TOA~Another Story   作:カルカロフ

9 / 15
世界の隅っこで

 ネビリムを無事に引き入れ、ヴァンがフェレス島に到着して三日。世界には小さな、しかし巨大な事件と言う波紋が広がり始めていた。

 

 神託の盾(オラクル)騎士団の主席総長とその部下である六神将が全員、行方知れずになった。

 

 この事件は、混乱を最小限に抑えるため、本当に耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな話題。この対応を見る限り、イオンが頑張って事の鎮静化に力を入れているようだ。

 

 ラルゴは大詠師モースをバチカルに送り届けた後、行方をくらます為に砂漠にいるそうだ。シンクとアリエッタで今日中に迎えに行ってもうらう。その間、ルーク達大人組は、具体的な行動を決めていく。

 

 故に、ルーク、ヴァンにネビリムとリグレットの四人がフェレス島に建てられた建物の談話室で膨大な資料と譜術の理論一式を片手に話し合っていた。

 

 「あら、懐かしい術ね。結構古い奴じゃない」

 

 「六神将の戦闘力強化の為にも記憶の中にある譜術一式書き出したんだよ。おかげで二日間有意義に使えたぜ」

 

 先ずは、六神将の戦闘力の強化について具体的な話し合いになったが、資料を三人に読んでもらっているとネビリムが紙に書かれた譜を見てどんな術か理解したらしい。流石あの天才・ジェイドの師。譜術に関して彼女の知識は海の如く広く深いようだ。

 

 禁譜と指定されている譜術を知っている所を見ると昔、ダアトに居た頃にでも学んだのだろう。

 

 「ふむ。全体的な強化の為に多様に術も習得させる算段か。私の強化は既にこのローレライの鍵で殆ど終わっているようにも思えるのだが?」

 

 ルークが提示した資料に目を通し、ヴァンは自身がすることの少なさに些か拍子抜けしていた。

 

 その事に関してはルークも同意し、何をさせるか思い悩む。

 

 「そうだな。元から半分くらい人間やめてるヴァンに特訓させるって言ったら、譜歌くらいだったけど鍵のお蔭でその心配も無いし、剣術を磨くか」

 

 「ほぉ、剣の師である私にそれを言うか。いいだろう。お前と手合せするのも一興だな」

 

 譜術もさることながら剣術にも秀でたヴァンに後は、何を求めるかと言えば、その剣術を更に高めることくらいか。

 

 剣で張り合える者が長らく近くに居なかったヴァンは、ルークの挑戦状を不敵な笑みで受け取る。だがそこに慢心は無い。ヴァンの中で既にルークと言う存在は、全力を出すに値する者として認識されていた。

 

 二人が異論はないと言う中で、リグレットだけが難色を示す。

 

 「済まないがルーク、私が回復用の譜術を習得する意味はあるのか? 正直アリエッタに任せておけば問題は無いと思うが」

 

 「アリエッタ一人で全員の面倒を見るのってのは無理だろ。ヴァンの第四譜歌よりも事と場合によっては、リグレットが習得した方が効率がいい時もきっとあるし、リグレットは中距離っていう微妙な場所でよくフォローしてるだろ? 戦場全体を一番見てる奴だし、状況判断もそれに対する対応もずば抜けてると思う。回復を習得してもらえば前衛の俺らも気兼ねなく戦えるしな。どうにか出来ないか?」

 

 回復譜術を習得するにしても特にデメリットがない事を指摘され、リグレットは私情を押し殺して頷いた。世界を預言(スコア)から脱却させる戦いである事を思い返し、彼女は自ら折れた。

 

 その小さな感情の揺れを感じ取ったルークだが、ここは無理に尋ねず、今はそっとしておくことを選ぶ。

 

 「で、リグレットには回復と新しい譜術を覚えて貰う。ヴァンとラルゴは接近戦を更に強化。シンクは体術を強化したり、ダアト式譜術なんかをもっと自由に使える様にしたいな。アリエッタは補助と譜術の習得だな。それで、世界に宣戦布告する前にセフィロトを安定させたいんだ。アクゼリュス崩落で更に不安定になったあれの様子も見ておきたいし」

 

 アルバート式封呪がアクゼリュスのセフィロト消滅により消え、もうセフィロトを操作出来るはず。故に今、少しずつ不調をきたしているであろうセフィロトを調整しなければならない。それが出来るとしたら、ローレライの鍵の効果でユリア式封呪を無視して操作できるルークか、正当な方法で操作できるヴァンのどちらかだ。

 

 まだアッシュ達が地盤沈下を知らないでいる今が事を静かに運べる。ラルゴたちが帰ってくる前にどうやら行動をしなければならないようだ。

 

 「あとは、ある程度セフィロトを落ち着かせたら世界の状況を見ながら宣戦開始だ。もちろんそん時は俺は、キムラスカに行く」

 

 「ローレライの忠実な僕としての配下が必要だろう? 私もその時は同行しよう」

 

 「そうだな。そっちの方が効果的だし、キムラスカ行は俺とヴァンで、六神将の面々とかはマルクトにでもお願いしようかな」

 

 世界を預言通り滅亡させる魔王の一団。それを印象付けるために、彼らの出る幕は平和になりそうな兆しが見え、預言から大きく離れた瞬間ではならない。

 

 盛大に登場するタイミングを間違えば、ただの阿保だとも思われかねないが、ルークが持つ超振動の力と預言に匹敵する未来予測。この二つが揃えば、おそらく人類の九割は騙されるだろう。ローレライが星の記憶が人を本当に滅ぼすと。そうなれば預言廃絶の為に世界はひっくり返したかのように激変する。

 

 世界を変化させるのは英雄だが、世界を混沌に導くのは魔王の務め。ルークはそれに準じるために英雄たちが世界をよりよく変えやすいように地均しをする。

 

 そのマリオネットとも言える彼の生き様を、誰も咎めず、誰も何も言わない。これは、自分が気づいて自分で道を修復しなければ意味がないのだから。多くのルークが夢見た星の記憶に勝つための贄として散るのは、間違いであると。

 

 そんな重たい空気に唯一気づき事無く、ルークは立ち上がる。

 

 「それじゃ、保険としてヴァン来てくれ。鍵だけじゃセフィロトが起動しない可能性もあるし」

 

 「私もセフィロトに行きたいわ。二千年前の譜業の集大成でしょう? 専門じゃなくてもすごく気になる訳だし。前導師エベノスはケチで封呪解いてくれなかったんだから」

 

 頬を小さく膨らませ誘ってくれなかったことを抗議するネビリムに謝りつつ、ルークは剣を腰に差す。

 

 「じゃ、行ってくる。留守番頼んだぞリグレット。あとちゃんと修行しとけよ。帰ってきたら俺かネビリムからの抜き打ち検査な」

 

 「宣言してしまえば抜き打ちではないと思うが、まぁいい。閣下、行ってらっしゃいませ」

 

 ヴァンに敬礼をして、ネビリムに頭を下げるリグレットは、ルークにだけ冷めた目でさっさと行けと言っていた。

 

 分かっている事だが、あまりの対応の違いにルークも唇を尖らせて文句の一つくらい言う。

 

 「なんだよ。俺だけなんか辛辣じゃねえの? 俺が何かしたのかよ?」

 

 「そうだな。お前が居なければ、元のレプリカ計画が進められる。疫病神とまでは言わんが、六神将に歓迎されていないのは、覚悟していたのではないのか?」

 

 尤もなリグレットの言葉にルークもぐうの音が出ない。

 

 リグレットが最近ちょっとルークに風当たりを弱くしていたのは、アリエッタの蟠りを消化した礼であって彼の作戦を受け入れた訳ではない。レプリカ計画の要であるヴァンもルークの作戦が狂えばレプリカ計画に移行すると公言しているし、リグレットにとってルークと言う存在は歓迎できないイレギュラーだ。

 

 だが、ルークのどこか捨てられた子犬のような目を見て、リグレットは最後にふっと笑って見せる。

 

 「お前が本当に世界を預言から脱却したいと思うなら、きちんと帰って来い。それが、責任と言う奴だ」

 

 「お、おう。時間が掛かっても半月くらいで帰って来るから、まぁ他の奴によろしく」

 

 突然の優しい言葉に戸惑いながらも、ルークは頷くとリグレットに手を振って別れを告げる。

 

 それにリグレットも応え小さく手を振る。ルーク達がそれぞれ鳥形の魔物の背に乗り、大空へ消えていく。後ろ姿が小さな点になるまで見送ると、リグレットは永遠の蒼に向かって大きくため息を付いた。

 

 「はぁ、全く大人げない事をしたものね」

 

 それは、ルークに辛辣な事を言った自分を罵る言葉であった。

 

 第七音素の行使という古傷を抉られて知らず知らずのうちに彼女は苛立っていた。その苛立ちは、リグレットに第七音素の行使を勧めてきたルークに、当然の如く向けられる。

 

 今思えば、なんと下らない事だろう。誰にも言わなかった苦悩をルークが知る筈もない。もし、数多の記憶の影響で知っていたとしても、責める理由にすらならない。心で理解しながら、感情がついていかなかった。

 

 最後まで謝罪が出来なかった事を苦に思いながら、リグレットはルークの帰りを待つことにした。そして彼が帰ってきたら謝ろうと決意する。

 

 長くとも半月。三十日などあっという間に過ぎて行くものだ。そう、言い聞かせながら彼女は建物に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海の藍と空の蒼が交わる境界線の中に三羽の大型の鳥がそれぞれの背中に人を乗せながら、飛んでいた。どこまで行っても青と申し訳程度の雲の白。遠近感が狂い視覚的には遅く感じるものの、体に叩き付けてくる強い風がそれなりの速度で飛行しているのを教えてくれた。

 

 どこまでも澄んだ美しい景観だが、ルークの表情は目の前のそれに奪われるのではなく、どこか心ここに在らずと言った感じでぼんやりと考え事をしていた。

 

 そんなルークに気が付いたのか、初めて見る光景に目を輝かせていたネビリムは、小首を傾げながら問う。

 

 「一体どうしたの? なんだか上の空って感じよ?」

 

 「あぁ、いや。ちょっと気になる事があって。なぁヴァン、どうしてリグレットは回復役になるのを嫌がったんだ? 効率を一番に重視するリグレットなら特に反対する理由なんて無かったはずだけど。それにあの後すげぇ不機嫌だったし……」

 

 いい加減一人で考え込んでも答えが出ないと思い、ルークはこの疑問を解決してくれそうなヴァンに尋ねると、ヴァンの方が不思議そうに聞き返してきた。

 

 「数多の世界の記憶があるお前ならば、知っているのではないのか?」

 

 鋭い指摘にルークは苦しそうに小さく呻く。

 

 そして、言い難そうに答えを吐き出した。

 

 「……俺の継承している記憶の中で、リグレットがこうして生きている確率ってのは、実は一割も無いくらいなんだ。アイツはさ、ほとんどの記憶の中では三年前のケセドニア北部戦に参加して、弟の代わりに死んでるんだよ」

 

 ルークの声は風の悲鳴に攫われる事無く、不思議とヴァンとネビリム両者の耳に届き、空気を凍結させた。今いる仲間が、もしかすれば全く別の人物だったかもしれない可能性の方が大きいと言われ、平常を崩されたのだ。

 

 何も言えなくなった二人の疑問を埋める様にして、ルークの声は続きを紡ぐ。

 

 「ほとんど弟のマルセルって奴の記憶の中にしかアイツは存在しなかった。ケセドニア北部戦が始まるちょっと前の頃、リグレットは、神託の盾(オラクル)騎士団の階級持ち兵士で、マルセルが新米兵士のパターンが一番多い。この辺は、幾らかバラつきがある。預言に詠まれた『オスロ―の名を継ぐ銃士』が貿易の街より北の戦いに向かって戦死するって内容があってリグレットに白羽の矢が立ったみたいだな。名前じゃなくて苗字で指名されたんだから上はどっちを戦争に出して捨て駒にするか相当迷ったってマルセルが言ってた」

 

 息が詰まりそうな中、ルークはヴァンに振り向く。

 

 「なぁ、この世界のリグレットってどうしてケセドニア北部戦を免れたんだ? 俺が知りうる限りリグレットが参戦してマルセルが六神将になる未来が圧倒的に多い。しかもリグレットが生きている世界は、ほとんど俺とリグレットは敵だった。俺は、アイツの事を間接的にしか知らないんだ」

 

 「なるほど。この世界はお前にとってもレアケースと言う訳か。……私が勝手に言っていいのか分からんが、今回リグレットの地雷を踏んだ理由については教えておこう。無意識に彼女の傷を抉られると、壊れかねんからな」

 

 ヴァンは不吉な事を言って、目を伏せて語りだす。

 

 思えばヴァンとリグレットの関係とは、一歩間違えば殺伐として血に濡れたそれなのだから、こうしてリグレットが部下として収まっているのも奇跡に近い確率なのかもしれない。

 

 「彼女は、神託の盾(オラクル)の騎士であったが、同時に第七音素の使い手で時にダアトが信仰者で溢れかえった時は、臨時として預言者(スコアラー)の役目も兼任していた。もちろん騎士の仕事を優先していたがな。そんな時、ダアトの上層部の人間が彼女の才能を見抜いたのだ。そこらの預言者の預言など曖昧で紐解くもの一苦労だと言うのに、彼女の預言は的確で詠み易く、ユリアとまでいかないが導師に匹敵するものだった」

 

 ヴァンの口から語られる新たな真実にルークは、目を見開く。ネビリムは、驚いてもいたが同時に興味深そうに目を細め、次の言葉を待つ。

 

 「そして勧誘が来たのだ。教団の預言者にならないか、と。噂では一蹴して断ったそうだ。まぁ、そんな逸材だ教団も中々諦めない上に、噂を聞きつけた彼女の知り合い友人は、彼女に預言を呼んでほしいと詰めかけ一部の人間には渋々詠んでいたそうだ」

 

 預言に盲目なダアトの住民だ。跳ね除けても執着に頼んでくる人に折れてしまったのだろう。ユリア以外の預言は、曖昧で読み解くのも難解であるなか、リグレットが詠む預言は遥かに優れているのだからより自分の未来を知りたい人間は、彼女を祭り上げたのだろう。

 

 その時、彼女がどうだったのか分からないが、心中を想像すると、さぞ地獄に近い状態だったのだろう。優先したい騎士の職を後回しにしなければならない状況は、周りからとても浮いていたと思う。きっとやっかみも嫉妬もあった。もっと酷ければ虐められていたのではないだろうか。

 

 リグレットの過去を想像しただけで、ルークは心が辛くなる。

 

 「その中、ついに晩御飯のメニューを決めるにしても彼女の預言に頼る人まで出てきた」

 

 「ぁ……」

 

 一番ルークの心に痛みを突き付けてきた言葉だった。

 

 ヴァンの言葉でルークの中にある記憶が溢れ出てきた。

 

 この言葉を最初に言ったのは、リグレットの憂うような、痛みを無視するような冷めた声だった。誰もが預言に頼りその通りに生きる。そのことに全く疑問に思わない人に、預言の通りに生きる方が良いと言う大衆に、絶望し見捨てた彼女の想いは、とても軽々しいものではなかった。

 

 実際に経験したものだったのだ。

 

 「だがその熱も、預言と弟が死ぬと分かっていながら送り出した私を怨むようになって、本気で預言を詠まなくなった彼女の周りからさざ波の如く引いていった。私の副官としての仕事が忙しいとは、分かっていたが休日の日ですら取り合わなくなり、人が変わったかのように冷たく接するリグレットを見限ったのだろう。元々彼女の詠む預言を目当てに寄って来た奴らだ。預言を詠まない彼女と接する必要もない」

 

 それからヴァンは少々視線を逸らしながら、締めくくる。

 

 「周りから信仰する人間が消えた彼女に残されたのは、人々の浅ましい嫉妬と侮蔑、負の念だけだった。預言のあり方に否定的な態度を取ったり、いきなり私の副官として抜擢されたり、一部の人間だけに預言を詠んできたのが災いを呼んだのだろう。彼女が孤立し、言われも無い誹謗中傷に晒されたのは直ぐの事だった。リグレットはそれに苦しんでいた。その心の隙に付け込んで、今の様な関係になった私が言えた義理ではないが彼女の人生が狂ったのは、預言ひいては第七音素が原因だ。彼女自身もそう思っているのだろう。あの時以来、彼女が第七音素を行使する事はなかった」

 

 ヴァンがリグレットの過去の一遍を語り終えると、声を発することも出来ない静寂に包まれた。

 

 これがリグレットが第七音素を行使するのに露骨な嫌そうな表情をした要因であり触れられたくない原因である。ルークは、何も知らないでリグレットに第七音素の行使を求めたのは、酷だったと思い、小さく後悔の念を口にする。

 

 「帰ってきたら回復役に付いて撤回しようかな……」

 

 「いや、止めておけ。お前が急に撤回したら、聡いリグレットの事だきっと私が話したと感づくだろう。そうするとリグレットは以外に意地っ張りだからな、お前の提案を突っぱねて意地でも回復役に回るだろうさ」

 

 容易にその姿が想像できてルークはどうやってリグレットに回復役の撤回を言い出すか思い悩んだ。

 

 様々な方法を仮想して想定して、推し進めて行けど、待っていたのは同じ答えだった。必ずリグレットは回復役としての役を果たす。責任感と意地っ張りが組み合わさると手が付けられなくなるいいお手本例だ。

 

 また一つルークには頭痛の種が出来た。嬉しくもない種だ。これが幸せの花を付けるとは、到底思えない。澄み切った青空の下、ルークの心は曇り空。大きくため息を付いて、気持ちを整理しようとすると、ネビリムがルークの見ている違う角度で提案をする。

 

 「別に彼女に第七音素を使わせてもいいんじゃないかしら?」

 

 「でも、使いたくもないのを使わせるのって酷じゃね?」

 

 あくまで端的に言うネビリムにルークは不安そうな声を上げる。だが、伊達に幼少の頃のジェイドの師をしていた訳ではない。彼女の問題児教育スキルは、恐らく世界最高だろう。

 

 その彼女が、リグレットの精神状況を分析しながら言う。

 

 「あの子が頑なに拒否しているなら致し方ない部分もあるけれど、妥協して第七音素を使うなら、光明はある筈よ。妥協でも第七音素を使うという事は、彼女も心の何処かで決着を付けたいと思ってるはず。確かに使うのは嫌でしょうけど、このままじゃいけないと考えてるなら、彼女が回復だけでも使ってもいいって思える様にするのよ。簡単に言えば、この力があって良かったと認識させること」

 

 「具体的には、どうするんだ?」

 

 「ふふふ、それはね」

 

 ここに来て意地の悪い笑みを浮かべるネビリムにヴァンとルークは、こっそりリグレットに心の中で合唱した。恐らく、彼女はこれから先なにかとんでもない事態に巻き込まれるだろう。

 

 「とっても恥ずかしがり屋でストレートな言葉に弱いと思うのよあの子。成熟する前に社会の闇を理解した子には、きっと純粋な言葉って効果的よ。特に根が優しいから心からの言葉なら響くでしょうね。だからあの子に『ありがとう』とか『頼りにしてる』とか言ってあげればいいの」

 

 「なんだかエグイ! とっても良い事のはずなのにネビリムさんが言っていることがエグイよ!?」

 

 「なにやら良心に訴えかけてくるものがあるな。救うはずなのに、なんだ、ちょっと苦しめている感が否めないのだが」

 

 ネビリムの提示した打開策に二人は、本当にそれでいいのかと悩み、リグレットの性格を考えその案が効果的であるからそこ如何するべきか思案する。ネビリムの言う事はちょっとした荒治療だ。リグレットには別の痛みが伴いだろう。

 

 主に羞恥とか。気恥ずかしさとか。

 

 プライド高いリグレットが耐えられるだろうか。彼女のメンタルが褒め殺しに耐え抜けるかどうか心配である。

 

 青い青い海と空に囲まれながらルークは、この冗談半分でかき消されたヴァンの不吉な言葉がずっとしこりとして残っていた。それは鉛のように重く苦しい苦悩となっていた。

 

 リグレットの精神的な傷を開いてしまうと壊れてしまう。

 

 彼女は一体、どれほどの傷を内に抱えているのだろうか。そしてヴァンは、そのリグレットを見たことがあるのだろうか。いや、きっと見たことがあるのだろう。

 

 あのヴァンが本当に苦虫を噛み潰したような表情をしたのだ。心情を顔に出さないヴァンが思わず本心を表す程に、リグレットが崩壊した様は酷かったのだ。

 

 絶対にそんな彼女を見たくないとルークは、反射的に想った。何が何でも笑っていてほしい。願望でも何でもない決意と誓い。ルークは、リグレットに涙を流させないと心から自分自身に誓った。

 

 不安よりも強い意志を宿したルークの瞳を見て、ヴァンは特に何も反応しなかったが、ネビリムは嬉しそうに含み笑いを零す。

 

 もしかすれば、この世界に誕生したルークの強固な地盤を獲得する手段になるだろうと。

 

 

 そして三羽の鳥は大空に飛んでいく。目指すはマルクト領にあるシュレーの丘。そこは既にダアト式封呪を解いて、セフィロトとコンタクトを取れる数少ない場所。恐らくイオンたちはダアトで足止めを食らっている筈だ。シュレーの丘のセフィロトでアッシュ達と出会う事は、まずないだろう。

 

 こうして、誰も知らないうちに世界の隅っこで世界を転覆させる計画が始動していたのだと、誰も予想だにしていなかったのだった。




約束通り、三日のうちに投稿出来て何よりでした。
それにしても、間をあけすぎたみたいで申し訳ないです。本当すみません。

そして、捏造パラダイスです。

教官の過去描写が遺書イベントしかない! アリエッタやラルゴはマンガ、小説などで補足されてるけど、教官だけ全くない!!
つまり、妄想OKって事だね! やったね! フロム脳万歳!!

~上記のSS内容、特に教官の過去描写は第七音素が使えるなどは、妄想の産物です。原作では、一切触れられていない領域なので誤解なさらないようお願いします。~


因みに、アニメアビスを見返して、思わず笑ってしまった事がある。
それは、

VSヴァン師匠(アブソーブゲート)で作画が一部コードギアスになっていた件。癖のある絵だったがすごく動くしキャラが綺麗だし、ルーク美化されてるし、ガイ様華麗に舞ってるし、ティアがどちら様って感じだった。その絵柄でその声だとC.Cじゃないですかぁ

ガイ様の技に至っては最終話まで使われるし、なんなんだろうね本当に。びっくりだよ。
一部と言わず、全話あの絵柄でも良かったけどな、個人的に

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。