アマランサス~人でなしとろくでなしの学生生活~   作:只の・A・カカシです

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希望の新入生(14)

 一七時。一組の先頭を歩いていた班は、登山活動のゴールである自然の家に帰着した。

 「お疲れー!」

 その班員を、ゴールで出迎えた生徒がいた。

 「わ、本当に先に進んでた!」

 一組の六班だった。

 「???」

 しかし先に進んでいることにされているとは知る由もない六班は、いきなりそう言われて頭の上に『?』マークを浮かべる。

 「大変だったでしょ、最後尾から全部追い抜いてさ。よくついて行けたね!」

 「ついていく???」

 内容を理解できていないというのに、話が先に先に進んでいく。

 「あ!帰ってる!」

 オマケに、そうやって話を進めるは先頭の班だけではない。後続で帰ってきた班までもが同じように話し始める。

 しかし六班の生徒は、話の内容を尋ねることは出来なかった。それは六班の生徒が話し始めようとしたタイミングを見ていたかのように、後続の班がゴールしてきたからだった。

 

 

-*・A・*-

 

 

 「えっ、怪我した?!あの若狭が!?」

 夕食の時間。その情報を六班から伝えられた生徒が大いに驚く。彼女の性格をよく知る一組は、その言葉に反応し、その話をしている生徒の近くへと席の移動を始める。

 「何で何で?!」

 「足を滑らせた人が転ばれないようにと補助されたのですが・・・。その時にどうやら、足を痛められたようで。」

 「へー。あの若狭が。」

 意外な行動に思え、そう呟いた彼女に、「若狭さんは、面倒見はよろしいですわ」と訂正が行われる。

 「まあ、ちょっとやり過ぎという嫌いはありますけれど。」

 「ちょっとじゃなくて、()()()だよ。あれ。」

 そして更なる訂正が行われる。

 「ところで松木君は?」

 唯一の男子の姿を見た記憶がないとあたりを見回す。

 「・・・なんか密度が高くなった気が。」

 そこで初めて、周囲に一組が集結していることに気が付いた。

 あえて聞こえる大きさで言われた一言に、聞き耳を立てていたの者は肩をビクッとさせる。

 「彼は、若狭さんの付き添いで病院に向かわれました。」

 「付き添い?うわぁ、地獄・・・でもないか。救急の人がいるし。」

 自身がその立場ならと想像して、一瞬、嫌そうな表情になりかけた。

 「救急?あ、タクシーで向かわれました。」

 「?!ホントの地獄じゃん!!」

 あの後席に二人。想像しただけでも身の毛がよだつと、今度こそ嫌そうな表情をする。

 「それもそうだけどさ。気になならないの?あの二人だよ?大丈夫なの?」

 ふと疑問に思ったことを、盗み聞きをしていた内の一人が尋ねる。同じことを思っていた生徒が賛同するように頷く。

 「あー確かに。混ぜるな危険だよねー。」

 昨日のことを思い出しながら、先ほど賛同した生徒が再び頷く。

 ところが、六班の反応は真逆の物だった。

 「どうなんだろ?活動中は、少なくとも雰囲気は悪くなかったよ。」

 「えぇ。松木さんの意見を突っぱねるどころか、逆に聞いていましたし。」

 「「「?!」」」

 少しでも気に入らないことがあれば、自分の思い描くとおりに修正したがる若狭が、実際のところは別としても周囲にそう思わせる雰囲気を出す。それは一組にとって、衝撃以外の何物でもなかった。

 「だから、別の意味で混ぜるな危険かもね。」

 「ですわね。」

 一体、どれほど恐ろしいことが起きたのだろうか。二人の口ぶりが、それを物語る。

 「何があったの?」

 「何がって言うか、下山してる途中で松木君がわざとコースを外れてさ。私は分からなかったけど、若狭さんは直ぐに気が付いて指摘したら、松木君は『こっちのほうが歩きやすい』って言ったの。」

 「うわ、自殺行為。」

 「でしょ?ところが若狭さん、あっさり認めちゃったんだよ。」

 「「「はぁ?!」」」

 「いや、説明はしてたよ?」

 皆があまりも驚いたので、すかさず補足を行う。

 「だとしてもだよ!」

 「若狭でしょ?!」

 「信じられない!」

 心にとどめきれなかった驚きを吐き出していた時、突如、出入り口付近の席で緊張感が走った。

 「若狭を納得させる説め――」

 一名ほど空気を感じ取り損ねた者がいたが、近くにいたものが咄嗟に口をふさいだ。

 「「「ひぇっ・・・。」」」

 その光景を見た時、居合わせた者の多くが息をのんだ。食堂に入って来た若狭は、なんと車いすに乗っていたのだ。

 「え?骨折?」

 「それにしては、ギブスが細いような・・・。」

 右足に巻かれた包帯が痛々しさを醸し出す。いずれにしても車いすに乗っているということは、軽傷で済まなかったということ。

 「あれ?九谷?」

 松木は付き添いで行ったから車いすを押しているのは分かるが、なぜか九谷も一緒に入ってきた。

 一同は食堂を見回し、そして食堂に姿が見当たらないと記憶を掘り起こす。

 〈〈〈そう言えば・・・見てないような?〉〉〉

 しかし九谷の姿があったか否かについて、しっかりと記憶している者は皆無であった。

 「九谷も行ってたの?」

 「えぇ、介助するのにいた方が都合が良いとかで。」

 「えー?いらないんじゃない?」

 「アンタさ、白馬に乗った王子様とか想像してない?そいつら、どこからともなく湧いてきたイケメンじゃなくて、由緒正しい家の人だからね?」

 「若狭だし、いいじゃ・・・いや、松木君が嫌か。」

 日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らすには丁度いいと思いかけたが、それは相手のことを考えなければの話。

 松木が編入してきたのは昨日のこと。ただでさえ環境に慣れていないのに、初対面の同級生の介助を単独でやれと言うのは酷な話。しかもそれが異性ともなればなおのことで、彼女は松木と自身の立場を真逆で考えて、そして納得する。

 などと話をしていると、突如、プラスチック容器が床に落ちる乾いた音が食堂に響いた。

 音は食堂の入り口付近から聞こえたので反射でそちらを見る。

 「ほいじゃけ言うたじゃないね!無理すなって。」

 そこには何と、松木の言葉に一切言い返さない若狭の姿があったので、皆仰天する。

 「え?落としたの若狭?」

 「しかないでしょ。あの状況。」

 「ひえー、命知らず。」

 そんな彼女たちの内診など知る由もない松木は、更に続ける。

 「気持ちは分かるけどさ、そうやって頑張られると、こっちの仕事が増えるんよ。じゃけ迷惑かけたくないんなら、今はジッと車いすに乗っといてくれんかね。」

 「・・・そうか。」

 今の若狭には覇気が感じられないというより、寧ろまな板の鯉と言った方がしっくりくるような状況だ。

 だが、彼女たちが何より信じられないのは、「そうか」と言った若狭が、その後に言葉を続けなかったこと。

 彼女が「そうか」と言うのは納得した場合ではなく、「お前の案は理解した」と言う場合で、その後にはもれなく「だが、○○でやった方が得策だ」が続く。

 それが無いということはかなりの異常事態なのだが、やはりそれについても知るはずもない松木は、何事もないように落ちた食器を拾い集める。

 「新しいの頼むわ。」

 「ええよ。」

 普段の若狭を知っている者で驚いていないのは九谷だけだが、それはどちらかと言えば親しいものが近くにいるから頼もしいと言った方が正しかった。

 松木は落ちた食器を返却口に、九谷は新しい食器を取りにそれぞれ向かう。

 「載せるよ?」

 移動距離の短かった九谷が先に戻ってきて、そして若狭の持っているトレーの上に食器を置いた。

 「ほいじゃ選ぼうか。」

 少し遅れて戻ってきた松木が車いすを押し料理のある所へと移動する。

 「これにしよ。」

 「俺のも頼む。若狭さんは?」

 「いらない。その右隣りのを取ってくれ」

 「了解!・・・このくらい?」

 「もう少し入れてくれ。」

 「「「わぉ・・・。」」」

 いざ回り始めると、若狭は意外なほどにおとなしくしている。生徒たちにしてみれば信じがたい光景ではあるものの、若狭は融通が利かないだけで決めたことは曲げない性格。身を委ねると決めただけで、若狭としては変わったことをしているわけではなかった。

 「・・・ところでさ、あの二人って付き合ってる?」

 驚きも収まり始めたころ、不意に誰かがそう言った。

 「何で?」

 「だって、息ピッタリじゃん。」

 料理は九谷が取り、食器は松木が持つ。特段変わった様子はない。

 「普通じゃない?」

 「アイコンタクトもなしに?」

 そう言われて見てみると、料理と皿の受け渡しに滞る瞬間がない。あまりにも自然な動作のうちに完了していたため、ほとんどの生徒は何も感じていなかった。

 「どう?一緒に班行動した人。」

 「え?ん-、そこまで見てる余裕はなかったな・・・。」

 「でも、あれは付き合ってるでしょ。」

 「あ、そういえば幼馴染とは言ってたよ。」

 「それで思い出した。呼び方が『知君』『みっちゃん』だった。」

 「きゃー、それ付き合ってるって言ってるよなもんじゃん!」

 女子たちの井戸端会議が盛り上がり始める。

 「昨日と食べとるものが一緒じゃないね!少しは(ちいとは)違うもんも食べんさいや!」

 それへ待ったをかけるように聞こえてきた松木の声。その口調に、皆の脳裏を昨日のことがよぎり、一瞬のうちに食堂は静まり返る。

 怖いもの見たさに多くが三人がいる方を見た。

 だが首を傾げる。言葉の割に、松木は笑っていたのだ。

 「調理師さんが悲しむで。」

 「体調管理のためだ。気にしないでくれ。」

 まあ若狭だし、そのくらいのこだわりはあって当然だと、皆がそう思った直後。

 「ふーん。ほんじゃ、こんにゃくを避けとる気がするのは何で?」

 松木の言葉に、わずかではあるものの若狭の肩がピクっとする。

 「いいや?」

 あまりにも小さい動きだったため、大半はそのことに気が付かなかった。だが直後の否定の仕方から、動揺していることは疑う余地もなかった。

 「あっそう。昨日は野菜の煮物食べとったのに、今日は通過したからさ。」

 「野菜の煮物?あったか?」

 そう言いながら、若狭は通ってきた方へと視線を向ける。

 「あったよ。ま、料理名がちょっと違ったけどさ。」

 「なるほど。」

 「・・・・・。」

 「何だ?」

 松木が何も言わずにじっと見る目てくるので、若狭は不快そうにそう尋ねる。

 「いや、取ってきてくれとは言わないんだなと思って。」

 『しまった!』と後悔しても、後の祭り。入れ替わったように若狭は固まった若狭を他所に、松木は移動を再開する。

 〈〈〈何者?!〉〉〉

 因みに、固まったのは盗み見していた生徒たちもだった。

 若狭に苦手な食べ物があったことは驚くべき事実だったが、昨日、今日の食事だけでそれを見抜いてしまう松木とは一体、どんな人物なのか。ひょっとしたら、若狭以上にやばいやつが来てしまったのではないだろうかと言う緊張が走る。

 「お!こんなところにあった!」

 「おいしい?」

 「うん、オススメ。若狭さん、騙された思って食べてみん?」

 「あ、あぁ。・・・入れてくれ。」

 「はいよー。」

 間もなく料理を取り終えた三人は、食堂の奥の、人気の少ないテーブルへ陣取る。

 三人が何を話すのか。生徒たちはそれが気になったものの、今更、席を移動するのは不自然と、やむなく様子をうかがうだけにとどめたのだった。

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