その頃、西方外門。
トゥル将軍率いる部隊は、敵機の待ち伏せにあっていた。
「ちくしょう、六台大破! 地形が完全にはまってる」
ナルヴィは悔しそうに顔を歪ませた。
撤退を進言するも、この父に等しき上官の性格はよく知っている。
「このまま退けるかッ!!」
案の定、無謀とも言える戦法を取ってしまう。
確かにこの谷を抜ければ、敵機に手が届き逆に押し戻せるだろう。
だが、それまでの犠牲が大きすぎる。
「くそッ!」
盾を掲げナルヴィは、プレスガンをちらりと見る。
着剣の代わりにつけられたのは、巨大なハーケン。
テストも行い、ハーケンを打ち込めば機体を持ち上げ、渓谷を超えることも可能だ。
……だが、相手の位置が悪すぎる。
登ろうとしても、体の良い的で蜂の巣となるだろう。
今、開発が急がれている新型ならともかく、それこそ空を飛ぶ力がなければ現状を打破することは不可能だ。
「撤退!、撤退!!」
結局、無理やり将軍を抱え、すぐさま退く事となった。
リィはあざ笑うかのように機体を飛ばす。
「ははっ、クリシュナの奴ら逃げていきやがる。さすがゼス様ッ!!」
一っ跳びに岸壁から飛び降りる。
そして後部に発見した。
先日遭遇した黒銀の異形なゴゥレムを。
「お前ッ!最高武勲賞をおしゃかにした奴ッ!」
躱せるはずのない一発を放つ。
だが、結果は驚愕だった。
相手は信じられない高度で、遙後方に着地する。
(なんだ……この高さは……!?)
ギリッと歯を噛み、相対する敵の脅威を知る。
砂塵に塗れる相手に向け、銃口を。
空気が圧縮され、弾丸を射出!
(ライガットッ!!)
悲痛の叫びを上げたのは城壁から見るシギュン。
居ても立ってもいられなく飛び出したのだ。
そして祈りに答えるかのように、流星が戦闘に飛び込んできた。
「確実に倒したはずだ。後でゼス様に報告を……ッ!?」
砂塵が晴れて、リィは言葉を失う。
何故なら殺した相手の盾となるように黒白のゴゥレムが立ち塞がっていたからだ。
(何だ……!? コイツ、どっから現れやがった……ッ!!)
見たこともないゴゥレムに、リィは戦慄を覚えた。
「……ライガット!ライガット!!」
「うっ……」
ライガットは頭を振り、ようやく声がする方に注意を向けた。
「どわッ!!」
いきなり左のモニターに見た事もない形の頭をした生き物が……。
「いや、レイトか!?」
まるで中に人がいるかのように動くシステムを呆けた顔でライガットは見る。
「そうだ。全くようやく気づいたか」
レイトの声にライガットは殺されそうになっていた緊張から安堵した。
だがアインの向こうに健在の敵を見る。
「レイト!目の前に敵が……!」
「ああ。わかってる。ライガットは下がっていろ」
「けど……なんか数字が減っていってるんだけど」
「それはそいつの活動限界だ。動けなくなるまでに城壁まで退避するんだ」
悠長に話している暇はなかった。
装填が終わった敵は弾丸を放ってきた。
いきなり弾丸をアインは受け、機体が振動で揺れる。
レイトは舌打ちと共に、地面に転がっていた剣を軽々と拾った。
(自分の機体よりも脆い物質に頼るはめになるとはな)
破損した量子インテークを剣を盾にして庇い、後はライガットの盾となる。
ドオンッ!!
そして破砕音と共にライガットの退避を確認。
釣られた敵が銃口を上に上げる。
「ディフレクタービーム。プレスガンを破壊しろ」
『了解』
リィは信じられないものを見た。
一瞬の内に閃光が走ったと思うと、プレスガンと共に肩部を含む右腕が消え去っていたからだ。
(何が起こった……!? プレスガンが消え去った!?)
思考が真っ白に染まる。
だが体は自然と動き、撤退の行動に移る。
残った左腕の盾を掲げ、後退する。
だが、目の前の敵は一瞬の内に詰めてきた。
「がッ!!」
浮遊感の後、激しく走る振動。
衝撃でつむった目を開けた後、リィは叫び声を上げた。
眼下に見えるのは、エルテーミスですら到達不可能な高さの地面。
強烈な浮遊感を感じながら顔を上げると、そこには黒白のゴゥレムがいた。
リィは盾を持つ手を、黒白のゴゥレムに握られ片腕で宙づりとなっている。
「なんだよ、コイツ!?」
まるでオーランドの馬鹿げた宗教家が述べていたような神のごとき姿。
ゴゥレムの頭に浮かぶ理解できない球体に目が吸い寄せられる。
「ッ……はっ、放なせッ!話せ、放せぇ!!」
リィは自分が落ちたら死ぬ高さにいる事も忘れ暴れる。
必至に空気を射出し、力を得て、右足の蹴りを相手にぶつけようとする。
だが、敵は残る腕で簡単に止め、もぎ取ろうと動き始めた。
ミシミシと嫌な音を立てて、最終的に右足の方がもげる。
そして、
「降伏しろ。命までは取らない」
神の者とは思えない、居たって普通の男の声が響いた。
レイトは引きちぎった右足を放し、次にゴゥレムの頭をもぎ取った。
見えるのは全方を覆うモニター。
そしてまだ年端もいかない少女の顔を見えた。
それになんら思うことなくレイトはさらに告げる。
「降伏しろ。これ以上の抵抗は無意味だ」
だが少女から返ってきたのは決死の睨みと言葉。
聞いたことのない暴言を、レイトは理解出来ない
だがモニターに少女が腰から携行型プレスガンを取り出したのを確認した。
「何だ?何と言っている!?」
『現在、照合翻訳中。敵搭乗者に自害の意図を確認』
アインの言葉にレイトは顔を険しくする。
「止めろ。アイン、気絶させるんだ」
アインが伸ばした手からは電気が走り、少女の体がガクッと動く。
力を失った手からプレスガンが落ちたのを確認する。
レイトは息を吐き、アインが翻訳した文章を見やった。
「蛮族……辱め……か。アイン、この国の捕虜の扱いについての情報はあるか?」
『該当情報なし』
レイトのすぐ左は、クリシュナ国王都だ。
すぐにでも引き渡す事は出来る。
「人類銀河同盟だとどうなる?」
『人類銀河同盟において、敵ヒディアーズは殲滅対象であり捕虜とすることはない。また離反者、犯罪者においても同様である』
「そうか……」
レイトは呟くと、少女のゴゥレムの残った腕と脚を破壊する。
両手で胴体のみを抱え、ゆっくりと高度を上げていく。
モニターが城下の人々の様子を拡大する。
城門前でシギュンが、ライガットの機体に近づくのが見えた。
それから多くの人間がこちらを畏怖するかのように見ているのを。
「契約内容にはない。こっちで好きにさせてもらおう」
レイトはゆっくりと、機体を東に向けた。
その後しばらくして……。
「ええ、ちょっと!!あいつどこ行ったのよ!!」
ミリアが遅れて到着し、叫び声を上げた。