DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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一応、ここから欧州・フランス編。
不祥事はいろいろな所に影響を及ぼしているようで――

今回、自分なりに砂糖と笑いを投入。
ラブコメ要素って、こんな感じでいいんでしょうか?


01-02 狂乱への助走

 日本を出国して2週間。一夏はドイツのビューヒル航空基地(※1)に滞在していた。カレンダーは9月も半ば、日本は残暑厳しい気温を記録していたようだが、ドイツは既に秋の気配だ。

 日中の気温は高くても20度前後だし、夜になれば10度を切ることもザラだ。一夏は黒をベースにしたテーラードジャケットとパンツ、オフホワイトの長袖ニット、足元はワークブーツとかなりカジュアルな(よそお)いで、両手足にはトレードマークとなりつつある、束が新たに用意したリストバンドとアンクル。軍事基地には場違いじゃないかと思ったが、非番の面々は普段着で生活しているので全然浮いてない。

 これは基地に駐屯している軍人と滞在している軍人とを見分ける為らしく、いくら同国の軍人であっても迂闊(うかつ)に機密に触れさせないようにする為の措置(そち)であると共に、軍事基地という閉塞した空間で精神的負担を軽減させる為だという。一夏はオンオフの差で余計こじれるのではと思ったが、服装が変わるだけで駐屯する軍人は自らの責任を自覚し、滞在する軍人は普段の重責から解放されるという余裕が生まれ、適度にメリハリが出るらしい。

 

 ドイツに到着してすぐにフランス入りするかと思ったが、フランスでも為政者の不祥事が表沙汰になり、民衆の怒りは炎上どころか暴動寸前。観光客すら入国審査が厳しくなっているフランスに入るのは危険と判断され、ビューヒル航空基地に足止めされていた一夏は、誰もいないサロンで報道されているニュースをなんとなく(なが)めていた。

 キャスターが話しているのは当然ドイツ語。DSOでゾルダートの面々から単語程度のドイツ語は教わっていたが、本格的に履修(りしゅう)していないので半分ぐらいしか内容を理解できない。単語を繋ぎ合わせながら聞き取れば、話題になっているDSOのイベントが1ヶ月から3ヶ月に延長されたというニュースから始まり、暴動はフランスのみならず欧州圏に拡大しつつある、みたいな内容だとアタリをつけるが、いまいち自信がない。

 

「……もうちょっとドイツ語勉強しとけばよかったな」

「これから学べる機会も増えるさ。なんなら今日から私達とドイツ語の勉強でもするか?」

 

 そう言って現れたのはラウラだ。オフらしくシュシュを使って髪をアップにし、長袖のワンピースにピナフォアドレス――日本ではエプロンドレスと呼ばれるエプロンを身に着けている。

 メイドというより給仕係といった印象を(いだ)き、手にしたトレイにはナプキンの()かれた深皿に並んだ焼き菓子、炭酸の泡が浮いてる淡い琥珀色の液体が入ったピッチャーにグラスが二つ。ラウラはグラスに薄い琥珀色した液体を()ぎ、それを一夏の前に置くと、もう一つを自分の前に。そして隣に座るとバスケットを二人の間に置いた。

 

「これは?」

シュペクラティウス(ジンジャービスケット)アプフェルショーレ(アップルソーダ)(※2)だ。ドイツでは有名な焼き菓子と一般的な飲み物でな、口に合えば幸いだ」

 

 シュペクラティウスとは、ドイツではクリスマスなど祝いの席で食される焼き菓子だが、ネット社会になってレシピが出回るようになり、焼き型も容易に入手できるので日常的に作れるようになったが、そんな事情を知らない一夏はそういうものかと納得して一つ取ろうとするが、先に焼き菓子を手に取ったラウラが一夏の前にそれを差し出す。

 

「あーん」

「ぇ、ローラ?」

「日本の男の子の憧れなのだろう? カワイイ女の子から『あーん』をしてもらうというのは」

 

 合ってるけど違う――そう言いたかったが、小悪魔な笑みを浮かべるラウラを見て、これはワザとやっていると気付く。一夏が狼狽(うろた)える姿を楽しもうとしているらしいが、なんとなく対抗心が芽生えた一夏は差し出された焼き菓子をそのまま口に入れた。

 

「うぇッ!? ぃ、イチカ!?」

 

 まさか本当に手ずから食べるとは思っていなかったのか、逆にラウラが狼狽(うろた)える。そんなラウラにしてやったりと思った一夏だが、シュペクラティウスの風味に驚いた。

 薄い焼き菓子はパリパリとした食感で甘さは控えめ、独特な香りとアーモンドの風味が口に残る。少し口の中の水分を持っていかれるが、その為の飲み物なのだろう。

 

「お、これ美味いな。どこで売ってるヤツなんだ?」

「ぁ、ぅ……」

 

 いきなりの反撃に驚いたラウラは、一夏の質問にも答えず、じっと指先を(なが)めたままフリーズ。一夏は気付いてなかったが、『あーん』をされた時に指までパクリといかれた事に驚き、それに気づかない一夏は真っ赤な顔で口を開けたまま固まるラウラに、お返しとばかりに焼き菓子を一枚放り込む。

 

「はむッ!? む、むぐ、もぐ、もぐ……んっ、い、いきなり何をする!?」

「反応のないローラが悪い。で、どこで売ってるんだ、コレ?」

「そ、その……ぅ、売り物じゃ、ない」

「売り物じゃない?」

「わ、私が作ったヤツだ。アプフェルショーレ(コレ)との組み合わせは最高だからな」

 

 顔を赤らめつつ目をそらすラウラを見て、出会った頃とのギャップが凄まじいな、とどうでもいい事を考えつつアプフェルショーレを一口。日本のものとは違うリンゴの風味と甘味の少ない強炭酸に一瞬戸惑(とまど)うが、逆に薄味の炭酸が焼き菓子の甘味を薄め、鼻に抜ける匂いにリンゴとショウガの(さわ)やかさがあり、口の中に残ったアーモンドの風味と相俟(あいま)って口の中をリセットされた爽快感(そうかいかん)がある。

 

「ん、確かにこの組み合わせはいいな。もしかしてアプフェルショーレ(コレ)もローラが?」

「あ、ああ。きゅ、休日は何かしらのスィーツを作るのが最近のルーティーンになっててな。数日は基地(ここ)に待機になったから作った」

 

 リンやシノンに感化され、ゾルダートのメンバーが料理をするようになったというのは聞いていたが、これほど本格的に取り組んでいるとは思ってなかったので素直に感心する。

 

「もしかしてゾルダートのメンバーはみんな料理ができるとか?」

「できる事に越したことはないからな。私はスィーツが得意だが、ネーナやファルケは肉料理が得意で、マチルダやイヨはスープ類が得意だ。普段はクラリッサが主体となって部隊の食事をよく作るが、皆それなりにできるようになった」

 

 ネーナ、ファルケ、マチルダは箒達を護衛していたIS部隊のメンバーで、イヨは対歩兵部隊でラウラ達IS部隊とのリレー役をしていた子だ。DSOでも面識がある。

 いずれも突出した部分はないものの、安定したチーム戦を得意としていて、4人で組まれるとイチカでも軽視できない技量の連携をする実力者だが、ゾルダートのメンバーは女子力もかなり高いらしい。

 

「鈴や箒も料理はできたけど、こういったお菓子は作った事なかったな」

「ん? もしかして手作りのスィーツは初めてか?」

「あ~、確かに初めてかも。クリスマスやバレンタインでもスィーツ系は既製品買ってたし、俺もフルーツを使った簡単なのは作れるけど、千冬姉がよく晩酌するからツマミを作る方が多かったんだよな」

 

 日本での日常を思い返してみるが、お菓子の(たぐい)はあまり口にした事がなかった。生活が困窮(こんきゅう)していたのもあるが、日頃から節制(せっせい)(つと)めていた一夏はなかなか菓子類に目が向かず、作ってもフルーツ類が(いた)む前に保存食を兼ねたデザートを作るのが常だったなと思い出す。

 

「そうか――そうかそうか、初めてか。もっと食べるか?」

 

 上機嫌になったラウラがもう一度『あーん』をしてくるが、一夏は自然にそれを受け入れ、今度は焼き菓子のみを口に入れる。2、3回咀嚼(そしゃく)して、まだ形が残っている内にアプフェルショーレを口に含み、高級菓子のような爽快感を長く楽しむと、自然と一夏の口角が上がってくる。

 自分が作った料理で喜ぶ姿に嬉しくなり、次々と手ずからその口元に焼き菓子を運び、飲み物が少なくなれば()いで甲斐甲斐(かいがい)しく世話を焼く。お返しとばかりに一夏も『あーん』をやり返し、ラウラも喜々としてそれを受け入れる。

 何度かやりとりをしている内に、ふと視線を感じた一夏が窓の方を見て、つられてラウラもそちらに目を向けると、そこには窓の向こうからこちらを見ていたゾルダートの面々。窓の角からわずかに顔を出す者や、窓の下から顔半分だけ出してガン見する者。揃いも揃ってゲスい笑みを浮かべ、出歯亀(クラリッサ)に至っては鼻息を荒くしてスマホのカメラを向けてガッツリ撮影していた。

 6枚の窓にすし詰めよろしく8つの頭が並ぶ姿はある種ホラーで、全員の目と合った一夏とラウラはお互い焼き菓子を持ったままフリーズ。冷静になってお互いの格好を見れば、どこからどう見てもカップルのそれ。

 次の展開が読めた数人が、そっと窓から離れていったが、クラリッサは堂々とスマホを構えたままだ。

 

「あ、こちらに構わず続きをどうぞ」

 

 にこやかに言うクラリッサの(ひたい)に、ラウラが投げつけたトレイの角が刺さった。

 

 

 

***

 

 

 

「――で、覗きをしていたクラリッサがこうなったと」

「うう、ひどいですよラウラ」

「自業自得だ。この程度で済んでラッキーだと思え」

 

 医務室でトレイが刺さった所に医療用絆創膏(パッチ)を当てられ、涙目になっているクラリッサを心配するエーリヒだが、ラウラの視線も冷たく、一夏に至ってはゴミを見るような目で彼女を見ている。クラリッサに一夏を呼ぶよう頼んでみれば、仕事を放棄しラウラとのイチャつき現場を撮影しているなど思いもしなかった。

 放っとくとドタバタ展開になりそうな気がした一夏は、ゴタゴタが始まる前にエーリヒに水を向けた。

 

「で、あのポンコツ2号(クラリッサ)を使って呼び出した用事って?」

「この状況をスルーできる君も大概だが……まぁいい。デュノアはレクトの欧州支部の支援を受け、向こうから迎えが来る。到着は三日後になる予定だ」

「レクト? 確かイギリスに欧州支社が――ああ、そういう事か」

 

 デュノア、というよりランクスはレクトと提携し、事業の一環という形でこちらに合流できる段取りを整えたようだ。MMOトゥデイの配信でデュノアとレクトの連携を匂わせていたのが功を奏したか。

 時間がかかるのはレクトが主体で行動する為、スケジュール調整の問題なのだろう。

 

「……弾君といい一夏君といい、なんでこれだけで話が理解できるのかね?」

「DSOで対人思考力はさんざん鍛えられるし、クズなプレイヤーも散々見てきましたから。俺みたいな凡人でもそれなりになりますよ」

 

 軽々と言ってのける一夏だが、そこまで考えが及ぶのは大人になってからだ。中学生が気付ける様な部分でないからこそ、彼らの将来が心配になってくる。

 

「表向きの名目はドイツIS部隊へのインタビューとかですか?」

「それも含め、ISに関わる軍部との会合も含まれている。デュノアはレクトから直々に随伴(ずいはん)を依頼された形だが、随伴してくるのはデュノア社長ではなく、その嫡子(ちゃくし)だと聞いている」

 

 嫡子、つまりはランクスが来ると聞いてゾルダートの面々がザワつく。何か目的があって合流を急いだか、それとも急ぐ理由ができたのか。そんな不安がよぎる中、一夏がエーリヒに(たず)ねた。

 

「随伴してくるのはデュノアの嫡子(ランクス)だけですか?」

「いや。レクトのイギリス支社長の娘とその補佐役、デュノアの令嬢も随伴するそうだ。どちらもイギリス・フランスの候補選抜生らしく、こちらの選抜生との交流もしたいと」

「……ゾルダート、というかドイツIS部隊の責任者って、エーリヒさんか?」

「私はサポート役だ。部隊の責任者は空軍のエレナ・フォン・ヴィットマン准将。DSOでゾルダートを結成する際、自ら責任者として名乗りを挙げ、日本のテロ事件にも積極的に参加するよう指示してきた女傑だ」

 

 説明を聞いて一夏は少し考えると、エーリヒにとんでもない事を言い出す。

 

「エーリヒさん、その会合にIS開発部も来るように手配してくれ。あいつ、イグニッション・プランに代わるIS開発の計画を立ち上げるつもりだ」

 

 

 

***

 

 

 

 一夏からの提案。その意味がわからず話を聞いてみると、目からウロコが落ちるような内容だった。

 イグニッション・プランに参加している機体の特許技術、そのほとんどは例の特許トロールによって得られたもの。そんなIS(モノ)に国の威信をかければ炎上は必至。事態が収束するまでイグニッション・プランそのもが凍結されるか、特許技術を搭載した機体が封印、または解体される可能性が高い。

 同時に、各国のIS事業はそのゴタゴタで身動きがとれなくなるだろうと見越したランクスは、ドイツで3国を合流させ、レクト・デュノア・ドイツ軍と合同で一夏の護衛という大義名分を(かか)げた新しいプロジェクトをドイツ主体で発足させようと考えているのではないか、というのが一夏の見解だ。

 

「指摘されて初めて気づくとは。我々も固定観念に(とら)われていたのでしょうか?」

「私も最初は驚きましたが、あの年齢でそこに気づく方がおかしい。本来なら、専門家と相談して初めて気づくような話です」

 

 秘匿性の高い会議室で、エレナ准将とエーリヒを含む高官達は一夏から提供されたレポートをARウィンドウで共有しつつ会議を続けている。日本語で書かれたレポートは専門家レベルの考察や注釈が()えられているだけでなく、その傾向や対策が事細かに記されていて、並み居る高官達を(うな)らせている。

 

「一夏君は特許トロールに関してはなんと?」

既出(がいしゅつ)技術(モノ)は小出し程度の技術でしかないので、逆に相手の出方を(はか)(おとり)に使えばいいと。むしろランクス氏と共同であれば量産を前提とした第4世代の開発も可能と言ってましたが……あの余裕ある態度からすると、更に上の世代の開発もできるやも知れません」

 

 大口を叩いている(ビッグマウス)、と言い切れるならどれだけ良かったか。

 一夏は既に一部とはいえ第4世代の技術を確立させているし、第5世代に言及しているだけでなく、篠ノ之博士の協力があったとはいえビルト・フリッケライという世代不明の機体すら有し、あの戦闘力と判断力だ。それだけのスペックがあるなら、パイロットの観点から一夏が、技術的な観点からランクスがタッグを組めるなら高性能な機体の開発も可能なのだろう。

 世界唯一の男性IS適性者という価値が霞む程の功績を生み出せるというのは、希少どころか篠ノ之博士とは別ベクトルの爆弾だ。彼らの動向一つで世界が振り回される未来しか見えず、高官達は頭を抱えるしかない。

 

「……彼らを合流させるのは危険なのでは?」

「一夏君を保護し、デュノアと合流させるのは以前から計画されていたものです。今更その計画を変更すれば、デュノアだけでなく、一夏君やその後ろにいる篠ノ之博士や織斑千冬(ブリュンヒルデ)、場合によってはそれ以外の存在も敵に回す事になる」

 

 進めば鉄火場、引いても修羅場。

 日本でテロの鎮圧をしたのは間違いではなかったが、それで世界が抱える闇が暴かれた結果、大人しくしていた怪物(バカ)共が牙を()こうとしている。ドイツはその渦中にいるのを再認識させられる。

 

「世界大戦が起きてもおかしくないのでは?」

「博士の協力者が手を回したのでそれはない――いや、それすら起こす事もできない状況を考慮すべきだ。そちらの方がより現実味がある」

 

 エーリヒが疲れた様に苦言を(てい)す。一夏やラウラからも(かれ)は『あれでもだいぶ手加減をしている』らしいし、これに仮想課の菊岡や更識、ランクスに篠ノ之博士まで参加するのが決定するのだ。何をするのか予想がつかない。

 

「三日後、レクトとデュノアがこちらに来る予定でしたね」

「はい。その際に我が国の技術者も同席する様、一夏君から提案がありました」

 

 准将は考える。このまま流れに(まか)せるべきか、それとも何らかの手段を(こう)じるか。

 脳内で目まぐるしくメリットとデメリットが駆け巡り、最善とはいかないまでも次善の策をと考えるが、どう考えてもデュノアと手を組んだ方がメリットが大きい。何より、そっちの方が()()()()()。あとはそれを納得させられるだけの理由を用意すればいい。

 

我々(ドイツ)一夏(かれ)の協力者、その姿勢(スタイル)を変えずにいきましょう」

「よろしいのですか?」

「話を聞く限り、彼らは私達が手を出す可能性も考慮しているはず。織斑一夏とランクス・デュノアが手を組み、ドイツに有益な提案をするというのなら、下手に邪魔をするより協力した方がメリットも大きい」

「ドイツが危機に(おちい)る可能性があるのでは?」

「現状はないと考えていいでしょう。彼らは身内に対して甘い傾向がある。我々が彼女達(ゾルダート)を優遇する限り、彼らが敵になる可能性は低い」

「ハニートラップを疑われませんか?」

「言わせておきなさい。ゲーム内で絆を深めた仲、それを(うらや)むのであれば、織斑一夏が台頭し始めた頃から接触していればよかっただけの話です」

「第一、そんなゲスい話題に触れた者がどうなるかなど考えるまでもない。思う所はあっても口に出すバカはいないだろう」

「だが、このままでは彼女達(ゾルダート)と一緒に行動する事になるのでは?」

「交友関係と言ってしまえばそれまでです。それに、関係が深くなればこちらにはメリットにしかならないでしょう?」

 

 矢継ぎ早に上がる質問を、准将とエーリヒが都度(つど)(さば)いていく。驚くべき事に、二人の目的が違うまま行動が一致するという奇妙な協力によって一夏とラウラ達が一緒にいるメリットを並べ立て、何度かのやり取りを繰り返し高官達の懸念(けねん)を一つ一つ潰していく。

 准将は今後のドイツの為、エーリヒは軍人として彼らの未来を守る為。目的は違えど結果が同じならと、彼らは目を合わせることなく口裏を合わせた。

 話が進めば進むほど高官達の口角は上がり、流れは再び一夏との協力関係の継続に変わっていく。

 

「――ふむ。そうなるとデメリットすらメリットに変わる」

「それも我々の立ち回り次第となりますが?」

「これだけの条件が揃っていながら、足を引っ張ろうとするバカも出ないでしょう」

「では、決まりですな」

 

 高官達は揃って准将とエーリヒを見る。二人は視線を交わして(うなず)き、決定する。

 

「ドイツはこれまで通り、織斑一夏との協力関係を継続。総責任者は私とし、窓口はエーリヒ・ロンメル、援護は引き続きゾルダートのメンバーとします。他に意見は?」

「部隊名を変更する必要があるかと。DSOの時と同じまま(ゾルダート)では華がない」

「それは彼女達と話し合って決めるべきでしょう。ゲームとはいえ、部隊名には愛着もあるでしょうし」

「それもそうですな。そちらはおいおいという事で」

 

 全員がニヤリと笑い、思い思いに席を立ち会議室を出て行く。これから彼らはいろいろな所に根回しをする為に動くのだろう。その行動すら准将とエーリヒが誘導されたことも知らずに。

 最後の一人が退室し、少し間を置いてからエーリヒが准将に声をかけた。

 

「……で、准将(あんた)の目的は?」

「織斑一夏は今後の1、2年で世界の中心人物に至ります。その時は間違いなく彼女ら、いえ、ラウラは彼の(そば)にいるでしょう。なので私達は今の内に足元を強化し――」

「御託はいい。本心を話せよババァ」

 

 こめかみに血管を浮かべ、上官である准将をギロリと(にら)みつける。ともすれば軍法会議ものの行為だが、准将は意にも介さず――否、開き直った。

 

「少年少女のラブロマンスが生まれようとしてるんですよ。見守りながらお膳立てするのが筋ってものでしょ!」

「歳考えろよババァ! それで危ない橋渡るとかいっぺん脳ミソ観てもらえよ!?」

「あんたがそれ言える? 日本で学園モノのエロゲ買いまくってたヘタレが」

「二次と現実は別物だろうがッ! 第一、()はヘタレじゃねェ!」

「はッ、30年前に()()()のプロポーズ、階級を理由に保留にした挙句、日本のサブカルに逃げたのはどこの誰だったかしら?」

「なッ!? ぐっ、今はそれ関係ねェだろうがッ!」

 

 先程までの落ち着き払った態度から一変、ジジィとババァが立場もわきまえず(ののし)り合いながらの痴話喧嘩。二人とも忘れているが、ここは軍の会議室だ。いくら秘匿性が高くても、これだけ大声で罵り合っていればいくらかは声が()れる。早速情報を集めた高官の一人が報告をしようと来たが、その騒ぎを聞きつけて嘆息しながら今来た道を戻っていく。

 犬も食わないジジババの痴話喧嘩、スルーするのは世界共通らしい。

 

 

 

***

 

 

 

 翌日、一夏は何か情報を得ようと、ラウラ達ゾルダートのメンバーと一緒にブラウザをAR展開してDSOの掲示板を閲覧していた。VR関連(こっち)を選んだ理由は現実の方は軍人らがあたっていると踏んでの判断だが、話題は例のイベント一色。やはりベテランであっても部隊(レイド)モードで苦戦するという書込み(レス)があるが、その中で単独(ソロ)モードで初見クリアがチラホラ出てきた事も話題に上がっている。

 

「やっぱり、ヴェクター()クリスハイト(菊岡)はソロで初見クリアしてたか」

「イチカと横並びのクリアタイムだな」

「あいつらがイチカをライバル視してるからでしょうか?」

 

 相変わらずポンコツな回答をするラウラとクラリッサはスルー。気になるのは何故この二人がわざわざ()()()()()を使ってイベントに参加した理由だ。

 

「……DSOに入れって事か」

「? どういう事だ?」

「自前の機体(DS)を使えばアビリティが使えるんだ、イベントをクリアするだけならそっちの方が断然いい。なのにゲスト機(ビルト・フルーク)を使ってアビリティを封じてソロモードに初見で挑んだ」

「そうれがどう――いや、まさか」

「もしかして、これが“合図”なんでしょうか?」

「合図?」

 

 話が見えない。何か計画してたのだろうか?

 

「イチカがダウンしてた時、一度DSOで集まった事があったのですが、その時主導がヴェクターからランクスに代わると」

「ランクスのヤツ、日本政府と各企業の対応に思う所があるから、もう少しオシオキが必要とか言っていたんだが、そこにヴェクターとクリスハイト、篠ノ之博士も参加すると言い出して……正直、ロクでもない事が起きる予感しか」

「なんだよその業火メンバーは!?」

 

 弾と仮想課が手を組むだけでも問題だが、そこにデュノアと束が絡むなんて予想外すぎる。

 可能性を考えなかったワケではないが、どいつもこいつもクセの強い奴らばかりだ。表面上の付き合い程度で済むと思っていた連中が手を組んだとなると、どんな(どく)を仕込んで来るのか。

 パッと思いついただけでも、特別報酬には新素材の化学式や束謹製の新装備、もしかすると第3世代か第4世代ISの設計図なんてものを仕込んできてもおかしくない。

 

「……やっぱ、イベントに参加するしかないか」

 

 半ば諦めを含んだため息をつく。話題の渦中にいるイチカがDSOに現れたとなればどんな騒ぎになるか。()への牽制目的とはいえ、ビッグネームを釣り餌にするというのは(あお)りにしても度が過ぎる。

 ラウラ達は気付いてない様だが、知らず知らずの内にランクスの伝令役を任された以上、彼女達――正確にはドイツも招待されているようだし、心おきなく巻き込もうと決めた。

 

「時間は取れるか?」

「ランクスが来るのは二日後の14時。我々の準備もあるから明後日の10時までなら時間が取れる」

「そんなに時間はかからないはずだ。俺が単独(ソロ)に挑んでる間、ゾルダートが小隊(パーティー)部隊(レイド)で参加してくれ。攻略が難しいならヴェクターやクリスハイト、エクエス(数馬)にも声をかけてくれ。最悪、俺がソロをクリアしてからそっちに参加してもいい」

「いや、エクエスがいるなら我々(ゾルダート)だけで十分だ。必要とあればマジェスタ(クロエ)かヴェクターにも声をかけるさ」

 

 ラウラが気さくに答え、トントン拍子で話が進んでいるのは彼女らも乗り気だからではない。話を進めていく(ごと)に一夏の表情が白の傭兵(イチカ)に変わっていったからだ。

 DSOでのイチカしか知らないラウラ達だが、スイッチが入ったイチカの読みは外れない。付き合いの長さもあるが、イチカはこちら寄りの回答を出すから魔王(ヴェクター)よりは安心できる。

 

「私は中佐(エーリヒ)に連絡し、准将から許可をもらってきます。VR施設を借りられれば環境設備は問題ないでしょう」

「なら、私は他のメンバーに招集をかける。エクエスの方はDSO(あっち)に入ってからでも遅くはあるまい。イチカのアカウントとローカルデータは――」

「もう持ってるよ」

 

 言って、一夏はつけていたAR機器を指す。オーグマーに似た形状のAR機器は、亡命する際も身につけていたが、どこのメーカーから出たものかラウラ達は見覚えがない。

 

「ずっと気になってたんだが、それはどこのメーカーだ?」

「ビルト・フリッケライの待機状態」

「……は?」

 

 しれっとトンデモ発言をする一夏にラウラ達は目を白黒させる。

 

「ISの待機状態は貴金属のアクセサリになるのが普通だ。電子機器になるなど――」

「束さんの見解だと、俺が持ってたオーグマーからデータを吸い出してビルト・フルークに至ったみたいでな。それが影響を及ぼしてこうなったって見解だ」

 

 博士の見解ならラウラ達は納得するしかない。第一、ISの解析は1割にも至ってないのだ。何が起きてもおかしくはない。

 

「とにかく行動が先だ。準備を頼む」




状況が進めば進むほど明るみになる一夏の異常性、そして暗躍するランクス達の存在。ドイツの高官達はこの状況を利用しようと企んでいる様だけど、利用されるのはどっちになるのか?

【今回の設定】

※1 ビューヒル航空基地
正しくはビューヒェル航空基地。アメリカとニュークリア・シェアリング(核兵器の共有所持)をする基地。現状、ドイツでは唯一核兵器を保有する基地であり、一部は民間にも解放されていてワークショップ(日本でいう専門学校みたいな所)が併設。
ここをチョイスしたのはドイツ空軍も常駐しており、軍事的に解放されていて、国籍を問わず補給と休憩を受けられる(モチロン後で国に請求が行く)為、話の土台として使いやすい。

※2 シュペクラティウス&アプフェルショーレ
シュペクラティウスはスペキュラースとも呼ばれ、本編にある通りクリスマスなどの祝いの席で用意される特別なお菓子。アプフェルショーレはドイツでは最もメジャーな飲み物で、りんごジュースを炭酸水で割ったもの。シュペクラティウスは通販で入手できるし、レシピも普通に出回っているので、気になった方は是非。
かなりクセになる組み合わせなのですが、ここのラウラって意外と乙女。意味は後々本編で出しますが、だいたい予想してる通りですw


ちなみにドイツの空軍准将という地位はオリジナル設定。実際は准将という地位をドイツでは採用してないみたいで、基地内で非番者が私服でうろつくというのも独自設定。この辺でフィクションだと強調できるんじゃないかと思って使ったのですが、周りからは「地味すぎてワカランかった」と言われる始末。
もしかして、目の付け所が地味すぎる!?
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