夕日を背にアインは、クリシュナ国に帰還している。
操縦をアインに預け、レイトはじっと考え込んでいた。
「……本当にこれでよかったのか……」
呟き、眉を寄せる。
考えるのは、独断でアテネス軍、ゼスと接触し脅しで撤退を勧告したことだ。
やり方としては下の下だと自覚している。
敵を生かし、なおかつ逃がしたうえで、情報も与えたのだ。
これでレイトはクリシュナ国に属するものとして判断されてしまった。
「だが、出来る事なら人は殺したくない……」
それでも人を殺すことは是としないやり方としては最上だった。
これで敵が引き、アテネス国も和平を申し込んでくるのならなお良しだ。
だが、まあ戦争とはそんな都合良く解決するものではないということをレイトは知っている。
「どう思うアイン?」
半ば呟くようにレイトは言う。
「俺は、当初この惑星の戦争に関わるつもりはなかった。どちらかに加担することに他方を殺すことになるからな。だからこそ、クリシュナ国と同盟を結び、依頼のみでしか行動しないことに決めた。……何か間違っているか?」
『当機はいかなる場合も貴官の判断を優先する』
アインは相変わらずサポートのみの返事。
インターフェイスシステムは操縦者のみが決定権を持つのだから当然だ。
「だけどな、もっとうまい手があったのではないかと考える。例えば、お前の力を持ってこの大陸ごと武力制圧、啓蒙活動により、統括するとか。そうすれば犠牲はわずかで済む」
『不可能である。当機は先の大戦により、貴官の行動によって大半の戦力を失っている。これは貴官も周知の事実である』
レイトは通信デバイスをゴンゴンと叩いた。
「はいはい。わかってるから、二度というな。例えばっていったろ?」
アインはしばらくデバイスを点滅させてから話始める。
『有意提言。当機はこの大陸において、テクノロジーの範疇を超えた存在である。
以前、クリシュナ国にて当機を訪ねてきた人間は、当機を神と述べた』
「神?なんだそれは?」
『同盟標準語には存在しない。この大陸の人間が作り出した空想の産物であり、人々の尊敬や信仰の対象となる全知全能の存在である』
「へー。そんな大層なもんに間違えられたのか」
『認識。しかし当機はただの機械である。そして操縦者たる貴官も、人類銀河同盟の軍属の、ただの人である』
レイトは、しばし押し黙った。
「つまり、ただの人間に全ての望みを叶える事は不可能ってことか?」
『肯定。そして貴官がこの惑星について頭を悩ませる必要はない。貴官の任務は同盟への復帰であり、この惑星の争いで消耗する必要性は認められない』
「だが、こうしてすでに関わっている。関わるのなら最後まで関わらなければならない」
レイトは気難しい顔で言った。
途中で投げ出して、同盟に復帰するのは心情に反する。
『当機は貴官の悩みを理解できない。今までどうりクリシュナ国の依頼をこなし、必要な兵站を入手。現在位置の確定と共に、同盟の救助を待つ事を提言する』
「いや、関わるのなら線引きが必要だ。どこまで関わり、この国の肩を持つのかをはっきりさせなければならない。そうか……そういや、初めてだな」
そこでレイトは、宙を見つめて呟いた。
『疑義提示。初めてとは』
「自分で考えるという事だ。上から与えられた任務をこなすのではなく、自分で作戦を立て、目標を達成するために行動する。責任は俺自身にあり、背負うのも俺だ。……なかなか難しいな」
『否定する。開拓部隊において、貴官は小隊における作戦、立案、ならびに運用の成績は最上位であった。それが貴官の中尉昇進の理由の一因でもある。誇っていい事実である』
「それは宇宙空間で、それも対ヒディアーズ用だからだ。生かすか殺すか、もはやそれは戦術じゃなく、戦略領域だ」
『貴官の能力なら可能と当機は、確信を得ている』
レイトはどこらへんにだと、質問したくなる。
全く、こいつはこんな事を言う様な奴だったか?いつも一言多かったが。
次にレイトは、現状の確認をする。
「現在位置の確定の進行具合は?」
『惑星運行の解析、および光解析により、同盟標準の銀河領域を同期検索中。
近辺の星は情報がなく、光学解析では限界がある。今しばらく解析に時間が必要である』
「そうか、もうしばらくはこの世界にいなきゃいけないというわけか……」
そこで、レイトはふと自分の発言に、意識を止めた。
「ん、世界?……いや、まさか異次元に飛んだとかいうんじゃないよな」
自分で呟いてから、否定する。
並行世界やら、異次元はそもそもワームホールでは到達不可能だ。
(……いや、…ですが中尉。俺が考えたこの公式を使えば証明出来るはず……)
いきなり脳裏に、乱れた映像のような記憶が蘇る。
そういやこの手の話が好きな奴が、開拓部隊の時部下に……
「ッグ!!」
いきなり汗が噴き出した。
心拍数が上がり、顔面が紅潮擦ると共に頭が痛みを訴える。
……まるで女性に触れられた時の様な反応だ。
『レイト中尉のアドレナリン分泌量に異常を検知。脳波の乱れを観測』
「くそっ、またかッ!」
レイトは冷や汗を押さえる様に、歯を噛み締める。
『治療手段がない今、貴官の状態を回復させるため先ほどの記憶の封印を行う。これは貴官の戦闘状態を維持するためである。了承されるか』
「ああ、頼む」
一瞬の催眠状態により、意識を一瞬失う。
だが目を開けると体の異常は戻り、何事もないようにレイトは前を向いた。
「何の話をしていたっけ?……ああ」
頭を振り、思い出すとレイトはアインに告げた。
「クリシュナ国が戦うように依頼をしてきたら、受けるか断るか。その時に判断するさ。もしくは……」
自分の意思でクリシュナ国の肩を持つか……。
と頭の中で呟いた。
前方にはもう、王都ビノンテンが見えてきた。
一瞬、このままクリシュナ国には戻らず、どこか別の場所でひっそりと隠れて暮らすという手も考えた。
だが、レイトはその選択をやめた。
シギュンやホズル、また関わった人たちの顔が浮かぶ。
「いいさ。クリシュナ国に戻る。……アイン、お前の残り残量は?」
『現在、残り8%。敵部隊の捜索に3%を消費』
「当初の契約なら、エネルギー量が10%を切ったら、依頼を受けなくていい。だよな」
『肯定』
「ならゆっくり休ませてもらうさ」
クリシュナ国に着くと、太陽は沈んでいた。
格納庫の上空から屋根に入り、開いた穴から低位置にゆっくりと降下する。
「……これは」
だが、レイトは険しい表情で呟いた。
眼下では書記官、確かザンスといった男が数人の衛兵と共に待ち構えていたからだ。
また二体のゴゥレムが待ち構える様に、アインの両脇に立っている。
銃口こそ向けられていないものの、全員が武装済みだ。
「どういうつもりだ……」
レイトは呟いた。