漂流者 ~異世界転移~   作:ぺこぽん

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第十八話 依頼

アインは降下し、格納庫に着地する。

 

「何用か」

 

レイトは操縦席から降りずに、書記官に尋ねた。

 

「クリシュナ国と傭兵関係を結ぶレイトよ。ただちにそこから降りる事を命じる」

 

返ってきたのは、問答無用の命令だ。

 

「……断る」

 

「何ッ!? 貴様、この状態で!」

 

「俺はクリシュナ国と対等に同盟を結んだ身だ。銃口を向けられる謂れはない。

そちらがこのような対応をするというのなら、俺は契約を打ち切りこの国を離れる」

 

ぐぬぬ、と書記官は焦り顔を浮かべる。

レイトを無理やり拘束することは出来ない。

何故なら、別の国に行ってしまう事を恐れているからだ。

 

「昼間の戦い、貴殿が倒したゴゥレムの操縦者をどうした?」

 

では!と書記官は切り出す。

 

「敵に送り届けた」

 

「な……に?どういうつもりで!」

 

さすがにレイトは、察した。

戦争というからには、敵を生かすというのはあきらかな背信行為なのだろう。

だが、レイトはそもそもクリシュナ国民ではないし、契約に書かれていない事まで守る気はない。

それをどう伝えたものかと思案していると、何やら青筋を浮かべた書記官は周りの衛兵に指示を出そうとした。

 

「ちょっと待ってくださいっ!!」

 

そこにシギュンが荒い息を繰り返して走ってくる。

 

「レイト!これはクリシュナの総意ではありません。だから勘違いしないで」

 

シギュンは、飛び込んでくると書記官を説き伏せる様に前に立った。

 

「しかし、シギュン様!」

 

「彼は国王陛下に頼まれ、考えがあって行ったことなのです。どうか兵を引いてください」

 

シギュンは頭を下げて、書記官に言った。

 

「お願いします。彼は敵ではありません」

 

書記官はシギュンが頭を下げた事に慌てて、最後にはうやうやしく頷いた。

 

「わかりました。ですがシギュン様、彼には気を付ける様にと忠告を」

 

そう言うと、兵を引き、ザンス書記官は去って行った。

それを見届けてからレイトは、地面に降り立つ。

 

「やはり問題があったのか? 捕虜を返したのは」

 

シギュンはそこで眉を下げて、アインを見上げた。

 

「いえ、それだけじゃなく……ただ、レイトの力を目撃した兵士がたくさんいたの。彼らは恐怖を覚えて、上に報告を。だから彼がレイトを捕えようと動いたの」

 

シギュンが言った言葉を、レイトはふむふむと納得する。

 

「あなたの事はただの空を飛ぶゴゥレウだと思っていたのを、とんでもない戦闘能力を持った兵器だと知り、対処に困っているのよ」

 

「そうか……」

 

レイトは呟きながら、シギュンの方を向いた。

 

「シギュンは、恐れないのか?」

 

「ん?いいえ。私は、研究対象としてアインから情報をもらっていたから」

 

シギュンは平然と答えたのに、レイトは唇を持ち上げて、皮肉気にシギュンに質問した。

 

「なら庇ってくれたのは、研究対象が消えると困るからか?」

 

「いえ、全然」

 

シギュンはからかっているのを知り、むすっと無表情で答える。

しかし、しばらくして表情を微笑に戻して、そっぽを向いた。

 

「……レイトはともかく、アインに消えてもらっては困ります。彼とはまだ共同でゴゥレムの製作を手伝ってもらっていますので」

 

『シギュン殿、光栄であります』

 

「俺はいいのかよ……」

 

ひとしきり苦笑した後、レイトは表情を真顔に戻した。

 

「シギュン、訪ねるがこの国では捕虜の扱いはどうなっているんだ?」

 

それにシギュンは目を丸くして、驚いた顔でレイトを見る。

 

「……まさか……知らなくてあんなことを……?」

 

呆れた表情に変わった後、難しい表情でレイトを見る。

 

「捕虜の扱いは協定により、規約が決められているの。尋問や……時には拷問こそはしますが、投降してきた捕虜を処刑することはないわ」

 

「そうか」

 

「ええ。聞いてくれればよかったのに」

 

「……どっちにせよ、ゼスと話をするために彼女が必要だった」

 

レイトはシギュンの気難しい視線を躱し、言い逃れする。

だが、出来れば人を殺したくないレイトにとっていい知らせだ。

人類は貴重な資源であり、ここが人類銀河同盟の直轄地となればここに住む人間は何かしらの役割を与えられる労働力となる。

 

「そうだ、ライガットは無事だったか?」

 

「え、ええ。あなたのおかげで。ありがとう」

 

「じゃあ、ライガットをホズルの部屋に呼んできてくれないか?二人に話がある」

 

「……わかった」

 

シギュンはあからさまにゼスの事について、のけ者にされようとしているのを感じた。

だが、何も追求しない。自分の仕事は、ここでゴゥレムの製造をし、出来るだけ多くの兵士を生かす事だ。

シギュンは少し振り返り、人ごみの中でも目立つ髪を持つ青年を見る。

 

彼がこの国に来てから一か月ちょいという短い付き合い。

だが、この国では技術面での相談といい、一番彼に接しているのは自分だ。

その彼が敵を殺さなかったのを見て、腑に落ちたのはシギュンだけだ。

 

遠い宇宙という世界からやってきた軍人。

どこか擦り合わせられない壁を感じるも、彼は冷徹な人間ではない。

感情を表すのが苦手で、それでいてライガットを気遣う優しさも持っている。

ただ、いつもここではない何処かに思いを馳せ、感情を押し殺しているようにも感じる。

どこか歪に感じる青年を、シギュンはじっと見つめた。

 

王の部屋には、ホズルにバルド将軍、レイトとライガットが集まった。

全員、真の降伏条件を知る者のみだ。

すぐにレイトは、話を切り出した。

 

「ゼスに会って、話をしてきた。彼は裏の降伏条件について知らなかった」

 

その言葉にホズルは視線を落とし、ライガットは噛みつく様に言葉を吐き出した。

 

「あのッ、馬鹿野郎……知らないであんなことを……ッ!」

 

ライガットは顔を歪め、拳を握った。

ホズルは険しい表情をしながら、呟く様に言う。

 

「なんとか、ゼスを止めることを出来たらいいのだが……」

 

その言葉にライガットは、ホズルに顔を向ける。

 

「ホズル、……ゼスは俺を撃ったんだ。もう、あいつは条件を知ったからと言って止まるような奴じゃない……」

 

一同にしばらく沈黙が流れ、今まで黙っていたバルド将軍が口を開く。

 

「レイト。お前は撤退を勧告したのかもしれないが、クロザワが敵の小隊の足取りを掴んだ。明朝より追跡を始める。運が良ければ昼には追いつくだろう……追跡に参加して欲しい」

 

一度逃がした相手を追いかけてくれという依頼だが、レイトは首を振る。

 

「アインのエネルギーが10%を切った。追跡するのは無理だ。契約どうりに依頼は受けない」

 

契約ではそうだが、アインのエネルギーの残りはレイトの自己申告だ。

嘘をついている可能性もあるわけだが、バルド将軍はわかったとだけ頷いた。

 

「ならば、ライガット。お前には国と陛下を守るため、この戦に参加してもらいたい。アテンスの新型に追いつくためには、アンダーゴゥレムの機動性能が必要だ」

 

バルド将軍は告げるが、ライガットは顔を背ける。

 

「せっかく助かった命なんだ……俺は、死にたくねぇ」

 

苦渋の顔を浮かべるライガットをなおもバルド将軍は説得しようとするが、ホズルがそれを止めた。

 

「呼び出して悪かった、ライガット。平和ならもっとゆっくりと話がしたかったが……ここでお別れだ」

 

ホズルが最後に諦めにも似た表情を浮かべたのに対して、ライガットは感情を抑えるように拳を握った。

 

「っつ……」

 

そしてライガットは顔を背けると部屋を飛び出して行った。

それを見届けバルド将軍も、では準備がありますのでと、退室した。

続いてレイトも出ていこうとするが、ホズルの声が止めた。

 

「レイトは少し残ってくれ。一つ依頼がある」

 

振り返ると疲れたように、椅子に体を投げ出すホズルの姿がある。

 

「依頼なら今は、アインは動かせないが」

 

「いや、そうじゃない……これはほとんど頼みと言っていい」

 

レイトが近づくと、ホズルは沈鬱な表情を浮かべていた。

その表情にレイトは、あるものを重ねる。

 

ヒディアーズに滅ぼされる人類のように、滅亡の危機にある命。

だが、すぐに否定して首を振った。

こんなくだらない人間同士の争いと、あの戦いを同列にする気はない。

けれども目の前に直面しているのは、生身の一人の人間。

レイトは怒りと共に、自然と言葉が出ていっていた。

 

「……ホズル、何故俺に依頼しない。アテンスに追い返すようにと。それにもし望み、相応の対価をくれるというならこの大陸すらお前にくれてやってもいい」

 

するとホズルはきょとんとした表情を浮かべ、それから腹を抱えて笑い出した。

 

「はは……生憎だが、そんな物を望む気にはなれないな。この国の王にすらなりたくなかった俺だぞ。……それに無理なのだろう?」

 

「ああ、腹が立つことにな……」

 

元のアインのスペックなら可能だっただろうが、元と比べると今はポンコツと言ってもいいほどだ。

 

「それに一人の人間すらどうすることも出来ない俺だ……。そうだ、お前に頼みたいのはそのことだ」

 

そう言うと、ホズルは机の上に袋を出し、レイトに差し出した。

開けてみると中には、十分なほどな通貨。

 

「知っているか妻のシギュンに俺が言ったプロポーズの言葉を。……もし結婚式にライガットが現れ結婚に異議を唱えるなら、結婚を取りやめていい、とな」

 

自嘲するホズルは、投げ出すように言葉を吐く。

 

「ライガットを呼んだのはそのためだ。シギュンが望むならライガットと逃げて構わないんだ。……ただ、もしライガットもシギュンも望まないと言うのなら、レイト。お前に依頼したい」

「…………」

「この戦いは負けるかもしれない。もし負けたら彼女を無理やりでも連れてどこかに逃げてくれ」

 

レイトは困惑した表情でじっと、ホズルを見つめる。

それからゆっくりと口を開いた。

 

「……俺には理解出来ないな」

 

レイトは妻という役割も愛というものも知らない。

ただ、誰かを思いやる延長線上にあるものだろうと考えていた。

そしてクリシュナ国では何度か見かけた家族という、役割形態。

 

「そんなものなのか……お前は、本当は……」

 

レイトは胸の奥から湧き上がる気持ちの悪いものを感じて、袋を突き返した。

茫然とホズルは、レイトを見上げる。

 

「言っただろ、今は依頼を受けない、例外はなしだ……それに、どっちにせよ俺の心情に反する」

 

レイトは眉間にしわを寄せ、ホズルに言う。

 

「もう、二度と……一度関わった相手を見捨てるのはごめんだ」

 

「……レイト?」

 

ホズルは始めて、レイトの強い感情の現れを感じる。

ただただ依頼をこなしていた異邦者が、感情をあらわにしていた。

ホズルが心配そうに声をかけるも、レイトはそのまま部屋を出て行く。

けれどもレイトは最後に足を止め、振り返った。

 

「最高指揮官が気弱な事を言うな。それに依頼でなくとも、お前の最初で最後の頼みというならシギュンを逃がそう。だが無理やりは無理だぞ、俺は……女性恐怖症だからな」

 

そう言うと退室して行った。




『レイト中尉、当機は貴官の悩みを聞くのは疲れました。そろそろ暴れたいのですが』

「そうだな、いい加減人を殺さない様にするのは疲れた。ああ、もう面倒くせえ、目の前の敵すべてを虐殺するぞ!」

「アイン、限定解除マキシマイズ。行けるところまで行っちまえぇッ!!」

『了解』

クリシュナ国境、三万メイル付近にて、自爆。
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