アマランサス~人でなしとろくでなしの学生生活~   作:只の・A・カカシです

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安心して下さい、失踪はしていませんよ。
気が付けば、前回の投稿から10ヶ月も開いていました(汗


希望の新入生(4)

 「・・・ん?」

 その日の夜、検査員の雨ヶ谷(あまがや)が私物の忘れ物を取りに職場へと戻ると照明がついたままになっていた。

 年に数回ほど消し忘れをすることがあるので、彼は特に不審に思うことなくICカードをかざして解錠。ドアを開けて入室した。

 〈誰か居る?!〉

 中に入りドアを閉めた途端、布のようなものが擦れるような音が聞こえて彼は思わず屈む。

 〈泥棒か?〉

 普通の思考なら安全を優先して逃げるとか応援を呼ぶとかするところなのだが、動揺のために状況確認を優先した彼は四つん這いの状態で恐る恐る前進する。

 浅く速くなる呼吸を抑えながら、彼はゆっくりと棚の影から顔だけを覗かせる。

 〈いる!!・・・あ。〉

 そこには白衣を着た男がいて、そいつはパソコンの前に座っていた。そして雨ヶ谷は、その姿が後輩の広元(ひろもと)のものであると気が付き、「ふーっ」っと大きな息を吐き立ち上がる。

 「ビックリさせるな、お前かよ。」

 「んあぁ?!・・・ビックリした、雨ヶ谷さんか。」

 睡魔に襲われていたのか、声を掛けるや椅子が跳ねるほどの勢いで振り向く。

 「こんな時間まで何してるんだ?」

 彼は机に手をついて、後輩が操作していたパソコンの画面をのぞき込む。

 「・・・これって、この間のやつか?」

 そこに表示されているものを見るや、彼の表情は仕事モードになる。

 「えぇ。気になったことがありまして。・・・これを見てください。」

 彼は表示していた画像の横へ、タッチパネルの画面を操作して最小化していたウィンドウを最大化した。

 「こいつはノイズ観測機のデータだな?」

 それは融合者の適合率を調べるとき、宇宙線や電波などの外因によって結果が狂ってしまった場合に、このデータを使って適合率の結果に補正を入れるもの。

 「そうです。何か気が付きませんか?」

 「何か気が付きませんかって言われてもなぁ。そもそも補正を入れるためのデータだろ?見て何かわかるのか?」

 「いえ、これを見ても何も分からないと思います。でも何を観測した数値化なのかは分かりますよね。例えばこれはハイブリッド自動車、これは鉄道、ラジオ電波、携帯回線・・・。で、わかるやつらをまとめて削除すると・・・見覚えないですか?」

 「・・・・・いや、無いな。」

 考えてみたものの、やはり答えは思い付かないようで雨ケ谷は諦める。

 「ですよねぇ。私も見覚えがないんですよ。」

 なんだそれは。虚を突かれガクッとよろめく。

 「じゃあ、それは何のためにしてるんだ?まさかそれは言い訳で、本当はプライベートの作業をしていたわけじゃないだろうな?」

 見られてはマズいことをしていたから、誤魔化すために作業をしている振りをしたのではないのか。そんな風に勘ぐってしまう。

 「職場のパソコンでプライベートのことはしたくないです。特にここのパソコン、扱ってる内容の割りにセキュリティーが甘いですから気持ち悪いですし。」

 「確かに。それは俺も同意する。」

 広元は再びパソコンを操作すると、とあるファイルを開いた。

 「そいつは(くだん)の被験者のデータか?」

 雨ヶ谷はファイルの名称から、瞬時に誰のデータか気づいた。

 「はい、その通りです。ご覧になってますか?」

 「見たけど・・・これといった特徴はなかったように記憶しているが・・・。」

 やはり気が付いたのは自分だけだ。彼は自信を持って説明を始めた。

 「言い方は悪いですけど、暇だったのでこのデータを解析してたんです。そしたら見たことのない波形が捕らえられていたんです。」

 彼は先ほどと同じ操作をして、データから余計な箇所を取り除く。

 そうして現れた波形と、最初から広元が開いていた画像を雨ヶ谷は見比べる。

 「んー・・・確かに似てるな。」

 「似てるんじゃないんです。全く同じなんです!」

 もし少しでも違いがあったのなら、絶対に見つけられなかった。広元はそう言い切る。

 普段は大人しい後輩の見せた本気。雨ヶ谷は根拠が気になる。

 「・・・それが正しかったとして、誰から検出されたデータなんだ?」

 「分かりません。」

 「分からない?」

 データには被験者の情報が記載されているのだから、特定は容易に行える。にもかかわらず分からないというのは、どういう理由なのか理解できない。

 「じゃあなんだ?機械を止め忘れて回してたら偶然記録されたとか、そんな理由か?」

 「流石です。まさにその通りだそうです。」

 納得がいかない雨ヶ谷は首を傾げながら「そんなことあるか?」と呟くと、「あるみたいですよ」と広元は素早く応じる。

 「データが随分と多いなって思って聞いたんです。そしたら『ノイズ観測機は電源投入時に狂うから電源が切れなかった』って。ここに設置している時は補助機器があるから電源の入り切りは問題ないけど、補助機器が、どっちが本当の本体だって言いたくなるほど大きいって言ってました。」

 「微妙に納得しがたいけど・・・。仮にこのデータが正確に観測できたものだとして見当は付けられるのか?」

 「四日のうち三日で観測されるので間違いなく本当です。」

 広元は、シレッと先輩の言葉を訂正しながら返事をする。

 「記録はほとんど決まった時間で、それに朝と晩の二度観測されている日も一日あったので通勤か通学か。間違いなくこの機械が設置された場所の近くを通っています。周辺の防犯カメラの映像から割り出せると思います。」

 自分の考えは言い切った。広元は先輩の反応を窺う。

 「・・・着眼点は面白いな。係長に相談してごらんよ。明日から手が離せない仕事にかかるから手伝えないけど、調査する価値は十分にあると思う。ま、何にしても今日は遅いから切り上げて帰れよ。明日に響くぞ。」

 そう言い残すと、雨ヶ谷は忘れ物を取りに来たことなどすっかり忘れて手ぶらで帰っていった。

 因みにその忘れ物とは携帯端末で、それにセットされていた目覚ましにより、報告書の作成途中で寝落ちをした広元は翌朝叩き起こされた。

 そして雨ヶ谷はというと、別に朝に弱いタイプではないのでいつも通りの時間に出勤してきたのだった。

 

 

-*・A・*-

 

 

 生まれ育った家を出てから一カ月近くが経った。今は学校の寮で生活をしている。

 最初の頃は一人暮らしのような雰囲気で少し楽しかったけれど、次第に一人のさみしさの方が強くなってきた。

 原因は新学期に向け、徐々に寮に人が増えてきたこと。

 この学園の寮は三人一部屋が基本で、各部屋に一・二・三年が一人ずつになるように割り当てがされる・・・のだけれど、私は一人部屋だった。

 聞いたところによると、合格発表のあとに私の入学・・・と言うかねじ込みが決まり、人数が中途半端になったせいらしい。

 まわりの部屋からは声がするのに、私は一人。

 これから同じ学び舎でやっていくのだからと、いくらか知り合いは作っておこうとはした。

 けれど日本宇宙航空高等学校という名前からするイメージとは裏腹に、生徒のほぼ全てがいわゆる裕福な家庭の生まれのように見えた。高飛車な人は今のところ見ていないにしても、何となく話し掛けづらさを感じる。

 だからというわけではないが、来た頃は散歩とかランニングとかしていたけれど、それも徐々に減ってここ一週間は引き籠もっている。

 〈あ~ぁ、嫌だなぁ。〉

 そして何より、私を嫌な気分にさせているのは、明日に迫った入学式。

 何とかその気分を紛らわせようと早く布団に入ったものの中々寝付けない。

 時間だけが過ぎていく。窓から見える他の棟の寮では電気が少しずつ消えて、私のいる棟でも時折聞こえていた笑い声が静まり夜更けを告げる。

 

 〈あ~・・・眠たい。〉

 結局寝付いたのは何時だっただろうか。少なくとも一時は記憶にある。

 現在、入学式のまっただ中。暇を持て余して、私はこっそりと会場を見回してみる。

 前々から分かっていたことではあるけど、生徒のみならずの教職員まで一〇〇%が女子というのには改めて驚かされる。

 この学校は女子校ではない。ちゃんと男子生徒も募集をしている、れっきとした共学なのだから尚更だ。

 そうは言ったところで、私がここを辞められるわけではない。

 住めば都という諺があるように、特殊な環境ではあるけれど気が付けば馴染んでいるだろうと自分に言い聞かせた。

 

 

 

 「九谷さん、少しよろしいですか?」

 なんていう私の思いは、翌週の頭にいきなり打ち砕かれた。

 「な、何?」

 もの凄い剣幕で私に詰め寄ってきたのは、クラス委員長の若狭さんだった。

 何かしでかした記憶がないので、なんでここまで彼女が怒っているのか私には全く検討がつかない。

 「何ですか!あの点数は!!」

 「あの点数?」

 理解が追いつかない私がそう聞き返すと、若狭さんは頭に手を当てわざとらしく深い溜息をついた。

 「とぼけて逃げるおつもりですか?今まではそれで通り抜けてこられたのでしょうけど、私の目は誤魔化せなくってよ!」

 本当に分からない私はオドオドして、隣の席の子に助けを求めようとして目をやる。けれど、その子は申し訳なさそうに手を合わせて「ごめん」とやると、私から視線を切ってしまった。

 それでようやく、私が本当に分かっていないことを理解したのだろうか。さらに彼女の怒りはヒートアップした。

 「えぇ、いいですわ。教えて差し上げます。先週のテストの点数です!」

 「テストの?」

 赤点をギリギリ回避するような、そんな低レベルな点数は取っていないつもりだ。

 「えぇ、そうです。私ビックリしましたわ。この学校は、一年生のクラス分けは成績で決まっていると聞いてました。勿論、一組が優秀な生徒が集められているのです。ところがテストの平均点、一組は一位ではなかったのですよ!」

 なんで平均点なのに私だけを狙い撃ちなのだろうか。

 「えっとー、平均点って何点だったっけ?」

 「九四点です。まさか確認されていないのですか?!」

 「あ、あー・・・そうじゃったね。・・・って九四?!」

 一〇〇点満点のテストでこんな平均点で出る。普通じゃない。

 迂闊に点数を聞いたのは間違いだった。

 「その反応を見る限り、どうやらご存じなかったようですわね。」

 マズい。逆鱗に触れた。声のトーンの変化でそれが分かった。

 「私、気になって聞いてみましたの。」

 若狭さんはブレザーの内ポケットから紙を取り出し私に差し出した。。受け取った私はそれを広げて見て驚いた。そこには、にわかに信じがたいことに私を除く1組全員の点が書かれていた。それも午前の授業で返されたばかりのテスト結果が。

 「聞いたって・・・まさか、全員に?」

 私は『本当はそんなことしてないよね?』と、彼女の性格からしてあり得ない冗談の可能性を、わらにもすがる思いで聞いてみた。

 けれど――

 「ええ、その通りです。」

 当然のことですが何かと言わんばかりに答えられてしまった。

 「まったく、参りましたわ。食堂で1組の生徒を捜して回るのがどんなに大変だったか。」

頭に手をやり、やれやれと言った表情で更に続ける。

 「いいですか?あなたを除いた平均点は九七点。これを九五.五点にまで下げようとしたら、あなたは50点しか取れていない計算になるのです!どうなのですか?!」

 私を除いたら九五点超え!信じられない。

 「ご、ご名答です。」

 急に自分の点数が惨めに思えてきた。

 それにしても、先生でもそこまで厳しくはない。クラスメイトは怯えて、お手洗い(お花摘み)に行こうとした生徒さえも席に戻り勉強を始める。

 「良くこの学校に受かりましたわね!」

 その一言に、私はつい言い返してしまった。

 「ごめん、うち受験してないんよ。」

 刹那、若狭さんに集中していた視線が驚きをもって私に向き変わる。

 一瞬で静まり返った1組の教室。

 しまったと思ったのは後の祭り。若狭さんは、バンッと私の机を叩いた。

 「そうでしたか。噂には聞いていましたが、あなたがその融合者様ですか。」

 クラスメイトの視線には、先ほどとは別の感情が籠もっていた。

 「私も融合者ですが・・・あなたにはどうにもその覚悟はないようですわね。」

 次は何を言われるのか。私はビクビクしていると、若狭さんは踵を返して自分の席に向かって行った。何でだろうと思っていると、授業開始のチャイムが鳴る。

 これからこんな生活が続くのか。そう思うと心が重くて仕方がなかった。

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