、彼は一体、どんな魔法を使ったのかしらねぇ………いえ。あの翔子さんの息子だものね・・・あの人もいろんな人に慕われていたから」

 

と首を小さく左右に振る。千代は義弘の母、高杉翔子のことを知っていた。学生時代に翔子に戦車道の試合で何度もコテンパンにされたという苦い思い出がある。

だが、西住しほと同時に戦車道を志す友人と言ってもいい間柄でもだった。

そしてかくいう千代も愛里寿が義弘に懐くのと同時に千代もかつては翔子のことを心から崇拝し尊敬の念を持っていた。

そして愛里寿もまた過去の自分のように、彼のことを想い。家に居る時は、義弘から譲り受けたボコのぬいぐるみを四六時中抱いており、寝る時もそれを抱いて寝ていると言う。

大学の同級生(?)からも、『時々『義弘お兄ちゃんがどーだこーだ』と言ってる』とさえ言われる始末。

義弘の事について話す愛里寿は、何時もの無表情から一転して楽しそうにしていたらしく、ふざけた1人が、試しに『義弘が好きなのか』と聞いてみたところ、少し顔を赤くしながらも、あっさりと頷いたらしい。

愛里寿曰く、『義弘お兄ちゃんの傍に居ると、安心する』だそうだ。

因みに、それを聞いた彼女の同級生の内の3人は相当なショックを受けたらしく、機会があったら義弘を捕まえて、彼女との関係について詳しく問い詰める計画を立て始めたらしい。

 

「はぁ…血は受け継ぐということね。母親と同じ人たらし・・・しかも自覚がないから厄介・・・か。でも愛里寿が懐いているんだし、あの子のお婿さんになってもいいかもしれないわね。前に西住流にとられそうになっったけど、今はその話は無しになって今はフリーみたいだし。それにあのことはちゃんとお話しできなかったから丁度いいわ」

 

千代はそう言いながら、テーブルに置かれたコーヒーを口に含む。するとぴくっと動きが止まり

 

「あれ?ちょっと待って?今あの子は確かロスマン先輩の弟子であり養子だったわよね・・・・・・・」

 

そう言い若干顔を青ざめる千代。

 

「愛里寿のお見合いをする前に、まずあの人を説得して認めてくれる方法探さないといけないわね・・・・・」

 

若干震えながら、ため息交じりでそう言う千代だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして同じころ、西住流師範であり西住まほ、みほの母である西住しほは、ファミレスである人物とあっていた

 

「こうして会うのは三年ぶりになるかしらね?」

 

「お久しぶりです。エディータ・ロスマン先輩」

 

中学生と見えるほどの若い銀髪の外国人の女性が、しほににっこりと笑いそう言うとしほの方は顔色変えずにお辞儀をし挨拶をする

しほが挨拶した相手はエディータ・ロスマン。戦車乗りであり、ヨーロッパ戦車道協会会長であり、理事長を務め、それ以前は戦車道教官として活躍。その教官時代では数々の優秀な生徒を生み出し、彼女の指導を受けた生徒は少なからず大きな戦果を残していると言われるほどの優秀な腕であり全世界からも注目されている。

そして西住しほの学校の一つ上の先輩でもあり、彼女に指導したこともある人である

そして義弘の養母であり戦車道の師匠でもある

 

「そう硬くならなくてもいいのよ?」

 

「いえ、これがいつもの私です先輩」

 

「そうかしら?高校生の時のあなたはそうじゃなかったけど?」

 

「私も大人になったということです」

 

「そう・・・・時が過ぎるのは早い物ね」

 

と、懐かしそうにそう言うロスマンは注文したコーヒーを飲む。

 

「それで先輩・・・・わざわざドイツから日本に来た目的は・・・・」

 

「決まっているでしょ?あのバカ弟子を連れ戻しに来たのよ」

 

「日本に帰国を許したのは先輩でしょ?」

 

「ええ、戦車道をしないという条件付きでね」

 

そう言いコーヒーカップを置くロスマン

 

「しほ・・・・あなたは知っているはずよ。あの子の病気のこと・・・そしてなぜあの子がドイツに行ったのも・・・・」

 

「はい。知っています。てっきりもう治ったのかと・・・」

 

「治るどころか悪化の一途をたどっているわ。あのバカ弟子は」

 

少し不機嫌そうに言うロスマンにしほは

 

「先輩。どうにかならない者ですか?」

 

「あればっかりはどうしようもできないわ・・・・・だからあの子を連れ戻しに来たのよ。それよりも他の人よりもまずは自分のことを心配しなさい、しほ」

 

「え?」

 

「私が知らないと思っているの?去年の決勝についてよ。ドイツでも放送されていたわよ。それに菊代から聞いたわよ。あれ以来みほさんと仲がわるくなったって・・・」

 

「・・・・・」

 

彼女に言われてしほは黙ってしまう。そしてしほは

 

「先輩だったらあの子の行動をどう見ますか?」

 

「そうね・・・・・西住流としては不合格・・・・でも人としてなら合格。80点ってところね」

 

「残りの20点は?」

 

「一人で濁流に行ったことよ。みほさんの行為は褒められる行為…だけど下手をすれば自分の流されて命を落とす危険があった。それで減点よ」

 

「・・・・・」

 

「それで・・・・叱ったの?」

 

「・・・はい」

 

「それは流派の師範として?それとも母親として?」

 

「そ、それは・・・・」

 

「あなたの表情を見る限り前者としてね・・・・・ちゃんと自分の気持ちを伝えないと娘には伝わらないわよ。しほ」

 

「分かっています・・・・・わかってはいるんですけど」

 

そう言い下を向き悔しそうに言うしほにロスマンは

 

「あなたはそう言うところが不器用ね。素直に言えばいいのに・・・・・それにあなたみほさんを勘当するって言っていたらしいじゃない。それって西住流と縁を切ることであなたは自由にあなたの戦車道をしなさいっていう意味でしょ?もう少し他にやり方とかないわけ?それじゃあすっかりあなたは悪者よ?」

 

そう言いコーヒーを再び飲むロスマン

 

「先輩は何でもお見通しですね・・・・」

 

「伊達に長くは生きていないからね」

 

「先輩・・・・ですが私にはそんな勇気はありません・・・・それに私は西住流の者です。ああでも言わなければ・・・・」

 

「他の親族のメンツが立たない・・・・・なるほどだからあの子を大洗に移したわけね。他の親族から遠ざけるために・・・・あの子を守るために」

 

「そ、それは・・・・」

 

図星だった。しほはあの一件以来、他の西住流親族がみほにきつい目線をしていることに気が付いていた。みほの行動は、西住流に反する行為だが人道的なことをしたことには変わりなく。しほは褒めたかったが家元である以上はみほを叱責した。ただそれは勝利を放棄したことだけではない。下手をすれば自分も濁流にのまれ命を失うかもしれない危険性を娘を心配する母親として伝えたかったのだが、みほには家元としての言葉しか伝わらなかった。そして彼女が天候をすると決めた時に表上は夫である常夫が手続したこととして大洗に転向させ学費や生活費も少なからずしほも出していた。ただしお金は夫が全部出したことにして

 

「隠さなくてもいいのよ。それにしても義弘も大洗にいるなんてこれも何かの縁なのかしらね?」

 

「何が言いたいのですか?」

 

「あら?あなたも短期転校ながら大洗にいたじゃない。西住流という重い看板を背負いたくない一心で・・・少しでも戦車道から逃げたいと思ったあなたが逃げ込んだあの学校に。あの時のあなたは今のみほさんと全く同じだったわね。初めて会った時もあわあわおどおどしてて、内気で人見知りで本当にかわいらしかったわ」

 

「そ・・・そうでしたっけ?き、記憶にないのですが・・・・」

 

ロスマンの言葉にしほの顔は若干ひきつる

 

「そう?じゃあもっと思い出してあげるわ。そうね・・・・確かあなたあの時、よそ見していると電柱にぶつかったり、机から落としたものを拾おうとしてモノが机やら引き出しやらからばらばら落としたり・・・・・あ、そうそう。そういえば、一人でこっそりリスを捕まえて『あら、可愛いでちゅね~』とか言っていたり・・・・それと・・・」

 

「もういい・・・もういいですからこれ以上、私の黒歴史を掘り返さないでください」

 

顔を赤くし、すごく困った顔で慌てて言うしほにロスマンは

 

「でも…そんなあなたでもいい友達に巡り合え再びその子たちと一緒に戦車道を始めた。最初に友人になったのは理髪店の好子ちゃんだったわね?その次に同じ戦車道を志す翔子さん。それに華道のお嬢様でいつもと違う花を生けたいと言っていた百合ちゃんに、成績優秀だったけどよく寝坊をしていた朝子ちゃん・・・・」

 

「はい…とても懐かしいです」

 

そう言い二人は懐かしそうな表情をする

 

「それで?その子たちとは今でも会っているの?」

 

と、訊くとしほは首を横に振り

 

「私が黒森峰に帰ってから…一度も・・・・最後に話したのは亡くなる前の翔子とでした・・・・・」

 

「会いにくいの?」

 

「はい…あんな別れ方をしてしまったので・・・・・」

 

「一度でいいから、もう一度会って話しなさい。向こうもきっとそう思っているわ。しほ。これは大洗時にいた先輩からの忠告ですよ」

 

「心得ています・・・・」

 

そう言い少しだけ静かになる二人。そしてロスマンが

 

「それで・・・・見に行くの?試合に?」

 

「はい。先輩は?」

 

「無論見に行くわよ。試合相手の隊長は私の教え子の一人ですし、二人がどんな成長をしたか師としてみなきゃいけないし、それに義弘が本当に危ない状態なら本気で連れて帰るつもりだからね」

 

ロスマンはそう言って、その話を切り上げるのだった。

そして店の中では二人の声はなく。ただ音楽だけが鳴り響くのであった

 

義弘は生存させる?

  • 生存しない
  • 生存させる
  • 生存するが長くは持たない
  • 死ぬが転生する
  • どっちでもいい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。