ナハル・ニヴ ~神様転生とは~   作:空想病

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傭兵団

/Chaotic times …vol.02

 

 

 

 

 

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「なるべく穏便に、にこやかな対応を心がけましょう」

 そう言ってくれる水妖のイニー。

 まるでハイキングでも楽しむような感慨で、ナハルはそれにひとつ頷いた。深呼吸を忘れずに。

 

 

 樫材(かしざい)(とびら)を開ける。

 

 

 ナハルは辺鄙(へんぴ)な酒場にいた。異世界にありがちな汚い宿屋という風情がそこらを漂う。

 客は多くもなければ少なくもないが、とある団体客の、その共通シンボルを見て、ビンゴと心の中で笑う。

 金色の髪に黒房の片鱗をなびかせ、旅のローブに上質な剣と盾とで護られるさまは、旅する戦乙女と評するにふさわしい。

 が、なかなかに怪しい。何かを企んだような鋭い瞳が金色に輝きつつ、カウンター席をまっすぐ目指した。

 

「ご注文は?」

 

 決して愛想はよくない店主の男に対し、とりあえず水を注文。

 この時代、この地域でも、水は希少品だ。無料のセルフサービスなど行ってなどいない。

 

「おう姉ちゃん」

 

 狙い通り。いかめしい男の群れ──団体客の一群が、ナハルの周囲を席ごと囲みだす。

 胸当ての内でイニーが警戒しチルノがよくわかるほど震えていたが、とりあえず「何か用件でも?」と愛想よく(たず)ねるナハル。

 

「ここらじゃ見ないツラだと思ってなあ、……巡礼者サマか、何かかい?」

「まぁ、そんなところです」

 

 ティル・ドゥハス大陸に根付く四柱の神による国生み伝説。

 開祖トゥアタ・デー・ダナンがもたらした、神々の四秘宝。

 その切っ先から逃れること(あた)わぬヌアダの剣、無敵と称されたルグの槍、王位を告げるファールの石、あらゆる食材を生むダグダの釜──

 ティル・ドゥハス大陸に来寇(らいこう)した開祖たちは、この四秘宝によって蛮族や他種族を駆逐し、人の世の平和を勝ち取ったとされている。

 これが、教会に伝わる四宝信仰──戦闘民族の名残、などとも称される「剣」「槍」「石」「釜」を神具として崇め奉る“四宝教”の歴史である。 

 その四宝はレプリカ──模造品が、まるで十字架の宗教よろしく、各地の教会や寺院に祭られている。中には本物があるとかないとかで物議になっていたり。

 それをひとつひとつ巡礼することを己に課した巡礼者──宗教家は意外にも数多く、さして珍しいものでもない。だが、

 

「それにしちゃあ、女のひとりたびは危険だぜえ? なんなら、俺らが護衛に雇われようか?」

「いえ結構」ナハルは強い口調で水をあおった。「自分の面倒は自分で看ますから」

 

 巡礼の旅には危険がつきもの。単純な事故や遭難は勿論のこと、今であれば人喰いの〈魔者〉が最たる例だ。が、そうでない時代は当然、夜盗(やとう)だの野伏(のぶせり)だのが幅を利かす。

 

「しかし、巡礼者にしてはいい剣と盾じゃねえぇか……ちょいと見せてくれると嬉しいね」

「……」

 

 額に一文字の傷を刻んだリーダー格と思しき男に乞われるまま、ナハルは剣の柄を男に差し出した。

 すらりと抜かれた刀身は鏡のように磨きこまれ、刃こぼれ一つしていない。

 

「結構な業物じゃねえか、ドワーフ(アワク)鍛冶師(ガウ)の手のものだな?」

「ご名答」

 

 丁寧に応対するナハルだったが、男は剣を返そうともしない。

 彼の仲間たちが、下卑た笑い声で舌なめずりを始める。一対七。完全に劣勢とみられる。

 

「お嬢ちゃんみたいな別嬪(べっぴん)さんには勿体ない業物だ。ここはひとつ、俺様の剣として、いただいておくから」

 

 それ以上は、言葉を発せさせなかった。

 

「ッ!」

 

 ナハルはダマスカス鋼製の盾で男を速攻にぶん殴り、肋骨へ盛大に罅を入れさせた。男の手からダマスカス剣が離れ、宙に放られたと同時に剣を手早く回収する。

 

「てめえ、俺らの班長(キャナラ)に何」

 

 を、と言いかけながら剣を抜いた男の得物を、ナハルは返す剣で、その掴部分のみを残し、割り砕いた。

 鋭い笑みを浮かべる、金色の女剣士がそこにはいた。

 折れた剣の切っ先が天井に深く突き刺さっていて、一座が強烈にざわめく。

 両膝をついて苦悶の表情をつくる班長(キャナラ)とやらに、ナハルは回復の魔術をかけてあげた。

 

「ま、魔法まで扱えるとは恐れ入る……おまえさん、巡礼者じゃねえ、ただものじゃねえな……王国の近衛兵団長さんか、魔法騎士長か、何かか……?」

 

(魔法でなく魔術だけどね)と思考を闇に沈めるナハル。

 

「私の素性はどうでもいい」

 

 ナハルは冷徹な金色の瞳に聖痕の影を映しながら、超然(ちょうぜん)嫣然(えんぜん)と微笑む。

 

「あなたたちの属する傭兵団に、私も入りたいのだけれど。団長(マスティール)殿に、話を通してもらえるかしら?」

 

 男たちが入墨や装備に共通している印章(シェアラ)は、獰悪(どうあく)な毒をもつ生物──(シュカルプ)のそれによく似ていた。

 

 

 

 

 

 

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「やることが派手ね~、あの子は。地味にやりますって言葉は何だったのかしら?」

「まぁまぁ」

「どうせだったら棘剣(きょくけん)の一撃で店ごと吹っ飛ばしたらいいんじゃ?」

「まぁま──それは絶対ダメだろ」

 

 木乃伊(サラガーン)人狼(コンリァフト)の評する声に、魔王(アン・タ―ヴィルソル)は即座にツッコミを入れる。

 魔王は、彼女と連日続けた討議のことを思い出しつつ、監視任務を遠巻きながら覗き見る。

 

 そうして思い出す。

 

『通常、魔王(おれ)が復活した場合、挙国一致体制がとられるのが常だ』

 

 旅立ちの前夜。

 そう魔王は彼女(ナハル)に話していた。

 しかし、この時点で国を割ってる内紛している余裕はない。

 一刻も早く両陣営の手が結ばれ、対・魔王への対策や戦略をねらればならないというのに、この体たらくはどうしたことか。

 

 統一王国は“王派閥”の中央部、“辺境伯派閥”の西部に分断された。

 王派閥派の緊縮財政に堪えかねて、辺境伯スラウラが反旗を翻したという。

 そんな中で中道中立を貫く“教会”であるが、ここも随分と怪しいこと。

 

「おそらく財務尚書あたりと癒着し、私腹を肥やしている……この金の流れは、そうとしか言えない」

 

 魔王による侵攻への備え、といえば聞こえはいいが、とにかく徴税吏(ちょうぜいり)を酷使させてでも、農民や商人から吸い上げられるだけの財貨を吸い上げようとしている。余剰に余分に。たっぷりと。

 しかし、疑問は残る。

 

(誰かが意図的に、人類側の抵抗力を削ごうとしている?)

 

 そんなk仮説が脳裏を閃く魔王。

 そこまでは理解できるが、目的の真意が見えない。

 人類を弱くし、魔者側に与するものがいるなど、そんなことはあり得ない歴史だ。この齢一万年を数える魔王でも、そんんあ勢力の誕生に貢献した覚えはない。

 魔者が人を喰らう世で人心が乱れるのは恒であるが、それにしても、この流れは嫌な感じだ。

 何故なら、

 

(俺ならば、100年かそこらで復活してしまえるからな)

 

 人間たちの〈魔法〉による汚染濃度によって、魔王は復活する。

 人類側が〈魔法〉を使えば使う分だけ、魔王の復活は早く、しかも強力化させてしまうのだ。だが、人類に今更〈魔法〉を捨てさせることは難しい。いまある便利な生活を捨て、すべて不便だった時代の通りに五キロと強要されて、それにしtが得るものがどれほどいるというのか。〈魔法〉で洗浄された水が水道を通り、〈魔法〉の電気が各家庭の夜を照らす──人の数が増えるごとに〈魔法〉もまた指数関数的に、その汚染濃度を広げていく。人類が一切知りえぬまま。

 

「そういえば。ナハル嬢と文通していた、プレア嬢──いや、王位第一継承者たるプレーァハン姫殿下には、ナハル殿が仔細をお伝えしたと、報告が」

「ああ。だが、姫君一人が真実にたどりついても、魔法は捨てられるんだろ、リギン」

 

 それこそ、その事実に独自に気づきながら、民のためにそれを利用せざるを得なかった、イアラフトゥのように

 

「果たして、今回はどうなることやら」

 

 魔術の監視装置を見れば、ナハルはひとつの立派な洋館の前に立っていた。

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 蠍の印章をでかでかと垂らした紋章旗のある建物。

 

「ここが?」

 

 ナハルが首をひねるも無理はない。

 建物は広壮かつ堅牢で、まるでというか、ほとんど貴族の屋敷と変わらない。

 白壁面に青い屋根側。屋敷の周りは鉄格子とごく小さな堀まで設けられている──しかも、ここは一等地。高級市街地のど真ん中だ。

 

「疑いなさんな、お嬢ちゃん」

「俺らはアンタさんの腕を見込んで連れてきたんだ」

「ここが、俺らの拠点──“|蠍〈シュカルプ〉”の傭兵団の拠点であります」

 

 手ひどくやられた男たちが案内する中、ナハルは進む。

 中もそれなりに整えられた、傭兵団のアジト。

 何事かと驚く仲間に、団長に面通しがしたいと率直に告げる少女──ナハルを指さして、事を急がさせた。

 数分後。待っていたナハルたちのもとに、伝令役の団員が伝える。

 

副団長(ナグ・マスティール)が、お見えになるそうです」

「副団長?」

団長(マスティール)は、その、魔者討伐の任務中でして、今は席を外しております」

 

 それはタイミングが悪かったか。

 素直に己の不運を呪うナハルだったが、この傭兵団の副団長の噂も、既に蒐集(しゅうしゅう)済みである。

 果たして、どちら(・・・)の副団長だろうかと熟慮しつつ、

 

「わかりました。ぜひ、御会いさせてください」

 

 にこりと微笑むナハル。

 月の光に感銘を受けたように呆ける伝令役が我に返り、「どうぞ、こちらへ」と先導する。

 洋館内部は清潔そのもの。噂の荒くれどもが集う場所ではあるだろうが、そこらへんの手入れに雑味はない──というより。

 

(これは、〈魔法具〉を使って清掃してるな)

 

 肩をすくめかけるナハル。この傭兵団から〈魔者〉が出たという話は聞かないが、果たして。

 思案にふける内に、ナハルはひとつの部屋の前へ。三階の両開きの立派な扉だ。取っ手部分は黄金の金具が輝いている。

 ノックをした伝令が内部の人物を呼ぶと、鷹揚で迫力のある女性の声が返ってきた。

 ナハルは、開かれた扉の先に進む。

 

「貴様が入団希望者か」

 

 武器を丁寧に分解し手入れをする女性は、ソファの上でご機嫌ナナメという格好だ。控えめに言って、客人を遇する気はないと態度に現れている。

 

「受付嬢も通さずに、うちの第六班を返り討ちにしての入団希望か……おもしれーことするな、おまえ」

 

 頬杖をついて金色の女を睥睨(へいげい)する副団長。

 そんな中でも、ナハル冷静にやりとりを試みる。微笑みさえ浮かべながら。

 

「ええ。旅の資金集めに」

「ふん。ご苦労なことだ」

 

 彼女の手元で徐々に形を成していく金属の塊は、魔力が込められた特別製の二丁拳銃であった。赫々(あかあか)と塗装された金属は、どこか毒々(どくどく)しい煌きに満ちている。

 ナハルは女性の仔細をつぶさに観察する。

 薄桃色の長い髪、猛禽類のような切れ長の赤い瞳。爪も銃器同様に赤く塗られ、豊満な女の美を、精緻なまでに磨き上げておきながら、その筋肉質な見た目から発せられるオーラは尋常ではない強者のそれ。

 ナハルと同じ女性勇者。背中を中心に“蝶の翅のごとく”発現した聖痕──その総数、120。

 三桁の量ともなれば“大勇者”に号されて当然の、女傑である。

 

「うちに入りたいというからには、相当な使い手なんだろ?」

 

 彼女が言うのはナハルの背にした盾と、腰にある業物の剣に相違ない。

 

「んじゃあ、私がテストしてやんよ。

 それに合格したら、晴れておまえはウチラの仲間だ」

 

 乱杭歯のような鋭い歯をギラつかせて、副団長は裁断を下した。

 彼女の名は──クルータン・ジェラグ。

蟲葬(ちゅうそう)の勇者」とも渾名(あだな)される、「毒蟲(どくむし)」の女勇者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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