勉強の息抜きに書くのでペースは遅いと思いますが、応援よろしくお願いします。
『美空は絶対俺が守るから!』
幼き日の思い出がぼんやりと頭の中で蘇った。
「み………そ……ら………。」
少年は血だらけになりながらも少女の名前を呼び続ける。全身から鮮やかな緋色の血液が流れ出て、立つことすらもままならない。
「お…れが………ったい……もるか………ら…………。」
それでも少年は進み続ける。力の入らない足を奮い立たせ、ただ進み続ける。
「にい………ちゃん……が………い…ま……くから………だから………。」
ついに足が力を失い、少年はその場に倒れこんだ。
「まって…て……く…れ…………。」
そして少年は、そのままゆっくりと目を閉じた。
◆ ◆ ◆ ◆
季節は夏、そして今は夏休みだ。窓から入って来た爽やかな風がカーテンを靡かせる。
「ふんふふ〜〜んふ〜〜〜ん。」
俺【桐生 大地】は上機嫌に鼻歌を歌いながらいつもより少し遅い朝食を作っていた。両親は共に海外転勤しており、家にはほとんど帰ってこない。なので俺が家事や掃除を担当している。
「よしっ、これで完成。おーい!朝ごはんできたから早くでてこいよー。」
作った料理の盛り付けを終え、俺は二階で寝ている妹を呼んだ。しかし、いつも通り返事は返ってこない。
「たくっ。いつまで寝てんだよホントに。」
俺は二階への階段を登り、妹を起こしに向かった。
ドアを開け、部屋へ入ると、そこは凄まじい惨状だった。床にはスナック菓子のゴミや空のペットボトルが大量に散らばり、妹が使ったのであろうゲーム機とゲームソフトが無造作にばら撒かれている。
何じゃこりゃ、足の踏み場すらねえじゃねえか。
俺は床に散らばっているゴミを足で蹴散らしながら部屋の奥にある妹が寝ているベッドへと向かった。
「こらっ、いつまで寝てんだ。夏休みだからっていつまでも寝てるんじゃねえ。」
俺は妹が包まっているタオルケットを思いっきり引っ張って取り上げた。
「うむぅ………。あと10時間………。」
そして、中から無造作にハネまくった黒髪の少女が出てきた。このだらしない格好で寝ているのが俺の妹【桐生 美空】である。
「アホか!起きた頃には夕方になっとるわ!せめて言うなら10分にしろ!」
「……………………じゃあ、10分………。」
「朝ごはん冷めるから今起きなさい。」
俺はそう言ってベッドの近くの窓を全開にした。窓からは爽やかな朝の日差しが差し込み、美空の顔に直撃した。
「まぶっ!」
すると、美空は跳ね上がるようにベッドから起き上がった。
「やっと起きたか。朝ごはんできたから早く下に降りて来い。そして、あとで部屋の掃除をしろ。わかったな?」
俺は淡々とそう告げて一階のリビングに向かった。
美空の目覚ましを終え、朝食をテーブルの上に並べていると、ブカブカのTシャツに軽い短パンと相変わらずのだらしない格好で降りてきた。
「ふあ〜〜。にーちゃんおはよ……。」
美空は眠そうな目を擦りながら大きなあくびをして椅子に座った。
「たくっ。夏休みだからって遅くまで寝ていると、学校始まってから朝起きれなくなるぞ。もう中学二年生なんだし。ただでさえいつも遅刻ギリギリだってのに。」
詳しく言うと数回遅刻しているわけだが。
「仕方ないじゃん……。昨日の夜、世界の為に戦ってたんだから。」
「あっ!お前また夜更かしでゲームしてたな!?あれほどやめろって言ったのに。だからいつも朝起きれないんだよ!」
俺は深くため息をついた。
何を隠そう俺の妹は引きこもりとまではいかないが重度の引きこもり気質なのである。学校はちゃんと行っているが、授業中はいつも寝ているらしい。そして帰って夜遅くまでゲームにアニメの悪循環だ。
俺も自分の席に座り、湯飲みにお茶を注いで朝食を食べ始めた。
「ところで、夏休みの宿題は大丈夫なんだろうな?お盆休みまでに終わらせなかったら新しいゲーム買わんからな。」
「ふぐっ!」
美空の体の動きが一瞬止まった。
「だ、大丈夫ですよ、お兄様。ジュ、ジュンチョーだから……。」
そう言って美空は再び箸を動かし始めた。あーこいつ絶対やらねえわ。そんで今はどうやってゲーム買ってもらうか考えてるな。
俺は呆れてため息を吐くと、テーブルの上に置いてあるリモコンを取ってテレビの電源をつけた。
「また行方不明者出たのか?物騒な世の中になったものだな。」
俺はしばらくテレビを見た後に味噌汁を啜った。
「最近の被害者は共通点とかあまりないらしいよ…。もしかしたら、神隠しかも…。」
「いや、流石にそんなわけないだろ。無差別誘拐事件とかなんかだろ?俺たちも外出する時気をつけないとな。」
俺はテレビに目を通しながら再び味噌汁を啜った。
「私はあんまり外出ないから大丈夫かな…。ご馳走さま…。」
「相変わらず食うの速えな。よく噛んで食べないとダメだぞ。」
「ふぁい…。」
美空は食べ終わった食器を流し台に置くと、リビングのテレビの前のソファーに座った。
「お前何気にニュースは見るのな。あんまり勉強しないのに。」
「常に世間のことを知っておかないといざという時に周りに置いてかれちゃうからね…。それだけは絶対に嫌。」
じゃあ、勉強しろよ。学校のみんなに置いてかれるぞ。
俺は心の中でそうツッコんで朝食を食べ続けた。
「ご馳走さま。それじゃあ、にーちゃんは食器洗った後に軽く部屋の掃除するから、お前は今から自分の部屋片付けとけよ。」
俺は食器を流し台に置いて、廊下の用具入れから掃除機を取り出した。
「へえい…。」
美空はやる気のない返事をすると、階段を上がって自分の部屋に向かった。
「さて、俺も始めるとするか。」
俺はリビングのコンセントにプラグを刺して掃除機を起動させた。
リビングの掃除を終え、俺は今自分の部屋を掃除している。俺の部屋は二階の美空の部屋の向かい側に位置している。
「さっき美空にはああ言ったけど、あいつほんとに部屋片付けてるかな?」
床に物が散らばってたら掃除機がかけられない。あいつのことだから二度寝でもしてるんじゃねえのか?
俺は自室の掃除を終えると、掃除機のコードを外し、美空の部屋へと向かった。
「美空〜。ちゃんと片付けたか〜……って、なんじゃこりゃあ!?」
ドアを開けて美空の部屋に入った瞬間、俺はその光景を見て驚愕した。
「あ、にーちゃん。ちゃんと部屋片付けたんだけど……。なんか変なの出てきた。」
俺は自分の目を擦って再び美空の足元に目をやる。
そこにはよく分からない文字や図形が床一面に広がっており、不気味な光を放っている。なんだこれ、魔法陣か?
「にーちゃん、私ちゃんと部屋片付けたよ…。」
「いや、今はそんなこと言ってる場合じゃねえって!」
俺は掃除機を廊下に置いて美空の元へ足を進めた。
「一回ここから出るぞ。何があるかわからん。」
俺が美空の腕を引っ張って部屋の外に連れ出そうとした、その瞬間。魔法陣らしきモノがさらに強い光を放った。
「なんかヤバい気がする。早くここから出るぞ!」
「にーちゃん待って、まだあそこのゴミ片付けてない…。」
「なんでお前はこういう時に限ってお利口さんなんだよ!」
俺は、部屋の奥のゴミを拾おうとする美空の腕を無理矢理引っ張って部屋から出ようとした。
「痛っ!嘘だろ?」
部屋の出入り口に差し掛かったところで俺の体が弾かれ、外に出ることができなくなっていた。そしてさらに魔法陣の光が強くなり、視界が真っ白になった。
なんだこれ?一体何が起きるんだ?
俺はどんどん大きくなる不安を抱えながら、美空の方に視線をやる。
「にーちゃん、なにこれ?新しいゲーム?」
どうやら状況を把握していらっしゃらないようで、すっげー呑気な顔してる。
「はあっ……。なんかお前見てるとなにもかもどーでもよくなってくるな。」
「!にーちゃんが褒めた!?」
いや、別に褒めたわけじゃないけど、まあそういうことにしておこう。
辺りが白い空間になってからおよそ1分ほど経った頃、白い空間に変化が起きてきた。
「少し暗くなったか?何か薬品ぽい匂いもするし。」
俺は神経を尖らせて周りを確認する。すると、白い光はどんどん弱くなっていき、周りの様子が確認できるようになった。
「ここは、どこだ?」
見る限り、さっきいた場所ではないな。周りにはよくわからないものが置かれた大きな棚が並んでいる。
「おお!今回は無事成功したねえ!」
突然女性の声がしたので、俺は声のする方を反射的に見た。
「やっと成功しましたね、アルテナ様。今までの私の努力が無駄にならなくてよかったです。」
そこには黒いマントを羽織って、赤い縁の眼鏡をかけた銀髪の女性がいた。しかも巨乳だ。そして、その隣には爽やかな青色の長髪と左右で色の違う眼を持った少女がいる。
「やあやあ、初めまして。違う世界の住人たちよ。私は偉大なる魔術師アルテナ・マリオネットというものだ。とある実験で君達をこちらの世界に連れてきた張本人さ。」
「偉大な魔術師って、ただの引きこもり魔術師じゃないですか。」
「うるさい、ルーシカ!あんたはいつも一言多いんだよっ!」
あまりの急展開に俺はポカンとしてしまった。
異世界?魔術師?ここはゲームやアニメの世界かな?
「まあ、ここで立ち話もなんだし、あっちの部屋で腰をかけて話をしようじゃないか。」
俺が放心状態で突っ立っていると、気を利かせたのかアルテナという人は俺たちを奥の部屋へ案内した。
「は、はぁ。」
正直今は何を信じればいいかわからないので彼女についていくことにした。
そういえば、美空は随分と大人しいな。
俺は少し不思議に思い、美空の方を確認する。
「くかーーーー……。」
こいつ寝てやがる。こういう時でも呑気なやつだな。
「妹さん…?はしばらく寝かせてあげたほうがいいかしらね?ルーシカ、まずは二人をベッドルームまで案内してあげて。」
「かしこまりました。それではお二人方、私についてきてください。」
俺は軽くうなづいてルーシカについていった。
美空をフカフカのベッドに寝かせて、俺は客室らしき部屋でアルテナさんとテーブルを挟んで向かい合って座っていた。アルテナさんは年上そうなので取り敢えずさん付けでいこう。ルーシカは寝室で美空の付き添いをしている。
「呑気な妹さんだねえ。こんな状況でまさか寝るなんてね。」
アルテナさんは軽く笑った。
「全くですよ。あいついつもああなんで、俺も苦労してるんですよ。」
「でも、彼女のおかげで少しは気が解れたんじゃないのかい?」
「うっ。まあそうですね。」
実際のところ、少し気が楽になったので言い返せない。
「まあ、そんなことはさて置き、君の名前を聞いてなかったね。」
アルテナさんはテーブルに両肘を置いて尋問するようなポーズをとった。
「あ、そうでしたね。俺の名前は桐生 大地です。こちらの世界ではどうなのかわかりませんが、桐生が苗字で大地が名前です。」
「そうかい。こっちの世界では逆だね。苗字の先に名前がくるよ。」
やはりそうか。外国みたいだな。
「それで、俺たちをこちらに連れてきたのはどうしてですか?」
「それは、実験だよ。異世界と繋がる魔法を研究しててね。他の世界から人を連れてこようと思ったら、君たちが来たってわけさ。」
となると、意図的に俺たちを連れて来たのではなく、ランダムで呼ばれたというわけか。
「それで、俺たちは帰れるんですか?」
俺は1番気になったことを聞いてみた。
「ああ、そのことなんだがね。あちらの世界から人を連れてこられたわけなんだけど、こちらの世界からあちらの世界に行く魔法はまだ研究中なんだ。」
なんだそれ。迷惑極まりないじゃないか。まず帰れる魔法作ってから呼べよ。
「いやぁ、先に私があちらの世界に行ったら戻ってこれないじゃん?こっちに連れてこれば研究は続けられるし……。」
アルテナさんは、たははと誤魔化すように笑った。
「確かに一理ありますが、それじゃあ、両方の魔法を完成させてからでいいじゃないですか?」
俺は少し不機嫌気味な態度をとった。
「あれだよ、魔術師の性ってやつさ。できた魔法は試さずにはいられないってね。」
アルテナさんが少しふざけた感じにそう言ったので、俺の堪忍袋がついに弾けた。
「そんなの知ったこっちゃないですよ!少しは先のことを考えて行動したらどうなんですか!?いつもそうなんでしょう!?先のこと考えずに周りに迷惑かけてるんでしょ!?」
「る、ルーシカにしか迷惑かけてないもーん……。」
アルテナさんは目を泳がせながら子供のような言い訳をした。そのせいでさらに俺の頭に血が上り、俺は最後にトドメの一言を放った。
「それでもダメですよ!だから引きこもり魔術師なんて呼ばれるんですよ。このぼっち魔術師がー!!」
怒りをぶちまけて少し頭が冷えた俺は少し言いすぎたと思い、アルテナさんの顔を見る。
「グスッ、ううっ………。」
な、泣いてる……。
「ぼっちじゃないもん……。私には、ルーシカがいるもん………。」
見るからに20歳は超えている女性が大粒の涙をこぼし、子供のような発言をしている。
「うああああああああん!!ルーーーシカァーーー!!」
しかも号泣して部屋を出て行った。
「え、ええぇ………。」
想像以上の展開に俺は唖然とすることしかできなかった。
【ダイチ・キリウ(桐生 大地)】
年齢 : 17
身長 : 177cm
好物 : 野菜全般、鶏肉
補足 : 茶髪、瞳の色は茶色、面倒見がいい、たまに沸点が低い