アマランサス~人でなしとろくでなしの学生生活~   作:只の・A・カカシです

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たったの五行に数日使う。これって、如何なものか・・・。


希望の新入生(3)

 次の日は、朝から検査に次ぐ検査だった。何でも「専用の宇宙服を作るのに必要」ということらしい。

 特に身体測定はそれを作るのに必須ということで、身長・体重の測定に加えて3Dスキャンなどを複数回行ったために一時間以上も要した。

 それから遅めの昼食を摂って午後の検査に臨む。一発目は『適合率』というものを調べるものだった。

 それはHSSを動かすためのコア、正式名称は『カーススフィア』というものが人体と融合すのだが、どの程度馴染んでいるかを調べる検査らしい。この率が高い人ほどコア本体の能力を引き出せる傾向にあるのだと、教えてくれた人は言っていた。

 検査時の注意を聞いた後、私は測定を行うために直径が一メートルほどの円筒型の部屋へと案内される。

 「この足マークの上に立っていて下さい。」

 指示されて下を見ると、白い床に赤い黒の足マークが描かれていた。

 「こんな感じですか?」

 「はい、そのままでいて下さい。」

 バタンとドアが閉じられる。ドアには窓があり、外の様子は見ることができた。

 そのままでと言われていたが、私は検査が始まるまでの間に上を見上げる。天井付近に私が余裕で通れるほど大きな輪があった。

 しばらくして、その輪が動き出したので慌てて顔を戻す。

 一五秒ほど掛けて輪は天井から地面まで降下する。そこで五秒ほど止まった後、また十五秒ほどかけて天井へと戻っていく。

 『言い忘れてました。二回撮るので、まだ動かないで下さい。』

 マイクを使ってそれを告げてくる。すぐに輪が降りてきて、輪は一度目と全く同じ動きをした。

 「終わりです。動いていいですよ。」

 ドアが開けられる。私は少し上を見て、輪が当たる一にないことを確認してから動き始めた。

 「では、次の検査は三階に降りて――」

 検査は、まだ半分の項目しか終わっていない。パッと見る限り、大半の検査で内容が重複している気がしてならない。もしそうなら数カ所でできそうな検査だと思うのだけれど、多分素人の考えというものなのだろう。

 軽く息を吐き、私は案内をしてくれている人について部屋を後にした。

 

 

-*・A・*-

 

 

 四月まで残り二週間を切った週末。

 とある検査室は、今日も白衣を着た検査員達が忙しそうに作業を行っていた。

 「あれ?おっかしいなぁ?」

 その中の一人、パソコンを使って作業をしていた男は眉間に皺を寄せ、両手でゆっくりと前髪をかき上げる。

 「どうしました。」

 近くで作業をしていてそれを聞いた女が振り返って声をかけた。

 「この適合率の検査結果。おかしいんですよ。」

 女はおもむろに男の方へと移動し、「どれかしら」といいながら男のパソコンの画面を見つめる。

 「・・・確かに変ね。」

 そこに表示されている、のっぺりとしたレントゲン写真のような画像を見るや、それまでは少し眠たそうに話していた女の声色が急にやる気モードのそれに変わった。

 「見たことありますか?」

 「かなり痩せ体型の人がこんな感じになるとか聞いたことはあるけど・・・。」

 適合率の測定方法は、対象者に特殊な電磁波を当て、どの程度の反応を示すかで測定する。それには、輪っか状の装置を使用して頭の天辺からつま先までを検査するのだが、装置の構造上、細身の人は電磁波が当たる面積が小さくおかしな結果になることがあった。

 もっとも、その場合ならちょっとした処理で正しい値に辿り着くことができる。

 「いや、違うわ。検査のミスは・・・ないみたいだし、見たことが無い反応ね。」

 それはつまり、この結果はその通りではなかったということ。

 彼女がそれへ気が付くのに、さほど時間はかからなかった。この解析結果は、彼女自身の知っているいずれのものとも異なる特徴を持っている。

 女は男が広げていた検査記録の中から素早く目的のものを見つけ出すと、手に取って目を通す。

 「身長は同年代の女子と比べて高め、体重はほぼ平均。身体機能も正常。コアはEA31-007-5。いわく付きではないし・・・。」

 まれにハズレのコアがあり、反応がほとんど出ないこともある。しかし今回のものは今までに実績のあるコアであるし、何よりハズレのコアはもっと違う反応を示すと彼女は頭を悩ませる。

 「装置の不調とかでしょうか?」

 男は思いつきで尋ねてみた。

 「いいえ、装置も測定も不備はないわ。ここを見て。」

 即座にそれを否定すると、彼女は画面に表示されている微かな線を指差す。

 「これは?」

 「検査のときに着る服には金属線が織り込まれているの。測定が上手くできているかの目安に使うためにね。」

 その説明に、男は「初めて知りました」と感心する。

 「知らなくて当然よ。ここ十年、測定は失敗していないの。私だって、これを見るまで存在を忘れていたわ。」

 しばらく考え込んだ二人だったが、不思議な検査結果の扱い方に揃って首を傾げるのだった。

 

 

 

 週が明けて水曜日。

 「――ということです。以上のことを総合的に判断した結果、本来の半分しか存在していないという結論に至りました。」

 明るい色調の壁紙が張られた会議室。そこに集まった一〇人に対し、一人の白衣を着た男が報告を行っていた。

 「では、コアを他人と半分ずつ共有している。そう言う解釈でいいのだな?」

 「はい。前代未聞ですが、極めてその可能性が高いです。」

 「フム・・・。して、残りについて、どの程度の目星が?」

 「全くもって検討がつきません。」

 やや腹回りが太めの男の質問に、報告者はキッパリと言い切る。

 「と、なると。」

 「接点を持つ人物を手当たり次第・・・ですか。」

 少し面倒くさそうな口調で、二人の女性が呟く。それに触発されて、次々に意見が上がる。

 「どれだけ時間をかける気だ?」

 「見当がつかない以上、仕方のない手段かと。」

 「新しく作るほうが余程建設的だ。」

 「確かに、半分ずつを共有しているのなら、サンプルとしては絶対に確保すべきだ。」

 「はっ、何を言うかと思えば。彼女は能力を辛うじて使えるレベルのものだったんだろう?少なくない労力をかけてまで見つけ出す価値があるとは思えんな。我々は道化ではない。」

 各々の立場からの意見が飛び交い、会議は雑然としたものになる。

 「個人が発言するな!」

 かに思われたが、恰幅のいいほぼ白髪の男の一声に落ち着きを取り戻す。

 「今回の問題、見つけてしまった以上は遅かれ早かれ解決せねばならん。その役目が偶然、我々に回ってきただけだ。後藤検査主任、記録は?」

 「はい、指示の通りに処置いたしました。」

 その回答に軽くうなずくと、男は視線を戻して話を続ける。

 「見て見ぬふりをすることは、我らには許されぬ。」

 かくいうこの男も捜索には反対だった。だが捜索を行うことは彼よりも更に上の人間達により決定されているため逆らいようがない。

 それに今回は発見までの経緯を各部署に説明するための会議であり、する・しないの意見自体をぶつけること自体お門違いのことであった。

 「広報部は早急に検査対象者の抽出、検査部は直ちに移動測定車を該当の地域に展開させること。セキュリティー室、情報の拡散を極力抑えろ。細かな連絡は追って行う。入学式までには何としても間に合わせろとのことだ。解散。」

 

 それから二日後。特別に結成された捜索チームは、巡回の健康診断の医師や占い師などに扮して現地入りした。

 しかし、デタラメな結果を出せば不必要な疑いを掛けられる。特に健康診断チームの中には本物の医者も入れられており、対象者以外に行った健康診断などは正当な結果を出していた。

 急ごしらえの捜索チームではあったが、彼らは四日間で対象者とその他を含めた四〇〇人以上に対して検査を行った。

 しかし期待していた結果は、検査を行った誰からも得ることができなかった。

 

 「見つからなかっただと!?」

 日本宇宙航空高等学校が二日後に入学式を控えたこの日。とある部屋に、白髪の男の大声が響いた。

 「申し訳ございません。」

 「あ・・・すまん。これっぽっちも怒ってない。」

 バツが悪そうに白髪の男は謝った。

 「ただ、あれだけの数で当たらなかったのが驚きでな・・・。」

 今月の頭はエイプリルフール。男は、部下が自分を驚かせるために時間差口撃を仕掛けてきていると思っていたため、必要以上に驚いてしまった。

 左手に持った報告書を見つめながら、男は右手を顎に添えて考える。

 検査に出向いた地域の人口は一二〇〇人ほど。単純計算で、三人に一人は検査したと言うことになる。

 「成果なし・・・そうか、ご苦労であった。」

 男は部下を下がらせる。

 「何で俺がこんな思いを・・・。」

 そして一人になると苦々しくぼやく。誰がこんな面倒事に『GOサイン』を出してくれたのか、と。

 確かにHSSのコアには遊ばせておく余裕などない。

 しかしと、彼は事の発端となった彼女に行った能力試験を思い出す。

 彼女は、コアが本来持ちうる能力の一割も発揮させられなかった。そうならば片割れも能力が制限されている確率はとても高い。

 〈中止を嘆願するか・・・いや、もはや手遅れか。〉

 捜査を開始してしまった手前、抑えようとも情報は時間とともに広がっていく。マスコミに知れる前に発見しなければ、貴重なコアの扱いがずさんすぎるという批判を浴びることは明白だ。

 時間が圧倒的に足りていない。こんな短期間で片が付く問題なら、そもそも問題にすらなっていなかったことだろう。

 男は背もたれに身を預けると、フーッと息を吐いて何もない天井を見つめるのだった。




2020/5/19 一部修正しました

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