ナハル・ニヴ ~神様転生とは~   作:空想病

9 / 31
確保

/Transmigration …vol.8

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

「まさか、ここで魔王軍が、さらには魔王陛下自らがお出ましになるとは……」

 

 魔獣の群れに成す術もなく蹂躙(じゅうりん)された村。

 一人残らず鏖殺(おうさつ)されていく中で、ようやく発見した確保対象。

 馬鹿どもが勝手を働くのを止める間もなく起こった、〈聖痕〉の顕現。

 さらに、その〈聖痕〉授与者を助けたのは……魔王と手勢の者たちであった。

 

 それらすべてを村近くの山腹から観測していた男・ウワルは、命の危機に瀕していた。

 異常を観測した男は、別働隊に連絡を取ろうとしても繋がらず、孤立無援な状況に追い込まれた。

 連絡の〈魔法〉のピアスが応答しない理由を考えるならば……受信者たちの身に何かしらの異変があったということ。

 それが魔王軍の出現と同期しているという事実を思えば、答えなど限られていた。

 

(魔王は、やはり完全に復活していた)

 

 情報を伝えるために単身離脱をはかったウワル。

 夜の山を踏破する彼の前に現れた存在は、人間とは一線を画すもの──〈魔者〉であることは容易に知れた。

 青黒い肌の色。

 黒眼に白い瞳。

 肩まで伸びた髪の色は銀。鉤爪の生えた二枚の黒い翼。ねじれた羊角と剥き出しの乱杭歯が鋭く煌めく。

 白黒の山高帽と燕尾服──男とも女とも言い難い優美な面──怪奇な風貌──広く知られる悪魔の姿が、そこにはあった。

 悪魔は笑顔をこぼしながら問いかける。

 

「君が、我が同胞たちを制御し操り、村を襲わせた張本人と見て、間違いありませんね?」

 

 伸びた二本の爪が、鞭のようにしなる。

 瞬間、ウワルが与えられた中で最高の〈魔法〉道具……〈魔者〉制御の腕輪が真っ二つに割られ砕けた。

 

(本当に、嫌な仕事だ)

 

 だが、これが自分の任務であった。

 唯一生きる道筋として与えられた義務であった。

 幼少の頃から体を鍛え、学び、適性を見出され、〈魔者〉を使う〈魔法〉を扱うよう徹底的に訓練を積んだ。

 だというのに。

 護衛として手元に残しておいた精鋭十体の〈魔者〉が切り刻まれ、大地にサイコロ状の肉片となって転がっている。

 せっかくの紙巻を愉しむ余裕はなくなった。半ばで切り落とされた煙草の残骸を踏みしめる。

 想定外も想定外だ。

 上の命令で、旧帝国領の孤児院──そこにいる一人の少女を確保するために、ここまで足を運んだ。

 後腐れのないように、こういう裏の仕事を引き受ける傭兵団をけしかけ、目的も八割ほど達成されていたはずなのに、〈聖痕〉に選ばれた子と、一万年を生きるとされる魔王の登場で、すべてが御破算となった。

 傭兵団は全員が捕らえられ、ウワルもまた捕らえられる瀬戸際に立たされている。魔王軍が襲撃者を生け捕る理由は、考えられる限りひとつだけ。

 こんな状況では煙草でも吸いたくなるが、得体の知れない相手を前に迂闊な行動を起こすのは、危険すぎる。

 だからといって、このまま膠着状態を維持するのも、非常にマズい。

 

「なに悪いようには致しません。少しばかりとらえさせていただき、あなた方の情報を収集……つまり尋問させていただければ、それで十分ですので」

 

 魅力的とも言える可愛らしい笑顔で悪魔が(のたま)う。

 ウワルは短剣を二本両手に握り、虚勢をたっぷり含んだ声で返した。

 

「あいにく、ここで『ハイワカリマシタ』なんて言えるほど、素直な性格じゃあないんでね」

「そうですか。それは残念至極」

 

 本当に残念そうに肩を落とす悪魔。

 男か女か本気でわからない声色は、聴いているだけで脳をくすぐられるような色気をはらんでいた。

 

(仕方ない)

 

 任務失敗。

 その代償を払うのみ。

 ウワルは駆けだした……悪魔に対して一直線に。

 

「何を?」

 

 疑念するのも当然の暴挙。

 戦うのでも逃げるのでもない。

 秘密工作員たるウワルは敵の意表を突くと同時に、最も効果的な攻撃手段に打って出る。

 彼は奥歯に仕込んでいたスイッチを噛み締める。

 

 瞬間、

 

 ウワルの体内に仕込まれた「爆破」の〈魔法〉により、彼のすべてが、脳も心臓も粉々に吹き飛んだ。

 完全無欠な証拠隠滅であり、至近で衝撃に巻き込まれた相手も致命傷を負いかねない──自爆である。

 

 

 

 だが。

 

 

 

「いけませんね。そのように命を粗末にされては」

 

 ウワルは爆発したはずだった。

 確かに、そうなった。

 

「──え?」

 

 木っ端微塵に砕け、情報を敵に渡す危険性を完全完璧に排除できた。

 そのように教育され、そのように死ぬよう命じられてきた。

 にも関わらず彼は、生きている。

 自爆していない。

 

「な、ぜ?」

 

 痺れたような舌と唇で疑問をこぼした。

 悪魔は恍惚とした表情で宣言する。

 

「私の奥の手である“時間魔術”で、少しだけ時を戻させていただきました」

 

 柏手を打つ悪魔は朗らかに、絶望的な事実を言ってのけた。

 

「いやはや本当に見上げた覚悟! 立派な心意気だと感服いたしました!

 私がこの魔術を使ったのは数年ぶりになります。誇ってよいことですよ、これは!」

「くっ!」

 

 時が戻ったという信じがたい言葉。

 だが、戻ったのであれば再度自滅すればよいだけと、奥歯を噛み締めようとして、体が硬直する。

 否。

 体が、というのは正確ではない。──彼のすべてが、いま、停止していた。

 悪魔は音吐朗々(おんとろうろう)に語る。

 

「今度は、あなたの時を止めさせていただきました──本当に立派な仕事ぶりです。悪魔であるのに私、本気でときめいてしまいます!」

 

 青黒い肌の〈魔者〉は、もはや聞こえていない相手に対して、熱っぽい声で語り続ける。

 よっぽど男の殉職精神に興奮させられたようだ。

 先ほどまで平坦だったはずの胸……燕尾服の胸元が激しく隆起し始め、たわわに実ったものがシャツの前ボタンを弾きとばした。衣服からこぼれた胸の果実を男の胸板に合わせ、しどけない様子で男の首に腕を絡める。先端が鏃状になっている尻尾を伸ばし、男の全身を舐めるように縛りたてると、尻尾は二本三本と増えていき、いつしか大量の黒い触手の泉に、男の全身が沈んでいくかのような様相を呈していた。触手の悪魔は、時が停止している男と睦みあうがごとき距離で、腰をこすりつけながら囁く。

 

「で・す・が。

 ああ、なんという悲劇でしょう──

 私の大事な殿方となったあなたは、これから尋問の苦行を受けねばならない定め。どうか頑張って耐えてください。せめて、あなたの助命嘆願に動く事だけは致しましょう。大丈夫ですとも。あなたの代わりとなる罪人は今宵たくさん得られましたし。なにより、我等が魔王陛下は、この世の誰よりもお優しい方。我等のような“うち棄てられた者たち”を導く賢君であらせられる。きっと、あなたのことも良いように取り計らっていただけるはず!

 そうしたら、あとは私と、私の伴侶の皆様と、心ゆくまでたっぷりと愉しみあいましょう──ね?」

 

 悪魔あらため“淫魔”の名は、フアラーン。

 女性形を得た彼にして彼女は、昂然と上気した表情で明るい未来予想を語りながら、完璧に捕らえた襲撃者の頭目と共に、転移魔術の道具──黄金の鍵を起動。

 フアラーンが空間に差し込んだ鍵によって、転移の扉が開錠──彼女たちを闇の裂け目の奥に呑み込んでいく。

 

 

 こうして、すべての襲撃者たちは捕らえられ、魔王の治める国──人間たちが呼称するところの暗黒大陸へと連行された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《人物紹介コーナー》第二弾

●フアラーン  青肌ヤンデレ時間停止触手プレイ性転換悪魔っこ。属性過多にもほどがあ(ry
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。