ナハル・ニヴ ~神様転生とは~   作:空想病

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魔法銃

/Chaotic times …vol.03

 

 

 

 

 

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 ナハルたちは、傭兵団の根城──その中庭に降り立っていた。

 

「ルールはとくにねえ! “(シュカルプ)”傭兵団副団長(ナグ・マスティール)たる俺さま、クルータン様に一撃を入れるだけでいい!」

 

 誇り高く己の所属する傭兵団の名を叫ぶ副団長、クルータン・ジェラグ。

 彼女は赤い拳銃を両脇の収納具に入れて、丈長の黒いコートと、黒い帽子という、その筋では典型的な容姿の銃火器使いだ。無骨な姿に見えるが、明るい薄桃色の髪と赤いマニキュアが、狂暴な笑みを艶然と飾っている。

 

(イニーからの情報通りではあるけど)

(申し訳ありません。この展開は少々想定を超えておりました)

 

 こちらとしては団長あたりが試験を課すものと思っていたのだが、あてが盛大に外れた。そして、副団長権限で試験を行いにくるとも思ってはいなかった部分もある。

 胸当ての装甲の内にへばりつく水妖に(気にしないでいいから)と念話するナハル。

 念話の魔術は距離が離れるほどに精度も音量も落ちる、が、ナハルの装甲に隠れている〈魔者〉との距離を考えれば、二人は何の問題もなく念話が可能だ。

 

(魔法銃か……)

 

 正直、第一印象としては最悪な部類だ。ナハルが孤児院を焼きだされた際に、ロースが太腿を撃たれたのが、この武器である。

 無論、クルータン・ジェラグには一切かかわりのない話であるが、それ以来ナハルは、銃器の類が嫌いな傾向にあった。

 自分の身内を傷つけた武器を持った勇者に対しての第一印象としては、もはや「最悪」に近い感じ。

 何より、魔法銃は銃という特性故に、簡単に人間たちの国で普及している。武力の簡便化であり、。殺意の具象化──何かを殺傷することに、これほど特化した道具はなく、これほど習熟に時間のかからない──弾を装填し、狙って、撃つを覚えるだけで、魔法銃は人同士を殺しあわせる武器たりえる。剣や盾のように複雑な型や理を覚える必要がない。統一王国での普及率は存外に高く、軍関係者で〈魔者化〉したものはその多くが魔法銃を多数多量に使用装備しているという分析結果が報告されている。が、当然人間たちの国には知りえない情報である。

 

(おっといけない)

 

 笑顔を絶やさずキープするのも、魔王からの教えだ。

 戦場では常に笑っておけ、死神が微笑むのは笑えなくなった奴だけだから。

 

「おい、なにがそんなにおかしいんだ?」

 

 だが、そんなナハルの心理が、クルータンには(かん)(さわ)るらしい。

 

「人様が貴重な時間を割いて入団試験してやろうって時に、にやにやニヤニヤと」

「それは申し訳ないことを──」

 

 それでも、ナハルは笑顔を崩さなかった。

 

(「俺は笑ったおまえの方が好きだよ」)

 

 修練中、魔王に言われた言葉を脳内に響かせながら、ナハルは剣を正眼に抜く。

 銃を相手に剣で挑むなど、あの女どうかしてるという野次馬の声は、無論ナハルの耳には届かない。

 

「もういい、吹っ飛べ」

 

 クルータンが引き金を引く瞬間、ナハルは瞬足で間合いを詰める。

 遠距離を相手にするなら棘剣の鞭を使うことも十分可能であるが、それは最終手段。

 ナハルは10ファード(メートル)の距離を一気に跳躍し、クルータンを剣でとらえられる範囲に。常人では目で追うことも不可能な速攻劇であった。

 だが、今度はクルータンが笑う番となった。

 ナハルが寸止めしようとした副団長の首への一刀を、拳銃の銃床で叩き落とされる!

(しまった!)と純粋に驚くナハル。だが、彼女は身を独楽(こま)のように回して態勢を整え、次の攻撃準備を整え──

 

「ッ」

 

 ようとした彼女の額に、容赦なく副団長は銃弾を叩きこもうと撃鉄を引いていた。引き絞られる引鉄。それを超速度で首を巡らせることで回避するナハル。

 

「はっ! 思ったよりやるじゃねえか!」

 

 クルータンは一旦距離を取るように跳んだナハルを勿論追撃する。銃火が乾いた音を響かせ、その弾丸をナハルのダマスカス剣が断ち切るように防御する。

 焦げ付くような火薬の臭い──魔法銃本来の特異な性能ではない。

 その所有者自身の反射速度と照準速度が尋常ならざる領域にあった。

 にもかかわらず、聖痕の発動は一度も確認できない。

 

(私と同じように修練を積んできたタイプ?)

 

 聖痕の奇跡ではなく、純粋な体力勝負になるか。

 そう直感し判断を下したナハルは、剣を構えなおす。

 相手への評価基準を改め、新たな戦術を構築するのに、一秒。

 

「は。悪かねえな」

 

 クルータンもそれに気づいていた。

 

「下段の構え──、防御から攻撃に転じるにはうってつけの、教則本みたいな()だな」

 

 そう判断を下せる彼女も、十分以上に教則本のような対応が身に染みている。ナハルのように教えを乞うたのではなく、あくまで我流でだったが。

 

「うちのもう一人の副隊長と同じ次元か、それか団長の能力をはるかに超えていやがるのか……ありえねえか後者は」

 

 答えは圧倒的に強者であるが、ナハルは口を貝のごとく閉ざしたままだ。

 

「教則本以上かどうか、しっかりと見てやる」

 

 クルータンは銃を二つ抜いた。

 彼女独特の構え。まるで拳法家のような足捌き。銃を持つ右手を前に、左手を後ろに……まるで騎士槍を構える重装騎士を思わせる雰囲気が、彼女のコートからたなびいていた。

 まさにその時。

 

「双方そこまで、です」

「え?」

「ち……これからって時にお楽しみを奪いやがって。団長の金魚のフンが」

「あら~、ジェラグ殿ったら、お人が悪いこと」

「それともクソ眼鏡さまと呼んでやろうかぁ、うん?」

 

 一触即発の空気を二人の方から感じるナハル。

 そんな中で、眼鏡の女性が居住まいを正してナハルに向き直り、スカートの裾をあげてお辞儀(じぎ)する。

 

「はじめまして。私は“(シュカルプ)”の副団長をジェラグ殿と連名で拝命しております、クワハトゥ・ナールトゥ、と申します」

 

 現れた人物は、銀髪を短めに整えた眼鏡の女性。身に帯びる黒白の服は、一般的にはメイド服と呼んで差し支えないものであるが、その背中に携えた二本の大剣……否、巨大な人斬り“(ばさみ)”だけが異彩を放っていた。

 彼女の情報もナハルは取得済みだ。聖痕数は92だが、次期に三桁に届くだろうと目されている女勇者だが、その全身はメイド服を含む白タイツや白手袋で覆いつくされている。

 

「それで、団長は?」

「今日は敵が超大型でしたので──力を解放して、既にお休みに」

「ちっ。また戦場でブッ倒れやがったな……当代最強、「斬鋼剣」の名が泣くぜ」

「あのー……」

 

 思わず挙手してしまうナハル。

 

「入団試験の方は?」

「ああ、そんなもの中止だ中止」

「もうジェラグさん──ご心配には及びません、ナハル・ニヴさん」

 

 眼鏡の先で作り物のガラス玉めいた灰色に輝く瞳が、ナハルの(それ)を射抜いていた。

 

「我々“(シュカルプ)”の傭兵団は、あなたを歓迎するとの、団長様からのお達しです」

「その、団長殿は?」

 

 周囲を窺うが、それらしい人物は見当たらない。

 クワハトゥは心底申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「あいにくですが、今日は任務で力を使われた後で、動くに動けません。ですが、我等が団長は「斬鋼剣」の勇者──その名において、あなたを正式に入団加盟させると」

「もしかして、私とジェラグさんのやりとりを?」

「ええ。遠見の(魔法〉で」

 

 それでこちらの実力が知れたと。

 

「しかしながら、いきなり団員に喧嘩を吹っ掛けるやり方はどうかともおっしゃっていたので、そのあたりはご留意くださいますと助かります」

「はい──失礼いたしました」 

 

 最後に怖いことを言い残していく少女は、ジェラグにナハルを館内の空き部屋へ通すように厳命し、洋館の奥へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 その日の深夜。

 ナハルは一階に与えられた私室で、とある方へと定時連絡(ていじれんらく)を取っていた。

 

『災難だったな。入団早々、部屋掃除から始めさせられるとは』

「いえ、よい下積み作業かと」

 

 ナハルは純白の鎧の魔王に礼節のこもった口調で応えた。

 

「予定通り、大陸でも屈指と謳われる傭兵団のひとつに潜入できました」

『よし、よくやったぞ、二人とも』

『あ、ナハルだ。おーい、元気してる?』

「はい、元気にしております、アーンさん」

『アーン、定時連絡の邪魔をするな』

『ええ、いいじゃないですか。少しくらい~』

 

 ナハルとイニーは、傭兵団の洋館で与えられた自室で、通信魔術装置を開いて、それであちらの大陸とやりとりを重ねている。

 装置自体はアンテナラジオに似た形状であるが、魔王と意思疎通を図り、彼の指示を仰げることは、単純に心強い。

 

「うん?」

『どうした』

「地下から、何か物音が──発砲音?」

「おそらくは地下からです」

 

 イニーが投下の魔術で見ると、魔法銃を構えた薄李色の髪の副団長の姿があった。

 

「…………」

 

 彼女は無言で的の目標を当てていく。しかも連続で中心を射抜いていく。

 なかなかの才能──否、努力の賜物であるように見えた。

 

『「蟲葬(ちゅうそう)の」か──魔法の弾丸にあたった相手は弾丸に込められた蟲の巣に食い散らされる。故に「蟲葬(ちゅうそう)」』

 

 軽装で大粒の汗を流しながら射撃訓練に勤しむ副団長。遠方で転移に近い速度で動く的を正確に射撃していく腕前は、他の団員が一目置くだけの武力がある。聖痕を使えば

 昼間、止められていなかったら、ナハルとどのような戦闘を繰り広げたろうか、想像がつかない。それを告げるとイニーは不機嫌そうに、こう言ってくれる。

 

「ナハル様が勝つに決まっておりますとも」

「イニー、勝ち負けを競う相手ではないよ?」

「それはそうですが」

「けど、贔屓にしてくれて、ありがと、イニー」

 

 仲間へのフォローは欠かさないナハル。

 ナハルは思った。

 こんな夜遅くまで一人鍛錬に励む姿は、それだけで尊敬に値する。

 いくらこちらが奥の手をいくつも伏せてあったとはいえ、体捌きは勇者のそれだ。

 魔法銃の使い手だからという理由だけで嫌うべき相手ではないと確信するナハル。

 

『──しかし。惜しむらくは「斬鋼剣(ざんこうけん)」の勇者と面識を得られなかったことだな』

 

 いったん脱線しかけた話を、魔王がどうにか軌道修正してくれた。

 

「はい。ですが。一両日中にも、お会いできるものと思われます」

 

 ナハルは資料を思い出す。

「斬鋼剣」の勇者──名は、クリーヴ・クリーヴォール──聖痕数、990。

 四桁にも届かんという“大勇者”を超えた次元にある勇者。

 その名にふさわしく、彼女の一刀は鋼すらも斬り裂く──

 だが、

 

「これって本当なんでしょうか──戦闘後、必ず倒れるか、失心するって話」

「あら本当よ」

 

 幼い声が聞こえた。自分と同年代か、それ以下の年齢。

 ナハル即座に監視装置を切って懐に隠した。

 そして、窓枠の方に目をやる。

 

「お恥ずかしい限りだけど、それが私「斬鋼剣の勇者」の特性なの、理解していただけると助かるわ。「大棘剣(だいきょくけん)」の勇者さん」

 

 ナハルは、月の影を帯びて現れた少女を見て驚いた。

 黑い短髪に黒曜石の瞳。纏う着物は純和風──

 美しい市松人形のような少女が、そこにはいた。

 

「それとも「茨姫(いばらひめ)」という称号の方が好ましかったかしら?」

「あ、あなたが、この傭兵団、の?」

「そう『団長』です。ようこそ我が“(シュカルプ)”の館へ!」

 

 微笑む黒髪の少女は窓枠から飛び降りた。しだれ桜の刺繍が艶やかな裾を翻し、こちらでは珍しい“着物”に身を包んで、五本の刀を宙に浮かせるように背負っていた。

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 最近、(ちまた)で噂になっていた。

 

 太陽のように輝き、夜の星々のごとく眩い、金髪の勇者。

 

 黒い人喰いの〈魔者〉に襲われた村落や都市に、その金色の髪に戦塵を思わせる黒房をともす勇者は現れる、と。

 

 彼女は、今までどのような勇者が実行実現できなかったこと、黒い〈魔者〉の完全鎮静化を行い、そして〈魔者〉諸共どこぞに消えると噂の勇者。あとに残されるものは奇跡の残滓(ざんし)。──黒い〈魔者〉とどこか似通った人間の気絶した姿。

 

 勇者界隈では、彼女の使う武装──(いばら)のごとくとげとげしい武具──「棘を幾多も生やした、輝き煌く神聖な剣」──謎の「大棘剣(だいきょくけん)」の勇者と、ひそやかに号されていた。

 

 誰も詳細を知りえなかった、その正体に迫ることすらできなかった勇者が、“蠍”の傭兵団に姿を現したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・新キャラ紹介
〇クルータン・ジェラグ   副団長その①、薄桃の長い髪、二丁拳銃
〇クワハトゥ・ナールトゥ  副団長その②、銀髪のメイド、人斬り鋏
〇クリーヴ・クリーヴォール “蠍”の団長、黒髪の和服少女、五本刀
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