ハイスクールD×D蝙蝠の王   作:だんご

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♚少年は死に、消える

場を包む静寂、

 

「本当によろしいのですか?」

 

教会の司祭が着る服―――キャソックに身を包む眼鏡の男が、隣に立つ黒いゴシックドレスの少女に問いかける。

歳は明らかに男のほうが上であったが、立場は少女のほうが上のようだ。

「これしか方法が無いのだからやるしかない。何度も話し合ったじゃない。そうでしょう?」

「それは、そうなのですが……」

少女の言う通り、何度も繰り返された話だ。

迷いを捨てきれずにいる様子の男は、視線を正面に戻した。

そこには、木製の寝台に横たわる、白いワンピースに身を包んだ少女の姿があった。

ワンピースの少女は眠っていた。

しかし、その呼吸は荒く、いかにも正常のものとは言えない苦しそうなものだった。

苦しむ少女を前に男は考えていた。

出来ることならばしたくはないと。

それが男の思いであり、隣に立つ少女の本心であるとわかっていた。

沈黙し、難しい顔で悩む男に、少女はとうとう痺れを切らした。

少女の手が、青年の手にする琥珀色の結晶を奪い取らんと素早く動く。

咄嗟にそれを躱すと少女を制し、結晶を眠る少女の隣にある、血まみれの少年が横たわったもう一つの寝台の上に乗せ、男は何かを呟き始める。

言葉に呼応するように結晶が徐々に光り始め、眠る少女を光が覆い尽くす。

その光景を眺める二人は光に目を逸らすこともなく、ただ目の前で起こる現象を心に刻んでいた。

これでいいのだと、自分に言い聞かせながら。

    ◆

「今日はあいつらも喜んでたみたいだし、よかったよかった」

バイオリンケースを片手に鼻歌を歌いながら歩く、中世的な顔をした黒髪の少年。

名は紅紫音(くれないしおん)

つい先ほどまで彼は小学校の児童会で趣味のバイオリンを演奏していた。

知り合いの教師に頼まれた時は、あまり子供たちは楽しめないのでは?と考えていた。

しかし、実際に演奏してみると予想とは違い、子どもたちは初めから終わりまでしっかりと聴き、自分に感謝の言葉を述べ笑顔を見せてくれていた。

それが嬉しくて鼻歌を歌っていたのだ。

上機嫌で通りを歩く紫音は、物騒な台詞を耳にして公園の前で足を止めた。

「死んでくれないかしら?」少女の声でそう聞こえたからだ。

そんな台詞を聞いては野次馬根性に乏しくても足を止めてしまうだろう。

公園には男女が二人、向かい合って立っていた。

歳も近そうで、恋人同士にも見える。

―――痴話喧嘩か?

それにしては、彼女らしき少女の声はとても穏やかで怒りを感じているような荒々しさはない。

顔は笑顔のままで心は怒っている、という人もいるので必ずしも怒っていないとは言えないのだが。

分かるのは衝動的に口走ったようなものではなく、明らかに己の気持ちを整理して出した答えであり、少女は今にも少年を殺してしまいそうな雰囲気を出しているということ。

さすがにこのまま素通りしてしまうのもどうかと思い、紫音は二人の間に割って入るために公園に侵入しようと入口に体の向きを変えた。

その時だった。

突然、公園―――二人の立っていた方向―――から光が弾け、少年が糸の切れた操り人形のように地面に崩れ落ちる。

眼前の光景、それは血を流して地面に横たわる少年と、その正面に立つ黒い翼を広げた少女。

少女は少年の耳元に顔を寄せ、何かを囁く。

紫音の立っている場所からはその声は聞きとることが出来ない。

自分でも気が付かないうちに紫音は少女に向かって衝動的に走りだし、

「はあっ!」

そして振り下ろした。

バイオリンケースでは無く、いつの間にか彼の手に握られていた、鎖で刀身全てを覆われた西洋剣を。

「―――!?」

いきなり現れた紫音に驚きながらも、少女は後方に飛んで回避する。

空を切った剣はそのまま最後まで振り下ろされ、地面を大きく抉り取る。

力強い一撃、それだけで剣の威力が伺えた。

「おいお前!」

少女を遠ざけた紫音は少年に声を掛け、容態を確認する……までもなかった。

少年の胸には大きな穴が開けられ、そこから大量の血液が流れ出している。

もう手の施しようなんてない状態だった。

紫音はその場でしゃがみ込み、少年の顔に手を被せ、ゆっくりと瞼を下す。弔うように自らの瞳も数秒ほど閉じて立ち上がると黒い翼の少女を視界に納める。

目の前で人が死んだ、その事実だけが紫音の思考を埋め尽くす。

「……何故だ」

「はぁ?」

「何故こいつを殺した。こいつの中身が目当てだったのか?」

自信を睨み付ける紫音に、少し驚いた表情をして少女は言った。

「へぇ、やっぱりあなたにも分かるんだ。一体何者?ここには人払いの結界も張ってあったはずなんだけど」

少女は紫音の体を値踏みするように見ていた。

同類(なかま)が私の邪魔をするとは思えないし、あなたもしかして悪魔かしら?」

「だったらどうした?」

「残念だけど此処で死んでもらうわ。まぁ誰だろうが死んでもらうんだけどね」

笑みを浮かべる少女に、紫音の怒りは爆発していた。

そして―――

「……そうか。だったら、お前が死ね!」

叫ぶ紫音の首の付け根から両頬にかけてステンドグラスの模様が浮かび上がり、紫音の体を透明な膜のようなものが包んだ。

直後、紫音の体が変化する。

肌は白く硬質的なものへと変わり、銀色の鎧が全身を覆う。頭部を覆う兜は、蝙蝠が羽を閉じたような形状をし、紅い複眼が怪しく輝いていた。

 

    ◆

 

(何なのこいつ!?)

少女の驚きは先程の比ではない。

目の前で突然にこれだけ劇的な変化をされれば驚かないはずがない。

それ故に生じた隙を紫音は見逃さなかった。

左足を前に踏み込むと、両手で握る剣を地面に擦りながら素早く上に振り上げる。それによって地面の砂が巻き上げられ、衝撃波のように少女に向かって地面を奔る。

この状態では間に合わないと考えた少女は初撃をかわしたように飛び上がるという行動を選択肢から外し、翼を正面で交差させて身体を包むように攻撃を受け止める。

直後、剣圧によって生じた風が翼に激突し少女の小柄な体は軽々と吹き飛ばされ、公園の林に立つ一本の大木に激突することでようやく止まった。

正面の攻撃を受け止めることに意識を集中していたこともあって背中を打ちつけたダメージは予想以上に大きく、手にしていた槍も消失していた。

だがそんな物は戦闘において何の関係も無い。少女は素早く立ち上がると状況を確認する。

すると、紫音が放った二度目の衝撃波が襲いかかってきていた。

(この私に同じ攻撃を続けて出すなんて)

「嘗めるな!」

閉じられた翼の隙間から零れ出す強い光、それが治まると同時に周囲の木々の葉が吹き飛ぶほどの風が発生し突風を打ち消した。

現象の正体は少女の手に握られた赤黒い光の槍だった。

吹き荒れる風の中で正面に立つ紫音を捉える。

しかし、その時にはもう遅く、紫音は手にしていた剣を少女に向かって投擲していた。

風を切りながら猛スピードで接近していく剣、地面を抉ったり突風を起こしたりする代物だ、直撃すればひとたまりもない。

接触しそうになる剣を少女は素早く上体を逸らしながら剣の側面に槍を打ちつけて上に弾き飛ばし、お返しとばかりに自身の槍を紫音に投擲仕返す。

「当たるかよ」

紫音は驚異的な脚力で飛び上がり槍を回避し、そのまま落下の勢いを上乗せして蹴りを放つ。

「バカね、そんな速度じゃ迎え撃ってくれって言ってるようなものよ」

言いながら少女は右手に新しい槍を出現させ、宣言通りに落下する紫音を迎え撃つ体制に入る。

素早い対応に、修正する間もなく紫音の蹴りと少女の槍がぶつかり合う。

しかし、紫音には殆どダメージと呼べるものがなかった。

振り抜かれる槍を右足で踏み台にして再び飛び上がったのだ。

そして飛び上がった先でつい数秒前に少女が弾き飛ばした剣を掴み、

「喰らえ!」

少女に向かって一気に振り下ろした。

緊急だったとはいえ、剣を上に弾いたのは失敗だった。

そう思いつつ少女は急いで槍を横に構え、振り下ろされる剣を受け止めながら心の中で後悔する。激しくぶつかる二人の得物、光の槍は火花のように光を散らし始める。

その現象に少女は違和感を覚えた。

(おかしい、剣と打ち合っただけで槍の光が拡散している。今までこんなことは……)

そしてその違和感がより明確なものとなった。

光の槍の形状が少しずつ歪み始め、ついには粉々に霧散した。

「何っ!?」

酷く驚く少女、だがその思考も直ぐに別の物に塗り替えられる。

槍が消え去ったことによって振り下ろされた剣が少女の体に叩きつけられたからだ。

「がはぁっ!」

鎖が巻き付いているため体を斬られることは無い。

だが体に大きな痛みが奔り、強い衝撃を受けたことで、少女は仰向けに倒れ込む。

「これで終わりだ」

倒れた少女に剣を突き付けながら言い放つ紫音は剣を上段に構える。

「くっ、こんなところで、私は!」

悔しさを滲ませる少女の言葉を無視して紫音は剣を振り下ろした。

しかし、振り下ろす途中でそれを中断し後方に飛ぶ。

理解できない行動、だが少女は直ぐに理解する。

目の前に突き立つ三本の光の槍が自分を守ったのだと。

 

    ◆

 

「チッ、仲間がいたか」

舌打ちをした紫音は槍の飛来した方向に視線を向けるも、槍を投げたと思われるようなものは存在しない。

―――彼女を消されてしまっては困るのだよ。

四方八方、紫音を取り囲むように聞こえる男性の声。そのせいで声がどこから発せられているものなのかが分からない。

「どこにいる!」

叫びながら周囲を見渡すが先ほどと同様に見つかる気配はない。そもそも槍を投げられた時に居場所を特定することが出来なかった時点で見つけられるはずもなかった。

―――君が何者なのか興味はあるが、今回は彼女を回収するだけにしておくよ。

言うや否や、突き立つ光の槍が地面に溶け込み少女の真下に魔法陣を描く。

「っ!させるか!」

咄嗟に右手で剣を投擲する。素早く投げられた剣だったが、紫音自身の反応がわずかに遅れた為か、ギリギリのところで間に合わず、魔法陣は閃光と共に少女を消し去った。

「……逃げられたか」

標的を失った紫音はいつの間にか元の姿へと戻り、剣を地面から引き抜くと、襲われた少年のもとへ向かう。

だがそこに少年の姿は無かった。

「いない!?」

確かに少年はいたのだ。

その証拠に、彼の作った血溜まりは紫音の目の前に残されている。

(自力でここから逃げた?)

一瞬その考えが頭を過ったが、冷静に考えて少年はすぐに死を迎える状態にあったと自分に言い聞かせる。

それならばなぜこの場に死体がないのか?考えられるのは誰かが運んだということだ。

しかし、血溜まり以外に血の跡は無い。

後を残さずに運ぶのなら先ほどの少女の仲間になら可能だろうが、殺した相手をわざわざどこかへ運ぶ、又は持ち去ったりするだろうか?

「ん?」

疑問に頭を悩ませる紫音は血溜まりの中に落ちる一枚の紙を見つけた。

拾い上げ、表面に付いた血を拭う。

大半に血が染みついているようだが肝心なところは大丈夫なようで、紙には大きく「あなたの願いを叶えます!」という文字と、ゲームなどで目にするような紅い魔法陣が描かれていた。

紙の意味を理解した紫音は次第に苛立ち始め、紙をくしゃくしゃに握り締めてその場を立ち去った。

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