アマランサス~人でなしとろくでなしの学生生活~   作:只の・A・カカシです

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希望の新入生(8)

 「僕ですね。」

 驚いて硬直していたのを聞き取れなかったと感じたのか、その生徒はゆっくりハッキリと口にする。

 三人は頭だけを動かして、画面の光に照らされる彼のかを見る。確かに、画面の中と同じ顔がそこにあった。

 「「「えぇ!?」」」

 硬直が解けた三人は驚いて大きな声を出す。

 これまで探しに探しあげて、ようやく尻尾を掴んだと思ったら逃げられるを繰り返していたため、こんなにコロッと出てこられると心の準備が間に合わない。

 「え、あぁ・・・えーっと。」

 この後に及んで、どう切り出すか迷ってしまう。

 まごつく三人を見て、彼は少し首を傾げた。

 しかし、ここで遠回しの言い方をしても意味がない。所長は自分たちの所属を告げる。

 「私達は日本宇宙飛行士養成機関の者です。」

 「・・・HSS学園の関係者ですか?」

 「「「!?」」」

 開口一番にそれが返ってくるとは想像していなかった。

 まるで自分たちのことを見透かされているような気がして、彼らは落ち着きを失う。

 「あれ?違いましたか?」

 「い、いえ!まさしくその通りなのですが、どうしてそう思われたんですか?」

 「どうしてって言われても・・・先月も、いらっしゃっていたのではないですか?」

 「え?来たことなんかあったかな?」

 「所長、我々じゃなくて別部署じゃないんですか?」

 何を思ってか悩み始めた所長に、広元は咄嗟に助言をする。

 「あ、あー、そうだ。我々の話じゃないよな。あははは・・・。」

 何とか笑ってごまかそうという魂胆が隠しきれていない。そのせいもあって、三人は男子生徒に警戒心を持たれる。

 「ちなみにですが、その話はどこで聞かれましたか?」

 「どこでってことはないです。近所じゃもう全員知っている話ですから。」

 「そうでしたか・・・。」

 これと言った内容のある会話ではないのに、所長は心の動揺はスーッと小さくなる。

 すると、こんなに遠回しに話をしても全く意味のないことに気が付いた。

 「実は私たちがここに来たのは、あることを調べていまして。広元君、あの装置を出してくれ。」

 所長の指示を受けた広元は車のトランクを開け、それを取り出す。

 「取り敢えず、この装置の金属線を握っていただきたいのですが。」

 彼が取り出した装置は、ただの四角い箱と言った方が早い見た目で、不自然に生えている金属線が余計に装置らしさを打ち消している。

 この装置は、この捜索のためだけに急ピッチで開発された、被測定者にカーススフィアの反応のある・ないを調べる判定機。故に、唯一付いているメーターには、メモリが適当に刻まれていた。

 「これを・・・ですか?」

 警戒しつつも、男子生徒は彼らの言葉に応じて金属線を握る。

 緊張した面持ちで、三人はメーターを見守る。

 彼らが受けた使い方の説明では、結果が出るのに早くても一〇秒は掛かると聞かされた。

 ここまで来て、もしも反応が出ないようなことがあったのなら。一〇秒という時間が三人にはこれまでに経験したことがないほど長いものに感じられ、よからぬ結果が脳裏をよぎる。彼もまた、空振りではないのか、と。

 「あ!!」

 自信がなくなり始めたとき、メーターの針がふわりと動いた。

 広元は思わず声を漏らし、そして先輩たちにメーターを見せた。

 三人は互いの顔を見あう。

 所長はすぐに姿勢を正すと、軽く咳ばらいをして話始める。

 「松木さん、今からするのはまじめな話です。よく聞いてください。あなたはカーススフィアと融合しています。」

 「カーススフィア?」

 ピンとこないのか、彼は首を傾げる。

 「えーっとですね。カーススフィアとは一部の宇宙飛行士に与えられ――」

 「あぁー、はいはい。思い出しました。アレですか。」

 本当に理解しているか疑わしいところではあるが、確認している暇はない。

 「あれです。あなたはそれと融合しています。」

 「僕が、ですか?いやー、そりゃあり得ないでしょう。見たこともないですし。第一、男ですし。」

 いや、思いのほかしっかりと認識しているな。所長は言葉に困る。

 「まぁ、普通はそうなんですけど・・・。」

 「この方はご存知ですか?」

 それをじれったく感じた広元が、はがきサイズの紙を松木に見せる。

 「・・・それを聞いてどうするんですか?」

 急に声のトーンが変わった。何を見せたのかと焦り、所長は広元の手からそれを取って表を見る。それは一人の少女が写った写真だった。

 「説明をしろ、先に。」

 余計な警戒心を抱かせてどうすると言いつつ、所長はその写真を再度松木に見せる。

 「実は彼女のことについてですが、カーススフィアを半分しか持っていないのです。これはあり得ないことで、我々は何度も見直しをしましたが事実です。で、本題ですが、どうやら残りの半分は松木さんと融合しているようなのです。先ほどの検査でも、あたりがありました。」

 所長が話し終えると、彼は顎に右手を当てて考え始める。

 「あの、松木さん?」

 所長が名前を呼ぶも反応がない。

 突然、彼は右手を三人の前に突き出した。彼は手に何も持っていないことを見せるようにひらひらとさせた後、手を軽く握って拳を作る。

 一〇秒ほどして、彼はその手を開いた。彼の手のひらの上には、消しゴムが一つあった。

 何故ここで手品の披露を。三人が頭に「?」を浮かべていると、彼はおもむろな口調で話し始める。

 「ひょっとして、これってカーススフィアの能力なんでしょうか。」

 次の瞬間、消しゴムは手のひらに吸い込まれるように消えていく。

 「「「!?」」」

 逆にこれを何だと思っていたんだ。そう問いただしたいところではあったが、間違いないと断言できる証拠が得られたので彼の確保が先決だ。

 「間違いなくカーススフィアによる能力です!」

 高揚する三人とは打って変わって、松木は合点がいったような、そんな表情で自身の手を見つめている。

 「それで松木さん。本題の方に入りますが、日本宇宙航空高等学校へ入学・・・じゃないな、転校してもらいます。」

 何を言われたのか理解できないのか、しばらく彼は固まる。

 「・・・え?それは僕が、ですか?」

 「そうです。」

 彼は信じられないとでも言いたげな表情を浮かべた。それはどちらかと言うと、悪い意味の方で。

 「あのー、あんまり頭良くないんで、自身がないんですけど。」

 「あぁ。そこらへんは大丈夫です。」

 ピクッと彼の眉が動く。

 「それは、実験動物的な意味ですか?」

 ギクリ。彼を探し始めた理由の一つを、その本人が鋭く突いてきた。三人は、嫌な汗が噴き出す。

 ここで彼を説得できず、事情が世間に広まるとややこしいことになる。頭をフル回転させて、穏便にすませる方法をひねり出そうとする。

 「そうなんですか?」

 だめだ思いつかない。所長はあきらめて、素直に答える。

 「その通りです。」

 「分かりました。行きます。」

 「ですよね・・・?」

 作戦が甘かった。後悔する三人は、しかし彼の言葉に理解が追い付かない。

 「え?何と?」

 「いや、僕が転校しないと困るんですよね?行きますよ。」

 この流れでどうしてそうなるのか。所長はたまらず尋ねる。

 「いろんな実験とかに参加させられるかもしれないですよ?」

 所長は、自分が先ほどと逆さまのことを言っていると分かってはいたが、言わずにはいられなかった。

 「流石に倫理に触れることまではしないですよね?」

 それはまあ、するわけがない。所長は首を縦に振る。

 「だったら別に、自動進級が付いてくるようなものですし。僕としては断る理由はないです。」

 世の中、何が琴線に触れるのか分からないものだ。結果から言えば、うまくいった。うまくいったけど、所長は面白くなかった。

 「それで、僕はどうすればいいんですか?」

 しかし、そこは仕事と割り切って対処する。

 「手続きがあるので、我々に同行してください。」

 「今からですか?」

 「今すぐで。」

 「分かりました。ちょっと荷物を取りに行ってくるので待っていてください。」

 どうぞというと、彼はダッシュで体育館の陰に消えていく。

 そのまま待っている方がいいのだろうが、ずっと立っていただけなので体が冷えてきた。寒さに耐えかねて、三人は車の中に退避する。

 五分ほどして、車の窓がノックされた。

 「お待たせしました。」

 外から彼が呼びかけてくる。

 広元が車から降りて、松木のカバンを積むためにトランクを開ける。

 「それでは、保護者の方に話をしたいので、自宅の方に案内してください。」

 「分かりました。取り敢えず、正門を右に出てください。」

 全員がシートベルトを締めていることを確認して、車は動き出した。

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