漂流者 ~異世界転移~   作:ぺこぽん

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第十三話 焦燥

レイトはコクピットで、仕事を終えたアインの整備をしている。

とはいっても解体整備をする設備はないので、アインの自己チェックを確認するのみだ。

プログラムを少しいじり、内部に蓄積された歪みを少なくする。

 

「レイト、ちょっと降りて来てくれる?」

 

そこでシギュンが下から声を掛けてきた。

プログラムを手早く終わらせ、機体を伝って降りる。

 

「っと……あの、シギュン……もしかして怒ってるのか?」

 

「……いいえ、何も」

 

むすっとして微妙に顔が赤いシギュンは、レイトに紙を押し付けてきた。

 

「これは……何だ?」

 

「はあ、ライガットのアンダー・ゴウレム機動の報告書。これじゃ、何もわからないの。アイン、あなたは戦闘データを記録していない?」

 

『否定。当機に観測データは非ず』

 

レイトは呆然と、紙に書かれた絵をじっと見る。

 

「……うまいな……」

 

「何か言った?」

 

微妙にキツイ言葉でシギュンに言われ、レイトはふるふると首を振る。

 

「となると衝撃や体感はあのライガットから聞くしかないわね」

 

肩を落としたシギュンは、アンダー・ゴウレムを見上げた。

その隣の二階では、ライガットが怒り顔でペンを書きなぐっている。

 

「……何かこの機体についてわかったのか?」

 

「色々と……まず、アインに手伝ってもらって解体したのだけれど、これ以上は無理みたい……私達の技術では破壊するしかないでしょうね」

 

シギュンは考え込むように、唇に手を当てた。

それにレイトは、アインに目を向けた。

 

「アイン、お前なら開けれるだろう」

 

「本当に!?」

 

驚いた顔を見せたシギュンだが、次の言葉で表情を戻す。

 

『当機の解析能力にてその機体の構造は把握。解体は可能である。しかし、推奨はしない』

 

「どうしてだ?」

 

『アンダー・ゴウレムと呼称する機体には、動力として核融合炉が使用されている。機体の作動とともに融合炉は機動したが、内部で経年劣化により放射能漏れが起きていると推察される。設備がないこの場所で解体するには核汚染の危険性あり』

 

シギュンは翻訳不可能な部分の言葉を聞き取れず、困った表情を浮かべる。

 

「えっと……つまりそれって……」

 

『超危険』

 

その言葉にシギュンは眉を潜めた。

それから考え込むように話し始める。

 

「レイトからの報告書を読んだけれど……本当にアンバランスな機体」

 

それからシギュンはスラスラと内容を述べていく。

レイトはところどころのわからない言葉をアインに翻訳してもらう。

 

「……まるで最後の任務のために突貫で作られたかのようみたい……確か、報告書にも書いてあったわね」

 

「ああ、コード1013……アイン、その任務の内容は?」

 

『不明である。機体に管制塔より送信された記録あり。しかし詳細情報は存在しない。搭乗者のみが有する特殊任務だった模様』

 

シギュンとレイトは首をひねった。

 

「それに外した装甲に掘られてあったのだけど……えっと」

 

『運命に抗おう、である』

 

「運命に……」

 

その言葉にレイトは拳を握った。

何かを考え込むようにレイトは、眉根を寄せる。

シギュンはレイトが力を込めているのに気づき、肩に手を掛けようとした。

 

「……何故、こいつに装甲をつけている。……乗れるのはライガットだけだぞ」

 

レイトは冷たい声を出した。

それにシギュンは下を向いて、声を潜めた。

 

「それはわかってる。……けど、クリシュナの戦力を拡大させるためにも……」

 

「それはライガットが戦うということだ……彼は兵士ではないのだろ」

 

顔を上げたシギュンは、静かなレイトの瞳を見る。

 

「ライガットには言ったのか? 乗れば戦うしかなくなることを」

 

シギュンは躊躇するように口ごもった。

 

「……まだ。これから、伝えるつもり」

 

レイトはそこで、何故かシギュンが落ち込んだように肩を落としたのを見て慌てる。

何か傷付けることを言った覚えはなく、何か声を掛けようとして思いつかない。

 

「俺は……」

 

だが気まずい空気を、いきなり歓声がぶち破った。

 

「トゥル将軍!貴官されたのですね!」

 

見ると、トゥル将軍旗下が集まっている。

レイトはトゥル将軍に手を振られ、呼ばれた。

シギュンと離れる口実ができ、少しほっとする。

 

「おお、レイト。息災だったか?」

 

「いてっ」

 

いきなりトゥル将軍に背を叩かれ、つんのめる。

それから何故か、後からナルヴィに脛を蹴り飛ばされた。

 

「お前、何をっ!」

 

「ふんっ」

 

抗議の声を上げたが、ナルヴィはそっぽを向いた。

 

「ナルヴィ、何故お前はレイトに突っかかるのだ……まあよい。レイト、お主は陛下に呼ばれている。我らも行くぞ」

 

「はッ!」

 

将軍に窘められ、ナルヴィは一番元気のいい返事をする。

それに何か理不尽なモノをこの女にぶつけられているなとレイトは感じた。

まあ、それが何なのかレイトにはわからない。

 

「ふふん、まるで壊れた刃だね」

 

レイトはその言葉に目を細めて、振り返った。

さっきから幾度と役立たずだの言われている機体を見やる。

 

「…………」

 

だが、何も言わずただこちらに気づいたライガットに手だけ振った。

 

クリシュナ国会議の場。

二人の将軍、サクラ大隊長と文官も集まり、報告を聞いている。

レイトはホズル王に呼ばれた者として、壁際に立っている。

 

「すでにミゾラム要塞には我国の三倍の兵力が集まっております。敵も我が領内に入りこみ、西部国境防衛の強化が必要であります」

 

トゥル将軍はそこでいきり立った声を上げた。

 

「ワシがおらぬ間に王都にまで敵の侵入を許すとは……。バルド将軍!貴公の力を疑ってはおらぬが、いささか弱腰すぎるのではないか!?」

 

バルド将軍は腕組をしたままじっと待つ。

 

「しかも陛下の身を危険に晒すとは……!」

 

「トゥル将軍、その話は終わったはずだ。……この身を慮ってくれるのはありがたいが、先の件は私が勝手に城の外に出た事に非がある」

 

ホズルは手を上げて、その場を収めた。

 

「それにライガットとレイトに救ってもらった」

 

レイトはその場にいる全員の視線を受けるがじっと身じろぎ一つしない。

あまり良い目で見られていないのは理解していた。

 

「侵入した敵機は王都防衛のゴゥレムの破壊が目的と思われます」

 

バルド将軍は話し始める。

 

「数にして五機。こちらが体勢を整える前に我国が降伏せねばならないほどの数を叩くつもりでしょう」

 

「ふん、そんな蠅どもなどワシが今度来たときには叩き潰すのみだ」

 

拳を振り上げるトゥル将軍とは対照的にバルド将軍は静かに告げた。

 

「いずれにしても時間の問題でしょうな。次は必ず大部隊が送り込まれるでしょう……レイト」

 

最後に名前を呼ばれ、レイトは顔を上げた。

 

「聞くが……君の力ならばアテネスを降伏させられるか?」

 

全員、驚いた表情で正気を疑うようにバルド将軍を見る。

レイトはアインの自己診断プログラムを一度見た。

 

「……不可能だ」

 

「何故だ? 私はあの機体ならば飛行してアテネスの首都を叩けると感じたが」

 

全員が黙ってレイトの言葉を聞く。

 

「俺の機体は損傷が激しい。飛行を制限し、地上を行くだけでも……恐らく、真っ直ぐアテネスの首都に向かうだけでも敵機に発見されないと考えて一月ぐらいか。各個撃破ならもっとかかるだろう」

 

それでもその戦果におどろいた顔を浮かべる者たちもいる。

 

「拠点防御くらいなら可能だ」

 

「ならお前にはミゾラム要塞に向かってもらおう」

 

ある文官が声を上げたが、ホズルが止めた。

 

「彼に命令する事は出来ない。クリシュナ国に忠誠を誓った騎士ではないのだから」

 

視線に侮蔑を向けてくるものがいるが、レイトは無視をした。

その後会議が終わるまで、レイトはじっと考えてきた。

 

(確かに……アインの今の戦力は低下している……)

 

しかし、もし最大限にアインの能力を使用……例えば搭乗者を一撃のみで殺す方法をとったならば、アテネスに攻め入り陥落させることも不可能ではないだろうかと考える。

けれども成功したとして恒常的な統治は不可能だ。

俺はいずれこの大陸からいなくなるし、クリシュナにアテネスを治める力はない。

 

……それに、俺は兵士だ。指揮官でも政治家でもない。

俺に戦略的行為は無理だ。

 

会議が終わるとハズルは疲れたように肩を回している。

 

「すまないな、長ったらしく会議に付き合わせてしまった」

 

最後までいたレイトはホズルの前に来る。

 

「用があったから呼んだんだろう?」

 

「お見通しか……」

 

ホズルは背もたれを傾けるとレイトに顔を向けた。

 

「今日は、ライガットにも話したよ。降伏条件についてだ。何と言ったと思う?」

 

「あの激情方だと、恐らく糞くらえぐらい言ったんじゃないのか?」

 

ホズルは喉の奥で笑い、椅子を揺らす。

 

「当たりだ……こんな事はレイトには関係ないのだろうが……どうしたらいいと思う?」

 

「俺は……」

 

レイトは拳を握り、思いがけず大きな声が出る。

 

「くだらない……全てががどうでもいいことだ」

 

それからレイトはホズルが驚く中、人類銀河同盟の言葉で言い出す。

理解出来ない感情がレイトの中で駆け巡り、それが言葉に出る。

 

『宇宙にはヒディアーズがひしめき、その版図を常に拡大し続けている』

 

アインが通訳を始める。

 

『いずれこの惑星も発見され、衝突は時間の問題である。そうなった時、貴君らはどう対処するつもりか』

 

「それなのに……お前らはこんな小さな場所でくだらない戦いをしているッ!」

 

レイトは握った拳を机に殴りつけた。

荒い息をして、歯をくいしばる。

 

「この惑星は……人類銀河同盟に統治されるべきだ……」

 

そこでレイトは言葉を止めた。

脳裏に一瞬、昨日会ったアテナがベットに横たわる姿が浮かぶ。

苦悩するレイトに心配そうにホズルが声を掛ける。

 

「……どうした?」

 

しかしレイトは、落ち着くようにゆっくりと息を吐いた。

 

「いや、すまない……ホズルには関係ない事を言ってしまった。俺が帰れない現状に焦っているだけだ……」

 

ホズルは、驚く表情を戻すとレイトに声を掛けた。

 

「いや、こちらこそだ……弱音を吐いた……殴られるべきかな?」

 

「まるで全てを諦めたような表情だな……」

 

「全く、ライガットに続きお前にまで言われるとはな……短いつきあいのお前にまでいわれるとなると、皆にもそう思われているのだろうな」

 

「……さあな」

 

レイトは髪を掻き上げると、少しだけ笑う様に唇を上げた。、

 

「呼んで済まなかったな……そうだお詫びと言ってはなんだが、最後に酒に付き合っていかないか?」

 

しかしホズルのまるでからかうような言葉にレイトは眉を寄せた。

 

「断固、断る!」

 

レイトは会議室を出ると、自分の部屋である格納庫に戻る。

 

「何か、まずいことを言ったのか俺は。シギュンといい、ホズルといい何故気まずくなるの……理解出来ない」

 

『当機が推察するところ、貴官には情操面のコミュニケーション能力が不足していると考えられる』

 

「心の……感情を読み取る力ってことか……?」

 

レイトは唸るように悩んでいると、あっという間に戻ってきた。

格納庫にはもう誰もおらず、暗闇が広がっている。

 

「あれ、俺の部屋の石英が点いてるな」

 

『一分前より来訪者あり』

 

「……誰だ?……いや、まさかまたミリアじゃ……」

 

レイトは最初の時のようにミリアの罠を、喰らわないため足音を消す。

一気に近づき、部屋のカーテンを引いた。

 

「あ……」

 

「きゃああっつ!!」

 

目の前にいるミリアは座り込み、半裸で肩にギリギリ毛布がかかっている状態だ。

レイトは事態が理解出来ず、ただ驚き体が止まる。

 

「もうッ!来るの早すぎッ!!」

 

顔を赤らめ、ミリアは飛び出していった。

レイトは呆然と、それを見送る。

驚きのあまり普段のように、心音が早まるということもない。

 

「何なんだ、一体……」

 

『不明』

 

普段あれほど体を押し付けてくるミリアが、裸を見られたから逃げていく。

それを考えるレイトは唇を引きつらせ、呟いた。

 

「……やっぱり、わからん」

 




二つに分けようかと考えましたが中途半端になるのでこのままで。
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