DS - ダイアグラナル・ストラトス -   作:飯テロ魔王(罰ゲーム中)

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予約投稿してたと思って出張行ったら投稿してなかった(´;ω;`)

ようやくあのキャラ達と一緒に半オリキャラが出ます。
ランクスのエグさが表現できていればいいのですが、それ以上に濃いキャラを用意してしまったから薄れそうな気が…


01-04 化かし合い

 国連(UN)所属のVTOLが1機、フランスのル・アーヴルから東北東、ベルギーを経由する航路でドイツのラインラント=プファルツ州、ビューヒル基地に向けて夜明けの薄闇を移動していた。

 パイロットの他に搭乗者は5人。少年から青年の域になりつつある金髪の男と少女、相対するのは車椅子に座る膝から先のない妙齢の女性と二人の少女。

 少年少女はランクス・デュノアと妹のシャルロット。対面する妙齢の女性はレクト欧州支社長のリリウム・オルコットとその娘のセシリア、そしてオルコット家のメイドにしてリリウムの専属秘書であるチェルシー・ブランケット。

 それぞれの立場から2対3という構図で対面しているが、和気藹々(わきあいあい)な雰囲気からは程遠く、妙な緊張感をはらんでいるのに、会話の内容は平凡という奇妙な空間が出来上がっていた。

 

「では、オルコットも2年前にイチカと?」

「ええ、あの事件で彼も被害者でありながら奮闘していたと聞いています。彼の活躍がなければ(わたくし)も夫と一緒に天に召されていたかも知れませんね」

 

 柔和な表情のリリウムだが、瞳の奥に剣呑(けんのん)な光を宿しているのをランクスは見逃さなかった。

 オルコットはイギリスでも有数の資産家であり、レクトの欧州支部を束ねつつも各種事業に参入しており、イギリスのIS第3世代の開発に資金を投入しているという噂はランクスも耳にしていたが、そこにイチカの特許が絡んでいる可能性は高い。

 レクト経由でデュノアに接触してきたリリウムは、ランクスがドイツに向かうと聞き、どんな伝手(つて)を使ったのか国連のVTOLをチャーターしてきた。

 オルコットとレクト、どちらかが国連と繋がりがあるとそれとなくチラつかせる経営手腕は流石だが、話題の渦中にある少年(イチカ)と並々ならぬ関係にあるデュノアを警戒しているのか、もしくは出遅れた焦りか。

 現にイギリスの候補選抜生である(セシリア)を連れてきているのは顔合わせが目的ではなく、イチカと個人的な繋がりを得て現在開発が(とどこお)っているIS開発に何らかの形で関わってもらおうという魂胆なのだろうが、それすらランクスの筋書き(シナリオ)通りだ。

 ここまで思い通りに動いてくれると自然と口角が上がってくるが、それを柔和な表情に造り変え、情報共有へ話の流れを持っていく。

 

「デュノアはドイツと連携してイチカの身の安全を優先するために動いていますが、オルコットが動いたのはレクトからの要請で?」

「いいえ。私達(オルコット)は彼の後見人(スポンサー)に名乗りを上げようと考えています」

「スポンサー、ですか?」

 

 ええ、と答えて横にいるチェルシーに目配せし、彼女はスーツケースから旧式のタブレットを取り出して操作。こちらに提示してきたので内容を確認すると、デュノアとオルコットがイチカの後見人の一つとして名乗りを上げ、オルコットは一夏が成人するまでの生活全般の諸経費を中心に、今後IS開発や特許取得を後援する見返りとして、今後取得するライセンス使用の優先権を得るという内容。

 それもあくまで“優先権”であり、先んじて動いていたデュノアやドイツへの配慮も組み込んでいるだけでなく、オルコットを信用できないと判断すればそれまでの出資を返す必要はないし、いつでも支援を切ってもらって構わないという条文を入れてくるのは本当にソツがない。

 

「世間が例の特許やテロの後始末でゴタついてる間に、欧州圏(われわれ)でイチカを囲ってしまおうと?」

(わたくし)達が彼の自由と尊厳を(まも)る盾となり、有象無象の厄介者を退けるのが目的です。彼を欧州に縛り付けようなどとは思っておりませんわ」

「あいつの為人(ひととなり)も知らないまま、こういう提案を出すのは早計なのでは?」

「ドイツが逸早(いちはや)く動き、デュノア――いえ、ランクス・デュノアが影から支えている彼が凡愚なはずありません。実際、彼はIS初戦闘でありながら日本の危機を救い、自らの価値を世に知らしめている」

 

 下調べはしっかりしている様で、軽く揺さぶりをかけても動じない。少し興味がわいたランクスは、別方向から切り込んでみた。

 

「確かに。ですが、DSO(むこう)で相棒として動いた僕から言わせてもらえれば、ポッと出のオルコットがレクトの名を借りたとしても、イチカは警戒すると思われますが?」

「ですから必要とあれば支援を切ってもらって構わないという条文を入れてます。当然、それまで出資した費用を請求する(など)という無粋な真似もしない所まで含めてね」

 

 そう言ってのけるリリウムだが、これはイチカにメリットがあるという話ではない。オルコットがこれだけの好条件を出したにも関わらず、デュノアやドイツが半端な条件を出せば、そこを容赦なく突いてくるという意思表示だ。

 

 ――()()()()()()()

 

「僕個人としては素晴らしい提案だと思います。アイツがオルコットを警戒してきたら、僕もアイツに口添えする事を約束しましょう」

「それはありがたい申し出ですわね。ですがドイツはどうすると思います?」

「この提案を目にすれば、イチカとの信頼関係を強固にする為、こちらの提案に乗ってくる可能性が高い。というか既にイチカは僕が何をしようか気づいている筈」

「あら、なにか計画が?」

 

 ランクスは小型のAR機器を取り出し、リリウムのAR機器とリンク。AR上で展開されたデータを見たリリウムは驚愕する。

 

「ッ!? こんなものが実現可能だと――」

相棒(イチカ)とブラッシュアップすればもう少し上のモノが可能になるかと。僕の方でベースとなるモノを作っただけなので」

「これでまだ草案だというのですか!?」

 

 これは業界の革命なんて生ぬるいものではない、実現すれば常識そのものを(くつがえ)す代物だ。

 

「これは実現可能なのですか?」

「ええ。これには篠ノ之博士も絡んでいて、イチカがこれに参加できる“口実”も既に有しています」

 

 目の前で柔和な笑みを浮かべるランクスが、人の形をした怪物(ナニカ)に見えた。この青年はこの計画を通して何処(どこ)を目指そうとしているのか。

 資産家としての冷静な部分がこのプロジェクトの損得を分析するが、リスクを抱えてでも進めた時のリターンが魅力的すぎる。

 

「……(わたくし)達に求めるものは?」

「物資と資金。ドイツにも同じ提案をするつもりです」

「素直ですね。ですが嫌いではありません」

 

 こういった場で本心や本音を隠して取引を進める事が多いが、ランクスはストレートにオルコットを巻き込もうとしてくる。仕込まれた猛毒は、味方にとんでもない利益を生み出し、日和見や敵対を考えていた者達は、出遅れるどころか二番煎じにすらなれない。

 こんな刺激的な話、乗らない方がおかしい。

 

「いいでしょう。デュノアが提案するこのプロジェクト、オルコットも出資します。レクトには――」

「既に茅場氏はカムラと共にこのプロジェクトに参加する意向です。須郷氏は、イチカへの投資という形でこのプロジェクトに参加したいと」

「根回しもしっかりしてらっしゃるのね」

「恐縮です」

 

 リリウムの背に冷たいものが(はし)る。不敵な笑みを浮かべるこの青年は、敵に回したら恐怖以上の反撃をしてくる予感がある。

 ランクス()がこれならシャルロット()もキレ者かと思い視線を横に向けると――ポカンとした顔で固まっていた。隣にいるセシリアも同じ顔をして固まっている。

 

「あなた達、どうしましたの? だらしない顔をしたまま固まって」

「ぁ、その、兄さんがデキる人なのは知ってましたが、仕事をしてる姿を見るのは初めてで……」

「えっと、ランクスさんは(わたくし)達とあまり変わらない年齢と聞いておりましたが、その、話についていけなくて……」

「これぐらいの年齢で会社を経営する方は沢山おられます。経営で最も大事なのは学歴や経歴などではなく、実力なのですから」

 

 資産家として幾つもの事業を展開するリリウムにとっては常識だが、経験の浅い彼女達にとっては非常識だったらしい。

 未知を開拓する機会を得ただけでも、(セシリア)を連れてきた意味はあった。

 

「この提案は、我々が手を取り合う事でイチカを支える関係を作り上げる事です。それが結果としてお互いの利益になる」

「……そういう事ですか」

 

 意図に気付いたリリウムの頬がひきつる。提案した計画は踏み台で、参加する自分達すら駒の一つだ。

 この男は、本気で世界をブン殴りに行くつもりらしい。

 

 

 

***

 

 

 

 デュノアとオルコットが接触した――その情報が各国家や企業に(もたら)されたが、彼女(リリウム)の手腕によって妨害が起きないどころか、逆にこぞって協力していた。

 

「これで少しは時間稼ぎができますか」

「彼と敵対する意思がない事も示せますな」

「同時に、彼の支援会を作る口実もできた」

「彼女に借りを作ってしまったがな」

 

 リリウムがランクスに接触できたのは、望まずも一夏の特許トロールをしでかした企業や国家に一夏の支援会設立を提案したからだ。

 レクトの欧州支部が窓口になる形ではあったが、一夏との接点を作れる絶好の機会。最初こそ疑惑の目が向いたが、調べればオルコットも例の特許関連で被害を(こうむ)った一つだったと判明。彼女が世間の矢面に立ち、その裏で自分達は少ない出資で一夏との接点を作れると知り、()()被害者である政府や企業は『特許トロールに対する賠償の一環で支援会を設立する』という提案に飛びついた。

 結果、彼女は自らの懐を痛める事なく、一夏の支援会を口実に強大な資金と権力を動かせる権利を得たが、リリウム自身一夏との接点がデュノアやドイツと比較すればないに等しく、彼女はこの功績を引っ()げ、各企業への窓口という功績をもってレクトの本社を経由してデュノア――正確にはランクスに接触。各国の政界も巻き込めるよう、国連にも口利きしてVTOLをチャーターした手腕は流石だった。

 

「彼女がとりなしてくれている間、我々はそれぞれが抱えている問題に専念できる」

「その問題が問題なのだがな」

 

 世を騒がせている特許トロール、企業にとっては青天(せいてん)霹靂(へきれき)だった。

 デスクの上で数字と利権しか見てなかったツケは、特許トロールという罠に代わり、その特許移譲に関わっていたのが(きし) 結華(ゆうか)をはじめとする女尊権利者の面々が作ったダミー会社と、それに振り回されながらも実績という利益を得てきた研究者達の存在。

 彼女らが行ってきた不祥事を隠すため、もしくは罪の(なす)り付けあいか、相次ぐ行方不明と不審死が続いた所に日本で起きたテロ事件。大した被害も出ないままテロは鎮圧されたが、肝心の首謀者はこの件にIS委員会や各国政府、企業の関与を匂わせる置き土産を残して姿を(くら)ませた。

 特許トロールと知りつつ取引をしていた所は当然糾弾されたが、()()()()()()所はこの機に乗じて内部の膿を追い出し自分達も被害者であると喧伝(けんでん)するも、企業回復を優先して一夏への対応が杜撰(ずさん)だった事が原因で炎上。

 結果、一夏がドイツに亡命する時もお互い足の引っ張り合いで身動きがとれなくなり、彼女(オルコット)に声をかけられるまで行動できなかったのが実情だった。

 

「織斑一夏については彼女に一任するしかない、か」

「特許トロールに関しての対策は?」

「特許を売ってきた下請け、例の女尊権利者達が作ったダミー会社だったのだが、国によってその対応がまちまちだ」

「負債を抱えてでも権利を織斑一夏に返還すべきだという意見と、経緯はどうあれ正規の手順を踏んで入手した権利だから自国の技術だという意見、権利は先送りにして経緯を調べ、自分たちも被害者だと公表すべきという意見が政府と軍と企業の間で対立し、どの国でも会議は連日紛糾しているらしい」

「どこがイチ抜けするかでも荒れそうだな」

「デュノアが動けば変化はありそうだが――はてさて、どうなるやら」

 

 自業自得とはいえ、特許トロールを契機とした炎上とデモは国と企業の体力を削ぎ落とすほどの劇薬になり、一夏と接触する機会を奪っていく。

 それがランクスの仕掛けた“猛毒(オシオキ)”の始まりだったと知るのはもう少し後、魔王ですら『エグい』と評した策略の始まりだった。

 

 

 

***

 

 

 

 明日にはランクスがドイツ入りするというのに、イチカ達は未だイベントをプレイしていた。

 イベントそのものが面白かったというのもあるが、単独(ソロ)であれだけのレアドロが落ちたのだ。もしかすると小隊(パーティー)部隊(レイド)で初見プレイヤーを含めたRTAを仕掛ければ同様の結果が得られるのではないかと考え、提案したヴェクターをリーダーに、イチカとクリスハイトを主軸とする過剰戦力(オーバーキル)なチームを結成。ちなみに“おしおき”は継続し、イチカは小さい姿のまま戦闘に参加する事になった。

 検証を兼ねる為、参加者は可能な限りゲスト機(ビルト・フルーク)を使う1週目、自分が最も得意とするDSを使った2週目でRTAを仕掛けたが、結果は予想通り――ではなく、予想をはるかに超えた戦績(スコア)が出た。

 初見プレイヤーが必要だったため、小隊(パーティー)モードではゾルダートからはクラリス、キャットライドからランが参加したが、彼女らは戦闘に参加せず撮影役になり、ヴェクター、クリスハイト、イチカの3人だけで戦場を蹂躙(じゅうりん)

 小隊(パーティー)戦だというのに1週目は7分ジャスト、2週目で6分48秒という頭のおかしい記録を叩き出した。

 

 結果、どうなったかいうと――

 

「やりすぎてはダメだと言いましたよね?」

「もしかして“おしおき”を期待してたのか?」

「でしたら期待に応えなくてはいけませんね。たくさん“おしおき”してあげましょう」

「だからってなんで俺だけ!?」

 

 クラリスだけでなく、拘束から解放されたステラがイチカを抱きしめているが、右から身長差のあるクラリスの控えめに自己主張する胸にイチカの頭がホールドされ、左から起伏の激しいステラ()が抱きつき、動く(たび)にムニムニと形を変える果実(たわわ)が気になって身動きがとれない。

 ランも参加したかったが、日本は夜の8時過ぎ。部活の朝練がある彼女はシノンに説得されて泣く泣くログアウト。リンも部活の朝練があるので一緒に落ちていた為、代わりにマジェスタがステラを開放。“公開処刑(おしおき)”に参加する事になった。

 当然、部隊(レイド)戦の準備をしていた女性陣も参加すべく、ギラついた目で順番待ちをしているのを尻目に、ヴェクターとクリスハイトはドロップ品を確認していた――というか、イチカを生贄(イケニエ)に検証を進めていたというのが正しい。

 何気にちょっと期待していたが、女性陣はイチカ以外に全く興味がなく、ヴェクターはシノンがいるので除外、クリスハイト(オッサン)は最初から眼中に入ってないのを正面から言われてちょっと背中が(すす)けていたが、ヴェクターは無情にもスルーして検証していく。

 

小隊(パーティー)の場合は50秒にレアドロが1つ、100秒でOWか特化換装装備(オートクチュール)がドロップする計算か」

単独(ソロ)の時よりドロップするアイテムが渋いですね。部隊(レイド)になるともっと渋くなりそうだ」

「それに、こっちのモードだとコレがレア報酬になるのか」

 

 ヴェクターとクリスハイトが入手したレア報酬はビルト・フリッケライ。それも図面や素材データではなくDSそのもの。ゲスト機で使用可能という時点で予想はしていたが、現実であれだけ活躍していたDSが入手できるとなれば、イベント参加が白熱するのは明白だ。同時に単独(ソロ)報酬も考えるとそれだけが目的ではないのがわかる。

 

「ランクスが用意させたか?」

「だとしたらえげつないですね。イチカを介さずあの理不尽が作れるという餌をぶら下げたのは、企業や政府を選別する為でしょうか」

「それだけで済むならかわいいもんだが、あのランクスが用意したなら、それだけが目的とは思えねェ」

「……ローラとハルカさんが落ちたのは良かったのか悪かったのか」

「また横で説明だなんだと騒がれたら面倒だ。あいつらはまだこのままでいいんだよ」

 

 ハルカ(千冬)は明日の仕事の準備をする為、ローラ(ラウラ)は上層部に報告する為、ゾルダートのメンバー数人と共に先に落ちていたが、ヴェクター達が予想する今後を考えれば、二人はまだ蚊帳の外にいた方がいい。

 彼女達の扱いがぞんざいになりがちなのは、毎回説明を求める面倒臭さと、機転の悪さからポンコツな判断をする所だ。テロ事件でも一夏が先行して一人で動くしかなかった理由の一つでもある。

 事態が刻一刻と変化している中、ヴェクター達が彼女達にリソースを()ける余裕はなく、時差という壁がある以上、できる事は限られている反面、DSOのプレイヤーはごまんといるのが強みでもある。今回のイベントに実力のあるクランやイチカの関係者を呼んだのは、戦略や策略に強い実力者が彼女達に協力できる様に顔合わせする意味もあった。

 

「――レクトの欧州支社がランクスと接触できたのは、イチカの支援会を発足させた、とかですかね?」

「ついでに新型ISの開発資金と面倒事を任せつつ、()の相手に対する準備を進めようとしてるのかもな」

「だとすると、IS委員会の情報を入手したか、もしくは予測していたんでしょうか?」

 

 今の今までずっと沈黙を保ってきたIS委員会に動きがあったのか、クリスハイトが新しい情報を出してきた。

 

「保有していたのが新規コアだけじゃなかった、とかか?」

「更識からの情報ですが、保管していたコアは新規コアだけでなく、分配済みのものも混じっていたとか。各国が保有するISの数も委員会が把握している数よりも多いという(ウワサ)も」

「……それを知らせる為にイベントに参加したのか? マジェスタ」

 

 チラリとヴェクターが視線を向け、つられてクリスハイトもそちらを見ると、苦笑するマジェスタがいた。

 

「ステラを連れてきたのは、検証の頭数とイチカの実力を(じか)に見せる為か?」

「それもあるけど、一番の理由はイチカを使ってでもハルカやローラにこれからのことを聞かせたくなかった為、かな。博士が気づいたのもつい昨日だったし」

 

 言いつつウィンドウを開いてヴェクター達の前に飛ばし、二人が内容を目で追うごとに表情が厳しいものに変わっていく。

 

「委員会が管理しているISコアの数が467に対し、稼働しているISの数が1438。新規コアはドイツにも紛れ込んでいて、ローラ達が準備していたISも新規コアで稼働してた、と」

「公式発表より3倍近いISが世界中で稼働中、非合法組織でさえISを所有。国によっては組織と結託して極秘開発も行っていて、博士をもってしても新規コアの販路も開発元も把握しきれてない、か……」

 

 予想を超えたカオスっぷりに、二人揃って額に手を当て天を仰ぐ。無人機(レギオン)が大量にいる時点でこの可能性を考えるべきだった。

 

「……そりゃアメリカもロシアも協力的だったワケだ」

「いくら更識が優秀とはいえ、短時間でIS(打鉄)を用意できたのも納得です。こっちが()()()だったなんて思いもしませんよ」

 

 今回のテロにアメリカとロシアが介入したのは、テロリストに渡ったISコアの鹵獲(ろかく)、もしくは回収も目的のひとつだ。

 経緯はともかく、テロリストがISを用意したのを知ったアメリカとロシアはあの黒幕気取りと接触。新型機の実験演習なんてもっともらしい理由をつけて日本近海に展開、千冬達含めた日本とテロリストの潰し合いを見物しつつ、状況を見て自分たちに有利な展開でどちらかに介入しようと考えていたのだろうが、日本(こちら)にはドイツが合流してるし、一夏の活躍は予想外。極めつけに例の巨大兵器率いる無人機の群れの出現で全てが狂った。

 後詰めで用意されていた広域殲滅兵器(ラージハンマー)に手も足も出ないどころか、それも一夏が撃墜。逆に魔王(ヴェクター)の策によってアメリカとロシアは功績まで譲られ日本に貸しを作る事になり、後始末で特許トロールをしでかした連中にも言及するよう仕掛けた結果、周りは自業自得で周回遅れとなり、ヴェクタートランクスが仕掛けた(どく)によって(かろ)うじてこちらが有利な状況を作れている。

 

「ヴェクターはIS委員会が黒幕だと思ってたの?」

「いいや、俺が考えてたのはもう一つの方だ」

「もう一つ?」

「コアの密売者を(あぶ)り出そうとしたんですよ。他ならぬ篠ノ之博士の口から『新規コアが本来のモノより性能が低いせいで戦闘中に全部壊れた』なんて報告が上がれば、新規コアを保有する組織が動くと踏んで、あえて博士に配信で発表してもらったんです」

「お陰でIS委員会も無関係(グレー)とはいかないまでも、巻き込まれた側だってのが(わか)ったが、別の問題も見えてきた」

 

 委員会の管理体制がザルだった可能性は否めないが、それでもセキュリティはしっかりしていた中でのこの失態。おまけに束ですら把握できない密売シンジケートだけでなく、巨大兵器と無人機を作り出した組織と広域殲滅兵器(ラージハンマー)を用意していた組織も謎のまま。

 ヴェクターやランクスが色々動いたお陰でやりすぎなぐらいの反撃をしたと思ったが、全体から見れば焼け石に水とも言えない、ささやかな牽制。

 ランクスは『次』を選別していて、それが動くしかない状況を作ろうとしている、もしくは既に対抗策を思いついているのか。

 

「イチカを犠牲(イケニエ)にしたのは早まったかな」

「僕がいる時点で全部話してくれるとは思いませんし、ランクスと博士がいなければ全体像が見えないのでは?」

 

 今更になってイチカとクリスハイトの接点の少なさが響く。

 いくらここにヴェクターやマジェスタがいるとはいえ、日本政府に悪感情を抱いているイチカがラース(仮想課)と協力的な関係になるとは思えない。

 せいぜい一介のプレイヤー同士という関係が関の山で、クリスハイトもニアミスも使ってそれを望んでいるフシがある。

 

「……やっぱ、しばらくは別行動しかないか」

仮想課(こちら)はレクトと関連する企業と、ロシアからアジア圏を中心に調べてみます」

「なら俺は時間が空けばあいつらと一緒にこのイベントを使ってあいつらを鍛える。最低でも小隊(パーティ)で30分きれるぐらいは目指してもらおうか」

 

 現実では身の置き所がないヴェクターはステラ達のスキルアップに尽力し、クリスハイトは仮想課からのアプローチで裏取りをしていくらしい。お陰でマジェスタの身がフリーになった。

 

「あたしは博士からの依頼を優先するからあまりDSO(こっち)に来れないと思う。キャットライドにステラが入ったけど、同じタイミングでメンバー増えたし」

「新規プレイヤーか?」

「シノンとクラリスが連れてきたって聞いたけど、何も聞いてない?」

 

 珍しい組み合わせな上、ディビジョンとゾルダートのサブマス二人からの紹介というのもなかなかレアだ。相当な実力者なのだろうか?

 

イベント(こっち)にかかりきりだったから何も。野良で拾ったのか?」

「ひと月半くらい前に新規で来て、もうソロでストーリーミッションを1つクリアしてて、ランクはブラストの上位に来てる」

「結構な実力者ですね。どこかの代表候補生でしょうか?」

 

 DSOで並みのプレイヤーでも最下層のアサルトに上がるまで2ヶ月はかかる。それをひと月半という短い期間でブラスト上位に来るなら、地力そのものが高いか、ISパイロットでなければ無理だ。

 

「イチカの活躍に触発されたクチらしいよ。聞いた話じゃ現実(リアル)でも会った事があるみたい」

「リアルで会った事がある、ねぇ……」

 

 ヴェクターの勘が告げている。このタイミングで現れるのは面白くなるか厄介事の二択だが、なんとなく前者の匂いがする。

 

「そいつ、女性プレイヤーか?」

「シャルっていう金髪でオッパイおっきい()

 

 含みのある説明にヴェクターとクリスハイトが顔を見合わせ、どちらともなくニヤリと(わら)う。

 これは絶対面白くなるヤツだ。

 見守る以外の選択肢、選ぶ必要がない。




Q:ル・アーヴルってどこ?
A:フランス西部の一大港湾都市がある所。ノルマンディー作戦とかでも名前が出てくるぐらいには有名。ここをチョイスした理由はフランス第2位の交易都市(ちなみにトップはマルセイユ)だから。陸海空路を網羅していて、イギリスのオルコットとフランスのデュノアが合流する場所としてはうってつけ。
ちなみに現実でも日本との直通便があります。
Q:セシリアのママンが生きてる理由は?
A:時系列調べたらオルコット夫妻の列車事故と一夏の誘拐は時期が近いのを知って今回の事件とセットにした結果。
ママンの名前はネタだけど、出した理由はドイツとデュノア以外に資金源の窓口を作るのと、敵対(と思われていた)企業を利用する切り口を変える為。パパンの話も後々出る予定。
Q:なんでオルコットは国連(UN)のVTOLを用意したの?
A:、各企業や国家への根回しと貸しを作ると共に、オルコット家かレクトのどちらかが国連に関係があると匂わせつつ、一夏を支援する方法は資金面のみならず、自分達が彼らの窓口になって余計な口出しをさせませんよという意思表示であり「場合によっちゃこいつらも敵になるぞ」という牽制も含んでいる。
めっちゃやり手に見えるけど、やってる事はブリカスw

欧州圏のメンツがようやく揃いました。これで権力・財力・技術力が集結する形ですが、気になるのは周りの考察の方。気づいた人もいるかも知れませんが、実は皆それぞれ見落としがあったり、意図的に話してない部分があります。
お互い利害が一致してるから手を組んでいるだけなので、これがどういう変化をもたらすかは謎。

前のリザルト回で全く触れなかったアメリカ・ロシアの存在とその本当の目的は魔王によって妨害済み、現在進行中でヘイト買ってる大半が自業自得から来るもらい事故という真相。
オルコットママを生かしたのは理由があって、大人というワンクッションを入れておかないとセシリアがヒロイン勢の中で一番動かしづらい位置になり、話が進むにつれて影が薄くなってしまうのを避ける為。
レクトという後ろ盾を用意できる反面、財力に頼る事ができなくなるネックができましたが、母親と経営する企業という強力なバックアップがあるのでヒロインレースは横並びになる、はず?

次回は開発無双と一夏のヘタレ発動の予定――ですが、ちょーっとお仕事が忙しくなってきたのでまた間が空くかも。
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