アマランサス~人でなしとろくでなしの学生生活~ 作:只の・A・カカシです
「あぁ、あったね!あれ、そんなに前だったんじゃ。」
地元の話しで盛り上がる九谷と松木。その近くで、若狭は黙々と夕食を摂っていた。
「そう言や、いくちゃんって結局どこ行ったん?」
「え?いくちゃん?県北の私立の学校に行ったよ。週末とか、たまーに帰ってきとるよ。」
「あ、そうなんじゃ。道理で見んなぁと思うたんよ。」
当然、話をしながら食べる二人よりも早く若狭の皿は空になる。
ところが彼女は、おかわりを取りに行くわけでも、食器を返すわけでもなくただ座り続ける。
それから一五分ほどが経ち、二人の皿の上の料理があらかたなくなった。
「松木と言ったか。」
二人の会話が止まった一瞬を突いて、若狭が声をかけた。
「へい?そうだけど?」
突然話し掛けられ、松木は少し驚いた顔をする。
「お前は、どうしてここに来た。」
「どうして来たか?来いって言われたから。」
間を置くことなく松木は返した。
「それじゃ答えになってない。キチンと説明してくれ。」
「そう言われてもなぁ・・・俺もよくわかってないし。」
「では、こう聞こう。いつ、どこで、誰からここに来るように指示された?」
まるで尋問をするような問いかけに眉をひそめつつも、松木は丁寧に返す。
「昨日の朝ね、部活の試合で他校に行くから、その準備を学校でしてたんだ。そしたら急に研究員?の人が来て、何とかっていうのと融合してるから転校してくださいって指示されて。それで今日、ここに来た。」
若狭は無言で松木を見つめる。その目は、明らかに話の続きを求めている目だった。
「それで?」
「それで?」
それ以上に説明のしようがないので弱り果て、意味を聞くために若狭の言葉をオウム返しする。
「バカにしてらっしゃいます?」
彼女の口調が明らかに変わった。
気の弱い生徒は、それだけで背筋がピーンと伸びる。
けれども彼は臆さず・・・いや、この場合は無神経というべきか、ずかずかと踏み込んでいく。
「バカにするなら、最初から相手にしないよ。っつか、そこまで知りたいなら自分で調べたら?」
彼はめんどうくさそうに、顔の前で右手を払う。
「よろしいです。ただし、嘘偽りがあったら承知しませんからね。」
「へーい、どうぞ。気のすむまで調べてきてください。」
キッと松木を睨み付けてから、若狭はずんずんと足音を立てて去って行く。
「さながらクレーマーだな、ありゃ。」
その背中を見ながら、松木がポツリと呟く。
「そうじゃけど・・・いや、逆によう言い返したね。」
「一言多いのが取り柄みたいなものじゃけね。」
「えー?」
それを長所と捉えてもいいのだろうか。九谷は呆れ笑いをしながらも、取り敢えず今回はプラスに働いたから良しとした。
「そう言や次って何時から?しおり貰うてないんよ。」
「次?えっとね、えーっと一九時二〇分から。」
「二〇分。ありがと。」
松木は何気なく時計を見て、そして少し間をおいて腰が浮くほど飛び上がって驚く。
「ありゃ?!もう一九時一五分じゃん!」
慌てて振り返って見ると、食堂の密集度は随分と減っていた。
「・・・集合場所ここ?」
「いや、違う場所。」
見れば、九谷は冷や汗を流している。
「行こ!」
九谷は椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がる。松木もその慌て振りに釣られて立ち上がり、二人は食器を返却口に置くと駆け足で食道を後にした。
二人が集合場所の体育館に到着したとき、既に一組の生徒は揃っていた。
「遅刻だ!」
どうやって間に合わせたのやら。そこに若狭の姿はあった。
食堂を出た時間にそこまでの差はないはずなので、まさか瞬間移動でもしたのだろうかと松木は考える。
「申し訳ない。」
それはそれとして、遅れてしまったのは迷惑を掛けていると松木は謝る。
「さっきと違って随分と素直じゃないか。言い訳があるなら聞いてやろう。」
それが琴線に触れたのだろうか、彼女は少し態度を軟化させた。
「言い訳・・・ね。しおりをね、もらってないんよ。で、えー、時間が分からん。」
「知らないことは守れないな。ひとまず私のしおりを貸してやる。」
「あ。これはご丁寧に、どうも・・・?」
意外なまでに寛容な態度。てっきり「時間ぐらい周囲に聞け」と言われるだろうと思っていたため一瞬だけ硬直したが、すぐに再起動して両手で受け取った。
「で?何故あなたは遅れたのですか?言いましたよね。一〇分前には集合を完了させるようにと。」
若狭は、間髪を入れず態度を一転。表情を険しいものにして九谷に詰め寄る。
「えっと、ごめんなさい。」
「ごめんなさい?私は理由を聞いているのですが?」
九谷が叱られている横に立っていた松木は、ふと視界に立って歩いている生徒がいることに気が付いた。
〈あれ・・・他のクラスは今から集まる?〉
九谷から遅れそうだと言うことを聞いて、それだけが頭の中にあって気が付かなかったが、他のクラスの生徒はまばらにしか集まっていない。
松木はそーっと、先ほど若狭からもらったしおりを開いてスケジュールを見る。
「いいです?私はあなたを――」
「ちょい質問いい?」
松木は若狭の説教を遮った。
「集合時間、一九時半になってるよね。まだ五分以上あるけど、どっちが正しい?」
「あぁ、そうでした。あなたにはまだ伝えていなかったですね。一組は、時間に余裕を持って行動するために一〇分前集合です。」
それを聞いた時、松木はチラリとクラスメイトの方を見た。
「なるほど。で、それは、誰が決めたの?」
「私だ。」
〈やっぱり。〉
クラスメイトのほとんどが恨みの籠った視線を若狭に向けていたことから、松木は彼女が独断で決めているのではないかと疑っていた。
同時に、それを求めるだけではここまで恨まれることもないはずだとも松木は思っていた。
「それで?早く集まって何をするん?」
「何をするも。言ったはずだ。時間に余裕を持って動くための訓練だと。」
しかし、そのまさかが当たっていたことに松木は動きを止めた。
「おどりゃバカか?」
ピクリと若狭の眉が動いた。彼女の性格を良く知る一組の生徒達は、巻き添えを食らうことに恐怖し震え上がる。だからといって二人の間に割って入り止めるのは、更にリスクを上げかねないので見守ることしかできない。
「今、何とおっしゃいました?」
「バカか言ったんよ。」
そんな同級生のことなどお構いなし。松木はゆっくりハッキリと言い直す。
若狭の表情が、みるみるうちに険しいものへと変化していく。
「何もしないのに一〇分前集合?」
「私、申し上げませんでした?時間に余裕を持つためだと。」
「それは聞いたよ。大事さ。でも、他人の時間を奪ってまで達成するほどの目的か?」
「二四時間あるうちの、たったの一〇分。それが守れないお方が、社会に出てルールを守れるのですか?それにあなたはご存じないでしょうけれど、一組は学年で最も優秀な生徒の集まるクラスなのです。そこの生徒が遅れたら、メンツが立ちませんわ。」
メンツを気にして遅れないようにする。総意なら問題ないが、個人の意見であるならつまらない理由だ。
「クラスメイトは、あんたの駒じゃないんだが?」
「駒?時間も守れない駒は必要ありませんわ。」
「へえ?そう言う割に、あなたは法律を守ってない気がするけど?」
「?」
「強要罪に当たるんじゃない?」
何を言っているんだとでも言いたげな表情をされ、彼はそう言う。
一〇分程度の拘束で、それに誰も抗議をしていないのに強要罪というのは言いがかりにもほどがある。
松木もそれは承知の上。真の目的は、敢えて反論させることで幼なじみから標的を逸らそうと考えていた。
ところがそれは松木の思惑を外れ、厳格な性格の若狭には大きな牽制となった。
「みんなの表情、見てよ。納得してるように見える?」
松木に言われるまま、彼女は整列しているクラスメイトに目を向ける。反撃を恐れてかそっぽを向いている者もいるが、その他はおおむね友好的ではない視線を彼女に向けていた。
「なるほど。」
若狭は、少し落ち着いた口調でそれだけ言って黙り込む。
〈・・・あれ?〉
困ったのは松木だ。まさかこんな展開になるとは予想しておらず、沈黙に居心地の悪さを感じる。
クラスメイトから松木に「どうするのこの空気」という視線が集まる。
「ま、まあ?あんま深く気にしないでね。」
しかし焦っている松木がそれに気が付くことはなく、焼け石に水の一言を残すと、九谷を連れてそそくさと一組の列の最後尾へと並んだ。
一組の気まずい空気にさらされてか、気が付けば他のクラスも集合場所に来ていた生徒だけでひとまずは整列を完了させていた。
「はーい、時間になりました。私語をやめ・・・・・えっ?どうしたの?」
やがて集合時間になり、体育館に入ってきた学年主任の先生。
普段であれば私語を止めるのに苦心するので静かなのはありがたいことの筈なのだが、誰も話していないのとはまた違った空気に飲み込まれる。
「え、えーっと、これから団体移動の練習を行いますね。・・・・・じゃ、じゃあ、クラスごとに分かれて始めます。・・・・・えー、どうぞ動いて下さい?」
その日の練習は、誰も私語をすることが無かったので順調と言えば順調に進んだが、全員の動きが極めてぎこちないものだったのは言うまでもない。
投稿の間隔が開いてしまいましたが、これからも続けていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。