DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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後半戦(裏)と本編の合流。千冬の実力はいかに!?
気が付けば、投稿は今日で4年経過しました。なのにプロローグも満足に終わっていないというね……


00-20 フラグとブラフ

 千冬と敵が動いたのは、ほぼ同時。

 千冬がわずかにライフルを(かたむ)けたのを合図に、5機が同時に連携。前方の2機が4本の腕を構え、例のビーム砲と拡散を()()ぜて退路を絞ると、両翼の2機がマイクロミサイルとパルスマシンガンを展開。弾幕の檻の中へと更に追い込み、拡散ビームがミサイルを撃ち抜きブラザーキル。爆煙と爆風を使って更に追い込む。

 最後の1機は距離をとると変形。下半身の他節の尻尾(テール)が前方にせり出し、4本の腕も前につき出すと、その中央にエネルギーの球体が発生。逃れようのない爆撃の花が咲く中、トドメとばかりにその球体を爆心地に撃ち込み、周りが畳み掛けるように全武装を展開。

 塵も残さぬと言わんばかりの圧倒的な火力。これだけの爆撃を受ければ、いかな世界最強(ブリュンヒルデ)とて無事では済まないだろう。

 

 

  ――()()()()

 

 

「無人機、というのは本当の様だな」

 

 瞬間、爆心地から最も離れていた1機が、胴から二つに割れた。

 千冬はあえて小さく動いて敵の攻撃を誘い、素人撃ちのような攻撃で生まれた爆煙に紛れて移動しただけ。こんな攻撃、DSOの低位ランカーでもやらない。

 包囲して集中攻撃するにしても、タイミングをずらすなどして爆煙で相手が見えなくなるようなミスを起こさないように注意するものだが、無人機は攻撃のみを優先し、それすら考慮できないようだ。

 壊れた無人機を盾にライフルを構えると、そこから実弾ではなくビームが放たれた。

 

 光子銃(フォトンライフル)

 束がDSOの武装をヒントに、自らの理論をもって実現化した非実体弾の光学兵装。その性能は次世代の兵装を名乗れるだけのモノを誇り、出力調整が可能なそれを、千冬は出力を絞らずに発射。

 戦艦の主砲のような一撃は、シールドバリアなど紙同然と言わんばかりの威力で2機を貫通。前にいた1機は腹部を貫通し、内蔵していたミサイルに誘爆。右下半身を完全に吹き飛ばし、後方にいた1機は左腕部につながる球体と本体の一部も吹き飛び、主要機器にも影響が出たのか、機能不全を起こしてフリーズ。

 味方がやられても驚く様子さえ見せず、拡散ビームを放つべく構えた1機に高周波ブレードを投げつけると、胴に突き刺さりこちらもフリーズ。それを確認する間もなく距離を詰め、ライフルを振り抜くと銃剣の刃に光が灯り、シールドバリアごと装甲を切り裂き、これもフリーズさせた。

 ライフルに装備された銃剣は、新兵装のレーザーブレード。

 実体剣の刃部分にレーザー刃を展開する方式で、消費を抑えることで長時間の使用を実現。出力を調整することで対IS用だけでなく低致死性兵器(※1)の顔もあるという、兵器としての概念を根本から(くつがえ)す近接兵装。

 これら全ての兵装を、千冬は戦闘出力で使用している。殲滅(せんめつ)が目的である以上、自重する理由はない。

 

蹂躙(じゅうりん)すると言った!」

 

 左手に持っていた銃剣からブレードを抜き出し、砲身を投げ捨て収納(クローズ)。粒子化した砲身はシールドに収まり、右手には新たな高周波ブレード。即座に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で敵の間を駆け抜けた。

 瞬間、中破してフリーズした2機と、唯一無事だった1機はゆっくりとズレ、ようやく斬られた事に気づいたか一気に壊れる。

 瞬時加速の中、千冬はどれだけの回数斬ったのか。敵はバラバラに切り刻まれて文字通り崩壊し、残るはブレードが刺さったままの1機。

 残った腕でなんとか千冬を落とそうと構えるが、そこにもう一本の高周波ブレードが突き刺さり、追い打ちで光子銃(フォトンライフル)で頭と胴の一部を吹き飛ばされ沈黙。あまりの一方的な展開に、敵は攻撃の意味すらないまま、宣言通り蹂躙された。

 だが、そこ追加で新たな反応が4つ。2つは今戦っていた無人機と同じ反応だが、他の2つはエネルギー反応がそれよりも弱い。

 

「ちーちゃん、2つは市街地にいたテロ部隊のIS、残り2つは市街地に向かってた無人機だよ」

「こちらが驚異と感じて方針を変えたか?」

「いや、なんか追われてるみたい」

 

 敵同士が接敵したが、テロリストの方が(かな)わず市街地から逃げてきたのか。

 

「ともかく、テロリストが用意したIS実働部隊はこれで全部のはず。無人機(アンノウン)の方もこれで8機になるけど、束さんでも把握できていなかった敵なんだ。残機もそうだけど、どんな隠し玉があるか(わか)んない」

「了解。どちらも迅速に排除する!」

 

 両手のブレードを一度収納(クローズ)し、雪片弐型(ゆきひらにがた)のブレードを展開。再度スラスターに火を入れ加速。

 

「げェッ!? ぶ、世界最きょ(ブリュンヒル)――」

「は、はやッ――」

 

 そのままの勢いで真正面に(とら)えたラファール2機に対し、零落白夜(れいらくびゃくや)を発動。一瞬の交差でラファールのシールドバリアを切り裂き、絶対防御が強制発動してエネルギーが枯渇。

 返す刀で、もう一方も同じ道を辿(たど)った。

 その結果を確認せず、彼女らを追いかけてきた無人機を(とら)えると相当距離が開いている。こちらが瞬時加速(イグニッション・ブースト)に入るより早く、向こうは既に武装展開を完了させている。一瞬の判断で、懸架されたもう1丁の銃を手に取り射撃。

 今度はビームではなく、実弾が発射された。

 

 電磁銃(ガウスライフル)

 束が作り出した新機軸の光学理論によって実現した、超高速の実弾兵装。超電磁砲(レールガン)ほどの射程こそないものの、マシンガン並の連射性能とアサルトライフル以上の命中精度に重きを置いた銃弾は、予想以上の効果を発揮。

 展開されたシールドバリアを歪め、予想以上のダメージに一瞬動きを止めただけでなく、衝撃によって姿勢も崩れた。千冬はその一瞬で距離を詰めつつ、電磁銃(ガウスライフル)からブレードを引き抜く。

 光子銃に装備されたブレードより短く、脇差ともいえるサイズのそれを投擲(とうてき)。刀身から発生したレーザーブレードは、展開しているシールドバリアを容易(たやす)く引き裂き、駆動部に突き刺さって機能不全を起こす。もう一機の方もなんとか構えようとするが、目の前に高周波ブレードが飛んできて腕を盾に受け止める。が、直後に胴に零落白夜の一撃を受け撃沈。

 機能不全を起こした機体も、突き刺さったブレードに電磁銃(ガウスライフル)を撃ち込まれ、機体に大穴を開けて沈黙する。

 追加で現れた4機を20秒足らずで無力化。世界最強(ブリュンヒルデ)の名に恥じない速攻だった。

 

「余計な時間を取られてしまったな。束、一夏はまだ無事か?」

「――無事もなにも、いっくん一人で4機のIS倒しちゃった」

「…………は?」

 

 予想外の答えに、さすがの千冬も面食らう。

 一夏はDSO(ゲーム)ではかなりの強さだが、現実でもその強さが引き継がれるなど、マンガやアニメの世界みたいな冗談だ。

 

「一夏の現在位置は?」

 

 ここ、と言ってマップにマーカーが配置される。動いているのを見るに、戦場から離脱中らしい。

 

「戦闘中に4機のコアを鹵獲(ろかく)して、そのコアからエネルギーと弾薬を回収しながら市街地に移動ちゅ――海上からエネルギー反応!」

 

 慌てた束の声より早く、千冬がマップに位置された一夏に向かって瞬時加速(イグニッション・ブースト)と同時に非固定部位(アンロック・ユニット)の展開翼を全開。最大速度(マッハ5.5)まで1.2秒という狂気の加速は、20キロ以上離れた距離を一足飛びし、最大速度到達前に一夏を視界に(とら)えた。

 

「いち――」

 

 手が届く寸前、一夏は膨大なエネルギーの奔流(ほんりゅう)に飲み込まれ、千冬もそれに巻き込まれまいと必死になって機体を制御。

 2秒とかからず姿勢を整えると、墜落していく一夏を追いかけた。

 

「ぃち、かァァぁぁあああ!」

 

 追撃を恐れることなく再度瞬時加速(イグニッション・ブースト)。破片を()き散らしながら墜落していく一夏を空中でキャッチ。一夏を見れば、今の衝撃からか鼻血のみならず、目や耳からも出血している。

 

「一夏!? しっかりしろ、一夏!」

 

 慌ててステータスをチェックすると、機体は今の一撃を受けたせいか、ダメージレベルDで危険域(レッド)に至り、装甲はもとより内部フレームまで歪んでいる。バイタルに至ってはISスーツを着用せず運用していたせいでレッドアウトを超えて心原性ショック(※2)が発生。

 このままでは自発的な呼吸が行えず、治療が遅れれば後遺症が残る危険がある。

 

「ちーちゃん、いっくんをこっちに連れてきて! 今治療ポッドを準備した」

「敵はどうした!?」

「逃げた。詳しい話は後!」

 

 了解、と答えてシールドバリアを前面に固定し、PIC制御を一夏を含めて全身に再設定。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で加速すると一夏が危険なので、背面のハニカムスラスターを使って通常加速。

 一夏に負担をかけないようにしつつも、最速を維持して飛行。チラリと一夏に目を向けた際、アーマーの隙間から肌の色が違う所が見え、千冬にはそれが傷跡の様に見えた。

 

「なぜだ――何故私は、肝心な時に間に合わない……」

 

 何が世界最強だ。

 よかれと思って行動すれば裏目に出て、肝心な時に行動を起こせば一歩届かず、家族一人満足に守れない――忸怩(じくじ)たる思いを吐露(とろ)する千冬に、束が優しく語りかけた。

 

「あまり自分を責めないでよ。ちーちゃんが出てきたお陰でISっていう最大の厄介事は潰せたんだし、これからの展開も有利になる。少なくとも、ちーちゃんはいっくんの力になってるよ」

「だが――」

「こういうのは適材適所。戦闘はちーちゃんで、こっからは束さんの出番。いっくんはこの天才がしっかり治してみせるさ!」

 

 明るく話す束に感化されたか、千冬の表情が幾分柔らかくなる。後悔するのは後でもできる。今は状況を終わらせる事が先決だ。

 そうこうしている内に束が操る貨物船を見つけ、千冬は優しく着地する。

 

「ちーちゃん、いっくんをハンガーに」

 

 束の指示で、白桜が鎮座していたハンガーに一夏を固定。束がコンソールを操作してISの生命維持機能を強制発動。緊急救命処置が(ほどこ)され、一夏は息を吹き返した。

 

「っ!? げほッ、ごほッ!」

「一夏!?」

「まだ息を吹き返しただけだよ。あとは――」

 

 束はコンソールを操作して一夏が装備しているISを強制的に待機状態に移行させる。ISを失った一夏は地面に倒れる事なく、どういう理屈か空中でふわりと浮き、ハンガーごと横になった。が、それよりも上半身傷だらけの一夏の体に目がいった。

 

「これは……どうして……」

「ちーちゃんは知らなかった? いや、いっくんが教えたくなかったのかな?

 当時の女尊主義者(バカども)(つの)った義捐金(ぎえんきん)とか治療費をくすねた結果さ」

 

 予想外の情報に、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

 

「そん、な……政府はしっかりと治療を行ったと」

「確かに後遺症が残らない程度には治療は出来たよ。できたけど、治療痕を消す再生治療の費用まで手が回らなかったんだ。あの時は束さんもいっくんにかまけてられる様なメンタルじゃなかったし」

 

 言いつつもコンソールを弄り続け、一夏をハンガーごと移動。呼吸器をつけるとロッカーより一回り大きな治療ポッドへと送り込んだ。

 

「まぁ、これに関しては束さんにも責任あるし、この際だからまとめて面倒見るよ」

 

 コンソールを操作して治療ポッドの中に液体を満たしていく。

 

「それは?」

「別の目的で作ってた束さん謹製の治療薬。このポッドも即席で作ったものだから、後遺症が残るような重症や栄養失調を治すのがせいぜいだね。後々アップデートしてHIVやガン治療まで視野に入れるつもりだけど」

 

 完全に一夏のバイタルを中心に構築された治療ポッドに千冬が苦笑する。一夏のことは束に任せておけば安心だろう。余裕が出来てくると、一夏を浮かべていた機能が気になった

 

「ところで、一夏が浮いていた機能は?」

「アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。略してAICって機能だよ」

 

 その機能はイスラエルが研究していたものではなかったか。確か去年あたりに基礎理論を確立したばかりのはずだ。

 

「お前、サラッと国家規模の新技術を」

「いいんじゃない? 兵器転用するには微妙だし、基礎理論はいっくん達が作ったんだし」

「なに?」

 

 さらりと爆弾発言が飛び出すが、束は気にせず作業を続けた。

 

「まぁ、この技術を今の技術で運用するなら、第3世代以上の重量級の装甲を厚くして固定砲台として運用しかないかな?それでも内部にエネルギータンク増設して、総使用時間200秒いけば上々ってトコだけど、射程が短いから使い所が難しいね。

 元々はDSOで軽量級が切り込む時の足止めとして使ってた“ピンスタック”ってアビリティが元だけど、いっくんならまた違う使い方思いつくかもね」

「……あいつらは一夏の技術を独占するのが目的で動いているのか?」

「さっきも説明したけど、連中は一枚板で動いてないんだ。いちいち気にしてたらキリないって」

 

 千冬の懸念を束は一蹴し、市街地のマップをポップ。同時にいくつものモニターを展開してリアルタイムの映像も展開する。

 

市街地(あっち)は日本政府の人間がようやく重い腰をあげたようでね、箒ちゃん達を追い掛け回してたテロリストと交戦してて、クーちゃんとドイツも追っ手を()く事ができたよ」

 

 ポップした空間ウィンドウには、監視カメラをハッキングしたのか、市街地の様子が映し出され、黒服の男女が木刀や長棒などを手に、一般人に偽装したテロリストと大立ち回りを展開。

 技量差も人数も一方的で、黒服達が二人一組(ツーマンセル)でテロリストを包囲し、人海戦術でもって無力化していた。あちらの鎮圧は時間の問題だろう。

 

「一夏を頼む、私も市街地へ向かうとしよう」

「お願い。全部終わったら一度ドイツと合流したいって伝えておいて」

 

 珍しい事もあるものだと思いつつ、千冬は再び海上へと飛んでいった。

 

「……さて、と」

 

 千冬が消えたのを確認し、束は待機状態になったISを見る。一夏が鹵獲(ろかく)したものではあるが、入手した経緯があからさまに怪しい。

 

「クーちゃんの考察が外れてることを願いたいけど――」

 

 いくら元の持ち主が間抜けとはいえ、ぽっと出の中学生にあっさり鹵獲されるのがおかしい。

 百歩譲って一夏が優秀だったとしても、奪われることを想定して何らかの対抗手段を用意するものだが、そんな対策もなく、一夏はいきなり運用している。

 普通に考えても、何か裏があるとしか思えない。

 

 

 

***

 

 

 

 考えが行き詰まったあの日、クロエに相談したらこんな答えが返ってきた。

 

 

「この騒動、一見すると幾つもの組織が手を組んで動いているように見えますが、それぞれの目的を達成する為に一時的に手を組んでいるに過ぎません。

 ISを出した本当の目的は、ISをイチカに届ける事です」

「は? なんだってそんな面倒な事を」

 

 一夏にISを渡したいなら、日本政府が自衛目的でISを貸与(たいよ)し、護衛という名目で堂々と監視も付けられる。わざわざ敵に回って博打じみた方法でISを届けるなど、非効率極まりない。

 

「おそらくですが、日本政府は渡さなかったのではなく、渡せなかったというのが正解でしょう。箒様をイチカの(そば)に置いた事で世界中の監視が強くなりましたから」

「チッ、先に手を回したのが裏目に出たか」

 

 あの時はああするのが最善だったとはいえ、次善の策を潰した結果になったのは痛い。

 

「敵はそこに目をつけたのでしょう。イチカがISに搭乗して騒ぎが大きくなれば、それだけ様々な目がイチカに向きます。それを利用して都合の悪い部分を誤魔化したいのかも知れません」

「8機も用意してるのは、やはりドイツとの合流を警戒しての事かな。それとも、日本でモンド・グロッソの悲劇を再現するため?」

「……いいえ」

 

 言ってクロエは長考。それは考えをまとめる為というより、言うべきかどうか悩んでいるように見える。

 若干、束を哀れんでいるように見えるのは気のせいだろうか?

 

「敵はわたし達の動きも視野に入れています。少々派手に動きすぎましたし、この機に乗じて何らかの方法でこちらの動きを制限するか、自分達の監視下における算段をつけているかと」

「だとすると、テロは目的ではなく手段か。本当の目的は、テロの鎮圧から派生する諸々(もろもろ)の問題を利用した利権が狙い。ドイツも利用されてるのかな?」

 

 最悪、一夏とドイツが合流してテロリストを返り討ちにしたとしても、狡猾な連中はその事態も想定した手段だってあるはずだ。

 表向き、敵は一夏の誘拐、もしくは暗殺が狙いだと思わせるように動いているが、それは周りを欺くためのブラフ。本来の目的は、一夏を騒動の中心に()え、周りの動きをコントロールする事だろう。

 

「必要だったとはいえ、少々派手に動きすぎたかな?」

「いえ、むしろシンプルになったというべきでしょう。数多(あまた)の敵が一気に集まったので、お互いを出し抜く事に躍起(やっき)になり、その隙をついてイチカ達に合流しやすくなりました。

 一番厄介なのは、イチカの狙いを阻止する方です」

「いっくんの?」

 

 クロエの意図する所がわからない。一夏は被害者であり、騒動の渦中に据えられるのを防げればいいはず。

 他に何か問題があるのだろうか?

 

「現時点でイチカが動いていないのは、周りの大人達がどう動くかを見ている段階だからです。これで日和見をするようなら、イチカは必ず動きます――いえ、動くしかないんです」

「それってどういう……!?」

 

 言いかけて気付いた。

 一夏はこちらが動いていることも視野に入れている。クロエは束に(うなず)き、とんでもないことを口にした。

 

「イチカは敵の動きも、私達が動いている事にも気付いています。それが間に合うかどうかギリギリだというのも」

「え、でも束さん達、いっくんとの接点は箒ちゃんぐらいしか……」

「束様はイチカを――ファストクラスという規格外を甘く見すぎです。あいつらは『状況』というヒントさえあれば、全体像と今後の動きをほぼ正確に読み切って最適解を出せるんです。

 わたしの考察でさえ、イチカ達の足元にも及ばないんですよ?」

 

 そう言われてハッとする。

 一夏はDSOではファストクラス、それも世界初のソロでその位置にいる。どこにも属さず世界最高位にいるのは腕前もさる事ながら、戦略に関する理解力もあるということだ。

 

「推測ですが、イチカは最悪の覚悟もしています。分水嶺(ぶんすいれい)はイチカがISを手にするか、ドイツがどこよりも早くISを展開するか」

「いっくんにISを使わせないのはわかるけど、ドイツにISを使わせないのは?」

「敵のもう一つの目的は、ドイツも騒動の渦中に据えることです」

「ドイツ――そういう事か」

 

 ここまで説明されてようやく気付く。連中にとって、テロは本当に手段の一つらしい。

 

「日本政府が動くより早く、ドイツがISを使ってテロを鎮圧させ『この騒動はドイツの自作自演(マッチポンプ)だ』と言い張って世間の評判を落とすと共に、イチカと分断するのも目的の一つです。

 現時点で日本政府が表立って行動をしていないのは、敵の息がかかった者がいるのかも」

「ただヒヨってるだけだよ。つまりいっくんは一人で全部解決する気かい?」

「わたしが知るイチカなら、やりかねません。この状況をひっくり返すにはこちらの戦力を増強するのは必須ですし、ローラ(ラウラ)エクエス(数馬)以外の予想外(イレギュラー)を期待しなくてはなりません。

 いずれにせよ、負ける事はないでしょうが、勝つ事も難しそうです」

 

 

 

***

 

 

 

 それがクロエの出した答えだった。

 これで何を起こそうとしてるのかまでは不明だが、答えのヒントはこのISにあると束は考えている。

 先んじて千冬にISを渡し、こちら側に引き込む事ができたが、分水嶺の一つであるISは既に一夏の手に渡ってしまったし、クロエが気にしていた予想外の戦力(イレギュラー)も現れている。

 ここまでそれぞれの歯車が噛み合わないまま、皆が皆同じ方向に向かっていると、何者かが裏で糸を引いているとしか思えない。

 

「となると、あっちにも何か秘密がありそうだね」

 

 束は空間パネルをもう一枚展開し、コンテナの後ろから10基の中型ドローンが飛び出していく。

 例の無人機を回収し、その機体を調べなくてはならなくなった。

 

「お前がどこまで絡んでいるかはわからないけど、私がいる以上、好き勝手にはさせないよ――茅場」

 

 大なり小なり、この事件の裏にはあの男が関わっている。束を表舞台に立たせ、彼らの目的を果たす為。彼らの目的を果たすには、束は悪役ではなく、被害者の側に居るのがベストだ。この騒動のどこかに反撃のヒントがある。

 業腹(ごうはら)だが、今は彼らの思惑に乗るしかない。 




ようやく束と千冬、一夏(瀕死)を合流させられました。更には忘れかけていた茅場の存在、そして一夏が気付いたランクスの影。テロ部隊や未確認(イレギュラー)にどこまで関わっているのか、彼らは敵か味方か!?

Q:AICはドイツが開発したものじゃないの?
A:この世界線ではイスラエルがイチカの技術を(アホみたいな低価格で)買い取った、という事になっています。技術はドイツのそれよりも数段低く、レーゲンに搭載されているものより劣ります。
原作ではただ「ドイツが開発した」というだけでその開発経緯がなく、背景作ってしまえばいじれる事に気づいたので、今後もこういうフラグめいたものも散りばめていきます。

前からちょろっとは入れてたけど……


Q:クロエ(マジェスタ)もかなりキレ者の実力者なの?
A:Eスポーツのプロチームに入れるぐらいには実力者で、DSO女性陣の中ではトップクラス。たまに読み間違える事もあり、この考察も間違いが2つあります。
結果として一夏が勝てるフラグがポッキリ折れてるんですけどね✩

過去の話を読み直すとニヤリとする場面があったりしますが、気づいた方は今はスルーでお願いします。ここからの大逆転も、いい意味で期待を裏切れればいいんですが…


【今回の設定】

※1 低致死性兵器
以前は非殺傷武器と定義されていたものの総称。
スタンガンやゴム弾でも死亡例が多発したため、現在はこの呼び方が一般的らしいです。

※2 心原性ショック
血液の逆流やGショックによって血液の循環が滞ったり逆流することで起きる心機能障害のこと。主な所では急性心筋梗塞や急性心不全、劇症型心筋炎(心臓にウィルスなどが侵入して炎症を起こすこと)など。ヒートショックやコールドショックでも起きる症状なので、こちらの方がわかりやすい?
一夏は俗にいうブラックアウトやグレイアウトを超えた状態で、心機能のみならず呼吸器系にもダメージを受けて仮死状態。急速に処置を施さないと危険な状況でした。
特に耳から血を流した状態では脳にダメージがあったり、場合によっては全身麻痺などの重い後遺症が残る場合があるほど危険だそうな。
ISスーツは耐Gスーツ的な役割をするとかいうのを小耳に挟んだことがあり(公式設定なのかまではチェックしてない)、半裸でIS乗ってたらこういう事もあるんじゃないか、と考えてます。

こういう描写でのピンチがなかなかなかったというのと、束との自然な合流をしたかった為、こういう描写入れてみました。
反省はした。後悔はいつかやる。

プロローグはリザルト回含めて残り2話か3話。
かなり駆け足でかいたので、後々この話も修正かけるかも知れませんが、大筋は変わりません。

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