アマランサス~人でなしとろくでなしの学生生活~   作:只の・A・カカシです

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久しぶりに更新しました!
前作の時はもっとペースが速かったんですが・・・最近時間がないということでは説明できないほど書けません。
何でなんでしょうか・・・。


希望の新入生(2)

 「じゃあ・・・行ってくるね。」

 時刻は一九時を回ったところ。

 「体には気を付けるんよ。」

 お母さんは寂しさと不安が入り交じった顔をしていた。

 「急いで下さい。」

 HSS学園の関係者が無駄に急かしてくるが、彼女ら曰く『本来であったならもう半年は早かった』そうだ。

 でも、私が少しでも長くここで生活できるよう配慮して今日まで延ばしてくれたのなら、この後の打ち上げくらいまでは誤差の範囲ではないのだろうか。

 考えていても始まらないのは分かっているが、後ろ髪を引かれる思いで私は踵を返す。

 「おっ、みっちゃん!」

 そのとき、名前を呼ばれて顔を上げる。そこには幼なじみがいた。

 「あ、(とも)君」

 彼の名前は松木知則(まつきとものり)。家が隣同士なので、小さい頃はいつも一緒に遊んでいた。

 「どしたの?」

 彼は私の横に立つ草戸を見るや、少し声のトーンを落とした。

 「ちょっとの間、遠くの学校へ行くことになったんよ。詳しいことは長くなるから、今度話すね。でも、ちゃんと帰ってくるよ。」

 私は知君にむだな気遣いをさせぬよう、そして自分に暗示を掛けるためにも笑顔を作る。けれど、表情が引き攣っているのは自分でも理解できた。

 「そう・・・。頑張ってね、応援してるよ。」

 彼は佐藤と草戸を一度ずつ見て何かを察知したような顔をしたが、いつもの表情に戻るとグッドサインを作って私にそう言ってくれた。

 「うん、行ってくるね。」

 私は彼女らの乗ってきた高級そうなセダンのトランクに最後の荷物を入れて、それから後部座席に収まった。

 エンジンが始動し車が発進する。外を見ると、知君とお母さんが手を振ってくれている。

 途端に目頭が熱くなり涙が溢れた。泣いていると知られたくなかったから、声は押し殺した。

 「ボーイフレンドですか?」

 そんな私を気遣う素振りもなく草戸が口を開く。

 「そう思ったことはないです。」

 それに対して、私は努めて平静を装った。

 「安心しました。恋愛にうつつを抜かして成績を落とす生徒が一定数いるので。・・・全く、下らない。」

 草戸が最後にこぼした一言を、私の耳は聞き逃さない。

 「あなたも、そうならないように注意しなさい。」

 草戸、佐藤ともに、この類の話をしそうにない性格であることはおおよそ見当が付いていた。だが、彼女らは寒気がするほどに偏った思考をしていた。

 それからしばらくの間、話し掛けられることはなく車は走り続ける。

 徐々に家は少なくなり、山を切り通して作られた道を進んでいるときのことだった。

 「あっ!」

 繁みの中からアナグマのような動物が一匹、車の前へと飛び出して来る。

 私は思わず声が出た。ところが、運転している草戸は、声はおろかハンドルを切るとかブレーキを踏むといった動作をすることなくそれを跳ね飛ばした。しかも跳ね飛ばしたあと、再び左側のタイヤでひくというおまけを付けて。

 グニャっという嫌な感触が、後部座席に座る私のお尻へ伝わってくる。

 〈・・・戦闘ロボットみたい。〉

 動物が出てきてからひくまでの間、先ほどまで二人に見え隠れしていた感情や心の揺らぎが途端に消えて無くなった。

 そんな経験をしたことがない私でも分かるほど、特に運転をしている草戸の変化は車の挙動へ出ていた。

 〈何なのこの人達・・・。〉

 それまでとはまた違うベクトルの不安が、私の心へと芽生え始めていた。

 

 それから三〇分ほど後のこと。何か巨大な物体が飛んでいると思い外を見る。

 空港が見えた。

 車が止まる。草戸が窓を開けて、外にいた人へ何かを提示した。

 「どうぞ」と言われ、車は再び走り出す。

 そこでふと、どこへ向かうのかをまだ聞いていなかったことを思い出す。普通ならあり得ないが、あまりに急な展開だったせいで気が回っていなかった。

 「あの、どこへ行くん・・・!?」

 車が停車したので目的地を聞こうと少し前へ体を乗り出したとき。私は、私の乗っている車がどこにいるのか気が付いた。

 何と、飛行機のすぐ後ろへ止まっているではないか。それも、かなり大きな飛行機だ。

 私は驚きのあまり言葉を失い、口をパクパクさせる。

 近付いてきた人に草戸が何かを提示する。それを確認すると、その人は走って飛行機の方へと向かう。

 その人が飛行機の中へ消えて一〇秒と経たず、飛行機に変化が生じた。何と、胴体の一部がパカッと開いたのだ。

 そんな飛行機あるの!?私は目が飛び出るのではないかというほどに目を見開く。

 そんなことはお構いなしと飛行機は変形を続け、あれよあれよという間に車が乗り入れられるようスロープが展開された。

 合図が出されると車は前進して飛行機へと乗り込み、合図で停車してエンジンを止める。

 草戸と佐藤は車から降りたが、私はいろんな事に驚きすぎて体が硬直していた。

 「降りて。離陸するから、輸送機の座席に移動して。」

 少しして、私が降りてきていないことに気が付いた佐藤がドアを開けてそう呼びかけてきた。

 「あ、す、すいません。」

 大慌てでシートベルトを外して、私は車から降りる。

 飛行機の中は天井が高く壁などにも化粧板はなくて、何というか倉庫のような見た目をしていた。

 「座って。」

 案内されるまま、壁に直接取り付けられている折り畳み式の椅子に腰かけてシートベルトを着ける。

 すでにエンジンは動いていたようで、それの完了と同時に飛行機は動き始めた。

 

 それからしばらくしてシートベルトを外していいといわれて、椅子に座っていても暇なので私は機内を当てもなく歩き回っていた。歩き回るといっても機内には仕切りなどがほとんどなく見晴らしはいいので、正直歩き回る意味はない。

 ふと、窓から外を覗いてみる。窓は小さく外を見ることには向いていない。もっとも、見えたところで外は暗いから分からないだろうけど。

 そのとき、ふいに私はあることを思い出し佐藤のところへ行く。

 「あの、今どこに向かってるんですか?」

 むしろ今までなぜそれに気が付かなかったのか。自分でも不思議なくらい、そのことをド忘れしていた。

 「日本宇宙航空高等学校です。」

 知っていて当然という口調で佐藤が返してきたが、そこは分かっている。

 「いや、それの場所はどこですか?」

 「知らないんですか?」

 「すいません。知らないです。」

 知っているのなら、わざわざ聞かない。少し頭に血が上ったが、私は言おうとした言葉を飲み込んで冷静に振舞った。

 彼女は面倒くさそうに「はぁ・・・」とわざとらしくため息をついたのち「馬毛島です」と言った。

 「知らないでしょうから教えてあげます。種子島の横にある島です。種子島はわかりますよね?」

 「ええっと・・・・・ロケットを打ち上げるところがある・・・ところでしたっけ?」

 「はい、種子島宇宙セ――」

 「えぇーッ!?」

 私は、思わず声を大にして驚いてしまった。

 「鹿児島じゃないですか!!」

 「そうですけど、何か?」

 私が突然大きな声を出したものだから、準備ができていなかった佐藤は私がいる側の耳を抑えながら不機嫌そうに言い返してくる。

 「聞いてないです!そんなに遠くにあるなんて!!」

 知らずについてきた私も大概アレなのだろうけど、教えてくれていればこんなに驚くことはなかったはずだ。

 いや、知っていれば私が拒むことを見越して、わざと教えてくれなかったのかもしれない。

 「あなたの勉強不足です。」

 何か言ってやろうとも思ったのだが、もしかしたら家には二度と帰ることができないのかなという思いが湧いてきて、虚脱状態になった私は少し離れた席に腰かけた。

 

 

 

 ふと目覚めると、夜中の三時だった。あの後のことは、よくは覚えていない。

 けれどひと眠りしたおかげか、精神状態は落ち着いていた。

 ベッドから起き上がり頭の中を整理してみる。思い出したのは、ここが宿泊施設ではない何かの施設の一室ということ。怪しい組織の施設ではないというだけは、何となくだけど分かる。

 立ち上がり、部屋のドアを開けて廊下に出てみる。非常灯が幾つか点いているだけでうす暗い。

 怖いもの見たさに一歩踏み出してみる、と。

 〈ッツ、眩しい。〉

 照明がパッと灯った。暗い場所になれた私の目には、照明の明かりは刺激が強い。

 もっとも一〇秒もしないうちに目は慣れるけど。

 天井を見てみると、数か所でチカチカと赤い光が点滅していた。どうも廊下の照明は人感センサー式だったみたい。

 廊下は清潔感のある・・・というよりは殺風景と言ったほうが正しいか、絵や窓といった装飾品はおろか、壁もよく見れば白ペンキでコンクリートを塗装してあるだけだった。

 〈少し散策してみよっと。〉

 何となくそんな気分になった。

 先ほどまではショックだったのに今は平気なあたり存外、私は知らない土地に行くのが平気なのかもしれない。

 もしくは、ただ開き直っただけかもしれないけど。

 しかし、そんな軽い気持ちで散策を始めたせいなのか、十数分後、立ち入り禁止の札を見落として防犯装置を作動させてしまい、慌てて部屋へと駆け戻ることとなる。

 幸いにも私は防犯カメラの死角を移動していたようで、単なる機械の誤作動として処理されお咎めを受けることはなかった。


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