召喚異変   作:ジャジャジャジャーン

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プロローグ(もう1人の主人公)

目覚まし時計から突然警告音《アラーム》が鳴り響く。その音に起こされレオは時計のボタンを手荒く押す。警告音は止まり、また部屋には静寂が訪れた。

 

「おはようございます、レオさん。」

 

個室に付けられている自動ドアが開く音に反応し目を向けると、既に五十鈴が無断で入ってきていた。

 

「…許可なく入るな、と言っていただろう。」

 

「それなら、時間通りに起きてください。どうせ少しでも長く寝る為に規定時間より5分遅く目覚ましを設定していたんでしょ?」

 

正論を返され、レオは黙り込む。最近寝ても寝足りないと感じてしまう為、この施設で決められている時間より遅く起きるようにしていた。

 

「ここ最近ベッドから離れられんのだ。」

 

「確かに秋になって過ごしやすく…個室の設定温度は一年中同じ筈よ?」

 

五十鈴は入口付近で留まっていた足を動かせ、個室に入ってくる。壁についている冷暖房の温度調節をするパネルをチェックする。一方のレオは寝巻きから普段着に着替える為にタンスの方に行く。

 

「やっぱり。また無断でエアコン切っているわ。そんな事勝手にして風邪でも拗らせて隊長《リーダー》に怒られても知らないわよ?」

 

「俺は冷暖房が苦手だ。夏は扇風機で、冬は湯たんぽで大丈夫だから俺には要らん。それに、普段数々の任務をこなしている体だ。風邪には負けないさ。」

 

「それなら、その普段の任務の為にもエアコンには慣れておきましょうね。そんな理由で失敗の言い訳されたらこっちも困るわ。」

 

レオはまた正論を返され、そのまま黙って着替え始めた。五十鈴は無断で冷暖房のパネルに手をやり、起動ボタンを押す。長く使われていなかった冷暖房はホコリと共に風を部屋内に送り込む。

 

「ちょ、ちょっと! 何この凄いホコリ。レオさん、このエアコンは何時から使ってなかったの?」

 

「ん? 前に五十鈴に言われた後くらいだが?」

 

「半年以上前じゃない!もう、何で私の言いつけですら守れないのかしら。こんなのが副隊長だなんて……。」

 

五十鈴は呆れながらも冷暖房のスイッチを切り、信じられないと言う顔でレオを見る。冷暖房は電源が落ちたサインの音がなりながら、羽の動きを止める。レオも着替えが終わり、口を手で覆いながら個室から出ようとする。

 

「兎に角、俺は隊長から呼び出されているんでね。後でホコリは掃除するから、五十鈴も外に出てくれ。」

 

「その時は私も手伝いますよ。4分の1は私に責任ありますから。」

 

「いやいや、どう考えても動かしてなかった俺が悪いし、改まって敬語を使われても困る。手伝ってくれるならまた呼ぶさ。」

 

暫く納得いかないと訴えるような顔を浮かべていた五十鈴だが、最終的には分かりました、と答えレオの自室を後にする。レオもその後に自室に鍵をかけて隊長の元へと向かう。隊長は誰よりも準備が速く、1秒でも遅刻すると怒る人だ。レオ自信、何度か遅れて説教を受けた事もある。

 

 

 

「おう、来たか副隊長。」

 

「おはようございます、隊長。」

 

2人は互いに軽く挨拶を交わす。隊長と呼ばれるその男は喫煙所で吸っていた。そのサングラスも相まって傍から見るとヤク●にしか見えない。

 

「その様子じゃ、朝は食べていないようだな。」

 

「よく分かりましたね。最近起きるのが遅くて…。」

 

隊長は煙草を灰皿に置き、喫煙所から離れる。

 

「今日は私的な用事で呼び出した。それなら、2人で飯を食いに行くか?」

 

「隊長からのお誘いとは随分珍しいですね。」

 

レオも喫煙所から出て、隊長の後をつく。

 

 

 

この施設にはレストランが設置されている。1階の東側。先程居た喫煙所はその上の3階にある。入口には改札のような機械を設けており、そこに施設関係者である証明カードを通さなければ入れなくなっている。その理由は決して部外者を排除する為では無い。その証明カードには個人の健康状態やこれまでの食事の情報が記録されている。それを元にして食事を作るシステムとなっている。

レオと隊長はその入口に自分のカードをスキャンさせる。すぐに入口は開き、2人は喫煙席の方へと歩く。

 

「今更だが、禁煙の方が良かったか?」

 

「大丈夫ですよ隊長。気にしないで下さい。」

 

座席に座ると隊長は早速煙草ケースとライターに手を出す。口に加えて火をつける。ひと息ついた所でサングラスを外し、手にしていた鞄から資料をレオに手渡す。

 

「これが昨日言っていた奴だ。もう10年も昔の話だがな。」

 

レオは渡された資料に目を向ける。そこには1人の男のプロフィールと何やら詳細な情報が文面に書かれている。レオにはその男の名前や顔に覚えは無かった。

 

「藤村 樹《ふじむら いつき》。10年以上も前に大失態を犯し殺された記録がある。」

 

隊長は虚空を捉えながら語る。出てきた名前は資料に載っている男の名前と合致している。

 

「まだ俺は生まれて無い程昔ですね。それで、この人は何をしたんですか?」

 

「『観察対象』を逃したらしい。俺もその場面には居合わせ無かったから、資料上での話になるが。」

 

隊長の言葉だけでは良く理解出来ず、レオは詳細情報を自分の目で確かめる。

藤村樹。優秀な職員ではあったが、情が移りやすいのが欠点。『観察対象』と結婚し、1人の子供を授かる。どうやら『観察対象』は女性の様だ。

 

「単刀直入に聞きますが、この『観察対象』は一体何者ですか?」

 

「妖怪らしい。それも我々が作った者では無い。何処から来たのかは一切不明だ。」

 

隊長の返答に驚いているちょうどその時、ウェイトレスが料理を運んできた。

 

「お2人が一緒とはまた珍しいですね。」

 

「って五十鈴か。」

 

運ばれてきたのは典型的な和食だった。味噌汁の良い香りと秋刀魚の塩焼きの少し焦げた臭いは食欲を唆る。

 

「今日に限って和食か。打ち合わせしずらいな。」

 

「あら? 何かお話してたのですか?」

 

五十鈴から朝食を受け取った隊長は早速机の上に置かれている醤油を手に取り、秋刀魚の塩焼きについている大根おろしに数滴垂らす。

 

「ちょっと私用の話でな。…っと、ありがとうございます隊長。」

 

隊長から手渡しで醤油を受け取り、レオも隊長と同じ所にかける。

 

「ふぅーん。何か怪しいけど、ちゃんと戴きますしてから食べなさいよ。レオさん、いつも行儀悪いんですから。」

 

「おいおい五十鈴。何時から俺の母さんになったつもりだ? 言われなくともちゃんとするよ。」

 

暫く疑いの目を向けていた五十鈴だが、隊長に気を使ったのか帰っていった。

 

「……戴きます。」

 

この両手を合わせて祈りを捧げた後、2人は箸を掴み、それぞれ朝食に手を出す。

 

「それで…昨日持ちかけてきた話と一体何の関係があるのでしょうか。もしかして『観察対象』は『楽園』出身だったとか?」

 

隊長は動かしていた箸を止め、噛んでいた白米を飲み込む。

 

「確かにその可能性は高いが、確証は無い。ちゃんと次のページも読んでみろ。お前の洞察力ならば俺が言わなくとも分かるだろう。」

 

「読むのは食べてからでも?」

 

「勿論。」

 

2人から会話は消え、朝食を取ることに集中する。

 

 

 

「つまり…この行方不明者達は何処かへ消えてしまったと。」

 

朝食を終え、2人は食後のコーヒーを飲む。先程の秋刀魚の旨味は1口飲むだけで苦味へと変わった。

 

「その通りだ。文面通りならば戸籍の情報は何故か抹消されている。まるで初めから居なかったように。親族、知人に身元を確認しても知らないと返ってきた。」

 

レオは不思議に思い、もう1度資料に目を向ける。行方不明者には共通点は無く、血の繋がりも殆ど無い。

 

「どういう事ですか?」

 

「分かっている癖に俺の口から聞きたいのか?」

 

隊長は少しニヤリとする。またライターと煙草を取り出す。慣れた手つきで火を付け吸い始める。

 

「この行方不明者の消えた先が『楽園』と?」

 

「ああ。それにちゃんと証拠はある。」

 

そう言いながら隊長は鞄から小さなノートパソコンを取り出す。大きさからも分かる通りあまり性能は良くないが、軽くて持ち運びやすい理由から隊長は愛用している。ロック状態を解除し画面にはすぐにデスクトップが映る。そのPCに付いているマウスを巧みに操り、1つのファイルを開ける。

 

「動画…ですか? 大分画質荒いですね。」

 

ファイルが開かれると1つの動画が入っていた。ダブルクリックして開くと映像が流れ始める。どうやら誰かの家の1室が写っている。

 

「防犯用だからな。この動画にはあの行方不明者達の1人が消える瞬間が記録されている。」

 

動画は1人の高校生らしき若者が机に座る所から始まっている。何かを書いているが、あまりにも画質が悪い為内容までは見ることが出来なかった。レオは息を呑んでその動画を注視する。画面の若者が何かを書き終えた瞬間、若者の後ろには黒い物体が発生する。

 

「こ、これは…。」

 

隊長は何も言わない。その黒い物体は大きくなり、その若者を取り込む。若者も必死に抵抗しているようだが、すぐに全身が黒い物体の中に入り込んでいく。

 

「一件何かの物体にしか見えないが、あいつに分析してもらった所、空間の歪みが発生していると言われた。」

 

「あいつって、EBさん?」

 

『ええ、この私ですが?』

 

その聞き覚えのある声は隊長のPCから流れる。画面を見るとEBが既にPCを乗っ取っていた。

 

「相変わらず便利な体だな。」

 

『ええ。何たって私は電脳体ですから!』

 

ドヤ顔を決めるEBに、レオは少し苛立ちを覚える。彼女は生まれながらにして電脳体―肉体を持たず、ネットワークを仮想空間として意識を持って生きている。ネットワークに繋がりさえすれば、どんな機械でも乗っ取る事が可能な便利な能力を持つ。

 

「行方不明者の情報の提供元もこいつだ。」

 

『こいつ呼ばわりなんて酷いですぅ〜。どうやら私の保存した情報元以外は全て何かしらの手段によってあの人達の情報は削除されたようです。』

 

レオは先程の苛立ちはEBの喋り方に原因があったと理解する。実際優れた能力を持ち、レオよりも先輩である筈のEBは全くその威厳を感じ取る事が出来ない。

 

「何かしらの手段? EBさんにも分からないのか?」

 

『はい、お役に立てず申し訳ありません。ただ、人力では不可能な事だけははっきりと分かりますが。』

 

確かに全世界からあの行方不明者達の情報を消去するのは、EBのような特殊な能力を持たない人間では不可能であろう。

 

「話を戻しますけど、最初の資料の『観察対象』とこの事件とは何の関係が?」

 

「さっきの動画で襲われていた少年、あれは『観察対象』の子供だ。」

 

レオは行方不明者の名前のリストを注視する。上から順に名前を確認していくと下の方に『藤村』の名前が確かにあった。

 

「補足すると、その少年は父親の報告によれば人間には不可能な能力を発現したという。飛行、怪力。それもその少年が小学生に入学する前にだ。」

 

「それじゃあ、あの若者は人間では無いと?」

 

『だから、妖怪の集う『楽園』に誘拐されたという仮説を貴方の隊長さんは唱えたのよ?』

 

EBのその言葉に隊長は無言で頷く。『楽園』は伝承通りならば妖怪などの人ならざる者が創りあげた、通常ならば外から入れないと言われている。

 

「まず『楽園』が本当にあるのか怪しいですけど。」

 

『私の情報が信用出来ないのですか? はうぅ、ショック受けちゃいました…。』

 

EBは画面上の体を動かし、泣いている素振りをする。もう少し先輩らしくして欲しい、とレオは内心で呟く。

 

「非科学的な存在のお前が言えた事じゃないだろう。EBとお前もそういう点ではそう大差無い。」

 

「確かにそうですけど…。あれ? もしかして、今日呼び出した『私用』って?」

 

隊長は咥えていた煙草をレオの方に向ける。

 

「お前にはその『楽園』の捜索任務を与える!」

 

 

 

「っとは隊長に言われたものの……。」

 

施設から外出許可を貰い、レオはとある目的地に向かっている。

 

「大体、隊長は何故あそこまで『楽園』に拘るのだろうか?EBさんからの情報で本当にあるのかもしれないが、男1人を使わしてまでの事なのか?」

 

レオ自身も『楽園』については詳しくない。隊長からの話によると、そこでは数多の妖怪と数少ない人間が共存しているという。妖怪のあり方が隊長の仮説通りであるならば、確かにそんな場所は『楽園』に相応しいが。

 

「ええっと……。『博麗神社』か。」

 

隊長に渡された『楽園』への入口がある可能性がある場所を10ヶ所ピックアップされた資料に書かれている1つの名前を読み上げる。詳細事項には候補として挙げられている要因が簡潔に記載されている。

 

「神隠しの噂も後を絶たず、現在人が居るのかも不明。地域住民ですら近づかず、1部から心霊スポット扱いされている、と。」

 

今から向かう『博麗神社』の前にも2ヶ所程偵察してきたが、特に何も起こらなかった。1ヶ所目は自殺が多々起こる池で、水の中を捜索しても死体が見つからない事で有名らしい。2ヶ所目は別世界へと繋がるトンネルで、伝承では地獄と繋がっていると信じられていたらしい場所だ。件の神社とその2つのスポットも、正直な所両方胡散臭い。

 

「ま、自分の目で確かめるまでは信じるとしよう。」

 

資料を携帯していた鞄に戻し、再びレオは山道を登る。例の神社はこの山道の先にあるらしい。長袖で訪れたレオだが、思ったよりも肌寒く感じた。当たり前であるが、山には太陽光があまり入ってこないので、都市部と比べるとかなり涼しい。山道のすぐ傍には小川が流れており、より一層気温が低くなっていた。

そう考えている内に目的地へ辿り着いた。少し長い石段を登るとボロボロの小さな鳥居が出迎えてくれる。中の建物も大分傷んでおり、およそ人の手が加わっていない事が伺える。

 

「いかにも神隠しが起こりそうな怪しい物件だな。」

 

境内も雑草が生え放題になっている。その草むらからは昆虫の鳴き声が聞こえてくる。奥に進んでいくと賽銭箱はちゃんと用意されていた。無論、中には1円たりとも入ってはいない。意外にも本殿は大きく、やはり所々の瓦などが破損したり紛失したりであった。

 

「はぁ〜…。俺は何をしているのやら。」

 

私用の任務とは言え、遣る瀬無い気分は募ってくるばかりだ。レオは神社の境内の草むらで寝転ぶ。その気持ちを嘲笑うかのように秋の優しい風がレオの頬を撫でる。

 

その瞬間は突如現れる―

 

レオがちょうど寝ていた地面が前触れも無く突然光出した。レオはすぐにその場を離れようと試みたが、その光に掴まれた。どうやら、それは光では無く光っている何かのようだ。レオの得物であるクナイを咄嗟に取り出し、それの切断を行う。

 

「これ、何かで見たような……。」

 

それは数時間前に見覚えがあった。色は真反対だが、あの動画に映っていた黒い物体に酷似している。こちらは謎の白い物体とでも呼ばれるべきであろうか。先程からこちらを捕らえようとする触手のような物を襲ってきては切断しているが、最初の不意打ちでレオの足が捕まっていた。数回の攻防で既にレオは捕まり、あの動画の若者のように中へ取り込まれていく。

 

「折角の調査だ。こちらから潜入させて貰うさ!」

 

その光の発行が収まると、また神社には虫の鳴き声の合唱が流れ始める。

 

 

 

 

「お邪魔します。」

 

「ああ、皇隊長か。入りたまえ。」

 

「隊長はよして下さい、社長。」

 

自分の上司である社長に呼び出され、皇は時間通りにそこへ訪れた。施設の中では最上階にある社長室には、普段あまり来客が無い。最上階にあるのは社長がヘリで移動しやすい為と言われている。

 

「それで……作戦はどうかな?」

 

社長は懐に忍ばせている煙草を取り出す。社長が咥えたタイミングで、皇はそれに火をつける。

 

「順調ですね。今頃はおそらくレオの奴も目的地へと辿り着いている筈です。」

 

社長は皇に煙草を差し出す。皇は一礼してから自分の口の方に持っていき、ライターを添える。

 

「そうか……。皇の隊の副隊長は潜入にはもってこいの概念《コンセプト》だからな。」

 

「ええ。今回はきっとうまくいくでしょう。『悪魔』も動いていますからね。」

 

その応答を聞いた社長は愉快そうに笑う。そして大きく口を開けて叫ぶように―

 

「これで30年夢見た世界が現実になる!」





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