ガルパン オリジナル学園艦短編 作:京都府の南スラヴ人
食欲の秋と言うが、昨日は船のバイキングを楽しんだし
芸術の秋と言うも、適当に絵をかいて現代芸術と名付けておけばそれでよし
スポーツの秋と言うは、最早引退した身
読書の秋と言うに、愛読書は新刊を待つばかり
やはり、いついかなる季節であっても昼寝というのは気持ちの良いものだ
前いたとこではそうもいかなかったから、今を楽しまなければならない
波の揺れがきつい部屋だが、気にする事は無い。ゆりかごと思えば
「おい!嬢ちゃん!もうすぐ着くぜ!」
「……うん」
人が寝ようとしている時に、と悪態をつくのは自身が性悪だからであろう
荷物は全てまとめていたので、部屋から出る
船員があちらこちらを移動している。ご苦労な事である
『元』戦車乗りとなったが、船乗りになる気がどうにも起きなかったのは多忙を嫌っていたからだろうか
甲板に出ると、巨大な船が見えた
メキシコをモチーフとした学園艦。テキーラ女学園
「お客様! お荷物の方を…」
「いや、良い。気持ちだけいただいておく…あぁ、よければ入艦管理所を教えてくれないか?」
帽子を深々とかぶりタラップを降りる
我が晴れやかな青春はこのテキーラ学園からリスタートするのだ
入艦管理所へ向かうと、人がごった返している
「お名前と入艦目的を」
「古葉千恵美。転校してきた」
「転校…手続きの方は?」
「もう済ましてある」
ポケットから封筒をとりだす
職員が中を見ると仏頂面から一転、笑顔で判子を強く推した
「ようこそ!テキーラ女学園へ!今より2年間、青春はあなただけのものです」
「ありがとう」
こうして、私こと古葉千恵美はテキーラ女学園の生徒となったのである
1ヶ月経った
大いに馴染めたと言える
友人だと言える奴は沢山できたし、部活動にも入っていないからその分時間を有意義に使える
現にこうして放課後に、学園艦内をどことなくブラブラしている
「………………」
そうこの1ヶ月で分かった
私は戦車道から、目を背けることができない
そもそもあの学校を離れた理由も、所詮は校風が合わなかったからだ
新しい青春と思い、ここぞと戦車道をきっぱりやめてみたが、結局今年の大会を注目しているのは事実だ。特に、あの学校を
かくして入部を決意、戦車道復帰を志したは良いものの、このテキーラ女学園戦車道部の噂はお世辞にも良い物とは言えなかった
友人は「油臭いじゃん!やめときなよ」と言っていたし
担任に至っては「入部は止めないが、あのクラブは活動しているとは言い難い状況だぞ」
と、まぁ散々な言われようであった
さて、それを見聞する訳だが………
「撃て!」
戦車道練習場と書かれた門の前に着くと、砲声が鳴り響いた
良かった。ちょうど活動中のようだ
「もう一回だ!撃て!」
「……………」
なるほど
確かに散々な戦車道部だ
ビッカースC型中戦車。粗悪な品だとは言わないが、いささか古い戦車だ
おまけに車長は、ポンチョの色を見る限り、私と同じ1年生の様だ
練習場に入り、戦車へと近づく
「なんだ、お前は!?」
「お邪魔しますよ。もっかい撃ってくれるか?」
「…おい、装填しろ」
「射角をもう少し…2度上げろ。そうすりゃ当たる」
隊長さんはこちらの注文に舌打ちしながらも聞いてくれる
「撃て……あっ」
自分史上この上ないドヤ顔をしているであろう
隊長さんは今でもビックリした顔で的を見ている
「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるって言うがな、そう言うのは鉄砲の数を揃えてから言うもんだ」
「ま、待ってくれ!」
背を見せて歩き出すと、隊長さんが降りてきて私の肩を掴んだ
良い笑顔をしている。ビジネス上の
「分かったぞ、あんた戦車道をしていたな?」
「まぁ、それなりに」
「どこへ向かう?」
「入部届を出したいんだ。部室はこっちかな?」
「い、いやこっちだ!是非とも来てくれ!」
ビッカースに乗せられると、ドナドナと部室へ連れていかれる
隊長さんはいそいそと部室へ入っていった
「あれ~、どこにやったかなぁ。確か、このへんに…」
「おい、あいつはいつもあんな感じなのか?」
「嬉しいんだよ。入部希望者なんてあんたぐらいなもんだからなぁ」
「いきいきしてやがる」
装填手に聞くと弱小部活動の悲哀を感じる
すると、隊長が入部届を大事そうに持ってきた
「ほら!ここに、ここに名前と住所と電話番号と性癖を……」
「あいあい」
この時、テキーラ女学園戦車道部わずか6名
「こりゃ、たまげた」
「どうだ! 凄いだろ! 由緒ある戦車の保有数だけならどこにも負けないぞ!」
格納庫に案内してもらうと、見渡す限り古い戦車ばかりであったであった
第一次世界大戦から戦間期にようやく出てきたシロモノばかりだ
戦車道というより、博物館を開いた方がよっぽど利益があると考えてしまう
「しかし、なんでこんなに? 部員は5人しかいないんだろ?」
「あぁ、それなんだが……」
話が長くなったのでまとめると
戦車道部創立当初、その珍しさから人は確かに集まった。しかし、その人数に見合う戦車を揃えることは困難であったために、比較的安価であった第一次世界大戦から戦間期に開発された戦車を丸々全部買い取った
だが、高性能な戦車というわけでもなく、まして骨董品のような戦車ということもあってモチベーションは低下の一途をたどった。
部員は減少に減少を続け、今年度に入って部長をはじめ多くの部員が辞める事になった
それでも残ったのが、現部長バーラであった
中学からやってきたという自負が、進学による上下関係によって逆転されるであろうと考えた彼女にとって、現在のテキーラ女学園戦車道部の有り様は予想できなかった事であった
「なにか大会に出る予定でもあるのか?」
「恥ずかしいが、無い。タンカスロンでもと考えたがー……いや、性能としても危ういだろうな」
バーラは部の運営に対して様々な葛藤を抱えていたが、その最たるものが戦車そのものの性能であった
「予算の申請は?」
「通ると思うか? たった5人のクラブの意見なんて」
「まぁ、そうだわな」
しかし、学校としても迂闊に廃部する訳にもいかなかった
これら骨董品の処理にかかる費用もさる事ながら、戦車道部創設を決めたのは現在の理事長でもあり、簡単に廃部にしてしまっては理事長の判断が疑われると言う背景が、いわば戦車道存続の糸であった
「売れば良いじゃないか。幸いにも数だけはある。かつて2両しか作られなかった戦車すらここにはあるんだ。好事家、あるいは他校の戦車道部にふっかければ、これより良い戦車は……」
「それはできない!」
「……………」
「今ここにある戦車たちは、決して考えられて購入されたわけではない。予算の妥協によって買われた安価な戦車だ。だからこそ、大切にしないといけないんだ! いつか、きっとこの戦車で強豪校を打ち破る……それがテキーラ女学園戦車道部のあるべき姿なんだ」
「無理だな。売った方が良い」
考えるまでも無く、千恵美はその意見を否定した
しかし、バーラにとっては慣れたものであった
何度も言われてきたからである
「いや、少なくともこの戦車で何度か1回戦を勝ち上がった事だって」
「何回だ?」
「……1回だけだ」
「じゃあ、なお売るべきだ。数少ない一例に頼って、百戦を逃がしては意味がないだろ」
「それはそうだが……!?」
それでもなお反論し、詰め寄ろうとしたバーラは顔を掴まれた
「や、やめろ!」
「なぁ、隊長さん。私はあんたがそうするっていうなら従うさ。なにせ、隊長のドクトリンに従うのは組織として当然だからな」
「……」
「だが、指摘はさせてくれ。私たちは掃除をしに来たんじゃない」
その言葉にバーラの中で何かが崩れた
同時に新たな葛藤が芽生えた。果たして、自分は本当に戦車道をしているのかという疑問である
気づくと、あの不敵な新入部員はすでに目の前から姿を消していた
1週間後の事である
人工とはいえ河原で昼寝をしていた千恵美の隣にバーラが座り込んだ
「決めた事がある」
「ほう」
「戦車を売る」
「ほう」
バーラの顔を見ると未だに悩んでいる節があるのを感じ取った
千恵美は理解した。後押しが必要なのだろうと
「ビッカースは! ビッカースだけは…残す。いや、残させてくれ」
「あんたは隊長だ。頭下げるな」
「性悪め」
「それで? 買い手はいるのか?」
「理事長に頼んだ。好事家の知り合いに売るらしい。もっとも、それでも4両しか売れないようだが……」
「充分さ、それで何を買うんだ? まさかポケットマネーに入れる訳じゃないんだろ?」
「それをお前に聞きに来た」
千恵美は目をつぶった
自分が持ちうる戦車の知識、経験を総動員させる
何が良いか、どれがこの学校に向いているのか
「決まったら教えてくれ」
「…メット」
「え?」
「コメットだ。コメットを買え」
コメット巡航戦車
この戦車を契機に、テキーラ女学園戦車道部は強豪ひしめく戦車道の大会へと殴り込みを行う事になる
誤字脱字、おかしな表現などがあればご指摘いただきたく思います