「よっと、……この」
レイトはアインの足を背もたれにして、レーザー銃を使用していた。
反対の手に持っているのは高剛性の無反応石英だ。
「んで、次はこうして……」
足元のシギュンが書いてくれた設計図を下に、石英をレーザーブレードで削っていく。
今、削っている石英はアインの原案を元に、シギュンが考案してくれた自転車の部品だ。
時々、周りの魔動技術士が物珍しそうに、またはレイトが持つレーザ銃を物欲しそうな目で横切っていく。
『遺伝子情報の解析を完了』
「えっ? 何かわかったのか!?」
手元に集中していたレイトは、慌ててアインを見上げた。
『古代人とこの惑星に生存する人類、及び人類銀河同盟の人間に遺伝子学的な相違点は見受けられなかった』
「なんだ、そうか」
レイトは安心した様に呟く。
しかし、それでは納得出来ない点があった。
「じゃあ、この惑星の人間が持つ魔力とは一体、何なんだ?」
『魔力の正体はナノマシンがもたらす力である』
「ナノマシン……?」
『この惑星の人類に遺伝学的違いはないが、生物学的な相違点を発見した。クリシュナ王国から提供してもらった体液の中にナノマシンの存在を確認』
この場所に住む人類が知らないような衝撃的な事実をアインは告げた。
しかし、この国の人間には言葉が通じない為、魔動技術士達は何事もなく通り過ぎていく。
『確認されたナノマシンは宿主の共生体として生存する事で、宿主に石英を操る力を与えている』
「与えているって……石英をどうやってナノマシンが動かすっていうんだ?」
『この惑星の石英のみに、先ほどの宿主のナノマシンと同型のナノマシンの存在を確認した。ナノマシンは神経細胞に取り付き、宿主の意思を感知することで石英の中のナノマシンと反応。それにより、魔力と呼ばれる様々な反応を引き起こしていると推測』
「じゃあ、まさかこの石英の中にも入っているっていうのか?」
『否定。貴官が持つ無反応石英と呼ばれる石英の中には、ナノマシンは感知されず。しかし反応系石英の中にはいずれも存在している。そして石英を削る作業で生じる粉末の中にもナノマシンは存在し、この惑星の人類ひいては貴官も体内に吸引しているのである』
「嘘だろっ!?」
思わずレイトは銃と石英を取り落とし、両手で口を押えた。
『心配無用である。推論。この惑星の人類はナノマシンを有せずに生まれ、幼少時に石英の粉末を体内に取り込み、ナノマシンを共生させている模様。貴官の様な成長期が過ぎた成人にはナノマシンは定着せず、自然に排泄される』
「はあ、そりゃ良かった」
レイトは安心して長い息を吐き、落とした物を拾った。
知らない間に、未知の物体を体に取り込んでいたとは怖すぎる。
レイトの知る人類銀河同盟のナノマシンには、恐ろしい機能を有した物も存在したからだ。
「なら、能無しと呼ばれる存在が、発生するのは……」
『幼少時に環境的、体質的にナノマシンを受け入れず、定着しなかったものと思われる。また、以上の事からこの惑星で言う魔力量とは、体内に共生するナノマシンの量で決まると推察される』
レイトは顎をさすり、いつもの癖で髪を掻き上げる。
「となると、俺がアンダー・ゴゥレムを起動出来たのは、あの機体に古代人として認識された、からか」
『古代人と現生人類の差はナノマシンを有するか有しないかだけである。したがって、この惑星に存在する人類はナノマシンを有するがゆえに、アンダー・ゴゥレムに古代人として認識されていない』
そこでレイトは額をに手を当てて、アインに問いただした。
「ちょっと待て。何故、ナノマシンなんて高度な科学技術が存在する!? ここの文明度ではありえないぞ」
『アンダー・ゴゥレムから所得した情報によると、古代人は現存する人類より、高度の文明社会を築いていたものと推測される』
「なら何故、その文明は今まで継続していない?」
『解析したアンダー・ゴゥレムのマップデータは現在の大陸の姿と一致しない。その事から過去に大規模な地殻変動が発しした模様。そしてほとんどの過去の遺産が海中に沈んだと推察される』
レイトは面白そうに頬を吊り上げ、なるほどなとうなずいた。
これでこの惑星の謎を少しは解き明かされた。
「残ったのは、この大陸の地中に残されていたアンダー・ゴゥレムだけってわけか」
『否定。古代文明の遺産は他にも、大陸の地中に埋まっている可能あり』
「そりゃ、掘り起こすのは楽しみだが、今の最優先事項は友軍との連絡とお前の回復だ」
レイトは結論を出すと、再び作業に戻ろうとした。
しかし、それをアインが声で止めた。
『以上の情報を、要請通りすぐにまとめ、クリシュナ王国に提出すべきである』
「えっ、今すぐかよ。俺はただでさえ、レポートとかが苦手なんだが……」
『契約は順守されたし』
「いや、俺はこの国の字もわからないし、お前が言葉で伝えろ」
『当機の翻訳機能では、クリシュナ王国との間に微妙な祖語が生じ、傭兵関係を結ばされた時のようになりかねない。貴官の助けを求める』
「……お前が余計な事をいわなければ良かったんだよ」
レイトはため息をつくと、レーザー銃をしまった。
シギュンを呼ぶため、アインから離れ探しに行こうとした。
しかし、アインの言葉がレイトの足を止める。
『人類銀亜同盟では遺伝子改造、及び肉体の改造は禁止されている。よって、この惑星の人類は人類銀河同盟の人間の定義には当てはまらない』
--------------------------------------------------------
その時のアインの言葉に対する返答を、レイトは今、返す。
「彼らは、泣き笑い怒り……。なんら人類銀河同盟の人間と変わりない。俺よりも人間らしいくらいだ。アイン、彼らは人間だ」
『了解。貴官の判断に従う。人類銀河同盟の人類の定義を広げ、この惑星の人類も含めるものとする』
レイトは少し微笑んで、アインの機体をコツコツと叩いた。
レイトの性格が思うように定まらない……。
設定としては以前、開拓部隊に居た頃漂流部族に助けられ、レドの様な体験をした事から、レドほど軍人らしくないということ。
未知なるものには興味があり、シギュンと同じ様に寝る間もなく熱中することもあること。