DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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新年あけてました(なげやり感MAX
新章の戦闘パート書こうとしたら、何度書いても前回の二番煎じになるので、開き直って砂糖パートに切り替え。この章の後半はクッソ重い話になるので、今のうちに糖分過多に切り替え。
その隙間にちょいちょい今後のフラグ入れていきます。


01-03 これは“ごほうび”ではない。“公開処刑”である。

 世界中がDSOのイベントで盛り上がっている中、(くだん)のイチカこと織斑一夏がイベントに参加した、という情報がSNSのトレンド1位となった。

 当然、世界中のマスコミ関連がその話題を見逃すワケもなく、どんな小さな情報も逃さないとばかりにしつこく取材を続けているが、肝心のイチカ本人に接触できない。

 というのも日本で起きたテロ事件において、マスコミに紛れたテロリストが戦火を拡げたのが主な原因だが、それが引鉄(ひきがね)となって政府関連とマスコミの関係が破綻。お互いの足を引っ張り合う中、特許トロールが表沙汰になった事で疑惑が世界中に伝播(でんぱ)した結果、互いが互いの邪魔をしあってどこもイチカと接触できず、本人はイベントをクリアしたら仲間達と共にゾルダートの拠点へ集合。

 当然、様々な所が合流という名の突撃取材を申し込んだが、既に収容人数限界まで人が集まっているという理由で断られ、各メディアや配信関係者は掲示板やイベント参加者へのインタビューで誤魔化すしかなかったが、唯一彼らに接触できた所があった。

 

 

 

***

 

 

 

 桐ヶ谷(きりがや) (みどり)はゼクシードこと茂村(しげむら) (たもつ)にDSOのアカウント『エリカ』を用意してもらい、ゾルダートの拠点に合流したが、目の前に広がる光景に唖然(あぜん)としていた。

 

「……なにあれ?」

 

 それなりに下調べをしてきた翠から見ても錚々(そうそう)たるメンバーが揃い、既にイベント攻略も終わったのか、それぞれがウィンドウを開いて戦利(ドロップ)品の品定めをしながら簡易トレードを始めているようだ。が、ある一角だけ異質な空気で、みんなそちらを見ないようにする為トレードをしている様にも見えた。

 

「ちょッ、ハルカさん、これ恥ずかし――」

「ダメだ。いくら説教しても聞かないお前が悪い」

「博士からこっちの方がおしおきになるって聞いててよかったわ。やり過ぎないようにって言ったよね?」

「ちゃぁんと理解するまで何度でもやってあげる。必要なら現実でもおしおきしよっか?」

 

 えぅ、と赤面するイチカが小さく(うめ)く。

 ゾルダートの拠点にはディビジョンやラースの実力者メンバーのみならず、中堅クランのキャットライドや個人勢のマジェスタ、彼女が連れてきた新規プレイヤーのステラ、そして偶然時間が取れたといって参加してきたハルカ(千冬)

 DSO(こっち)のイチカは現実より幼い印象を受け、右腕にはリンが、左腕にはマジェスタがしがみつき、尻餅をつくように座る彼を、後ろから抱え込むようにがっちりホールドしているハルカ。

 妙に彼女の鼻息が荒いのは、久々に会った弟に歓喜しているからだと思いたい。

 イチカはハルカのたわわな果実で頭を包まれながらホールドされ、左右にいる二人もあれだけしっかりひっついているなら、二人のいろんな部分(もの)が腕に当たっているはず。そこだけ見れば、『小さい男の子を可愛がるお姉ちゃん達』だが“おしおき”と言っている以上、なんらかの理由があるのだろう。

 事実、彼は身動(みじろ)ぎ一つせず、ガッチガチに固まったまま動けずにいる。

 

「よくハラスメントコード発動しないわね」

「フレンドだとスキンシップと勘違いされて発動まで時間かかるからな。それまでああやって“おしおき”すんだとさ」

 

 ゼクシードと共に現れた赤髪の青年が、あちらを(なが)めつつ状況を説明してくれる。誰かと(たず)ねる前にゼクシードが向こうを指さし、そちらを見ると、そこには肉食獣の様にギラギラした目でイチカ達を見ている女性陣がいる。

 

「彼女達は?」

「イチカを愛でる会だそうです。あっちから『イチカの成長を見守り隊』『イチカを甘やかし隊』『イチカを全力で推し隊』だそうで。他にもいるんですが、結構ヤバめな思考持ってる連中もいて、そいつらの対処に向かってます」

 

 ツッコミが追いつかない部隊名とかヤバ目な思考持ってる連中が気になるが、そこはスルーして気になる方を(たず)ねる。

 

「イチカ君が現実より小さい気がするんだけど」

「あれは自業自得だ。説教を回避しようとアバターのサイズ変更機能使って小さくなったら、それが女性陣に刺さってな。本来のサイズは現実と変わんねェぞ」

「……なんでこんな事に?」

「イチカのヤツ、久々にログインしたらいきなりやらかしてくれまして。それで女性陣による“おしおき”の順番待ちだそうで」

「でも、あれっておしおきというよりご褒美じゃない?」

「説教だの暴力だのはアイツは慣れっこだが、男女比狂ったこのご時世じゃ、ああいうスキンシップの方が不慣れだ。いくら女友達が多いといっても、あれだけ囲まれたら対応に困るんだ」

「公共の面前でやる以上、おしおきっていうより公開処刑ね。やらかしたってなに、を――」

 

 赤髪の青年がウィンドウを展開し、エリカの前に差し出す。見ると今回のイベントのクリアタイムがランキング形式で表示されており、1位と2位をイチカのタイムが独占している。が、そのタイムがおかしい。

 1位のタイムは8分42秒、2位のタイムは9分03秒といずれも10分を切り、3位の16分32秒というタイムの半分。

 はっきり言って、このタイムはおかしい。

 

「――これ、なにかのバグ?」

(まぎ)れもない実力だ。あいつに限り、このイベントは初見じゃないし、相手が本家本元より相当弱体化されてるからこのタイムが出た」

 

 イチカは現実で巨大兵器と無人機群を前に大立ち回りをした本人だし、なんなら出現上限や連携パターンもある程度把握している。それを踏まえてもこのタイムはおかしい。

 これでは『状況に助けられた奇跡の撃墜』という話も盛っていたのか、それともDSOの方が簡単だったのか。どっちとも取れない結果を知るため、エリカ()は賭けに出た。

 

「これ、経験者だからってだけじゃないんでしょ?」

「1位のタイムはゲスト機(ビルト・フルーク)で出したんだがな、DSOの仕様で不完全ながらOW【錬金箱(トイ・ボックス)】が発動してる。回収した素材のプールは無理だが、撃墜する(ごと)に機体や弾薬の回復だけでなく、武器のクールタイムもリセットされるから実力者(イチカ)はやりたい放題。で、その結果がこのタイム」

 

 逆を言えば、現実でそんな機能もないまま前代未聞の巨大兵器と戦ったという証左だが、それだけの条件で実戦の半分ぐらいの時間で攻略できるのが最高位(ファスト)クラスなのだろうか?

 

「別に難しい事じゃない。出現上限と兵装さえわかっていれば対処法なんて思いつくし、実際戦闘とかしなくてもパターンを反芻(はんすう)してりゃ攻略法なんて幾らでも考えつくさ」

「いや十分難しいでしょ!?」

 

 攻略法を考えるのはゲームの基本だが、発展の幅がエグい。同じ領域に辿(たど)りつけるプレイヤーなど、本当にひと握りだろう。

 

「上級者になればなるほど、攻略や対処の早さだけでなく、手数も増えていくモンさ。話せる限りのネタはこっちで話してやるから、今のイチカに突撃取材するのはやめとけ。あんたもアイツのお陰で安全に移籍できたんだろ?」

 

 謎の人物がこちらの事情を把握してるのを知り、ゼクシードに目を向けると、彼はそっと視線を逸らし、彼が情報元だと勘付く。

 

「なぜ、と聞いても?」

「MMOトゥデイがスッパ抜いても、マスコミや政府関係者に尚更マークされるぞ。また家族や関係者に危害が及んでも、力になってくれるヤツに心当たりはあるか?」

 

 そう指摘されて、翠は黙り込む。

 彼女は茂村と共に前の職場で一夏の功績をスッパ抜き、もみ消されるのを恐れて上層部(うえ)に報告せずMMOトゥデイと連携して世界に発信。その功績で名声は得られたが、同僚や上司のみならず、騒動の渦中にいた企業や政治家から目をつけられ、家族にも影響が出始めたタイミングで茂森(ゼクシード)経由で仮想課の菊岡を紹介された。

 仮想課(正確には更識)が動いたことで桐ヶ谷家の安全が保証されただけでなく、菊岡にMMOトゥデイ移籍の口添えまでやってもらい、今に至る。

 今回の取材が移籍後初の仕事だが、彼が何者かわからな――

 

「――もしかして、ディビジョンの魔王サマ?」

「お、新しい呼ばれ方だ」

「今更かよ!?」

 

 

 

***

 

 

 

 魔王(ヴェクター)とゼクシードの取材にクリスハイト(菊岡)が参加し、当事者(イチカ)抜きでも充分過ぎる情報を得た。小出しにしても数回は大きく取り上げられそうな話題の数々にエリカもホクホク顔で取材を続け、当事者(イチカ)をスルーしても問題ないほどの情報を得て、ゼクシードを(ともな)って満足顔でDSOを後にした。

 

 集まっている彼女達の足元に、簀巻(すま)きにされているローラとステラの存在に気づかないまま。

 

「ステラはともかく、なぜ私までこんな目に」

現実(あっち)で手作りお菓子を『あーん』しあったりお世話してたなんて聞いたら、そりゃそうなるわよ」

「まぁ、ステラの方はBANしなかっただけ良しとしとこうか?」

「ふぁんふぇわふぁふぃがほんファふぇひー!」

「何言ってるのかわかんないよ」

 

 見張り役としてシノン、エクエス、ランが二人を監視しているが、ローラはクラリス(クラリッサ)によって現実での出来事を知らぬ間に暴露され、それを知ったステラがマジェスタより先に暴走してイチカに吶喊(とっかん)したが、ハルカに簀巻(すま)きにされ、ローラはとばっちりを食らった結果だ。

 暴露したクラリスはちゃっかり撮影組に回り、羞恥に悶えるイチカを興奮した様子で撮影している。

 

「とにかく、イチカはイベントをクリアしたようだが、クリア報酬は何だったんだ?」

「あ、それは俺も聞いてないや。イチカー!」

 

 エクエスに呼ばれ、今度は小柄な女性に膝枕されていたイチカが起き上がろうとするが、再び彼女の膝に押し戻された。

 

「ちょっ、エクエスが呼んで――」

「“おしおき”はまだだよ、いっちー。このままでもお話はできるよねー?」

「あー、そのままでもいいから聞きたいんだが、報酬は何だったんだ?」

 

 事態をスルーしたエクエスに聞かれ、自分でも報酬を確認していなかったのか、平均よりやや大きな胸で頭を押さえ付けられたままウィンドウを展開。アイテム欄をチェックしていくが、目で追うごとに真剣なものに変わっていく。それに気付いた女性も渋々ではあるが再び起き上がるイチカを(うなが)し、気になったプレイヤー達も後ろに集まってウィンドウを覗き込んだ。

 

「……OWが5つに、レア以上のアイテムや素材がいろいろドロップしてる」

 

 とんでもない大盤振る舞いに、ギャラリーから悲鳴に近い驚愕の声が上がった。

 

「二本目のオリジナルマーヴ? これユニーク武器じゃなかったの!?」

「OW『ヘビーアームズ』に『ヤマト』って、DSを要塞に変えるトンデモ武器じゃねーか!」

「OW『BBR』ってなんだ? 初めて見るんだが」

「待って、OW『ヒュージブレード』に『メガキャノン』もある。こんなぶっ壊れ武器、誰が使えるのよ!?」

特化換装装備(オートクチュール)『ミーティア』に『バルテウス』、『ガンナーユニット』に『ボクサーユニット』まで……」

「武器もレア度ヤベェもんばっかだな。『月光剣(ムーンライト)』や『バスターライフル』なんて、フロアボスでしか見た事ないぞ」

「見た事ない素材もドロップしてる。もしかして新型のDSがロールアウトするフラグ?」

 

 ギャラリーの騒ぎをBGMに、イチカはアイテム欄をスクロールしていき、2つのデータファイルがあるのを見つけた。

 

「見た事ないデータファイルですね。これは?」

「1つは例の戦闘データだとして、こっちは?」

 

 展開したデータを見るが、1つはISの戦闘ログだというのは理解できたが、もう一つが理解できない。

 メカトロニクスに明るいイチカがそのデータに目を通していくが、それが何なのか理解できると頭を抱えた。

 

「……束さん、なんてモンをクリア報酬にすんだよ」

「なんなのだ、それは?」

「IS版『錬金箱(トイ・ボックス)』の基礎理論」

「ゑ゙!?」

 

 ハルカの口から思わずヘンな声が出た。戦闘データだけならともかく、そんな爆弾まで用意する理由がわからない。

 

「釣り餌としては充分だろ?」

「やりすぎだ。これ絶対ランクスが絡んでるだろ」

 

 取材が終わったのか、飄々(ひょうひょう)とした態度でやってきたクリスハイトとヴェクターをジト目で見流すイチカに疑問を(いだ)く。なぜここでランクスの名前が出てくるのか。

 

「このデータは文字通り“絵に描いた餅”だ。状況を覆す理不尽(オーバードウェポン)といってもあくまで基礎理論でしかないし、相当の技術が必要になる」

「その技術も、イチカから(かす)め取った特許が必要になるし、他を当たるにしても篠ノ之博士、もしくはテロに加担した技術者を呼ぶしかありません」

 

 ヴェクターとクリスハイトの説明でようやく理解できた。

 基礎理論という以上、そこから更に研究が必要になる。そもそも現実世界では第3世代に手をかけ始めた所だ。それ以上の研究成果を求めるのであれば、現在宙ぶらりんになっている一夏の理論や技術、ひいては話題の特許が必要になる。

 それらを無視し、開発に国の威信をかけたとしても、今度はテロとの関係やモラルを疑われ、それらを理由に世界中から総スカン喰らう程度であれば御の字。かといって現在も所在不明の束は呼べるワケないし、仮にテロリストに加担した技術者を確保し、司法取引などで開発に協力させたとしても、今度は束や一夏に距離を取られるのは明白。

 作り上げれば、その時点で次世代機の開発が詰む。

 

「つまり、作りたくても作れない?」

「それ以前にデータの取得条件が鬼畜ですからね」

ゲスト機(ビルト・フルーク)を使って初見ソロ限定、20分以内にクリアしないと取れないからな。まずできるヤツが限られてくる。ゲームである以上、いすれ俺達以外の誰かが取れる可能性はあるが、そのデータを買い取ろうとするとログが残る以上、ラース(仮想課)をはじめとした各国の電子犯罪対策部を出し抜くのは難しいだろうな」

 

 ヴェクターが悪辣(あくらつ)な笑みを浮かべ、クリスハイトは貼り付けたような笑みを浮かべる。(あぶ)り出しどころか悪辣なトラップの様な餌のぶら下げ方に、さすがのハルカもドン引きする。

 

「――まさか、これがランクスの言っていた『オシオキ』か?」

 

 まだ縛られたままのローラがヴェクターに(たず)ねる。

 これがヴェクターだけが考えたものであるならここまでだが、相当腹に()えかねていたランクスが絡んでいるなら、これは次に繋げる布石の可能性が高い。

 

「まだ序の口だがな。あいつが用意した策、相当エグいのばっかだったぞ」

「……まぁ、ランクスが絡むならこっからが本番か。って事は、あいつがドイツに来るのはそれも絡んで……いや――」

 

 てっきり欧州圏を巻き込んだ新型ISの一大プロジェクトをブチ上げようと動いているものと思っていたが、これだけの策を用意しているなら、それさえ本来の目的への足がかりだ。同時に、イベントとはいえレクトがこれだけの報酬を用意しているのにも何か意味がある。

 

「レクトがこれだけのドロップ品用意してるのは何でだ? イベント報酬だけなら、適当なOWとかレアドロをいくつか用意するだけで済むはずだ」

「? 俺が()った報酬は、OWが2つとレアドロが5つだったぞ」

「僕もOWが2つにレアドロ5つでした。イチカは違ったんですか?」

 

 二人の答えに困惑しつつ、イチカはウィンドウを反転。ドロップしたリストを見せると、二人の顔がどんどん渋いものになり、ヴェクターがクリアタイムのランキングを表示。それらを見比べつつ、ドロップ率の変動を考察する。

 

「……クリアタイム20分を基準として、タイムを30秒縮める(ごと)にレアドロが1つ、1分でOWか特化換装装備(オートクチュール)がドロップする計算だな」

「OWが多いのは初見で10分切ったからですかね?」

「レクトも結構エグい事するな。もしかして、これもランクスか束さんが関わってんのかな?」

「どういう意味だ?」

「イベントを盛り上げるなら当然の仕様ではないのか?」

 

 イチカを含めた3人が考察を始めるより早く、拘束から解放されたローラとハルカが尋ねる。DSOプレイヤーは考察をすれば周りを放置してどこまでも語り合ってしまう為、それを阻止する意味もあって話に入った。

 

「現実で二度と巨大兵器(アームズフォート)を出さない対策、と考えるのが妥当(だとう)ですか」

「プレイヤーの底上げという側面もあるが、攻略や考察のノウハウを蓄積させ、巨大兵器攻略を通常化させるのが目的、か?」

「現実で多大なコストを支払って巨大兵器を生み出したとしても、対策されきった兵器なんざ無駄金垂れ流す産廃。そうなるぐらいならIS産業に力を入れてそっちを抑止力にしようという流れに持っていこうと考えてるのかもな」

 

 その為に用意されたOWの基礎理論と、レアドロップの数々。

 史上初の巨大兵器との対峙と、それを基にしたイベント。考えすぎと笑い飛ばすには手札が揃いすぎている。

 DSOはISに酷似した環境で、現実的なものから非現実なものまで幅広い状況(ミッション)をこなすのがウリのゲームだ。それを利用してISパイロットの育成やシミュレーションとして利用する機関も数多くいる。

 今回のイベントをきっかけに、様々な巨大兵器にも目が向くのは必然で、それらの攻略や考察もバカみたいな量が現在進行形で蓄積されている。

 これまではゲーム中のデータでしかなかったが、真面目に研究されていけば、今後現実で巨大兵器が現れても対策のノウハウがあるというだけで抑止の手札になる。

 

「その攻略や考察のまとめサイト作ってるのはイチカだし、普通に公開している以上、今後もイチカの価値は天井知らずになるな!」

「考えないようにしてたのに現実つきつけンな!」

 

 涙目でガチギレするイチカを尻目に、ハルカとローラが揃ってドン引きする。

 一夏が表立って2ヶ月足らず、初のIS戦から1ヶ月足らずで次々と明るみになる数々の功績。既に世界初の男性IS適性者なんて肩書きはオマケ程度で、IS初心者なんて言えない実績を幾つも積み上げている。一夏(こいつ)が動けば動くほど利用していた者や敵対を考えている存在が詰んでいく未来しか見えない。

 

「ランクスのヤツ、一体何をする気なんだ?」

「わかりません。わかりませんが、絶対に敵だけでなく、上層部(うえ)の胃に優しくない事をする事だけは確かです」

 

 何気なく周りを見回すと、他のプレイヤー達も揃って引いている。魔王(ヴェクター)だけでも厄介だったのに、奇術師(ランクス)が本腰を入れたなんて話、不特定多数がいるこの状況でこんな会話をしていたことに今更気づく。

 

「ヴェクター! こんな会話をここで話すのは――」

「もうMMOトゥディの記者はいねェし、ここにるのはこの事件の()()()だけだ」

 

 へ? と呆けた顔でローラはもう一度周りを見る。ここにいるのはイチカをはじめとして、ゾルダートとヴェクター、クリスハイトにハルカ、それ以外のメンバーは各クランの実力者と初心者のステラ。これらに共通する関係といえばイチカ(一夏)の関係者である事と、全員正統派(ヒロイック)である事ぐらい――

 

「――もしかして、ここにいるのって、前回の悪質系(ローグ)襲撃に参加していたメンバーとイチカに関係があるものだけ、か?」

 

 全員そろって(うなず)く。クリスハイトが何も言わない時点でこの可能性を考慮するべきだった。

 

「え? な、なんで……」

「パーティやレイド戦をやる必要があったのもあるが、マスコミ締め出すのにここを人で埋める為だ。またDSO(こっち)でひと波乱起きるのは明白なんだし、事情を知る協力者がいた方が後々動きやすいだろ?」

 

 1つの行動で2つも3つも同時に進行させる手腕は流石の魔王。効率厨ともとれる采配は的確で、予知に近い先読みの安定感は類を見ない。

 問題があるとすれば、こちらに何の連絡もせず行動を起こす事だが――これは言わない方が悪いのか、言われるまで気づかない方が悪いのか判断に困る所だ。

 

DSO(こっち)の方は俺達に任せておけ。現実(そっち)はイチカとランクスに任せれば上手くいくさ。連中は誰を――いや、何を敵に回したのか身を(もっ)て知る事になる」

「お前ら、だんだん容赦なくなってきてないか?」

 

 目に見える部分だけでコレなら、未だ伏せている手札はどれだけあるのか見当もつかない。

 “魔王(ヴェクター)”と“奇術師(ランクス)”の組み合わせでもかなりの劇薬だというのに、“生化者(クリスハイト)”に篠ノ之博士まで参加している。それもこれも、また白の傭兵(イチカ)が勝手に動き出さないようにする為か。

 

(……何気にコイツが一番ヤバいのかもな)

 

 唯一の救いはギリギリまで動かない事だが、一度(ひとたび)動き出せば最高にして最悪な結果を生み出す問題児。現に()()暴れただけで世界が無視できない存在になりつつある。

 

「またイチカが暴れる事態になれば、今度は国対個人の殴り合いになってもおかしくありませんからね」

「だな。四大悪質系(ローグ)クランを潰した時とはワケが違う」

「? あれは当時のファストクラスを中心にした悪質系(ローグ)正統派(ヒロイック)の全面戦争ではなかったのか?」

 

 1年ほど前、当時悪質系(ローグ)の最大手クランであった小姐(シャオチェ)がイチカを怒らせたのをきっかけに、当時の四大悪質系(ローグ)クランを巻き込んだ悪質系(ローグ)正統派(ヒロイック)がぶつかった全面戦争。あれもヴェクターをはじめとしたファストクラスが陣頭指揮を()ったお陰で正統派(ヒロイック)が勝利し、幾つもの悪質系(ローグ)クランが解散や縮小を余儀なくされたのは周知の事実だ。

 

(ちげ)ェよ。詳しい話は省くが、小姐(シャオチェ)が取り返しのつかないやらかしをしてイチカがマジギレ。それが四大悪質系(ローグ)クランとの大立ち回りに発展したんだ」

「そこから悪質系(ローグ)正統派(ヒロイック)の全面戦争になりましたが、小姐(シャオチェ)を含む四大クランはイチカ一人が潰しました。僕らはその騒動に便乗した悪質系(ローグ)プレイヤーの暴走に当たってただけです」

「な――バカな!?」

 

 当時イチカのランクはエキスパートの中堅。技量がそこそこの悪質系(ローグ)を10人か20人潰したという話なら納得できるが、今ほどの技量をもっていないイチカが4ケタを越える悪質系(ローグ)プレイヤーをたった一人で潰したなんて話、信じられるはずもない。

 

「あの時もイチカが使っていたのはビルト・フリッケライだ。あのクソ野郎が(みずか)ら傑作と(のたま)ってただけあって、プレイヤーとの相性さえ良けりゃ技量も人数差も意味をなさない。DSの形をした“圧倒的理不尽(アームズフォート)”だ」

「当時は仮想課(こっち)にまで届く程の物議(ぶつぎ)(かも)してましたからね。公開された機体構成(アセンブリ)悪質系(ローグ)が目をつけたなんて話も聞こえてきたので僕らも動くしかないかと思ったのですが、イチカはすぐ別の機体(メルセネール・ブラン)に乗り換えましたし、他ならぬイチカ自身が機体の特性と弱点を公開したので、すぐに対策されましたけど」

 

 嫌悪感を隠さないヴェクターと苦笑するクリスハイトが説明するが、その頃から規格外の行動力だったイチカに戦慄(せんりつ)する。

 それだけチートじみた機体を得ながら、それに甘んじる事なく技量を鍛える事に専念した判断力。向こうで女性陣にもみくちゃにされて羞恥に(もだ)える姿からは想像もつかない。

 現実であの機体(ビルト・フリッケライ)が現れた時は“この状況で使える機体の一つ”程度に考えていたが、知らず知らずDSO(ゲーム)の感覚で見ていたのか、その脅威と重要度を見落としていた。

 数世代も先の技術で作られたIS、それを十全に操縦できるパイロットがセットになれば、個が量を圧倒するどころか蹂躙する。それが明るみになれば、イチカは世界の敵どころか人類種の天敵と認定される可能性だってある。

 

「あいつは――イチカは、現実でもビルト・フリッケライを使い続けると思うか?」

「使わせない為にランクスがドイツ(そっち)に向かっているんです。詳しくは彼と相談して、今後の方針を決めるべきでしょう」

「時間勝負な部分もあるんだ、いつもみたいに話半分でポンコツな答えを出すなよ。ヘタすりゃお前達が世界大戦のトリガーになりかねない」

「まだ何かあるというのか!?」

 

 ただでさえイチカの身の振り方でお腹いっぱいだというのに、これ以上の問題があるとは考えたくない。

 

「既にお前らはイチカの身内だ。ドイツのおっさんはともかく、そっちの上層部には警戒しとけ」

「ハニートラップ、とまではいかないでしょうが、イチカとの縁か情を植え付けるために貴方達を日本に送り出したフシがあります。貴方達に危険が及べば、必ずイチカは動きますよ」

「ぇ? ……うぇッ!?」

 

 一瞬、何を言われたのか理解できず、言葉の内容が理解できた途端、変な声が出た。

 

「い、いやいや、ハニトラって」

「クリスハイトが言いたいのは友愛とかそっち方面だ。お前じゃマスコットかペット枠だろ」

「ケンカ売ってるなら買うぞ?」

 

 マジェスタやステラに意味深な視線を向けるヴェクターに殺意を覚えた。あいつらと比べて女性的な魅力にかけるのは認めるが、今後の成長でどうなるかわからないではないか。

 

「第一、イチカの嗜好(しこう)があいつらの様なメリハリのあるものより、わたしの様な慎ましい方が好みか、も……」

 

 自分が何を言ってるのか気付いて赤面する。

 (まか)り間違って自分が選ばれでもしたら本当にハニトラだし、クラリッサの秘蔵本(エロ同人)を思い出して何も言えなくなる。あんなのを自分も経験するのだろうか?

 

「ぇ、ぇぅ、あ、その、わ、わたしは別にイチカとそういう関係になりたいわけでは……」

「妄想してる所悪いが話を戻すぞ。本題はここからだ」

「ドイツの上層部はあなた達を通じてイチカを自国に呼び込む状況を画策しているフシがありますが、それがが必ずしもプラスになるとは限りません。下手をすれば、日本と同じ結果になる可能性すらあります」

 

 日本と同じ。つまりは自国に獅子身中の虫がいる可能性がある。それを理解したローラは今までのピンクな思考は吹き飛び、クリスハイトに食ってかかる。

 

「ドイツにもスパイか内通者がいると?」

「もしくは勘違いの愛国者か狂った研究者ですかね。いずれにせよ、厄介な事になるのは確かです」

 

 シニカルな笑みを浮かべるクリスハイトに戦慄する。こいつもこの機に乗じて何か画策しているのだろうか?

 

 探れば探るほど次々出てくる問題に頭を抱えたくなる。

 いっそヴェクターやランクスを参謀に迎え入れるべきか――そんな悪魔の誘惑が脳裏をよぎる。

 こんなパズルとも迷宮ともつかない難題だらけの問題集、ローラだけでは解けそうにない。




Q:『エリカ』って誰?
A:SAOでのアスナのサブアカ。詳しくはマザーズロザリオ編を見よう!

Q:ヤバ目な思考持ってる愛でる会って?
A:『イチカと一線を越え隊』『イチカと子供作り隊』『イチカをバブらせ隊』というやべー連中。これでまともなのとヤベェのはだいたい揃っているはず。とりこぼしあったら教えてくださいw

VRでアバターの年齢が変更できる仕様はオリジナル設定だけど、SAOやGGOでもそれっぽい仕様がある描写はいくつか見受けられるので、半オリジナル?

イチカの“おしおき”がスキンシップになっているのは仕様。元々いろんな意味で火力の高い一夏(イチカ)に暴力とか説教かましてもあまり意味ない、というか読者視点でヒロイン説教や暴力振るわせても好感度マイナスだし「ヒロイン的にそれはあんまりじゃね?」と考え、だったらいっそ逆の発想で甘やかそうと考えたのが始まり。

これは結構メリットがあり

・一夏が多少やりすぎても“おしおき”が待っているので二度オイシイ
・暴力ヒロインが生まれにくい&オチが作りやすい
・“おしおき”という免罪符があるのでヒロイン達は堂々とイチャつける&毎回悶絶する一夏が見られる(ここ大事
・安易に肌色に頼らなくていいけどスキンシップ増やせる(もっと大事
・寸止めイチャコラという生殺し→ヒロイン勢か一夏が暴走しかけても教育的指導というコンボのようなオチも作れる
・伏線もフラグも入れらる

と、いろいろオイシイ所だらけ。

誰がどういう“おしおき”をする、というのはある程度考えていて、複数キャラが絡んでも差分が作れると至れり尽せりな糖分過多。
某天使さまのアニメ化(シーズン1)を知った頃に思いついたけど、いっくんが駄目人間になるかは謎。これから話作ろうと思っている方がいたら是非利用して下さいw

新キャラ? のステラがしれっと出てますが、予想している通り中身は箒。名前の発想元が『箒星→流れ星の光→ステラ』という単純なもの。別に死亡フラグは立ってないのでご安心を。
こいつをDSOに連れてきたのはISのシミュレーターとして優秀なのと、新規とベテラン、ガチ勢の能力の差を明確にする為。
現状戦闘描写が一夏メインになっているのは仕方ないっちゃ仕方ないけど、ステラという新規勢(お荷物)育てるのに周りの連携とか実力差なんかが描写できるし、それでイチカとかヴェクターの実力が頭2つ3つ抜けてるどころか頭おかしいレベルだと表現できるんじゃないかと考えた為。結果、尚更自分の首を絞める行為に…
思いつかなかったら別要員にジョブチェンジするかも。

ブン屋(というか桐ヶ谷家)と絡ませたのは今後SAOサイドのキャラを出すためのフラグ。どこで誰を出すかというのはある程度決まってますが、とりあえずリーファは早めに出す予定。

次はようやくあのキャラが出ます。
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