それでも楽しんで読んでもらえるなら幸いです。
………今なお危機に瀕している未来の同胞達を……忘れるな!
『総員、共同レム睡眠を中断。機体ナンバー、I-4825搭乗員、レイト中尉は速やかに覚醒されたし』
「うっ……」
『脳波計測、基礎律動異常なし。血中乳酸値、アドレナリン分泌量共に正常値。覚醒プロセス完了』
渋い男の声が響き、レイトは眼を開ける。
「ッ……アイン、作戦開始まで後、何分だ!?」
『銀河同盟標準時において、エルゴ領域突入まで、後306秒である』
ふう~と軽く息を吐いて、体の力を抜いた所に通信が入る。
「マルグ隊、各機に告げる。睡眠啓発の時間は終了だ。まだ寝ぼけている奴がいるなら、俺が蹴飛ばしに行くぞ」
レイトの上官、マルグ少佐からだ。
筋肉質の体に、三白眼で睨む顔がレイトを見ている。
いつもの調子の上官に、レイトは気を引き締めると同時に指を動かし慣らす。
次に、作戦開始前にブリーフィングで、何度も繰り返した作戦内容がマルグ少佐の口から再び告げられる。
レイトは黙って、前方に展開された作戦をじっと見つめた。
『告知。現時刻をもってレイト中尉の軍務時間は22万5千時間を経過した。貴官にはすでに第二級限定市民権とアヴァロンへの12週間の渡航を申請する権利が与えられている。しかし貴官はその権利を履行した事がない。その理由を求む』
「そういや、そんなになってたんだっけか?」
『アドレナリン分泌量に変化なし。貴官の反応は相変わらず期待値を満たしていないのである』
「わざわざ行ってどうするっていうんだか。永住出来るわけじゃるまいし。……それに宇宙ならどこでも同じだ」
人類銀河同盟では力のないものは排除され、そして生き残ってもヒディアーズとの戦争が待ち受けている。
『異議。アヴァロンとは市民の権利が保証される場所である。貴官には自由飲食、自由睡眠、並びに生殖の自由が与えられる。人類銀河同盟の軍務から一時開放される場所である』
「そりゃ、ちょっとは魅力的な響きだがな……」
レイトの25年間の記憶には、常に時間を管理され規律正しく無駄のない生活を送った記憶しかない。
あらゆるものを排除し、ヒディアーズと闘うためだけの……。
だが、そこで突如脳裏に浮かんでくるのは無菌室の中でやせ細った少年少女の姿。
「ッツ……」
『レイト中尉のアドレナリン分泌量に変化あり』
「なんでもない……」
『脳波計測に異常な乱れを計測。貴官は作戦開始前の兵士として万全の状態ではない。本作戦後、以前提言した通りカウンセラーを受ける事を推奨する』
「それ以上、言うな、アイン。作戦後生きていられる保証はないしな。……それにしてもお前は口うるさいんだよ」
『私はパイロット支援啓発インターフェイスシステム。貴官がより多くの成果を獲得する事で存在異議を達成する。
そのためであれば貴官に提言する事を何時如何なる場合もやめる時はないのである』
「はいはい。頼りにしてるよ相棒」
レイトはコツコツと通信デバイスを叩き、苦笑する。
と、そこで再びマルグ少佐から通信が入り、レイトは慌てて手を戻した。
「また無駄話か、レイト中尉。これでお前に注意するのが何度目だと思っている!任務に集中しろ!」
「了解、少佐」
レイトはマルグ少佐の叱責に短く返し、口を一文字に結ぶ。
すると今度は本作戦の全体を指揮するクーゲル中佐から通信が入った。
「総員、対ショック体勢。ティレモシースイング開始と同時に全機発信。健闘を祈る」
レイトは衝撃に耐えるため、眼を閉じた。
見えるのは宇宙の深淵と同じ、光ひとつない暗闇。
夢で何度も見た暗闇、だが確か夢ではいつも、同じ様な光を見つけていた。
そしてそれに向かって……手を伸ばし……。
「戦域突入支援艇、発信せよ!」
レイトは眼を開け、目の前に広がる敵を見つめた。
巨大な花びらのようなそれは、こちらを待ち受けるかのように広がっている。
「目標砲口部を破壊」
「敵要塞砲すべて破壊」
「新兵器ディメンストリーム命中」
味方からの知らせが入り、嫌が王でも士気が高まる。
そしてついにレイト達、マシンキャリバー隊にも出撃の命令が下された。
「マシンキャリバー隊、出撃!」
レイトは戦域突入支援艇のアームから開放され、宇宙空間に飛び出す。
クーゲル中佐が指示する通り、自分達の任務は量子次元反応弾を設置する部隊の護衛とそれを阻害する敵勢力の全ての撃破。
自機と同じ黒とオレンジの隊で菱形の隊列を組み、出撃する。
レイトはシールドとビーム兵装ファランクスを構えた。
「撃てェ!!」
マルグ少佐の声でレイト達マルグ隊は敵の攻撃型母艦クラスにビームを命中させる。
周りの味方が敵の攻撃に撃ち落とされていく中、レイトはただ前を向いて自分の任務を続けた。
……俺はいつからこんなにも仲間の死を許容出来るようになった?
あの時、流した怒りと悲しみの涙は枯れ果てた様に、今では記憶にしかない。
ヒディアーズとの戦争が続く限り、終わらない人類の死。
レイトはただ、ひどく胸を痛ませる想いを胸に秘めて、機械の様に攻撃を避け、目の前の敵を倒し続ける。
それでもなお、敵の勢力は衰えず、目の前を埋め尽くさんとばかりのヒディアーズが現れた。
「艦隊主力を直撃!」
「作戦継続不能!」
「直ちに全艦、撤退せよッ!!」
そして再生した敵要塞砲が艦隊を壊滅させ、それにレイトは歯を食いしばる。
張り付いてきたヒディーアズを倒したところで撤退の通信が入った。
「クーゲル中佐の命令道理に撤退だ!!ほら、行け!行け!行け!」
レイトは歯ぎしりをすると共に、襲われている味方機の援護に急いだ。
ビームで敵を撃ち落とし、味方機の戦域突入艇までの道を切り開く。
「アイン、限定解除命令マキシマイズ!焼き切れるまで上げろ!!」
『了解』
一時的なパワーアップを可能とする命令に、今までにない力がレイトにある。
だが、それは一時的なものだ。
すぐにビーム砲はエネルギー残存がなくなり、盾も無用なものになった。
全身のディフレクタービームの放射により、敵を倒す。
と、そこに遠く離れた味方機から通信が入った。
「援護要請!囲まれた!!」
「待ってろ!!いいな、諦めるな!」
すでに母艦級に囲まれた突入支援艇は、遠すぎる場所だ。
だが、それでも……!
ビービービービー!
警報音にレインは斜め上から迫るヒディアーズをなぎ払う。
その間に味方は姿が見えないほど敵に囲まれた。
「くそっ!!」
「もう手遅れだ!諦めろレイト!!」
「少佐!俺は……!」
それでもマルグ少佐の言葉を振り切り、腹部のビームで敵をなぎ払う。
だが、突如発生した突入支援艇の爆発をレイトは至近距離で受けた。
「くッ!!」
その破片が飛び散り、レイトのマシンキャリバーに大きな衝撃が走る。
「損害報告!」
『了解。肩部のディフレクタービームを欠損、ならびに量子インテークを破損。マキシマイズは強制終了』
「まだ俺は……」
『当機はこれ以上、戦闘を継続出来る状態に非ず。以後の戦闘は避けられたし』
レイトは残骸に向かって手を伸ばす。
掴めたのはただの鉄くずで、そこに人の姿はない。
次に漂ってきたファランクスを掴む。
確認するとエネルギーはまだ残存していた。
レイトはそれを構え、何かを振り切るように機体を撤退させた。
マルグ少佐とともに戦域突入支援艇に戻る。
「援護要請!援護要請!」
はるか遠くに見える敵に囲まれた仲間、殿をつとめる機体。
それらをおきざりにして、レイトが乗った船は空母ラモラックに撤退をし始める。
レイトは怒りを抑えるようにして、拳を握り、振り下ろすのを自制した。
『レイト中尉に告げる。貴官は当機の破損破壊記録において、第二位の成績を更新した』
「それを今、言うことか……」
『この結果の原因は戦闘中に於ける貴官の行動の結果によるものである。貴官の行動は容認出来ない事態にあった。届かない援護要請に対する行動。上官の命令を無視した軍規違反。いずれも看過出来ないものである』
「放っとけ、俺はやれるだけの事をやった」
『今回の行動は貴官の同僚が貴官に対して最も使われる言葉が適切であると推測出来る』
「なんだ、言ってみろ」
『この死に急ぎ野郎である』
「……誰だそんなセリフ言った奴は……今度連れてこい」
レイトが少し息を吐き、落ち着きを取り戻した。
いつも戦闘の後、こうしてアインが話しかけてくれるのはパイロット支援の一環だろう。
そのやりとりがレイトの心を少し軽くする。
「……これだけの戦力で勝てなかったんだ……次があるのか……?」
だが、レイトは険しい表情で、小さく呟き上を仰ぎ見た。
「ラモラック、ティレモシースイング開始まであと40秒」
39、38、37、36、…………
数字のカウントダウンが始まる。
…………8、7、6、5、…………
そこでレイトは味方の識別信号をラモラックの後ろに発見した。
「あの機体は!?」
『機体ナンバー、k-6821、レド少尉』
着艦間際だが、レイトはその上にヒディアーズを発見する。
レイトは無理やりアームから機体を外した。
「何をするつもりだ、レイト中尉!」
『援護です。このままでは彼は、着艦出来ません!』
マルグ少佐は上官機として、レイトの行動を止めようとした。
「レイト中尉、これは命令だ。諦めろ!お前まで死ぬ気か!!」
「命令は返った後で聞きます!」
レイトはすぐさまアインを発進させ、レド少尉がいる場所に向かう。
「この死に急ぎ野郎が!!」
最後にマルグ少佐の唾が飛んできそうな怒鳴り声がレイトに届いた。
レイトはラモラックを飛び出すとともに、すぐさまファランクスを構え、襲われているレド少尉の援護に回った。
もうすでにラモラックは発艦を始めている。
ビービービービー!!
「何ッ!?」
だが、レイトも二体のヒディアーズに接近され、その触手でがんじがらめにされてしまう。
先程の戦闘で破損した部分から軋みが機体の内部に響いてくる。
『グラビティーウェイバー照射』
そしてアインの声がした後、響く衝撃。
レイトはその衝撃と共に、意識を失った。
「アイン、今日は戦闘シュミレータをやるぞ」
「ワン」
「どうしたんだアイン!?」
「ワン、ワン、ワン」
「アインが犬になってるだと!?」
「ワン、ワン」
「……まあ、これでいいかあいつ、いつも余計な一言多いんだよな」
「わん!」