ビノンテン襲撃から数時間。
ワルキウレス部隊は、大渓谷の狭間で休息をとっていた。
その中、ゼスは座り込みじっと考え込んでいる。
「ゼス様。どうぞ、今日はクレオが作った料理です」
そこにクレオが、遠慮なくゼスに話しかけ、皿を差し出す。
「ありがとう、置いておいてくれ」
「ダメですよ!昨日もそう言って食べなかったんですから、ふぎゃっ!!」
と、そこで見かねたリィにクレオはおさげを引っ張られ、急いで振り返る。
「ゼス様の邪魔をするな。あんたはアルガス殿と交代して見回りだ」
「えー!また私?リィが行きなよ」
「何、口答えする気?どうせあんたに、空圧調整とかエルテーミスの整備は出来ないだろ?」
クレオはふくれっ面で抗議する。
「それは、……確かに、出来ないですけど。でも!ゴゥレムの長時間起動はリィにも負けません!」
「だ、か、ら。その長時間起動をやれっていってんの!全く、12歳のわりにでかい胸とそれぐらいしか長所がないってんだから」
リィの呆れ顔に、さすがにクレオもむかっ、とした表情を浮かべた。
「プレスガンをなくして帰ってきた、リィに言われたくないです!」
「へえ、言うじゃないクレオ。もう一回言ってみる?撃墜数ゼロのクレオさん?」
こめかみに青筋が浮かび、拳を握ったリィを見て、クレオはすぐさま回れ右をした。
「ひっ、了解~!行ってきますッ!!」
「……やれやれ」
隣でエレクトも、リィと同じ不安気な表情を浮かべた。
「ゼス様……あ、あの」
リィはクレオを見送った後、ゼスに話しかける。
「リィ、どうした?」
「クリシュナの初めて見るゴゥレムなんですが、信じられない動きを……」
「ああ、あの黒銀のゴゥレムだね……特に気にすることはないだろう」
「そう……ですか」
リィの納得がいっていない顔を見て、ゼスは心の中で付け加える。
(……問題はもう一台の、空を飛ぶ黒白のゴゥレムの方だ)
リィは気を失っていたため、あのゴゥレムの姿は見ていない。
そして石英を貫通した光線の様な兵器、またこちらの攻撃が通用しなかった事もだ。
ゼスは穴が空いた盾を捨て、エレクトにだけ異様なゴゥレムの存在を知らせていた。
「にわかには信じられませんな。飛行するゴゥレムなど」
エレクトはゼスの報告を、険しい顔をして言っていた。
「俺ですら、自分の目を疑うところだ。……この情報をアテネスに伝えた所で、兄上は信じてはくれないだろうな」
「しかし、もしクリシュナ国の技術がゴゥレムを飛行させるほどのものになっているというのなら、首都イリオスの最終防壁も突破されます。この情報は今すぐにでもお伝えすべきです!」
「だが……俺には、あれは既存の技術、いやこの大陸のものとは思えない。何か、別の……。それに、あいつは武器を狙いこちらを直接狙ってこなかった」
ゼスは呟きながら、目的を遂行すべく、最善の策を考える。
何があっても、目的を断念するわけにはいかない。
……最小の犠牲で、クリシュナ国を降伏させる事。
「ひとまず報告は後だ。それよりもエレクト、ビノンテン第二次攻撃の作戦を立てるぞ。こちらの残弾数はどうだ?」
「節約すれば後数回は、攻撃出来るでます。しかし、リィがプレスガンを失った事が大きいですな。奪取したクリシュナ国のプレスガンではこちらの弾の規格に合いませんでしたからな。リィに今まで通りの作戦続行は不可能です」
「なら、クレオとプレスガンを交換させるといい」
「はっ。……では、飛行するゴゥレムの対策はいかがするのですか?」
「問題ない。あのゴゥレムはいずれも武器を狙い、こちらを殺す気はなかった。誰かの命令か、もしくは乗っている人物の判断か……とにかくそれを利用させてもらう」
「利用とは?」
「飛行するゴゥレムに発見されないように渓谷で姿を隠しながら、目的数のクリシュナのゴゥレムを破壊する。最悪の場合、鹵獲されるぐらいですむだろう。皆には、飛行するゴゥレムの事は秘密にしておけ」
「……了解しました」
どんな対策を立てようと、あいつに見つかればこちらの敗北は確実だろう。
対策を講じる手段も時間も、今はこちらにはない。
ならば、最短最速で攻撃し、ホズルに負けを認めさせる。
ゼスはぐっと拳を握ると、ビノンテンの方を見つめた。
------------------------------------------------
レイトは暗い通路を歩いていた。
通信デバイスの明かりで前を照らし、右手には袋を持っている。
「おっ、誰かいてくれた!」
そこで手を上げて、ライガットが近づいてきた。
「いや、道に迷っちまってさ。発光石英は点けれねえし、助かった」
「ライガット・アロー……迷うって、ここは一本道だぞ」
「暗くてわかんなかったんだよ。てか、俺の名前知ってんのか?」
「ああ、俺はレイト。お前をクリシュナ国まで送った者だ」
「もしかして、採掘所で助けてくれたゴゥレムの登場者か?サンキューな!」
ライガットは朗らかな笑顔を浮かべ、レイトは右手の袋を差し出した。
「ライガットも食うか?さっき、知り合いにもらった」
「おっ、ビノンテン名物の焼き菓子か。もらう、もらう」
遠慮なしにライガットはレイトの袋に手を伸ばす。
それから二人は黙ってポリポリと食べ、通路を歩く。
「なあ、どうせなら通路の明かりもつけてくれないか?」
「無理だ。俺にも石英を操る魔力はない。お前と同じでな」
しばらくすると、ライガットは色々な事を聞いてきた。
歳も背格好も近いため、親近感が湧いたのだろう。
「レイトも能無しだって!?じゃあその胸の何で光ってんだ?」
「これはアインの通信デバイスだ」
「アイン?」
「俺の相棒のマシンキャリバーの名前だ。マシンキャリバーっていうのは、この国でいうゴゥレムみたいなものの事な」
「へえ……お前、自分のゴゥレムに名前つけてんの……」
ライガットはちょっとだけ、体を引く姿を見せる。
「いや、俺だってアッサムの頃は勝手にゼスの機体に、カタブツ二号とかつけてたけど……まあ、普通だよな、なっ」
レイトはライガットの愛想笑いを見て、眉をひそめる、
しかしライガットの明るい性格に悪い気はしなかった。
「そういえばさ、レイトが宇宙から来たとかさっき聞いたんだけど、あれって勿論嘘だよな?」
「本当だ」
「エッ?」
ライガットが引きつった驚愕の表情を浮かべたところで、格納庫に辿り着いた。
見るとアインがアンダー・ゴゥレムのそばで、何やら作業をしている。
「ライガット、レイト」
こちらに気づいたシギュンが声を掛けてきた。
「お前らいつまで仕事してんの?こっちは明かりがなくて困ってたっていうのに」
「アインに手伝ってもらって、このゴゥレム用に装甲を用意しているの」
「お前までアインって呼んでんのか?」
呆れ顔でライガットが言うと、アインは装甲を持ち上げる手を止める。
『ヨロシク、である』
「どわっ!喋った……いやいや、中に人がいるんだよな」
『否定。当機は無人であえる』
アインはパカっと、頭部のコクピットを開き、ライガットに見せた。
レイトは口を半開きにしたままのライガットを通り越す。
「レイト、昼間は私のお願いを聞いてくれてありがとう」
「別に構わない。この程度ならお安い御用だ。アインの言うところの円滑な関係を結ぶための慈善行為かな」
「報酬は私が払うから。格納庫の使用賃料も安くする」
しかしレイトは首を振ると、右手のお菓子を掲げた。
「いや、これで十分だ。正式な要請でもないのに動いたのは俺だしな。それにシギュンがお金を払ったら、それこそ俺がたかったみたいだ。この国を追い出されたくはない」
「……以外と頑固なんですね、レイトは」
シギュンは少し微笑むと、ライガットの方に向かった。
普段より、長くなってしまいました。
出来るだけ説明文をなくす形で書いているつもりです。