DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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序章エピローグ。
ちなみにタイトルは訳すと某有名なボカロ曲。
序章の最後はこれにしたかったw


00-29 都合のいい正義は

「――今回の報告は以上です」

「……随分と、思いきった策を思いつくものだ」

 

 レクト本社の会議室で、須郷の報告を聞きつつ、タブレットを見ていた茅場の頬が引きつる。何か動きがあるとは思っていたが、これは予想以上だ。

 

『DSOで起きた正統派(ヒロイック)悪質系(ローグ)の大規模な闘争を機に、レクトは仮想課と共に事件の発端となる織斑一夏の事件を追っていた所、別ルートで事件を追っていた篠ノ之博士と合流。ドイツとデュノアもそれぞれ独自のルートで事件を追っていたが、自分達も利用されている事に気付き、オフ会を(よそお)ってテロ対策の準備をしていた所、既にテロリスト達は行動を開始していて水際作戦で対処するしかなかった。

 (くだん)の織斑一夏も、()()テロリストのISパイロットと遭遇してこの状況に気づき、なし崩しでテロ対策に参加。この事件に対し、日本の防衛機構が機能しなかったのは一部の権力者達がテロリストのスポンサーであり、事件が起きて対策本部を設置しても具体的な行動ができなかったのはこのスポンサー達が足止めをしていた()()()()()()、直撃取材をしていたメディアの中からテロリストが現れたのも、この権力者達と繋がっていた可能性が高く、織斑一夏が表舞台に立たれると不都合な者達が結託して事件を起こしたものと()()()()

 日本のIS(打鉄)を用意したのはIS学園で、独自の権限を有する為にアラスカ条約に(のっと)って介入できたが、千冬以外のパイロットを確保できなかった為、緊急措置としてドイツのメンバーに事情を話して搭乗してもらい対処に至った。

 アメリカ・ロシアのIS部隊が参加できたのは全くの()()。当事者達と情報交換を行ったが、独自に捜査していた訳でもなく、本当に寝耳に水だった。現に投入してきたのは新型の試験機で、装備もまともに戦闘できるものを搭載していなかった為、歩兵の捕縛を優先している』

 

 大まかな内容ではあるが、表向きはこういう流れで発表するらしい。これを一介の中学生がメインとなって考えたと言われた時、茅場ですら何かの冗談だと思った程だ。

 

「こちらの目的に気付いていると思うか?」

「可能性は低いでしょう。彼曰く『ピンポイントで黒幕にお仕置きしつつ、世界には注意喚起程度で済ませる』と言ってましたし、実際こちらを警戒する素振りすらありませんでした」

 

 そう言われると、尚更そう見えるからタチが悪い。このシナリオに便乗すれば動きやすくなるが、この状況を利用しようと考えていた茅場から見れば、どこかに落とし穴を用意されてるのではないかと疑心暗鬼にもなる。何より(いや)らしいのは、この流れに便乗しなければ、こちらは余計な遠回りをさせられてしまうという魔王の采配。

 既に茅場の中で五反田 弾という少年は、一介の中学生という枠ではなく、キレ者のDSOプレイヤーに分類(カテゴライズ)されている。

 

「ですが、これでレクト(こちら)と仮想課、ドイツにデュノア、篠ノ之博士達への疑惑は最初から除外されますし、こちらに何らかのアプローチをしようと考えている者達も、しばらく身動きが取れないでしょう」

「同時に、何かと黒い噂のある株主達も切り離せる、か。そちらに関する損害の算出は?」

「彼らが保有している株は全部で32%。仮に彼らが捕まった場合を考慮(こうりょ)し、それら全てを買収(ばいしゅう)する予算の捻出(ねんしゅつ)も済んでます。経営に支障はありません」

「損害を埋める手立ては?」

魔王(かれ)と博士の協力で、DSOに期間限定のイベントを(もう)ける事にしました。すぐにでも実装可能ですが、余計な混乱と疑惑を避ける為、MMOトゥデイの配信から1週間前後を予定しています。時事的なものもありますが、現在のアクセス数と期間から予測して、課金も含めれば2週間ほどで損害の3割、1ヶ月のイベント期間で6割弱は回収できると予想しています」

 

 打てば響く様な準備の良さは須郷の十八番(おはこ)だ。報告の時点で既に対策の準備も終わらせているからこそ、彼は社内外問わず茅場の右腕として認知されている。

 

「収益の分配について、博士はなんと?」

「特に何も。ですが条件が3つほど」

「条件?」

「このイベントが成功し、ユーザーから継続の声が上がったら常設のイベントとして設置する事と、このイベントで得たゲーム中の報酬及び、ユーザー間での攻略の考察や研究に関し、レクトからは何も言わない事を条件とされています」

 

 それらについては、こちらからお願いしたいぐらいの条件だ。

 常設イベントへの移行(シフト)はそこまで労力を()くものでもないし、ゲームの報酬や研究・考察はプレイヤーの特権だ。こちらからアレコレいうものでもない。

 それでもそこを強調するというのは、やはりこの事件を風化させないのが目的か、もしくは他に目的が――

 

「――そうか。彼女はこのイベントを利用して、未払いだった織斑一夏の報酬がスムーズに支払われる環境を整えようと」

「僕もそう考えています。それとこの機に乗じ、以前株主達からせっつかれてた“便宜(べんぎ)”について、僕から提案があるのですが」

「既に根回しは済んでいるのだろう? 目的が達成されるまで経営に支障が出ない限り、裁量は須郷君に一任する。それと、こちらもこの機に乗じてDSO内でうろつく面倒な連中も一掃しよう」

 

 それを聞いた須郷の口元が(いびつ)な弧を描く。博士(てき)と手を組むようなマネをしてまで、彼らと合流した意味はあった。

 茅場を知る者からすれば、身内以外の他人を気に掛けるような行動は異様にも見えるが、企業として見れば自浄能力のあるホワイト企業として認識される。身の潔白を提示したいメディアも躍起になって報道してくれれば、こちらはより動きやすくなる。

 

 自分達の目的の為にも、半端な蛇蝎どもには早々に退場して貰おう。

 

 

 

***

 

 

 

 テロ鎮圧から1週間経過した頃でも、政府からの発表は『調査中』としてその後の進捗(しんちょく)が報じられない中、突如MMOトゥデイが関連サイトと連携し、世界規模の配信を開始。

 そこにゲストとして現れたのは、ドイツから来たエーリヒ、そして仮想課から菊岡が、レクトからは初顔出しとなる須郷が、DSOから魔王(ヴェクター)、トドメに束と錚々(そうそう)たる面々がリモート枠で出演。

 事件の当事者であるゲストの口から真相を聞けると知って、SNSは大騒ぎ。VRサイト最大手の配信でも前代未聞の同接数を叩き出したタイミングで、この面子(メンツ)が手を取りあう事になった一連の事件(テロ)経緯(けいい)を説明しつつ、仮想課と束の調査結果の合間に、MMOトゥデイがとある記者と共同で調査したイチカこと織斑一夏がVR上でやっていたという仕事(バイト)の内容とその依頼元、そして調査から判明した報酬も暴露。

 その報酬額に最初こそ懐疑的(かいぎてき)だった視聴者(リスナー)達だったが、束が用意した一夏へのインタビュー動画を見た事で態度は激変。なにせ全身包帯だらけの痛々しいショタの姿は、世の『お姉ちゃん』達の(へき)にブッ刺さっただけでなく、満足に動かない口から「バイトの内容と報酬額は間違ってない」という言葉が出た事で、一瞬で各メディアは大盛り上がり。

 更に束からの燃料が追加され『テロリストが使用していたISのコアは、IS委員会が保有している未分配のコアの他、束以外が模倣・作成した新規コアが使用されていた』と説明。しかし新規コアは粗悪品だったせいか、戦闘中に()()()()()という話に、再度メディアは騒然となったが、燃料の投下はまだまだ終わらない。

 レクトから『篠ノ之博士の協力を受け、DSOで新イベントを行う』とし、今回の事件で現れた巨大兵器と無人機のデータを博士から提供してもらい、単独(ソロ)から小隊(パーティー)部隊(レイド)戦までできるエクストライベントを次週から実装すると発表。そして一夏から提供してもらった機体データをDSに変換(コンバート)し、これをゲスト機として使用可能にすると共に、彼が経験した状況を追体験(リプレイ)できるモードもあると説明すると、各メディアのみならずユーザー間もお祭り状態となったが、詳しい内容は後日MMOトゥデイの配信で説明すると共に、当日は特別ゲストも準備しているという話がユーザー達の期待を膨らませていく。

 同時に、DSO内で起きていた一連の事件に関わっていた者達に対し、民事裁判を行う事も発表。既に顧問弁護士と国際弁護団との相談は始めている事も表明し、刑事事件とは別に賠償請求を行う姿勢も見せた。

 それらの情報で白熱する中、束は今回の戦利品であるISコアは全て回収済み。奇跡的に未使用のまま鹵獲(ろかく)できたテロリストのIS(ラファール)が1機、比較的損傷の少ない無人機を2機回収しているが、素直にこれをIS委員会や各機関に提出する気はないと言い出した。

 束が調べた限りだが、ラファールはシリアルナンバーすら存在しない非正規品。無人機に至ってはどこのメーカーが作ったのかさえ不明という始末。

 黒幕の狙い通り、未曾有の敵を生み出す事となったが、魔王の恐怖(シナリオ)はここからだった。

 

『こんな大規模テロを起こせるなら、国か大企業のバックアップがなければ運用は難しいし、直前まで未確認の巨大兵器が出現するまでどこにも知られなかった、なんてのは不自然すぎる。考えられるのは国家連合、もしくは多国籍企業(コングロマリット)からの支援を受けてた可能性が高い。

 日本政府が動かなかったのは、一部の高官がそいつらから賄賂を受け取ってたか、それとも何か弱みを握られたか。いずれにせよ、動こうとしていた連中の足を引っ張っていたから動けなかった、というのが正解かもね』

 

 そうして束が世間のヘイトを誘導すると、面白い程に世間の目は政府やIS機関へと向いていく。

 事実、前代未聞の大規模な特許トロールが起きているし、それを有耶無耶(うやむや)にする為、調査がモタついてる間に自分達の不始末を消し去るという算段をつけている――世間がその考えに至るのも時間の問題で、それに気付いた各機関が動き出す。

 こうして、事件の熱は()めるどころか上がり続け、その熱は周囲に伝播(でんぱ)して炎上に至る程。魔王(ヴェクター)と愉快な仲間達が仕掛けた策は、仕掛けるタイミングが絶妙で、無能と悪党共はただただ状況に振り回され、自らのツケを支払わされていく。

 

 自身の潔白を証明したい者達は、こぞって第三者調査委員会の設立を要請。(スネ)(キズ)のある者達はなんとか逃げ道を作ろうと、あの手この手で設立までの時間稼ぎをした結果、次々と馬脚を現して逮捕に至り、事態を静観していた日和見主義達も、明日は我が身と自身の潔白に奔走(ほんそう)する日々を送るハメになる。

 結果として、魔王が放った一手は権力者の周りを引っかき回し、地獄のデスマーチが確定。世界は次の段階(ステージ)へ移行する事を余儀なくされた。

 

 

 

***

 

 

 

「……とまぁ、後ろめたい所のある政府と各機関は、こっちにちょっかいかけてる暇もなくなりました」

「これで俺達の日常も静かになるわけだ。めでたしめでたし、と」

 

 DSOの海上に浮かぶ大型空母、そこはゾルダートが所有する拠点の一つ。そこでクリスハイト(菊岡)が複数のウィンドウを背景に、ノリノリで現状の説明を行っていた。

 その説明を受けているのは、今回の事件の当事者達であるランクス、エクエス(数馬)ヴェクター()にマジェスタのアカウントで入って来た束。

 その後ろにはローラ(ラウラ)と共にゾルダートのメンバーが10名ほどいるが、その表情は皆様々。

 ランクスは当然といったドヤ顔で、ヴェクターとマジェスタはしてやったりとニヤけ顔、エクエスは難しい顔で頭を抱え、ローラをはじめとしたゾルダートのメンバーは目から光が消えて乾いた笑みを浮かべ、乙女的にアウトな顔で絶句している者すらいる。

 

「これでしばらくは、無能と悪党による足の引っ張り合いが続くし、マスコミ連中もテロリストが混じってる中での追跡取材が災いし、身の潔白に奔走。俺達に近付きゃテロ容疑で引っ張られかねないから迂闊に突撃取材も行えない――黒幕の筋書き(シナリオ)に少し手を加えた程度だが、()()()オシオキとしては十分だろ」

「お蔭で、仮想課(ぼくら)も表向きは窓際部署だけど、裏では中枢に口出しできる花形部署に昇進。上層部も迂闊に声をかけづらい立場になって万々歳。更識とも(えん)(つな)げたし、内閣府すら手を出しづらい立場になったから(うるさ)いのも近付けず、勝手に潰し合った所から順次更識の息のかかった者による()げ替えが入る――この国はもう少しまともになっていきますよ」

 

 第三者に利用される事を考えてなかったのか、ヴェクターがカウンターを入れたら事態は黒幕のシナリオ通りに動きつつも、こちらに有利な展開にひっくり返った。

 予想通りの流れに、ドヤ顔のヴェクターとクリスハイトだが、この1週間、神経どころかSAN値まで削られる思いをした者達はたまったものではない。

 

「……ちょっとやり過ぎたんじゃねェか?」

「どこが()()()()だ! 中佐が死んだ魚みたいな目で戻ってきた時は皆驚いたんだぞ!」

「私たち全員でまる一日かけて(なだ)(すか)してなんとか落ち着きを取り戻してくれましたが、貴方(あなた)達には人の心ってものがないんですか!?」

「まぁ落ち着きなって。束さんも『やりすぎたかな?』って思ったから、回収した未登録コア4つもあげたじゃん」

「それとこれとは話が別で――」

 

 エクエスがフォローするが、ローラとクラリス(クラリッサ)はお(かんむり)だ。どうやらエーリヒは一連の流れを知って心がポッキリ()ッちゃったらしく、ゾルダートの面々がなんとか(なだ)めていたようだ。それについてブチブチと文句を言いまくるが、当事者達はのらりくらりとスルー。 

 これだけ複雑に絡み合った蛇蝎(アホ)共の動きを制限するだけでなく、それを利用してここまでの布石を一介の中学生が考えついたとなれば、元軍人の立つ瀬がないから当然といえば当然なのだが、ゾルダートの面々は文句を言わずにはいられない。それらを無視してクリスハイトが話を続けていく。

 

「イチカ君が宇宙に向かった時のヴェクターの判断は見事でした。あれでIS委員会だけでなく、権利者達も強く言えなくなった」

「? どういう事です?」

 

 あの時一夏を追いかけられたのは千冬とクロエの二人だけだったが、その意味がわからずクラリスがクリスハイトに(たず)ねる。

 

「宇宙空間まで行ったのはイチカ君とマジェスタ君、そして織斑女史。周りから見れば、篠ノ之博士が作ったISだけが外宇宙に到達しただけでなく、帰還までしている。敵が再度宇宙から攻撃してきたとしても、現在研究中の第3世代は宇宙空間で動作実験を行った実績はないし、逆に実績があるISはこの3機。そして功績を上げたのはイチカ君のみ」

「これに対してあれこれ言うヤツがいれば、テロリストと繋がりがあると疑われるか、隠れ蓑(スケープゴート)に利用されるからな。仮に潔白(シロ)だったとしても、あの戦力は自分達に向けられる可能性が高いから封印しましょう、なんて言ったら次に面倒事が起きたらそいつらが対応しなきゃいけなくなる。だから言いたくても黙るしかないのさ」

 

 あの短時間で、そこまでの判断をしていた魔王の判断に皆絶句する。

 過去に宇宙に行ったのは第1世代の白騎士のみ、それもカーマン・ライン(高度100km)を少し越えた程度だ。今回はそれ以上の高度で戦闘もこなし、地上には被害ゼロという戦果を出した相手に難癖(なんくせ)はつけられない。もし難癖をつけるバカがいたら、そいつのキャリアは確実に終わるだろう。

 

「だが、問題はここからだ」

「権利者連中はこれで黙らせましたが、次は企業関連ですか」

「ここからは僕の出番だね」

 

 クリスハイトに代わり、今度はランクスが前に出る。

 ここからは企業、というよりカネの話になるらしい。

 

「ランクス。配信では報酬は300億以上と言ってたけど、イチカが本来受け取る報酬ってどれぐらいなんだ?」

「あんなのは氷山の一角さ。僕が把握してる範囲だけでも総額で約800億円。デュノア(うち)と関わりのある企業を調べただけでコレだけど、この辺はローラの方が詳しいんじゃない?」

「……把握してる限りだが、イチカがメカトロニクス技術関連のバイトを始めてから1年4ヶ月。依頼した企業は46社、研究機関は50を超える。技術の切り売りに関しては未知数で、全て含めれば最低でも200を超える企業や機関のみならず、軍関係も絡んでいると予想されている。それでイチカが受け取った報酬は総額で150万円前後。ドイツ(ウチ)の高官達も、あまりにフザケ過ぎた金額の差に爆笑していたぐらいだ」

「だとすると、賠償含めれば安く見積もって1兆はいくかも。金額はともかく、それだけの範囲に影響を及ぼしてたなら、あの規模のテロが発生するのも納得だ」

 

 ヴェクターたちに(わか)(やす)く円換算で説明してくれるが、ヴェクターとエクエスは頭を抱え、ローラとマジェスタ()は呆然としている。

 

「結構な額になるとは思っていたが、まさか規模の問題だったとはな。イチカのヤツ、自分の仕事がどんな影響を及ぼすのか考えなかったのか?」

「その……いっくんの頭ン中じゃ、第3世代って枯れた分野らしくて」

「あ~、もしかしてイチカのヤツ、DSOの感覚で技術提供してた?」

 

 設定(ロール)を忘れ、素に戻りかけたエクエスの言葉に束が(うなず)く。DSOでは既に第7世代の研究に入り、宇宙空間での戦闘すら可能となっている。第3世代など既に型落ちと言っても過言ではなく、その基準で当てはめればイチカが受け取った報酬は妥当か、少し高いぐらいの感覚だったのだろう。

 ランクスは苦笑し、束は間違いを正す為に話を続ける。

 

「DSOじゃその考えは間違ってないんだけど、現実の凡人共はどこも第3世代の開発に難儀(なんぎ)してた所だったからね。いっくんの仕事(バイト)はブレイクスルーもいいトコだよ」

「どこも初期段階の素材(マテリアル)開発の所で(つまず)いてたみたいですし。イチカ君はその部分だけじゃなく、特殊兵装のシステムや基礎プログラムまで作ってたのを、どこも黙ってたから今になって大騒ぎ、と」

「そんな負債、どうやって返すつもりだ?」

「そのまま負債にするんだよ。それを使えば今後もイチカと関係を築く口実になる」

 

 は? と一同が困惑する中、ランクスは淡々と説明していく。

 

「一般的には負債ってマイナスのイメージだけど、企業にとって負債ってのは流通手段の一つなんだ」

「あ~、結構メンドい話になる?」

 

 専門的な話になりそうな予感にヴェクターが嫌な顔をするが、ランクスは「ちゃんとわかりやすく説明するって」と苦笑する。

 

「すごく簡略化するけど、今後、企業はイチカにある程度の賠償金を支払ったら、残りは負債のカタとして自社株や一部の暗号資産も譲渡しつつ、借金も残した格好にするだろうね。

 世間には自分達の生命線ともいえる財源の一部を差し出したように見えるし、逆に企業はイチカの存在を保証しつつ、今後もイチカの技術を使える契約も結んで収入を得られる体制を作る。そしてイチカは株主としての配当金という収入と、定期的な借金の返済も得て、お互い利益とまでは言えないまでも、現状の経営維持が出来る所まで持っていくのが次善(ベター)

 将来的に、イチカは国籍の問題も先送りする為にもIS学園に入学する事になるだろうし、その間に最も信用・信頼を得たどこかの企業に入社してもらうのが理想(ベスト)

「この騒動で事実を知った株主達の“売り”は始まるでしょうし、イチカ君のネームバリューを利用できれば盛り返すチャンスもある――いやはや、企業らしい着眼点だ」

「……つまり、世間的には企業が賠償を支払った様に見せかけて、実際は借金を支払っていく事でイチカに鈴のついた首輪をつけようとしてる、って事か?」

 

 エクエスの質問にランクスが(うなず)く。その対抗手段に束が気付いた。

 

「……今回の対応で政府不信とか適当な理由でいっくんをドイツに亡命させ、フランスが――いや、()()()()がいっくんを受け入れる。その後見人にちーちゃんと束さんがついて、ドイツがその庇護(ひご)と保証をする、って形にするのかな?」

 

 束の説明に周りがザワつく。それは一夏の日常が終わると言ってるのと変わらない。

 

「そんな所です。後見人に博士の名前だけ借りられるなら、後はデュノアが対処します」

「おいおい、ンな事したら千冬さんやリンが黙ってないぞ?」

「それ以前に中学生が株とかできんのか?」

「証券取引には未成年口座というシステムがありましてね。基本は親権者の同意を得て開設するものですが、()()()の同意を得て開設する事も可能です」

 

 クリスハイトが説明し、証券投資というのは完全に盲点だった。が、実現すれば新たな火種となる。それに気づいたローラが声を荒げた。

 

「待て。そんな事をすればイチカは――」

「どの道、イチカ君は現状世界唯一の男性IS適性者で、今回の騒動で姉にも負けない功績を作った。どうあがいても、このまま日常に戻るというのは難しい」

「仮にイチカ自身が日常を望んだとしても、これ幸いと余計なチャチャ入れてくるバカは必ず出てくる。それをさせない為に、こっからはランクスとゾルダート(おまえら)が動くんだ。反撃の糸口はもう作ってんだろ?」

 

 ヴェクターが(たず)ねると、ランクスはゾッとするほどイイ笑みを浮かべ、それを見たローラをはじめとしたゾルダートの面々だけでなく、クリスハイトや束すら固まった。

 

「あの対応には僕も思う所があってね。相棒にやらかしてくれた連中には、()()()()オシオキが必要だと思うんだ」

「それに関しては同感。こっちも仕込んでおいたネタはまだまだあるし、いっそ追い込める所まで追い詰めるか?」

 

 あ、ランクスとヴェクター(こいつら)、かなりキレてる――その瞬間、全員が理解した。

 黒幕(あいつら)、かなりヤベェ連中に目をつけられた、と。

 

「……そういう事なら、束さんも参加させてもらおうかな」

「微力ながら、仮想課とラースも参加させてもらいましょうか。あとでレクトと更識にも声をかけるべきですかね?」

 

 自らをガレージ派と名乗る『奇術師(プレスティディジテーター)』が動き、それに魔王と生化者(なまけもの)、篠ノ之博士まで参戦するとなれば、負けはほぼないといっていい。

 問題があるとすれば、こいつは魔王(ヴェクター)とは別ベクトルで厄介な策を思いつく生粋(きっすい)の策士という事。動く前から相手は詰んでいて、気付いた時には何もかも手遅れ。どうする事もできずに、自らが破滅していく様をじっくり見せつける、鬼畜すら涙目にする奇術師。

 こいつを出し抜ける企業があるかどうかは未知数だが、思いつく限りの厄介な連中が手を組む以上、戦争すら起こせないほどの()()な反撃をするのは容易に想像できた。

 

(……まぁ、イチカのあんな姿を聞けばこうなるか)

 

 ローラが半ば諦めにも似た溜め息を()きつつ、未だ束のアジトから動けないでいるイチカに思いを()せた。

 

 

 

***

 

 

 

 束が小型の貨物船に偽装した仮設のアジト。

 その一室にいた一夏は簡易ベッドの上に座り、虚ろな目をしたまま空間ウィンドウに映る画像を何度も何度も切り替えていた。そこには廃墟と言ってもいい程に破壊され尽くした家屋。室内や周辺も撮影されていて、一夏はそれを作業か何かの様に何度も何度も切り替えている。

 その家屋は、爆発で破壊された織斑家だった。

 ISを奪われた実働部隊の二人は、一夏のノートPCとナーヴギアのローカルメモリーを持ち出した際、とんでもない置き土産(C4)を用意していった。設置された瞬間は奇跡ともいうべきタイミングで、マジェスタ(クロエ)が市街地のスキャンを終え、海に出た直後。一夏もマスコミの中に潜伏したテロリストを見落としていたのを焦り、それら全てが頭から抜けていた。

 破壊された織斑家にはそれまでの鈍足がウソみたいな速さで日本政府の調査が入り、ローカルメモリーの抜かれたナーヴギアだけでなく、一夏の私物を中心に家中を引っ掻き回して色々持ち去っていき、現在は安全を理由に立ち入り禁止にして我が物顔で何度も出入りしているらしい。

 それらに対して家主の千冬も抗議したが、政府は安全面の懸念(けねん)を理由にその抗議を突っぱね、それどころか事件の概要を聞きたいと一夏の出頭とDSO(ゲーム)で使用していたPC、および今回使用したISの提供を申し出る始末。

 当然、その態度に千冬だけでなく束もブチ切れ、そのタイミングでMMOトゥデイの配信で暴露した事で政府は自らの首を絞める結果となったが、それがどうでもよくなる程一夏は落ち込んでいた。

 

「一夏……」

「…………」

 

 その後ろ姿を、箒と鈴が心配そうに見つめ、その後ろから気まずそうな表情でクロエがいる。彼女も彼女で詰めの甘さに自らを責めていた。

 当初こそ体力の限界で動けなくなった一夏につきっきりで看病しつつ説教をしていた3人だったが、二日ほど前にようやく動ける様になった時に、束から知らされた織斑家の現状。一夏は呆然となり、それからまる一日()つ。

 帰る場所を失った一夏に気を使ってあまり声をかけられずにいたが、そろそろ声をかけようと鈴が一歩踏み出した所を、横から肩を掴まれ止められた。

 振り向けば千冬がいて、その横に束もいる。

 

「え、千冬さん? なんで――」

「ようやくあっちのゴタゴタが終わったのでな。束から話は聞いているが、一夏はあれからずっと?」

「はい。気晴らしにDSOに誘ったりもしたんですが……」

 

 そうか、と言って箒達を下がらせ、千冬は一夏に近づき後ろから声をかけようとした所、一夏はこちらに振り向く事なく話しかけてきた。

 

「千冬姉、かえるトコ、なくなった……」

 

 舌っ足らずな一夏の喋り方が少し気になったが、千冬は後ろからそっと一夏を抱きしめた。

 

「お前が無事ならそれでいい。それに、まだ家族(わたし)がいる。帰る場所ならまた――」

 

 ――作ればいい。そう言いかけた所で、腕に冷たい(もの)がひとつふたつと落ちる。それに気付いた千冬は、一夏の横に移動して抱き寄せると、小柄な一夏は千冬の腕の中にすっぽり収まり、泣き顔を隠す様に横抱きにすれば、自然と一夏も千冬に抱きついた。

 

「できたとおもった。でもできなかった」

「お前はよくやった、むしろ頑張り過ぎだ。なんでも一人で出来る訳がないんだ」

 

 小さく震える一夏をあやす様に、優しい手つきでゆっくりと一夏の髪を()()かすが、震えに嗚咽(おえつ)が混じってくる。

 

「だれかいなくなるの、やだ……」

「お前が考える程、あいつらは弱くないさ。お前はもっと周りに甘えていいんだ」

 

 声を殺して泣き続ける一夏を千冬はずっとあやし続け、その姿を箒達に見せないよう、自身の背で隠す。それを見た箒達も一夏の下へ行こうとするが、束がそれを止めた。

 

「姉さん……」

「いっくんの事はちーちゃんに任せてあげて。いっくんだって、泣いてる姿は箒ちゃん達に見られたくないだろうし」

「でも――」

「いいから。おっぱいも育ってないチビッ子達はこっち来る」

 

 そう言ってグイグイ引っ張る束に対し、鈴達が抗議する。

 

「ちょッ、なんでそこで胸の話になるのよ?」

「そうです。私だって箒様ほどではありませんが、リンと比べる必要もないぐらいはあります」

「クロエ、ケンカ売ってるつもりなら買うわよ?」

「それを言うなら私もちゃんとあるし、一夏の所に行っても――」

(アンタ)もケンカ売ってんの!?」

 

 殺気立つ鈴を気にする事なく、束は箒達に向かってあっけらかんと言った。

 

「知らないのかい? 女の子におっぱいがある理由」

「少なくとも、私のはイチカを甘やかす為にあります」

クロエ(アンタ)もなに言っちゃってんの!?」

 

 騒ぎ出す鈴をスルーし、束はクスクス笑いながらとんでもない事を口にする。

 

「女の子におっぱいがある理由はね、生まれてくる子供の為だけじゃなく、好きな男を甘やかしたり、泣き顔を隠す為にあるんだよ」

 

 

 

***

 

 

 

 それから二日後、それぞれが日常に戻るべく動き出した。

 箒は要人保護プログラムを無視して束と共に行動する事になり、鈴はドイツ大使館で保護されていた両親と共に、自宅へと帰った。

 弾達も家族と共に帰宅し、千冬は弾の策と束の説得により、手柄欲しさに接触してきたIS学園の誘いに、条件付きではあるが復職を受け入れた。

 それぞれの日常の隙間に、マスコミや各国のエージェントの陰が入り込む事もなく、周囲は落ち着きを取り戻していった。が、その日常に一夏が戻る事はなかった。

 

 一夏が向かったのは――

 

 

 

***

 

 

 

「――で、一夏君のドイツ亡命に際し、アメリカとロシアが協力したと?」

 

 菊岡は以前来た更識の事務所に呼び出され、一夏の亡命の経緯を聞いていたが、話を聴けば聴くほど呆れていた。

 

「まぁ、こちらも()()()()喋ってしまったのもあるのですが、あれよあれよという間に話が進みまして。昨夜の内にドイツから来たメンバーと共に、一夏君は日本を離れました」

「こりゃ明日の会議は荒れそうだ。つい先日、一部の連中が功績欲しさに織斑家を()()()捜索してたのが発覚しまして」

「……責任の押し付け合いで、どこが悪いかで揉めそうですな」

「それ以前に、会議に出席できる権力者が満足に揃うかどうか」

 

 刻々と酷くなっていく状況に、二人は揃って嘆息する。先の件で一夏が見せた宇宙空間での戦闘が呼び水となり、MMOトゥデイの暴露配信が決定打となって未払いの報酬と賠償問題に調査が入り、様々な機関が動き出している所にこの亡命だ。

 何としてでも一夏を獲得したい所は彼の利となるべく動き、逆に後ろめたい連中は雲隠れや捜査の足を引っ張る画策をしているが、なりふり構っていられないのか杜撰(ずさん)な動きは早々に馬脚を現し捕縛されている一方で、政府からトカゲの尻尾切りにされたメディアは復讐とばかりに逮捕のニュースに(あわ)せ、裏取りした犯罪の数々を報道する毎日。

 更には芋蔓(いもづる)式に企業の重役や経営者が参考人で引っ張られるなんて事態も起きている。

 状況はどんどんカオスになりつつあった。

 

「ま、ランクス(うじ)の話では、この状況も予想の範囲内だそうで」

「こちらも弾君から聞いたよ。レクトのイベントが軌道に乗れば、政府や企業の上層部は被害を受けるらしいが、少なくとも一般家庭には被害が及ばないと。一夏君がデュノアと合流するまでは少し荒れるようだがね」

「おや、いつの間に彼と連絡先の交換を?」

「なに、仮想課やレクトとの顔合わせの時にな。彼もなかなか話せるクチだったよ」

 

 ニヤリと笑う更識に、何か言い様のない不安が()ぎる。弾と交流を深める為だけに連絡先を交換したとは思えない。

 

「……何を考えてるんです?」

「菊岡君が懸念(けねん)する様な事は考えておらんよ。ただ私もDSOというものに興味が出てね、年の離れた友人を得たというだけさ」

 

 話だけならありきたりなものではあるが、相手は更識だ。安易に味方と判断するのは軽率すぎる。

 軽く揺さぶりをかけてみようと、菊岡は話に乗っかった。

 

「僕もDSOプレイヤーなので、困った時は手伝いに行きますよ。なんだかんだで僕も知り合いは多い方ですし」

「それはありがたい。なにぶんゲームをするのは学生の時以来でね、娘達もDSOをやっているみたいだが、話をふったらそっぽを向かれてしまってね。親子で同じゲームをやるのは恥ずかしいみたいで」

「そりゃある意味拷問でしょうよ!?」

 

 アホすぎる話に素でツッコんでしまう。

 熟練者ならともかく、初心者の父親と一緒にゲームするなど娘からすれば親子参観に近いものがある。恥ずかしい以前に現実(リアル)の話題を振られる危険を(はら)んでいるから敬遠されたのかも知れない。

 

(いや待て。娘――()?)

 

 更識は本家・分家含めて相当数の人間が絡んでいる。となると、自分自身を(ブラフ)に彼女達を弾や一夏達に近づける魂胆なのだろうか?

 

「ああ、菊岡君が考えている様な下世話(げせわ)(モノ)ではないよ。純粋に私がゲームに興味を持ったのは確かだ」

「……で、本音は?」

 

 菊岡のメガネがキラリと光る。自身のカンが『それだけで終わらない』と言っていて、どうにも不安が(ぬぐ)えない。

 

「今回のテロ、DSOが深く絡んでいたし、事態を先読みして対処できたのもDSOプレイヤーばかりだ。身内にもプレイヤーはそれなりにいるが、私の視点から新たな発見があるのでは? と思ってね」

 

 意外にもまともな意見で驚く。全てを信じる気はないが、それでも更識の当主はこちら側につく姿勢を見せた。

 今はそれだけで良しとしておくべきだ。下手に(ヤブ)をつついて敵に回られても困る。

 

「そういう事なら、僕も協力させて下さい。ご当主がこちらについてくれるなら、仮想課(ぼくら)としても助かりますので」

 

 様々な思惑を(はら)みながらも、世界は動き出した。

 どれが敵で、どれが味方かもわからないまま――




なんだかんだで8年かかってようやく序章終わった。どんだけ時間かけんだよww
当時中学生だった人も普通に社会人なってんだろ、コレ…

今回は権利者関係が中心になったのは、事件は発端に過ぎず、これをどんどん掘り下げていくのが学園入学までの流れを作る為。布石を兼ねたブラフも混ぜた為、先読みできた人は少ない、と信じたいw
それぞれに特別な立場があるので、事件の内容を小分けにすれば各ヒロインにスポットを当てやすいし、掘り下げる事で物語を進めつつ背景をしっかり書いていける為、一夏とその周りにトンデモ設定つける必要があったんですが、匙加減がとても難しい。
これに恋愛模様組み込むのも考えなきゃいけないから、普段から執筆してる人はどういう脳ミソしてるんでしょうね。

テロ発生時にアメリカ・ロシアの介入は原作に引っ張られて入れたと思われればしめたもの。原作を知っているからこそ読めない展開というのは、二次創作という観点では個性となってくれれば御の字。
賛否両論あるかも知れませんがw

話の中に組み込めるタイミングが見つからなかったので補足しますが、戦闘パートが一夏メインで厄介な敵を潰しまくっていたのは俺TUEEEする為ではなく、一夏にヘイトを集める事で裏方が策を練りやすい状況を作っておきたかったのと、単純に書き手の技量不足で鈴や箒といったヒロインや日本の仲間達を描ききる事ができなかったので、苦肉の策でちょっかいかけられなくする理由付けとしての足場を作っておく為でした。
 結果として更識とか菊岡とか須郷を出せる機会ができたし、メインキャラと絡める機会も生まれたので、今後の展開がやりやすくなったので、足場の構築って大事なんだな、と。

29と半端なところで終わったので、オリジナル機とちょっとしたキャラ設定を入れつつ、ついでに次の話でちょっとやってみたかったことを実験的にやってみようかと考えてます。
これをやってるところはあまり見かけないので。


Q:ランクスとヴェクター、菊岡と束と更識が組んだらどうなるの?
A:スパロボでいえばイングラム・プリスケンとシュウ・シラカワ、ブライアン・ミッドクリッドとソフィア・ネート(全員激おこ状態)を相手にするようなモン。相手が涙目で済めば御の字。
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