日常を取り戻したい主人公たちがおくる。一つの世界。   作:空色 輝羅李

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第11話

第二十二話

 

俺は今、雲の上にいる。厳密に言えば雷龍の作る結界の中で、雲の上に立っているように思うだけだが。

さて。俺が雷龍に言うことはいくつもあるが、まず何より大事なのは、

 

「オーブを作ったのは、なぜだ。」

 

雷龍は返答に詰まる。しばらくなにかを考えていた。

その間俺はいくつかの理由を考える。

最悪の場合も...想定はしている。

 

「力を分散させ、世界の均衡を保つためだ。我々龍神族の力を、悪用せんとするものがいるからな。」

 

...悪用ときたか。なるほどそれなら、合点がいく。

BクラスもといAクラスがオーブを狙っているのだから、それくらいはないとな。

Sクラスも疑うべきだろうか。

...あそこには、親父がいるから、まだ関わりたくないのだが。

 

考えるべきことはいくつかある。一人の龍神がいくつのオーブを持っているのか。また、散らばっているのがどこか...まて、散らばってる場所は俺が行きたいと願う世界なのだろうか。そうでなければ、今回手に入れたこのオーブ、偶然あったということになる。

...なるほど、俺に回収させたいってことか。

 

俺はもとから木龍と雷龍以外の龍神とは完全な契約が済んでる。そんな俺に、力の一片を渡した方が、都合がいいってわけか。

 

「それと。君の願いをかなえよう。」

 

願い...ね。

 

「その前に。オーブは何個ある。」

「...一人一つだよ。」

 

一人一つかぁ...

五個かぁ...

 

骨が折れるなぁ。しかし、あと四回異世界に行けるのか!

 

「あ、一年に一回しか行けないから気を付けてね!」

 

雷花...そりゃないぜ...

 

オーブを作るのに時間がかかるのか、術式の組み立てに時間がかかるのか。

 

...俺のしらない魔法はそのほとんどが禁忌である。それを知りたいとは思わないが、実態が気にならないといえば噓になる。帰るときの魔法陣を読み込んでは見たが、根源が見つからない。どのような派生で、それぞれの式に与えられた意味が何で、どのように発生するのか、それがわからない。

 

「して。君の待望していたものだがね。結果を知っても、後悔しないか?」

 

当然だ。そのために、捨てる覚悟も、知る覚悟も。

...向き合う覚悟も、できている。

 

 

恐らく雷龍は、忘れたふりしていたんだな...

 

 

 

 

俺が雷龍に願ったこと、それは。幼少のころに遡る。

 

俺が小さい、4、5歳のころだろうか。母が亡くなった。その少し後にあいつに出会った。そして、その理由を知りたいと願った。

その答えが、今。帰ってくる。

 

それは、親父の研究が原因であった。

親父の夢は、原始宇宙、そして原始魔法の再現だった。

親父は魔法統括管理塔のSクラスの中で、一番上の人間であった。だが、他のSクラスからの信頼は薄かった。そしてある日、禁忌の原始魔法についての研究を糾弾された。その代償として、俺たち家族が狙わることになる。その時母が、俺と、魅倚奈と、紗那を守るため、一番恐れていた存在の、禁忌魔法に手を出してしまった。「全ての愛をここに(クリサンセマム・モリフォリウム)

一種の呪いである。これのおかげで助かったのは助かった。

そしてその時、母は一言と一つを残していった。

一言、「あなたは世界を、二人は龍夜を守って。」

一つ、俺の体に、母の刻印入りの血を混ぜた。

重すぎる。魔法なんか使わなくても、特大の呪術である。干からびるぞコノヤロー。

そして、母は...魔力の枯渇、管理塔のやつらの攻撃による疲労により、亡くなった。

 

「...なるほどね。大体予想通りだ。よかった。」

 

よかった。これで気兼ねなく、管理塔について調べて、手をかけることができる。

 

「ねえ龍夜。刻印入りの血液って、どういうこと?」

 

刻印。そもそもの疑問はここからだ。

今日の授業でも使っていた刻印。これは、体にある魔力に対して、直接魔力を流し、術式を描く。その種類によって存在性が変わる。描く人によって癖が違うので、誰の刻印かはすぐに分かる。

母の刻印は、その時描かれたものだが、質は一級ものだ。内容はすごく簡単なもので、魔力を徐々に増やす術式、外的要因による死を防ぐ術式、被魔法攻撃時のダメージを抑える術式、呪いを根絶する術式(ただし外的要因によるもの)、大気中の魔力を自身の魔力に変換する術式。

なかなかに守られている。母強し。

そして、俺は吸血種であり、母は純粋な人間だった。血液型など関係なく、俺の血との相性はよかった。だから、母の特性刻印入り血液は俺の血中にほどよく、馴染んだ。

 

「...まぁいい。雷龍、さっさとお前のスキルをくれ。」

 

雷龍は、重く、うなずいた。

 

 

――――――――――――――

 

 

このスキル...「創世ヲ呼ブ雷ノ杖」を得るということは、雷龍と完全な契約を結ぶという意味だ。

 

...これで、あとは木龍に伝えるだけ、か。

今日はもう遅いし、帰ろう。

 

家に帰るとき、後ろに雷花がついてきていた。理由を問いただすと、「あのスキル、未完なんだよね?」

...心眼。心を研ぎ澄まし、極限状態まで集中力を高める。うまくいけば、心も読めるようになる。それに、相手のステータスを掌握することもできるので、相手に合わせた戦闘を取ることもできる。

つまり最強。

 

が、今の俺は完全なまでに未完成である。あと一歩のところまで理解はできているが、それを具体化させることができない。まあそれでも、そこそこの機能性はあるのだが。

 

「君はまだエターナルで止まっている。だから、心眼に昇格させる必要があるの。」

 

それを教えてもらえると...悲しきかな、こいつは今、戦闘態勢に入っている。見て学べということか。

エレクトリックは使わないようだ。それを見るに、こいつもなかなかの魔力を保有しているらしい。

 

雷花の魔力は面白い。周りに放出している魔力は、体から出たり入ったりを繰り返した、循環型の魔力だ。大気の魔力を自身の魔力に混ぜ込み、増やしている。

 

「結界「雷霆ノ床庭」」

 

まずい。相手に有利性を取られてしまった。あいつは雷属性の魔力が体に流れる。結界が自身の属性に適していれば動きやすいし、魔法の威力も上がってくる。

 

...俺の属性は無だ。どれにでも馴染むが、得意なものはない。そして、得意な属性がないので、俺はどんな状況でも相手より強化の恩恵がない。

俺が作る結界は属性に関係なく強化させることはない。むしろまわりを守るための結界だから、あっても意味はほとんどない。

 

「戦闘中に心眼を使うのは慣れないけれど、それでもはっきりわかる。あなたは私より、強い。」

 

だからこそ、これくらいのハンデはもらってよね、なんて笑顔で言われてしまった。

 

仕方ない。お受けしますよこの喧嘩。

 

「トレース、タイプ「雷」Overtrance。爆破斬。結月刀「付喪」」

「相変わらず、二刀なんだね。いいよ、私も私らしく、魔法で応戦するからさ。」

 

そういって雷花は詠唱を始める。術式を口で唱えているが、あまり聞こえない。読唇術でもできたらいいんだが。

...勘違いかと思ったが、どうやら違うらしい。雷花は今、両手を重ねて、俺に向かって魔法陣を展開している。その魔法陣が、だんだんとでかくなっていた。

これ、普通に死ねるな。

 

「「銃雷」」

 

その一言で、魔法が完結したと知り、その一言で、魔法が放たれたことが分かった。

雷花との距離はそこそこ離れているので、まだ確認できる。この銃雷、でけえ。

いくら雷をトレースしたといえど、結界と相まった高濃度なもの、吸収するには扱いが難しい。

 

「だったら俺は、斬る。属性付加(エンチャント)「轟雷」」

 

相手が雷なら、こちらも雷である...トレースしたし当然だけど。

目の前に雷が飛んでくる。もうすぐで俺の射程...切っ先圏内だ。

だが。斬らなくてもいいだろう?

 

俺は跳ぶ。真上に。

 

俺の斜め下に雷があるのだ。であらばすることは一つ。

 

体を翻し、足元に結界を作る。これはなんの効力もない。ただの足場である。その足場を思い切り蹴飛ばした。

剣を構え、羽で加速する。

 

こういうでっかいもんは、叩き潰すに限る。

 

―――――――――――

 

 

「いやー参ったよ。まさかすぐつぶされるとはね。」

 

雷花は俺の家でご飯を食べながら、そんなことを言う。

ただ叩き潰しただけだがな。

 

切亜と紗那は不服そうに、姉さんは楽しそうにご飯を食べる。どうやら雷花は歓迎されててされてない。

ここに至るまでの経緯は話したが、それでも納得は得られないようだ。

 

雷花はしばらくの間、家にいる。そういったときに、姉さんだけが喜んでいたしな。

 

「まったく。ご飯食べたら風呂入って寝ろ。」

 

切亜は、ぶつぶつと文句を言っている。紗那はくっついてきて

 

「お兄ちゃんはあげないから。」

 

と雷花に言う。俺は誰の物でもねえよ。

 

 

 

 

俺は洗い物をしながら考える。先の戦闘の間、心眼の状態を確認していた。主に雷花の目を、見ていた。

そして、完全に理解した。理解してしまった。これは、原始魔法の一つである。禁忌に指定はされていない。が、扱うことは決していいこととは言えない。

原始魔法...今地球上にいる、それぞれの種族が扱う魔法は、原始魔法を普通の魔力でも扱えるように術式を変換させたものだ。なぜそんなことをする必要があったのか、それは、原始魔法を扱えるのは、神だった。

人やエルフ、ドワーフにゴブリン、他にもたくさん種族はいるが、その種族が生まれる前に、地上には神がいた。その神のなかでも特に優れた者が賢者でもあるのだが。

その神たちは、原始魔法で星を作ったり壊したり。世界を作ったり壊したり。でもそのうち飽きてしまった。

だから、現在生きている種族たちの、祖先を作った。所謂知的生命体だ。最初の内は無知極まりない、プログラムがまったくない機械のような彼らも、やがて知識を生んだ。そして、神を野放しにしていいのかを考える。だって、いつか自分たちが消されるかもしれないからだ。

 

神の扱う原始魔法を簡略化した、魔法を作り、神と対等になろうとする。だが、力の差は歴然だった。

暫くの間、神と知的生命体との戦争が、具体的には二百年ほどあった。最終的に協定が結ばれめでたしめでたし。

 

原始魔法ってのはつまり、神の扱う魔法ってことだ。使う魔力は少ないのに、威力や効果なんかは、魔法とは比べても意味がない。それほど、危ない魔法なんだ。

 

だが、そんなほとんどが禁忌として指定される原始魔法のなかでも、いくつかはそれを免れる。扱えるかは個人差があるが。

その免れたものの一つが、心眼である。ただし、それを理解できたのはつい先ほどだ。原始魔法だったなんて、まったく気づかなかった。

 

...だが、これで。

 

「ついに完成、か。」

 

心眼は、原始魔法の初歩、刻印だった。慣れ親しんでいる、刻印だ。

俺の体の中にも、流れている。

 

俺はすでに、原始魔法をいくつか、使てしまったというのか。俺は...親父にいいように使われたっていうのか。

 

...そうか。これが研究か。

 

「親父...やはりあんたは、敵だよ。」


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