アマランサス~人でなしとろくでなしの学生生活~ 作:只の・A・カカシです
日曜日の朝、五時。彼らは交通量調査のスタッフに扮し、駅の改札の出口に張り付いていた。
「必ず来る。」
小さく声に出した所長。その横で、広元が
「朝は苦手か?」
軽く笑いながら所長は話し掛けてくる。
「得意ではないですけど・・・、昨日が遅かったので。」
ターゲットには振り切られてしまったが目星はついたので機材の引き上げを決定し、昨夜は遅くまで片付けをしていた。
「はっはっは。若いうちは何しても眠たいよな。昔は私もそうだったよ。」
時折、目を擦って眠気と格闘する広元に所長は声をかけた。
「しかし・・・人が来ませんね。」
「まあ、日曜日だからな。」
始発電車が到着するまで、あと一〇分ちょっと。小川が暇そうに伸びをする。
「高校生ですよね。普通のお客さんが来ないのに高校生が来ますかね?」
「分からない。分からないけど、待ってみなくちゃ分からない。」
いきなり会えるなどという期待は、所長もしていない。けれど、可能性があるのでこうして張り付いている。
「もうちょっと人通りがあっても・・・って、あ。来た。」
などという会話を交わした直後だった。
昨日見かけたカバンと同じカバンを持った高校生が左手側からやってきた。
「・・・二人居ますね。」
「右のデカい方がそうか?」
遠目には似ているように見えたが、近付いて来ると顔が全く違っていた。
「・・・違いましたね。」
「まあ、来たのが反対側からだしな。」
余程のことがない限り、ターゲットは自分たちの右側から来るはずだ。駅周辺の道を地図で調べ、その結論に至った。
そして始発到着まで五分を切ったときに、またしても左側から同じ制服とカバンの高校生が歩いてきた。
しかし今度は遠めに見てもターゲットではないとわかり、三人は興味を失う。
その後は誰も通ることなく、始発電車がヘッドライトを煌々と輝かせホームに滑り込んできた。
「始発は無しですかね。」
「そうみたいだな。三人来たから来ると思ったんだけど・・・。」
「遅刻したか、通学のグループが違うのか。」
「分からんな。ただ、制服は間違いなく同じだったぞ。」
小川と所長が話をし、広元がまたあくびをした。
不意に彼らの前を、右側からほとんど足音もなく人影が駆け抜ける。
「いや、このタイミング邪魔に合わな・・・って、あらッ?!」
それはほとんど減速することなく自動改札を通って、瞬く間にホームへと駆け下りていく。
そいつの格好は、先ほどの学生と同じカバンに制服。
北方向も、予測していた右方向からだ。
声に出して驚く暇もなく、大慌てで三人は駆けだす。自動改札が警音を慣らしながらゲートを閉めるが、彼らはそれを強行突破して後を追う。
ほとんど時間差はなかったはずだが、ホームにたどり着いた時には電車は動き出していた。
車掌の少し申し訳なさそうな表情とともに、電車の最後部が三人の前を過ぎる。
姿は見えないが、乗り遅れた可能性もある。そう思ってホームを探してみたが人影はどこにも見当たらない。
「・・・行くぞ。」
集まった直後、所長がそう呟く。
「行くって、どこへですか?」
「あの制服の学校だ。」
「えっ、でも学校に乗り込んだら騒ぎが多くなりませんか?」
「なるだろうな。けど、人の口に戸は立てられぬっていうだろ。狙い撃ちで外しても、結局、我々の行動は広まる。」
「うーん、言われたらそうかもですけど・・・。」
所長の意見に小川は今ひとつ納得できない様子。
と、広元が所長に援護射撃をした。
「観測機を片付けたんで、どの道やり直しは利かないですもんね。」
所長自らレンタカーを運転し、カーナビの案内に従い目的の学校付近に到着したのは六時一五分。
カーナビが案内を終了する。丁度、路肩にゼブラゾーンがあり、他車の邪魔にならないのでそこへ停車する。
三人は車から降り、正門を見に行く。それは開いていた。
「部活動の試合でもあるんですかね?」
広元がそう言うと同時に、ターゲットの物と同じ制服とカバンの生徒が一人、登校してくる。
日曜日の、しかもこんな早朝に登校とは随分と部活動の熱心な学校だなと三人は思う。
「取り敢えず中に入ってみるか。」
一日でもっとも寒い時間帯。さすがに零度を下回ることはないにしろ、ここに立ちっぱなしは辛い。それにターゲットを待ち伏せのために学校の正門の正面を行ったり来たりしていては行動が不審者そのものだ。
三人は車に戻り、そして車ごと学校内に移動。ターゲットを車内で待つことにする。
「そう言えばですけど、あの生徒は通った後って可能性はないですかね?」
「それは、あるかもな。」
それから三人ほど登校してきたが、いずれもターゲットではなかった。
「聞きに行ってみますか?」
未だ行動を見せない先輩にしびれを切らし、広元が口を開いた。
「聞くと言ったって、どうやって聞くかがな・・・。」
所長は困った顔をする。小川もまた同様だった。
そんな先輩に、広元は首を右へ傾げる。
「いや、何のために顔をカメラで記録したんですか?」
「「・・・あ。」」
二人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。自分達で見るために撮っていたので、人に見せるという発想を持っていなかった。
所長はばつが悪いのか、おもむろに姿勢を正してから車を発進させる。
生徒が進んでいった場所をたどり、敷地の奥に進んでみる。
進行方向左に校舎を見ながら進む。
ほどなくして部室棟らしき建物が車のヘッドライトに照らし出される。
人影も見えたのでそこへ向けて進む。
やがて校舎の陰から体育館が姿を現す。
そのまま前進を続け体育館前に到達するという時、所長は車を止めた。所長はそのまま直進しようとしたが、地面にバドミントンのコートのような線が引かれているのが目に入ったからだった。
どうしようかな。所長は車を止められそうな場所を探して周囲を見回して、体育館と校舎との間隔が意外と広いことに気が付く。
両者の間隔は一〇メートルほどあり、そこには駐車枠のような物が引かれていた。
あまり奥まで行っても仕方がない。所長は一番近い駐車枠に車を止める。
三人は車を降りて辺りを見回す。人の影はない。
「おはようございます!」
「「「!!!」」」
作戦会議をしようと三人で向かい合ったとき、大きな声で挨拶をされる。
驚きつつそちらに目を向けてみると人が歩いて近付いてきていた。
不意を突かれたのでターゲットかと色めき立つが、身長が違ったので軽く肩を落とす。
もっとも、暗いので生徒かどうかの判別もできない。
その人は彼らの方に向け歩いてくる。
「すいません、お尋ねしたいことがあるんですが!」
挨拶をしてくれたので自分達に声を掛けに来てくれたのかと思ったが、スルーっと前を通り過ぎていったので所長は慌てて呼び止める。
「え?・・・あ、はい、何ですか?」
その人は方向転換して、彼らの方へ近付いて来る。
声もやや高く、体格からしても学生のように見える。だが探しているのは学生なので、むしろ好都合と尋ねてみる。
「朝早くから申し訳ないのですが、人探しをしていまして。この人って分かりますか?」
所長は広元からタブレット端末を受け取り、その生徒に見せる。
「あのー、僕新入生で顔が分からないので、ちょっと先輩を呼んできてもいいですか?」
「お願いします。」
彼は駆け足で部室棟の方へと向かっていき、体育館の陰に消える。
ほどなく、体育館の陰から人が現れ向かってくる。身長が先ほどより大きく見えるので、別の生徒のようだ。
「おはようございます!」
声が違ったので違う生徒だと分かる。その生徒もまた、三人の姿を見て挨拶をしてきた。
今までこれほどに挨拶をされたことがなかったので三人は戸惑う。
「お待たせしました。えーっと・・・どの人ですかね?」
最初の生徒は、どうやら軽く話をしてくれていたようだ。
気が利くなと感謝しつつ、所長は「この方なのですが」と言いながらその男子生徒に写真を見せる。
写真を見るや、彼は「えっ」と声を漏らした。
「これは・・・これは僕ぅーですね。」
「あ、あなたです・・・え?」