日常を取り戻したい主人公たちがおくる。一つの世界。   作:空色 輝羅李

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第15話

第二十六話

 

ダンジョン。それは多くの人をお宝という餌で誘いこみ、罠で仕留めたりモンスターで仕留めたり。奥に進めば進むほど、魔物の強さは上がっていく。最初から強いこともあるので、冒険者というものはそれなりに気を付けなければならない。

いや。ならなかったというべきか。

 

現時点でこの世界において、未発見、未開拓のダンジョンはもうほとんどない。それゆえか。観光目的のダンジョンも増えてきた。

 

だがしかし。今俺が目の前にしているダンジョンは、開拓済みのはずなのだが...

 

「魔力の発生源が多い...おそらく中には魔物が住んでいる...」

 

ありえない。ここは俺が一度最奥まで行ったことがあるダンジョンだというのに。

そして先ほどから、先頭の音がする。声からして、やや劣勢だ。

...応援にでも行ってやろうかな。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

あれは...同級生くらいの女子じゃないか。なんだろう...すごく...魔力が弱い...

 

「くっ...この...!」

 

この子が発する魔法のどれもが、とても弱弱しすぎた。

こんなんじゃ、スライム一匹狩るのでも時間がかかってしまう...

 

「はぁ...結月刀「付喪」」

 

俺はいつも通り付喪を出して、魔物を狩る。こいつらは...ゴブリンか。

 

「俺に武器を向けるのは、たいした度胸だな。」

 

意思を持ち、攻撃してくるなら殺す以外ない。

考えなしに襲ってくるゴブリンを、ただ切る。一体切ったところで、ほかの複数体は陣形を整えた。

...少しは考えられるのか。はたまたここのゴブリンがたまたま知能があったのか。

 

「俺の知ったことではないがな...」

 

いくら体制を整えようが、弱い魔物に変わりはないので、一体目同様、すべてを切る。

 

それが終わったころ、少女がへたりと座り込んでいることに気づいた。

若干の涙目である。

顔は端正だ。どこか無機質な機械っぽさがあるが、可憐である。

 

「大丈夫か?立てる?」

「え...あ...だいじょうぶ、です。」

 

ゆっくりと立ち上がっている。背に壁をくっつけながら、重心を徐々に上げている。

 

ふむ...さっき見たときとは印象が違う。体つきはおそらく同級生だと思わせるほどだが、身に着けているものが業火なのに対し服がぼろついている。

 

「名前、聞いてもいいかな」

「...か、華怜...」

 

苗字はいいたくないのか...な?

まぁ、心眼を使えば見れないこともないが、それは趣味じゃないし、やめておこう。

 

「華怜はなんでここに?」

「...奥に、私の求めてるものがあるって、言われたから。」

 

求めてるもの、ねぇ。

 

「なら、一緒に行こう。」

「え?でも...」

「心配されるほど俺は弱くない。」

 

華怜は少し間をおいて、一緒に行くことを了承した。

 

...ここには昔、俺が置いたものが奥にあるだけだがな...

 

道中にはそこまで魔物が現れることはなかった。狩りすぎたことを今更ながら後悔している。

遊び半分とは言え、ここまでいなくなるとは思わなんだ。

 

最奥につくまでさほど距離はない。少しくらい話して親睦を深めておこう。

 

「華怜、出身は?」

「えと...その。カトワール、です。」

 

...中心じゃん。王都じゃん。いやまあ身に着けてる装飾の一部がぽかったけどさ?そんなわかりやすいことしないとおもうじゃん。

...まさかなぁ...

 

「...はぁ。帰りたくない理由は?」

「...なんでそんなこと聞くんですか?」

 

そりゃぁ...まぁ...

 

「王都出身で、同級生くらいで、家出してる華怜は一人しかいねえんだよ。たく...」

「...帰れとは、言わないのですか?」

「いう必要あるか?」

 

華怜は驚く。俺を珍しいものとして視ている。

...そこまで変なことでもないだろ?

 

「お前の事情はお前の事情だ。俺が首を突っ込むことじゃない。」

「...」

 

なぜ黙る。頼むから相槌くらいしてくれ。

 

でもまぁ、あの家を飛び出して帰りたくないのは...わからなくもない。王様がすごくわがままなのもわかるし、周りの期待が重いってのもわかる。

 

「...帰りたくなるまではさ、うちにいろよ。どうせ行く当てないんだろ?だったら少しくらいの間、飯と寝床と服、用意してやる。」

「...いいんですか...?」

 

家主がいいって言ってるんだ。家賃払ってるって言っても魔力で建て替えてもらってるけど。

 

彼女は少しうつむく。また間が空いて

 

「...よろしくお願いします。」

 

と、お辞儀をした。

 

そこまで礼儀ただしくする必要ないけど...

 

そこからはお互い黙ったまま歩いていた。最奥につき、本来ならいるはずのボスもいないので、俺の置いた宝箱を開ける。

 

まぁ予想通り。

 

「...これは...」

「俺が子供のころ...今も子供だけど、もっと子供のころ、おいていった宝物だよ。」

 

彼女は大事そうにそれを抱え、泣き崩れた。

 

「え、ど、どうしたんだ?」

「い、いえ...これは...私が小さいときに一緒に遊んでいた、男の子に上げた思い出の、ものなんです...」

 

...そういやそんな女の子いたなぁ...

回想はしないけどな。

でも確かに、その子からもらったものを大事にして、誰も立ち寄らないようなダンジョンに置いていたのは確かだ。

 

「私の...ペンダント...」

 

当時は高そうとか思わず、キラキラしてるからってだけでここにしまっていたけど、うん。やっぱり高価なものだろう。

このペンダントの価値を、今になって知ることになるとは、思わなかったな。

 

「...まぁなんだ、あんときはありがとな。」

「いえ、こちらこそ感謝しています。探し物もみつかりましたから。」

 

そういえばそんなことも言っていたな。だが探し物はどれのことだろうか。これは俺が頂いたものだから...あぁ、返した方がいいのかもしれない。きっととても貴重なものに違いないからな。

 

「ほら、これなんだろ?探し物って。」

「違います。あなたが探し物です。」

「...え?」

 

華怜はじりじりと迫りくる。静かに、長い時をかけて見つけた獲物を捕まえんとするその目は、俺に若干の焦りを与える。

俺は徐々に距離を取ろうとするが、相手も迫ってくるものだからあまり意味は感じない。

 

「な、なぁ華怜?なんで俺が探し物なんだ?」

「それは、今は知らなくていいことです。」

 

気になる言い方だな。しかしこれでは意地でも教えてくれそうにない。

しかして、この場になかったはずの魔力が、徐々に増えているのもほっておくことはできない。ひとまずこの件に関してはまた今度聞くことにしよう。

 

...道を少し戻る。地面には先ほどまでなかった、粘膜を引きづったような跡がある。スライムの匂いがするから間違いはない。だが、それ以外の足跡もあるな。

 

「華怜、スライムくらいは任せたぞ。」

「え?あぁ...えと、どうやって?」

 

...戦闘できない戦闘員ってなんだよ!何のためにいっぱい宝石もってやがんだよ!!

 

「...この宝石は、魔力が籠っていません。すでに消費してしまいました。」

 

どうやってその量を...ルビーは貯蔵量が三番目に多いんだぞ?それを、大量に持っておいて、全部消費した、だと?

ここまで戦闘が苦手、いや。下手だとは思わなかった。

しょうがない。全部やるか。

 

一番大きい魔力の正体はおそらく中型の竜種だ。足跡の大きさ的にもそうだろう。

やだなぁ竜...

 

「まぁまずはスライムをちょっと切ってみろよ。」

「え、え?」

 

俺はとりあえず短刀を錬成して渡す。魔力もある程度込めているので、少し触れただけで低級の魔族は死ぬ。ゴブリンとか。

華怜は必死にスライムを追いかけて切ろうとするが、腰が引けすぎているので、一振りも当たらない。

 

...華怜という人間はどこまで戦闘が、いや。()()()()が怖いのだろうか。優しいのはいいことだが、いざとなって自分を守れませんじゃ、だめだ。

 

「華怜。どんな生物もいつかは死ぬ。自分もそうだろう?ならば優先するべきはどの命だ。」

「...知りません。」

「わからない、ではないんだね、なら、大丈夫。大体の時なら俺が守るから。」

 

~華怜side~

 

私は渡された短刀を片手に、彼の言葉を聞く。彼の言葉に嘘はない。そのどれもが正しいことをわかっている。でも、命とは、どんな生命が相手でもないがしろにしてはいけない。自分と同等、もしくはそれ以上の価値がある。でも、それでも彼は、自分の命を優先しろと言う。それなりに理由はあるのだろう。だが、私にはその理由を理解はしても同意はできないだろう。だから、私は知らない。

 

互いに沈黙しながら、見つめあっている。少しこそばゆいが、目をそらすと負けな気がするのでそうしない。

と思っていた。私は負けてもいいので白状しよう。私の視界には今、二体の生命体が映っている。一つは彼、龍夜だ。もう一つは

「龍...」

「なんだ?」

「だから!竜だってば!!!」

 

~柊side~

 

漢字表記はややこしいから統一しろとあれほど....!

じゃなくて。

ここまで大きな魔力を消していたのは称賛に値するが、背後を撮られるのは大変腹が立つ。そもそも誰が

こんな竜をこのダンジョンに置いたんだよ...

 

「なあ竜...お前、誰だ?」

『我は呼ばれたから来た、それだけだ。』

 

呼ばれた、ねぇ...

 

「なら君に用はない。それに、ここでの用は終わったんだ。帰っても問題ないだろう?」

『...去るのか?』

 

去るよ?帰るよ?言ったじゃん?

 

『...しばし待て。』

「なんで待たなきゃ――――まぶしっ!!」

 

突然光に襲われる。ひとまず結界を展開するが、何が起きたのかいまいち状況がつかめない。後ろに華怜がいるのを確認し、なにかしらのアクションが起こるのを待つ。

 

暫く経つ。光は徐々に収まっていく。その中には人型の影が一つ存在した。

 

「待たせたな。」

「...え、どういうこと?」

 

華怜が驚くのも無理はないが、俺としてもわからない。

ひとまず、竜が人形に形を変えたと言うことしか...

 

「そなたの考えることが妥当だな。だが、言語で説明すると必ず矛盾が起きる。詳しくは説明しないでおこう。」

 

...とりあえず服を渡しておこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に着く。正確には玄関の前。

言い訳を考えるか素直に説得するか。

 

「僕的には、後者がいいと思うな。」

「よく言いやがるこの木龍が...」

 

試験は合格、それだけ言い残し目の前から消える。

全くこの木龍、いつも勝手である。

 

ひとまずは家に入ろう。そのあとのことはその時にでも...気が重いな。


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