DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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Wild Flickerei:ドイツ造語で『あり合わせの』『その場しのぎの』という意味合いの造語。
なぜこのタイトルなのかは本編で。そして何気に初の連番タイトル!
(単純に文字数増えたので分割しただけw)

プロローグにおける一夏の最終戦にして、ようやく出せるブッ壊れ回、開始。



00-25  Wild Flickerei - 上

 一夏が戦闘を開始して10分、機動要塞(アームズフォート)のダメージは無視できないものとなっていた。

 無人機は通算52機を落とし、機動要塞の兵装に至っては中型のミサイルハッチ12基、5連装機関砲(CIWS)8基を全て破壊。マイクロミサイルハッチも24基のうち17基、レールガンも32門中22門、パルスマシンガンも24門のうち16門を無力化しただけでなく、使える8門のうち4門も基部フレームが歪んでおり、まともに動くのは4門のみ。

 更には2門の主砲も右側は砲身が折れ、左側は砲身の半ばから切り落とされてまともに撃てるかどうかも怪しく、巨大な本体も深刻なダメージを与え、生命線である18基のプラズマジェネレーターはうち7基を破壊。それとは別に4基が外殻に亀裂が入り動作が不安定となり、無限工房(ファクトリー)の生産能力に影響が出る所まで追い詰めた。

 総被害の割合は6割。軍事的な判定でいえば全滅判定を超え、壊滅判定というダメージをたった一人で()してみせたが、一夏の方もダメージは深刻だった。

 襲い来る無人機を盾にしてわずかな休憩時間を作り出し、体力を温存しながら(けず)っていたが、所詮は焼け石に水。元々体力が尽きかけていた上に遮蔽物のない海上で四方から攻め立てられる理不尽な物量戦は、さしもの一夏でも(さば)ききるのは無茶、もしくは無謀だった。

 一瞬の判断ミスで左翼のスラスターにビームの直撃を受け、機動力が低下した所に怒涛(どとう)の弾幕。なんとか致命傷を避ける事が精一杯で、あっという間に追い詰められた。

 

 ハイパーセンサーをはじめ、主要部分は(かろ)うじて無事ではあったが、それ以外は左腕部(マニピュレーター)ごとライフルが破壊され、左脚のユニットも一部が消失。右腕こそ動ける状態だが、ライフルの弾はとっくに撃ち尽くし、あとは機動力を活かして翻弄しつつ、銃剣とブレードで無人機をも利用して機動要塞を削っていったが、疲労からの凡ミスで後ろからのビームをかわしきれず、左翼は基部から大破。2つのブースターユニットも同様。

 右翼こそ残っているが、頼みの綱であった機動力を奪われ体力も限界。そんな状態からでも追加で無人機3機を落としたのは流石(さすが)といえたが、それまでだった。

 

「ッたく、ンなとこまで、再現、すんなよ……」

 

 息も()()えに悪態をついたが、状況はジリ貧を超えて絶望的。

 さまざまな残骸が浮かぶが、無限工房(ファクトリー)が機能しているお陰で機動要塞(デカブツ)は無人機の予備や弾薬のみならず、ISの特性である自動修復も強化され、本体そのものも徐々に修復が進んでいる。本家本元(DSO)ほどの修復速度ではないが、絶望的な状況なのは変わらない。

 DSOにおいてもその回復力は高く、その硬さと巨大さもあってユーザーの相対したくない敵ワースト5に入り、並みのプレイヤーでは最大数のレイドを組んでも落とすのが難しいほど。

 必死こいて本体を撃墜しても、最後に現れる中身(DS)はその回復速度と機動力と火力が爆上がりし、一定時間内にDSも倒せないと予備の機動要塞を換装してダメージがリセットされる理不尽仕様。

 こちらが体制を整えるどころか、回復アイテムを使うタイミングをも潰されることから『みんなのトラウマ』として名を()せていた時期も()()()

 

 再構築完了まであと95秒。2分足らずとはいえ、時間稼ぎをするにはあまりにも分厚い残り時間。残っている武装も右手の銃剣とブレードのみ。機動力も失った今、引くにしろ進むにしろ、そのタイミングすら失っている。

 機動要塞(デカブツ)は大半の兵装こそ潰せたが、本体は未だ健在。更には無人機は予備機(エッグ)の反応がまだ40以上。展開されている21機もの無人機も健在で、一夏を押さえ込むように周囲に展開している。

 ()()()()()()一夏は追い詰められているし、実際このまま弾幕の雨に(さら)されてしまえば間違いなく一夏は終わるだろう。が、ここで一夏にとって予想外の、そして悪党のお約束ともいうべき展開(イベント)が始まった。

 

『まさか、たった一人でここまでできるなんて驚きね』

 

 突然の通信に一瞬面食らい、一夏が周りをキョロキョロと見回した。その姿すら相手には滑稽(こっけい)に見えたらしく、クスクスと複数の笑い声が聞こえてくる。

 

『こっちよこっち。アンタの目の前』

 

 眼前にウィンドウが開き、複数の熟女達が現れた。

 それを見て初めて目の前の機動要塞(デカブツ)からの通信だと気付く。DSOでも満身創痍(まんしんそうい)の相手を前に、会話に(きょう)じるヤツはあまりいなかったため、正直驚いた。

 

「……そっちから、通信をしてくるとは、思わなくてね」

 

 息も絶え絶えに皮肉を含めた悪態をついてみせたが、皮肉を理解できない相手(バカ)には効かなかったらしく、意気揚々と話を続けてきた。

 

『ここまでの大健闘をしたご褒美よ。私達と会話できることを光栄に思いなさい』

 

 まさかのまさかだった。

 本当に満身創痍の一夏(てき)を前に、自分達の優越感を満たす為だけに通信してきたらしい。これはチャンスと思い、時間稼ぎに利用しようと相手の余興に付き合うことにする。

 

「あんた達が、この騒動の、黒幕か?」

『黒幕とは失礼ね。私達はただ舞台を整えてあげただけ』

『そうそう。私達はフィクサーって所かしら?』

『舞台演出って言うなら脚本家(フィクサー)じゃなくて演出家(ディレクター)でしょ』

『ムリして横文字使わないの。頭悪いのがバレるから』

『なんですってー!?』

 

 そのままギャーギャー騒ぎ出す熟女達に内心呆れる。ここで言うフィクサーとは日本語英語の黒幕(フィクサー)だろうとアタリをつけたが、それにツッコむ気力もなく、呼吸を整えながら相手の出方を待つ。

 

『あなた達、黙りなさい! とにかく、あなたに声をかけたのはスカウトをするためよ』

「スカウト?」

『だってそうでしょ。世界唯一の男性IS操縦者であり、それだけの戦闘力。それに、アンタの技術で結構オイシイ思いもさせてもらったし、このまま終わらせるには惜しい。だからこその提案(スカウト)よ』

 

 ……正真正銘のバカだった。

 

 この場面で選択という名の(おど)しをしてくるのも(あなが)ち間違いではないだろう。が、イチカに言わせればそれは余裕ではなく慢心(まんしん)だ。

 いかに窮地(きゅうち)(おちい)っているように見えても、それが相手の演出、もしくは(さそ)いの可能性を考えていない時点でマヌケ。向こうは恐怖を演出しようとしてるのか、周囲にいる無人機の武装を展開。21機のうち6機は変形し、下半身にある他節の尻尾(テール)が前方にせり出し、4本の腕も前につき出すと、その中央にエネルギーの球体が発生。機動兵器(アームズフォート)も残る武装を展開し、修復が始まっている左舷の主砲にもエネルギーがチャージされていく。

 再構築完了まで残り40秒。流れは間違いなくこちらに向いている。あとは会話を引き伸ばして時間稼ぎに徹するだけだ。

 

「従えばあんたらの金ヅル、拒否すれば死、ってか」

『ちゃんと自分の立場もわかっているのね。頭のいい子は好きよ。決まっているだろうけど、答えを「アタマわいてんのか? あんたら」――は?』

 

 この場面で(あお)ってくる一夏に、今度は岸たちの脳がフリーズ。拒否してくるという選択肢が最初(ハナ)ッからなかったようで、彼女達の表情が変な形で固まった。

 

「敵前で舌なめずりするような二流風情が。俺を飼い慣らそうなんて随分な思い上がりだな」

『あなたこそ、今の立場がわかってないの? それともそこから逆転できるとでも?』

 

 額に青筋を浮かべつつも、生意気な中学生(ガキ)に対して大人の女としてしっかり説明すべく、冷静に対処しようと(つと)める。

 

「はッ、まさか俺が勝ち目もなくノコノコ出てきたとでも?」

『ハッタリは通用しないわ。現にあなたは私たちに追い詰められているじゃない』

『頼みの綱である織斑千冬も、今はドイツの部隊と一緒にテロリストの制圧に夢中。日本政府はまだ動いていないし、仮に動けたとしてもこの距離じゃもう手遅れ』

『篠ノ之博士の方も保有戦力は織斑千冬だけなんでしょ。もう一人ISを所持している可能性があると聞いてたけど、確認できたのはお友達を護衛していた小娘ひとり。増援を期待しても今更間に合うような距離じゃない』

『あんたが言える返答は“はい”か”YES”よ。ほら、どっちを答えるの?』

 

 自分達が望む答えを強要する熟女達を前に、一夏は思惑通りに事が進んでいるのを実感する。

 先のIS実働部隊もそうだが、ISに関わる女性達はISの隔絶(かくぜつ)した能力を自分の力と錯覚する傾向にあるのか、ちょっとプライドを傷つけただけで癇癪(かんしゃく)を起こしやすい。現にこうして煽り散らかせば、容易に時間稼ぎができてしまう程に。

 

「……」

 

 一夏は無言で右手のライフルを格納(マウント)。自分達の提案(めいれい)に従うと思ったのか、醜悪な笑みが浮かぶ。悩むフリをしてチラリと残り時間に意識を向けると、残り10秒。()()()()()()()()

 お前らが相対しているのは仮想世界の戦場で非現実な敵と対峙(たいじ)しながら、自ら縛りを与えて更なる地獄を求める、正気と狂気の狭間(はざま)で踊り狂うイカレた道化師(トリックスター)だ。これぐらいの窮地(きゅうち)なら、日常茶飯事どころか喜々として迎え入れるファストクラスという変態ども(へービーユーザー)

 ここから先は、余裕と慢心を()(ちが)えたその笑みを、恐怖と狂気で塗り潰される時間だ。

 

「寝言は寝て言え。クソババア」

 

 残った右手で中指を立てつつ、そう言ってやった。

 瞬間、全ての火力が一夏に集中。大爆発を起こし、海上に強大なエネルギーの塊が生まれた。

 

 

 

***

 

 

 

「……最後の最後まで生意気なガキだったわね」

 

 地上に太陽が出現したかのような巨大なエネルギー塊を(なが)めつつ、岸が吐き捨てるように(つぶや)く。どれだけ有用性のある者であろうと、自分に従わない奴は不要(ゴミ)だ。殺されたとしても文句は言えない、言わせない。

 彼女らはそうして今の地位を築いてきた。それはこれからも変わらない。スコールには(あらかじ)め『従う意思を見せなければ撃て』と命じてはいたが、一切の容赦も躊躇(ちゅうちょ)もなかったのを見るに、最後の言葉は彼女も相当イラついたらしい。

 

「あの爆発は本土(むこう)からも観測されたでしょうし、そろそろこっちも移動するべきじゃない?」

「そうね。こちらも相当なダメージを受けたし、修復機能があるとはいえ織斑千冬(ロートル)が来たら少し面倒よ」

「それ以前に補給ができるアテはあるのかしら?」

「それなら問題ないわ。こいつはこのサイズでもISだし、工房(ファクトリー)が稼働する限り、武器弾薬を精製するだけでなく、自己修復も機能してる。

 いざという時の為に、太平洋の南東で展開しているアメリカの艦隊が回収してくれるように手配もしてある。そこでこいつを引き渡す代わりに、私達の身の安全と新しい戸籍を得られる手筈(てはず)を整えてあるわ」

「さすがね。それじゃあすぐ行きましょ?」

「落ち着いたらマイアミのビーチでバカンスするのもいいわね。この時期ビーチが人気だったはずだし、イケメンもナンパ狙いでうろついてるかもよ」

「あら、ひと夏のアバンチュールってのもいいわね」

 

 ワイワイ騒ぐ女尊主義者(バカども)を尻目に、スコールはたった今潰したはずの一夏から目が離せないでいる。

 

(満身創痍の状態なのに、どうしてあそこまでこちらを(あお)った? ただの時間稼ぎだとしても、あそこまで言う必要はなかったはず――!?)

 

 そこまで考えて気づいた。

 自重せず撃ち込んだ光学兵器と質量弾の爆発が、収まるどころかむしろ増大している。そのエネルギーによって生まれた暴風は海水と共に、周りに浮いていた残骸をそのエネルギー塊に飲み込み――否、粒子化してエネルギー塊の中に取り込まれている。

 

『まさか……一次移行(ファーストシフト)!?』

 

 この考察が間違いであってほしいと思った。だが、これまで一夏の行動には必ずといっていい程、伏線ともいうべき策が(こう)じられてきた。それを見てきたスコールの勘が警鐘を鳴らす。

 

(まさか――まさかまさかまさか!?)

 

 たった一人でこの場に現れたのは、自身を(おとり)にしてこちらを逃がさぬよう、この場に釘付けにする為だったとしたら。

 それは本土からの増援を待つ為でも、ましてや篠ノ之博士からの援護を期待するものでもなく、自身が駆る機体が形態移行(フォームシフト)するまでの時間稼ぎだとしたら。

 その発動を隠すと同時に、必要なエネルギーを集める為にわざとこちらを煽って攻撃させたとしたら――

 

「……スコール?」

 

 岸がスコールの異変に気づいたが、そんなのを気にしていられる余裕が今のスコールにはない。可能性の話とはいえ、もし形態移行するのであれば、手傷を負った今の状況では分が悪いどころの話ではない。

 スコールは急いで全ての無人機に予備機(エッグ)の換装を指示し、自身はジェネレーターのエネルギー供給を操作して工房(ファクトリー)の生産ラインを変更。弾薬ではなく喪失した兵装とユニットの修復を最優先に指示しつつ、距離を取って残っている武装を一夏に向け、いつでも逃げられる準備を整えた。

 同時に、換装が終わった21機中15機は全ての武装を展開し、残る6機は変形させてチャージ攻撃の準備。スコールらしからぬ用心の仕方だが、予想が当たっているならこれでも不足なくらいだ。

 

 こちらの準備が終わったのを待っていた、というより間に合ったというべきか。エネルギー塊が渦を巻くように収束していき、海上には残骸がほとんど残っていないのを見て、予想が外れていないのを確信。

 無人機はポジションを変更、出てきた所を一網打尽にできる位置に再展開。中から出てくるタイミングを見計らっていたが、突然エネルギー塊そのものが突然動き出し、付近にいた無人機2機が一瞬でスクラップにされた。

 

『なッ!?』

 

 予想外の動きに慌ててスコールは無人機に指示。飛び回るナニカを撃墜すべく総攻撃を開始する。

 面制圧のためのマイクロミサイルが、それを援護する為の拡散ビームが、行動範囲を狭めるためのパルスマシンガンと主砲クラスのビームが、無人機の奥の手ともいえる巨大なエネルギー弾の全てがエネルギー塊にダメージが通っているように見えない。

 爆発も爆風も、ビームの余波でさえ軌道に影響を及ぼさず、先程見せた特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)を織り交ぜた変則多段瞬時加速(マルチイグニッション)による多角的高速移動を展開。速度はより凶悪になり、そこに無反動旋回(ゼロアクト・ターン)三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)が織り交ぜられているだけでなく、随所で一零停止も発動させた予測不能な多角的超高速機動。

 その動きに翻弄(ほんろう)され、弾幕で行動範囲を狭めているにも関わらず、ハイパーセンサーで追いかけているのにその残像すら捉えることができないまま、次々と無人機がスクラップにされていく。

 

『なに!? 何が起きているの!?』

『あのガキはもう死んだはずでしょ? なんであんなのがいるのよ!』

『は、早く潰しなさい!』

 

 周りがヒステリックに騒ぐのを無視して換装した無人機を次々と投入するが、その全てが武器を向けたものから破壊されていく。

 その攻撃も斬られているのか、撃たれているのか、殴られているのかすら判別できない。そもそも動いている物体(アレ)あの少年(一夏)なのかも判らない。

 

『くッ――!?』

 

 半ばヤケクソ気味に修復が完了したばかりの左側の主砲を発射。牽制のつもりで撃ったが、偶然かわざとか、命中して動きが止まった。

 主砲のエネルギーが光の(まゆ)に吸収され、その繭が四つに割れる。上二つは光の翼に、残る二つは巨大な楯に変化。花弁が開くかのように移動し、現れた中身にスコールが戦慄(せんりつ)する。

 

『な、なによ、それ……』

 

 そこにあったのは先程までミリタリカラーをメインとしたボロボロのISではなく、白を基調として部分的に青と黒、そして各所に赤いラインの入った未知の機体(ナニカ)

 

 真っ先に目に付くのは、光の翼を(まと)った背部非固定部位(アンロック・ユニット)の展開翼。先程の鳥類を()した翼から西洋の竜を彷彿(ほうふつ)とさせる意匠(いしょう)へと変わり、その大きさだけで中量級の機体が重量級かと錯覚させるほど。そして本体も大きさこそ変わらないが、各部が強化されている。

 ヘッドパーツは視線を隠すようなゴーグルから積層型のヘッドギアになり、中央にあるハイパーセンサーも大型化。そして側頭部の左右にもブレード型のハイパーセンサーが追加され、アーマー胸部にもハイパーセンサーがある。これだけでも各サポート機能が強化されているのがわかるが、左右の腕にも変化があり、右腕には手甲(バックラー)が追加され、左腕には3門のバルカン砲が内蔵された小盾(スモールシールド)、壊された左マニピュレーターも鋭利なエッジが付いたものに変わっている。

 両肩ユニットにはこれまでなかった楯状の非固定部位があるが、こっちは純粋なエネルギーシールドとなって左右を固め、腰部非固定部位(アンロック・ユニット)も一回り大きくなって長さも変わり、そこに懸架(マウント)されているライフルも変更されたのか、左手に持っているライフルの砲口が上下2門になり、右手に持つブレードも反りは浅いままだが肉厚になった。脚部も基本的な意匠は変わってないように見えたが、脹脛(ふくらはぎ)部も一回り大きくなってスラスターらしきスリットがある。青色のISスーツらしきものも生成されたらしく、所々見えていた肌色が見えない。

 これはもう強化ではない。世代を超えた進化だ。

 

「……ようやく、()()()()に動けるようになったか」

『『『『それなり!?』』』』

 

 この男はこちらを見ておらず、機体の各所を動かしながら確認して(すき)だらけのまま、意外なことを言った。

 

(コイツは、イカレてる……)

 

 あまりの一言に女尊権利者のみならず、スコールまでも絶句する。

 本来の形態移行(フォームシフト)は、戦闘などの外部から受ける強烈な刺激で予想外の進化をする可能性がある。それを極力回避するため、機体をハンガーなどに固定して初期化(フォーマット)と同時進行で行い、パイロット、ないしは製作者が望んだ性能を引き出すものだ。

 なのにこの男はその過程を無視し、自身を囮にしてまでこちらをこの場に釘付けにしつつ、初期化(フォーマット)中に戦闘という経験を積んで一次移行(ファーストシフト)に至っている。

 望んだ能力に至る可能性は低いし、それどころかダメージも経験の一部と学習して弱体化する可能性だってあった。だが一夏(コイツ)はそんな懸念(けねん)をものともせず、初期設定のまま大立ち回りをした挙句、一次移行で『当たり』を引いた。

 この少年にこちらが有する常識は一切通用しない。否、危機管理も危機意識も、こちらが首の皮一枚と思っているその先に自身の危険域(レッドゾーン)を置いている。あの無茶苦茶な機動も、それを行う胆力の根底もそこだったと理解できても、それに対抗する策が全く思いつかない。

 

「こっからは俺の反撃(ターン)だ。大口叩いただけの反抗をしてみせろ!」

 

 一夏の姿が消えると、一瞬で3機の無人機がスクラップにされ、機動要塞の武装ごと一部が破壊される――スコールが覚えているのはそこまでだった。

 

 

 

***

 

 

 

 その姿が、攻撃が、岸には全く見えない。

 現在進行形で次々と無人機が、機動要塞が壊されていっているのに、どこが攻撃されているのか、どこが破壊されたのか、それ以前に機体がどこを向いているのかも理解できない。

 

「うあッ!? な、なによ――」

「なに!? 何が起き……ひぁッ!」

「早く、早くアレを止めなさ――」

「や、やめ――」

 

 あちこちから被害報告(アラート)が来るというのに被害の把握が追いつかず、岸達がいるブリッジも振り回され、次々と周りの声が消えていく。

 数分か数秒か、そんな一方的な蹂躙が続いていたが、ふいに一夏の猛攻が止まる。何が起きたと考えるより先に、偶然モニターのステータスが目に入った。それを見た岸は愕然(がくぜん)とする。

 

「な、なによ、これ……」

 

 海上にいた21機の無人機は全てスクラップにされ戦闘不能。ミサイルハッチも全てが沈黙し、レールガンは32門中2門が残り、パルスマシンガンも全滅。5連装機関砲(CIWS)に至っては修復できた3基を含め全てが基部から消失し、主砲に至っては左右の2門がユニット部ごと消失。

 生命線であった18基のプラズマジェネレーターも、12基が消失し、残っている6基も不安定な4基と、まともに動くのが2基。これでは工房(ファクトリー)が動かないどころか、本体の維持すら難しい。

 海中にある予備機(エッグ)は残り12。あれだけの襲撃の間にもスコールが換装させていたようだが、全ての無人機が撃墜されているのに、あれだけ派手に暴れて生まれたはずの残骸(デブリ)もほとんどない。

 壊された無人機を見てみれば、煙を上げながら少しずつ削られるように消えているのに気づき、その煙を目で追っていくと、残骸は粒子化して目の前の機体に取り込まれ続けている。

 

「あの機体(IS)相手(こっち)を喰ってるというの!?」

 

 厳密には違うのかも知れないが、そう表現するのが正しいように思えた。

 あのデタラメな機動力をはじめとして、ダメージも消えた要因はこちらの残骸を粒子化・吸収して自身の力に変換できる特殊能力。それはこの機動要塞に搭載された工房(ファクトリー)と同等、もしくは互換性のあるモノが搭載されているという事。種類こそ同類とはいえ、サイズが変われば必要なエネルギーも、修復に必要な量も変わる。

 取り込まれた質量は機動要塞の半分程度と80機近い無人機。それら全てがあのISのエネルギー源になったのであれば、エネルギーの枯渇(こかつ)だけでなく、ダメージを通せるかどうかも(あや)しい。十分な戦力を有した一夏に対し、こちらは満身創痍で無人機も失っている。

 控えめにいっても絶望的だ。

 

「スコール! なんとかしなさいよ、スコール!」

 

 慌ててスコールを呼ぶが、あれだけ騒いでいた女尊権利者(バカども)も周りで気を失って倒れ、スコールも今の猛攻で気を失ったのか、全く反応がない。そうしてる間にズズン……と大きな音と振動が機体越しに伝わり、何事かと思うより先にブリッジが前に傾き始めた。

 

「なッ!? ま、まさか――」

『恐怖と一緒に学んどけ。何を敵に回したのか』

 

 そう言った一夏は機体の真上、右腕には消えつつあるエネルギーブレード。それを振り抜いた格好で自機の真上にいる。

 

(ウソでしょ――まさか、本当にIS単騎でこんな巨大兵器を斬ったの!?)

 

 本体は横から真っ二つにされ、ブリッジ部分のユニットこそ無事だが、後方の楕円形ユニットと前方の上下二つのステルス機のようなユニットを繋ぐ部分――そこは工房(ファクトリー)がある区画、そこがまるごと消失する。

 たった1機のISに巨大兵器が落とされるという非現実的な光景を、岸は呆けた顔をして見つめていた。

 

 

 

***

 

 

 

『なんて事を……なんて事してくれたのよ!』

 

 呆然としたまま呟き、徐々に状況を理解してきた岸がヒステリーを起こす。新たなカネのなる木を破壊されたのだから当然といえば当然だ。

 

『これがどれだけの価値がわかってないの? 人類の革新を促すものだったのよ!?』

 

 工房(ファクトリー)は素材さえあれば何でも生み出せる、ある意味人類が求めた錬金箱のような代物だ。

 その素材も適当な廃棄物を材料に再構成すれば、通常の運用でも歩兵武器から移動兵器をはじめ、果ては戦術核やISまで生産可能。

 残念ながらアシがつきにくい貴金属等やISコアなどは生産できないが、それでも巨大兵器を含め、軍事関連では圧倒的アドバンテージを得られる画期的な発明品。長年溜め込んだ資産の半分以上をつぎ込んでまで入手した最大の切り札、それを文字通り消し飛ばされた。

 これがなければ、今後描いていた全てのプランが水泡に帰す。

 そこまで頭が回り始めた岸が罵詈雑言(ばりぞうごん)を並べ立てる。あまりの内容に文字に起こすのが嫌になるほどの内容だが、一夏は一向に気にせず巨大兵器をスキャン。懸念(けねん)していた広域殲滅兵器を探すが、それらしき武装が見つからない。

 

無限工房(ファクトリー)で生産するつもりだった? いや――)

 

 もうひとつの予測を裏付けるため予備機(エッグ)もスキャンするが、無人機にも自爆装置らしきものはなく、せいぜいが光学兵器のジェネレーターを暴走させるぐらい。

 その爆発力も、広域殲滅兵器と呼べる程の火力はない。

 

「チッ、悪知恵だけは回るか」

 

 一夏は両手にライフルを構え、ダメ押しとばかりに海中に(ただよ)予備機(エッグ)を撃つ。当然、弾は海中で威力が減衰されるが、予備機に着弾すると弾丸内部に内包していたエネルギーが開放される。

 解放されたエネルギーは装甲の一部を()がし、光学兵器のジェネレーターが顔を覗かせると、そこにエネルギー干渉して強制的に暴走。残った12の予備機は全て自爆し、何もない海上で巨大な水柱が連続して立ち昇る。

 

『なッ!? お前――!?』

 

 これだけボロボロにしながら、更なる追撃をする一夏に文句を言おうとするが、振り返った時には姿はなく、残されたのはガラクタとなった巨大兵器とわずかな残骸。

 一夏がどこに行ったのか探したくても、それらの機能は全てIS(スコール)に集中している。ここにきてワンオペの弊害(へいがい)が浮き彫りになった。

 

『くッ、ここまでね』

 

 岸はコンソールを使って外部に連絡しようとするが、肝心のコンソールは真っ暗。驚いて周りを見渡すが、ブリッジ内にあるコンソールはどれも電力が通ってないのか、全て真っ暗になっている。どうやらさっきの攻撃で本体のジェネレーターも破壊されたらしい。

 いざという時の為に所持していた携帯も取り出してみるが、ここは海上のド真ん中の為、当然圏外。緊急時の予備電源もあるにはあるが、スコールが目を覚まさない限りそれも使えない。電源が使えないという事は、当然巨大要塞は沈没する。

 

『スコール!? 起きなさい、スコール!!』

 

 慌てる岸が意識のないスコールに呼びかけるが、スコールの意識は未だ目覚めない。反応のないスコールにしびれを切らし、真っ暗なモニターを必死にバンバン叩く姿は、滑稽ですらあった。

 




というワケで理不尽vs理不尽によるジャイアントキリング。タイトルの読みは『ビルト・フリッケライ』で、ビルト・フルークから進化・もしくは変化したと思わせるように作った名前(というか造語?
簡単な機体説明は次話で出しますが、スペックだけなら主人公機どころか裏ボスクラスで出てきても違和感ないシロモノ。
DSO(ゲーム)でもプレイヤー機で出てきて物議を醸すような代物が、現実のISで現た事でどれだけの問題といっくんの重要度が爆上がりするか、そこを描いていければいいなと考えてます。

正直、やりすぎ感はハンパないとは思いつつも、プロローグでは最後の戦闘なんだし、多少(?)縛りはあってもいっくんにはソロでAFを潰す必要があり、どうせやるなら突き抜けた方が面白いだろうと考えてこの展開に。
これからパワーインフレは確実になりますが、どこまでやるかはまだ手探り。とりあえずの目標は、原作キャラの価値を学園以外でも通用するまでの裏打ちと、それに伴う恋愛模様を中心に話を進める予定。そこに悪役の思惑なり何なりが組み込めそうなので、まだまだネタが尽きることはなさそうです。
毎度毎度、最大の敵は執筆時間……


【今回の設定】

機動要塞型IS『ローゼンクロイツァー』
本来はDSOにて、あるストーリーミッションの最終防衛ラインに登場するDSであったものを、第6世代相当のIS技術で再現された巨大兵器。
元ネタ同様、回復系OWを搭載しており、そのデタラメな修復力と生産性をもってAP・EN回復がある他、様々な条約を無視した飽和状態の弾幕と、常軌を逸した超長距離兵装を搭載しており、オプションユニットの無人機を大量に使役(ゲーム上では無尽蔵)して領域支配(エリア・ドミナンス)を可能としている。
全長1642メートル、全幅940メートル、全高105メートルという図体にも関わらず、カテゴリはIS。デカい図体は特化換装装備(オートクチュール)の派生ともいえる代物で、ISを核として複数の管理AIによるサポートでワンオペ運用を可能とし、その図体に似つかわしくない機動力も有している。
仮に機動要塞部分が破壊されたとしても、核となるISが破壊されない限り機動要塞部分の換装が可能。そのISも単体で広域近接特化の高機動型でなかなか落とせず、IS単体であっても小隊規模(最大8機)の無人機を管理・操作する事が可能。
元ネタはACfAのカブラカン――ではなく、ガンダムOOのアルヴァトーレとスパロボのグランドレッド・フェノッサ。
アルヴァトーレの性能もですが、中にいるアルヴァアロンのインパクトとスコールのイメージがピタッとハマり『序盤のボスに使いたい』とあれこれ考え、無人機も入れて色々こねくり回した結果カブラカンの亜種みたいなモノに。
名前だけでバレそうな気がしますが、後々出てくる“アレ”に対する伏線。気づいた方はネタバレせず、一人ニヤニヤしといてくださいw

※ オーバードウェポン『工房(ファクトリー)
アームズフォート『ローゼンクロイツァー』に搭載されていたOW。DSOでは無限工房(ファクトリー)と呼ばれていて、非公式ながら現実化した初のOW。
素材さえ搭載・または回収しておけば移動する生産工場として武器や装甲、果ては無人機の量産も可能とし、機動要塞に兵器廠(へいきしょう)(要は兵器生産工房)としての能力を付与する。
ゲーム上では理不尽な量の増援と回復力を演出するためのOWという位置付けであったが、現実世界で現れたことで機能が変化。使い方次第ではその場で戦術核すら生産可能なだけでなく、通常の運用でも歩兵武器から移動兵器、果てはIS(さすがにコアは無理)まで生産可能とする、文字通りの“理不尽を生み出す理不尽(オーバードウェポン)
反面、生産可能となるのは登録されたデータのみ。対応する素材がなければその素材の生産から始めるので時間がかかるというネックがあるだけでなく、水や食料などの栄養的価値のあるものは生産できない。

今後、このAFとOWがどういう影響を及ぼすかは未知数。
次週に次の予約投稿をしてあります。
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