TOA~Another Story   作:カルカロフ

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何者にも成れない僕と……

 アリエッタとの殺し合いを終え、ルークは一度風呂に入り、朝食も食べなかった反動で少しだけ早い昼食を取る事にした。

 

 11時半の食堂には疎らに人がいる。そこには桃色が金色の後を雛鳥のように付いて回る光景があった。

 

 「なんだ。アリエッタも食べに来たのか?」

 

 「うん。お腹すいたから」

 

 確かにあれだけ大泣きすれば腹くらいは空くだろう。

 

 アリエッタはいつもの暗い雰囲気を感じさせない声で返答する。先ほどまで殺し合う仲だったようには見えない。

 

 「へぇ、今日はポークステーキか。おぉ! マーボカレーもある」

 

 「どれだけ食べる気なんだ……」

 

 ルークが後先考えないでトレーの上におかずを乗せていく。

 

 マーボカレーにポークステーキ。サラダにマフィン。デザートにクレープをチョイスしてた。その量を見ただけでリグレットは、眉を顰め小さな声で胸焼けがする。とコメントをした。

 

 食べ盛り伸び盛りのルークにしてみれば適量である。

 

 「いいだろ? 朝飯食ってないんだから。にしてもお前は随分、ヘルシーだな。それで筋肉が付くのか?」

 

 「食生活を管理しているだけだ。肉料理もたまに食べる。それに筋力などもう衰える一方ならば無理して付けるより、別の戦闘に切り替えるのも軍人の務めというものだ」

 

 「いや、まだ若いだろ?」

 

 「肉体の衰えは意外と早い。過信しては生き残れない事もある」

 

 諦観であり真理でもある。

 

 残念なことに男性に比べ女性の筋力低下は早く著しい。どんなに頑張って訓練しようとも、衰えは見えてくるものだ。

 

 それを熟知しているからこそリグレットは小さく項垂れるしかない。もとより兵士の寿命は短いのが定めである。彼女も受け入れた結果だ。だからこそ彼女は新たな武器として開発段階の代物である譜銃を使い、短命の命を長らえさせる方法を若くして取り入れているのだ。

 

 自身の力の象徴であり、弱者の証でもある譜銃。

 

 それを複雑に思いながらリグレットは、いつも座る席に腰を下ろし、隣にアリエッタも付いてくる。おまけでルークが何時ぞやの時のように目の前の席に座った。

 

 「色々考えてんだな。んで、今回のアリエッタに戦闘をレクチャーしたのはお前だよな?」

 

 「あぁ、視界を塞いだりライガで動揺を誘ったり。ただ闇雲に突っ込ませれば完敗が目に見えるからな」

 

 「ほぉ、なんでそう思ったんだ?」

 

 リグレットの見立てにルークも感心した。少なくともリグレットの作戦はルークに通用したのだ。なぜ彼女が作戦を立てる面倒まで見たのか個人的に気になる事も多い。

 

 「お前が言ったのだ。ネビリムの処遇に対して、幾らか戦った事があると。つまり、六神将と戦った回数など星の数だろうとな。手の内などもう曝け出している程度の話ではない。そうだろう? これがお前の最大のアドバンテージだ。預言に匹敵する未来予測。敵対する人物の情報など全て記憶から取り出し、周到な準備に作戦。むしろどう勝てと?」

 

 「ははは! それをたった一回の会話で予測出来たお前に言われたくもねぇよ。あんとき余裕がなさそうなのも演技か?」

 

 「あれが演技なら私は教団ではなく劇団にでも入っていたさ」

 

 探り合いカマを掛け、それでも両者は尻尾を掴ませない。

 

 他に何か隠し事は無いか、他に何か決め手は無いか。そんな事を思いながらの食事など美味しい筈もなく、二人は味のない昼食を続けながら話し合いも続ける。

 

 「俺としては仲良くしたいんだけどな。これから忙しくなるし、なによりアッシュ達との交戦は避けられない。俺は負けるつもりもない。そのためにも六神将を選んだんだ」

 

 「そうだな私も気になっていた。なぜ昔の仲間を捨てて六神将を選んだ? 世界を壊そうとしている連中の仲間になってどうしたい。世界を救うだの今の人類で未来を目指すだの、それこそティアたちと組んだ方が勝率効率とも良いはず」

 

 六神将、並びにヴァンを従える事にした理由にルークは、マーボカレーを食べる手を一旦止める。

 

 「それは、お前らと組まなきゃお前たちが罪人になるだろう? やり方はどうあれ、六神将も真剣に未来について考えてレプリカ計画を選んだ。今の人類に少しでも恨みつらみがあって、つい選んだとしても、それでも六神将やヴァンを罪人で終わらせたくない。俺は預言(スコア)を覆すんだ」

 

 「……罪人、か。確かにお前が思い描く未来になれば六神将は罪人でしかない。だが、本当にそれで覆せるのか? 星の記憶とはなんだ? 預言はどうして外れない? なぜお前がありもしない世界の記憶を見た? ラルゴはお前の記憶は狂言ではないと言った。私は、お前も一種の預言のようで恐ろしいよ」

 

 「だろうな。人の過去を暴く事なんて朝飯前だからな。預言に見えても文句も言えねぇし。残念だけど今はリグレットの問いに答えられない。それに俺でもなんでこんな記憶があるのか知らない。それだけだ」

 

 多く答えなかったルークだったがリグレットは特に訝しがる様子を見せない。味噌汁を一口飲み、少し間をあけた後、小さく尋ねる。

 

 「お前は、世界を怨んでいるらしいな?」

 

 「ラルゴから聞いたな。ッチ、あのおっさん後でしばくか」

 

 「話を逸らすな。それでも世界を救うのは、自分の為か? それとも何かに縋っているのか?」

 

 「……両方だ。俺は多くのルーク、どっかの世界の自分が描いた世界を見てみたい。だから世界を救いたい。そしてそのルークに俺は縋っている。でないと、そうでもしないと」

 

 言いよどみ始めるルークの言葉をリグレットが継ぐ。

 

 「世界を殺したいほど怨む自分に飲まれそうになる、からか。難儀な爆弾を抱えてるんだな。でもお前は世界の平和を望むルークだ。それは絶対に変わらない」

 

 「どうしてそんな事が言えるんだよ?」

 

 「……自分一人で罪を背負おうとしている馬鹿なんぞそんなモノだ。自己犠牲の精神など破壊者が抱くものか」

 

 ため息を付きそんな事を言ってリグレットは一足先に食事を終わらせる。特に楽しい食事でもなかったがルークは今日のメニューの事は忘れられそうにない。それは、単に彼女との会話がなぜか記憶に刻みつけられたからだ。

 

 リグレットはトレーを返すと、そのまま何事もなかったかのように食堂を出て行った。

 

 ルークも最後に残していたクレープを食べると、同じく食堂を出ていく。入れ替わるようにやって来たラルゴのわき腹を軽く殴る。もちろん巨漢のラルゴにはちっとも効果はないが、彼はなぜルークが突然そんな行為をしたのか理解して口を苦く歪めた。

 

 彼の申し訳なさそうな表情にルークも寛大な心で許し、そのまま与えられた部屋に行く。

 

 明日出発予定なので今日中に封印を解く鍵の製造をしなければならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やだー。もうやだー。疲れた意味不明、もうやりたくない」

 

 アッシュの部屋に引きこもって既に数時間。窓の外は夕焼けが綺麗染めていた。

 

 部屋の真ん中で大の字になって子供のように一人だだをこねているのは、朱色の髪を伸ばしたルークだった。既に彼の周りには六つの武器が転がっている。第七音素から造り出した武具たちだがそれぞれ第一音素や第六音素を秘めている。

 

 これを完成させるのにかなり時間を要したルークは、精魂尽き果て起きるのも億劫である。

 

 構造自体音素を多めにして後は、鉄に混ぜればいいかと考えてたが思ったより創世記の武具の構造は複雑で失敗の連続。特に彼にしてみたら杖など何を素材にしたのかさっぱりである。

 

 だらしなく床に転がっていると、少年の声が問いかける。

 

 「何やってんのさ引き籠り」

 

 「引き籠りじゃねーよ。俺はネビリムを復活させる鍵の製造に精を出してたんだよ。今やっと終わったけど」

 

 「不気味な音素や第七音素を感じたと思ったらやっぱりアンタか」

 

 床に無造作に転がっている武器を手に取ってシンクは興味深そうに眺める。

 

 「これも第七音素で出来てるの?」

 

 「まーな。第七音素は、記憶粒子(セルパーティクル)と他の音素が結びついて出来るんだ。だから第一音素に近い第七音素で構築するとそんなのとか普通に出来る。譜歌も第七音素とそれぞれの音素を主体にした術だからな。こうして物質製造とかするのは、結構神経使うけど」

 

 上半身を起こしてルークは、一本の剣を取った。第六音素の塊のような聖剣である。

 

 「俺はこんな風に第七音素を操れるようになって思ったんだけどさ、レプリカってなんにでもなれるんだな」

 

 「はぁ? なにさ突然。それになんでもなんてなれる訳ないだろ」

 

 シンクの否定する言葉など予測出来ていたのだろうかルークはその言葉では、意見をちっとも変えない。

 

 それでところか諭すような響きで語りだした。

 

 「そんなことはない。今のレプリカ技術では第七音素で造る。俺がこうして造った様にな。考えてみれば第七音素は、何にだってなれる。物質にも、術にも、レプリカにも。だからレプリカもありたい様にあれる。何かになりたいって思えば」

 

 「馬鹿馬鹿しい! それは曲がりにも必要とされていたレプリカの御託だ! だったら僕みたいな代替品にもなれなかったゴミみたいなレプリカはなんなんだ!」

 

 「あり方を決められるのは周りじゃない。自分自身だ。お前が代替品にも慣れないかった出来損ないだって思うんならきっとシンクは一生何者にも成れない。言い換えると何者にも成れるって言う事は、何者にも成れないことすら選べるんだよ。意固地になってゴミだって蔑んでいれば、本当にそうなる。シンクの生きている道は正にそれだ」

 

 「でもアンタのそれは絵空事って言う運だよ。事実、僕は捨てられた! 虫けら以下の命と愚かしい生を受けた!」

 

 シンクは激情のあまり付けていた仮面をもぎ取り、ルークにも見覚えのある顔を曝け出す。

 

 怒りや悲しみ、そして強い憎悪を宿した瞳。笑えば温厚そうな表情も今では、ほど遠い。

 

 導師イオンと瓜二つの顔で、声でシンクは怒りを吐き出す。

 

 「生きたままザレッホ火山の火口に投げ捨てられる! これが人間にする仕打ちなのか!? 違うだろう。なのに僕はそれをされたんだ。要らない、失敗作! 人形の出来損ないの末路だよこれが! これでも何者にも成れるなんて御託が言える?」

 

 「言えるさ。レプリカは自分が望んだように成れる。確かに世界がちょっと邪魔するけど、俺は俺になれた。他の誰でもない俺に。強く望んで行動するしかないんだ。シンクはイオンの代替品になりたかったのか?」

 

 「ふざけるな。そんなモノに成りたくなんてないね! 僕は、僕は……」

 

 「何に成りたいかも分からない、か。それだったなら確かに何者にも成れなくて当たり前だろ」

 

 ルークに問われ、シンクの口から答えが返ってこなかった。

 

 問われて初めて自分がどんな存在か、どんな風にありたいか全く想像できない事に、シンクは初めて涙を流す。悔し涙だ。

 

 今まで愚かしい生を受け、意味もなく生きて世界に復讐する道しか選べなかった彼に、自分のあり方など想像できるはずもない。それしかないと、それだけが生きる意味なのだと言い聞かせ今日を生きた。

 

 それ以外のあり方にシンクは戸惑い、可能性という恐怖にこうなりたいと声高に言う事すら出来ない。

 

 「僕は、……」

 

 「いいんじゃねーの? 分からなくても。それに分からない奴の方が多いのかもな。自分がどんな存在になりたいかなんて。それだけしか選べないようで他にもっと選べた選択肢もあった。それに気が付かないだけでさ。きっとお前にも来るってどんな風になりたいか決められる時がさ」

 

 「アンタはそうやって決めたの? こうなるんだって決められたの?」

 

 「あぁ、俺は世界を救うって思えた。だからそうするために俺になった。理由はそんなに必要じゃない。全く要らない訳じゃないけど」

 

 ルークの肯定の言葉に、シンクは少しだけ落ち着きを取り戻し、持っていた仮面を付け直す。

 

 なんと言っていいか分からない雰囲気の中、ルークが重たい腰を上げる。

 

 「取り敢えずもう夜だし飯食うか。頭使う作業だったから腹減ってんだよ」

 

 「はぁー。アンタを見てると自分の悩みが可笑しく思えるよ」

 

 「うるせー。ほら行くぞ」

 

 ルークはシンクを引っ張って食堂に向かう。

 

 途中で、ぬいぐるみを持ってトコトコ歩くアリエッタを発見し、アリエッタも誘って食堂へ。

 

 その時、アリエッタが、食事に誘われたの初めて、です。などちょっと寂しい事を言っていたので今度は食事以外にも誘う事をルークは心に決めた。

 

 そうしてちびっ子二人を連れて食堂に来るとリグレットと遭遇し、彼女はトレー三枚をルークに差し出しながら不思議そうに呟く。

 

 「おかしいな。お前とは食堂でしかエンカウントしたことがない。狙っているのか?」

 

 「いや、むしろこっちの台詞ですリグレットさん。お前こそ見計らったようにどうして同じ時間に居合わせてんだよ。不思議じゃなくて不気味だよ。なんなんだ、リグレットとは食堂でしか会えない呪いに掛かってんのか?」

 

 「だったら逆に嬉しいな。食堂に来ない限り特に会いたくもない奴と会う機会がないのだから」

 

 「おい、コラ。地味に俺のハートを傷つけてんじゃねーよ。さり気なく貶すな」

 

 おかずをトレーに乗せながら口喧嘩を始める二人にアリエッタは、シンクにそっと耳打ちする。

 

 「リグレットがあんなに喋ってる所初めて見た、かも?」

 

 「確かにあの女のプライベート会話なんて滅多に無いしね」

 

 シンクの言う通り、リグレットのプライベート会話をしているところを見るのは何気に初めてである。

 

 いつもは作戦立案や説明、業務的会話など公の場としての発言。話したとしても探り合いや心無い会話ばかりで、こうして無意味な会話をしているのは、奇跡に近い。

 

 「あ、リグレットその竜田揚げ寄越せ! 狙ってたんだぞ!」

 

 「ふん。早い者勝ちだ。最後の一個だろうがなんだろうが貴様に譲ってやる気はない。それにしても美味しそうな竜田揚げだな。きっと衣はサクサクで」

 

 「こいつ、精神攻撃しやがる!? い、いいじゃねーか。な? 一切れくらいくれよ」

 

 「三回まわってワンと言ったらくれてやる」

 

 「言ったな? 言質取ったぞ。俺は絶対にやるかなら」

 

 「そこまでして欲しいのか? というかプライドは無いのか?」

 

 「それより竜田揚げだ! 食欲の塊である俺に死角などない!!」

 

 それはむしろ隙だらけなのではないだろうか。そんな事を思いながらシンクは、

 

 「おばちゃん竜田揚げ追加でお願い。あ、一皿でいいよ」

 

 と注文する。すると厨房に居たおばちゃんが一皿ならと、すぐさま竜田揚げの準備をする。

 

 その光景を見てルークが追加できるのかと身を乗り出し、リグレットは舌打ちをした。これでルークを弄るネタが無くなったのでつまらないのだろう。

 

 「イヤッホー竜田揚げゲット!」

 

 「そんなに喜ぶことなの?」

 

 思いっきり感情を表すルークにシンクも引く。

 

 もしかしたら鍵である武具の作成でかなりエネルギーを消費したせいで空腹が限界を超えハイテンションにでもなっているのかもしれない。

 

 各々が好きな物を選んで、後は席に座ろうとするとラルゴが座っていたのでそのテーブルに六神将の面々が自動的に集まる。

 

 「どうしてお前ら同僚としか食わねぇんだよ」

 

 「部下が多いせいか食事時でも改まってしまう奴がいてな。こっちも気を使われながら食事しても美味しくないだろう? だから出来るだけ六神将と食べるんだ」

 

 ルークの問いにラルゴが答える。

 

 どうやら彼らの行動はそれなりに部下を想ってのことらしい。

 

 勝手に席についてルークも早速、竜田揚げに手を付ける。

 

 その横でシンクは既に竜田揚げを食べて、小さく、それはついうっかり零れ出た。

 

 「美味しい……」

 

 その瞬間、アリエッタ、リグレット、ラルゴは動きを止めた。

 

 「え? シンクが」

 

 「あの食べ物なんて食えればいいと言っていたシンクが」

 

 「美味しいだと?」

 

 あり得ない物を見るような目でシンクを見る。

 

 「なに? 僕にも好みくらいあるよ?」

 

 「あ、あぁそうだな。シンクにも好き嫌いは、あったんだな」

 

 ラルゴの嬉しそうな声にシンクは、小さく鼻を鳴らすと食べる作業を開始する。

 

 初めてシンクが食べ物を美味しいと言った事に動揺したが、思えばそれは良い方向への進歩ではないだろうか。ラルゴはそれが純粋に嬉しくてつい微笑んでしまった。

 

 シンクの一言から始まった雰囲気はけして悪いものではなく、どこか優しいものが包む空気であった。

 

 





ひっそりやって行こうと思ったら、知らない間にお気に入り数が100を超していた。
……いや、その、ね。うん。急にどうした。見れば昨日くらいからみたいじゃん。


アビス再プレイして何やらストーリーの再編が必要になってちょっと放置して、フロム脳爆発させている間になにが起こったの?


次はネビリム先生! ではないんだなー。それではまたいつか

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