漂流者 ~異世界転移~   作:ぺこぽん

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第十九話 選択

「おいおい、なんだありゃ」

 

まだ太陽も完全に登りきらぬ早朝。

外門に集まった騎士達は、重厚な装甲を身に着けた機体を見上げた。

デルフィングと名付けられたアンダー・ゴゥレムは、追跡部隊に加わる。

 

「なんだ、アイツと違って王のご学友とやらは戦うのか」

 

それを見てナルヴィは好戦的に、笑みを浮かべた。

そしてその機体の中、ライガットはただじっと俯いている。

 

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ライガットは機動性を生かして、平野から敵に回り込む事となった。

シギュンはライガットの後ろに座り込み、機体を後ろから見ている。

ライガットはというと、レイトとモニター越しに会話をしていた。

 

「んで、これがこうと……」

 

音声の拡大や、詳しい操縦方法などを左モニターに表示されたレイトが教える。

あらかた聞いたところでシギュンは後ろから手を伸ばして、モニターの一部を指差した。

 

「それと、レイトこの赤いマークなのだけれど」

 

「ああ、それは機体の活動限界だ。機体の外部冷却システムが壊れているそうで、修理は不可能。最高値まで上がると、機体は24時間冷却期間を要する。……そうだな、機体に熱が溜まりすぎたら川にでも入れ」

 

ライガットは怪訝そうな顔をした。

 

「川に? 入って冷やせって言うのか?」

 

「ああ、その時は機体の気密性が完璧であることを願うんだな」

 

「おいおい……」

 

レイトはからかうように声を上げ、ライガットは苦笑いを浮かべた。

少しは落ち着けるようにレイトは、アインとの会話を思い出してライガットに声を掛けた。

それからレイトは、次に何か気休めの言葉を掛けようとするも思いつかなかった。

彼は自分で進んで兵士となったのだ。……なら、もう何も言う事はない。

これは彼の選択だ。

 

シギュンは後ろでレイトとライガッが口を交わすのをじっと見ている。

掛ける言葉が見つからず、視線を下に下ろしていく

そしてシギュンは不安そうな表情で、デルフィングを見下ろした。

 

(やっぱり、時間が足りなかった……)

 

急なデルフィングの参戦だったので、シギュンが考案していた装甲は準備出来なかった。

出来たのは、有り合わせのものをただ組み合わせただけのものだ。

昨日、ライガットが悲痛な顔でやって来てから徹夜で組み立てたのだ。

 

「本当に良かったの?……あのまま帰ることだってできたのに」

 

「……だってさ、俺コイツ動かせるし。……やっぱほっとけねえよ」

 

ライガットはシギュンと目を合わせず答えた。

 

「でも……ライガット、あなたに人殺しが出来るとは思えないけど」

 

「俺だって、んな事と思ってもねえよ。ほろ、見ろよ」

 

差し出した手は微かに震え、顔は緊張で固まっている。

それでもライガットは震える手を握り、それを止めた。

 

「でもな、俺はゼスの奴をぶん殴って止める。……そう決めたんだ」

 

そう言いライガットは黙って前を向いた。

それを見ていたレイトは、最後に幸運を祈る、とだけ呟きモニターを消した。

ここから先は、誰もライガットを助ける事は出来ない。

 

「二人の喧嘩を止められるのはあなただけ。だから、……信じてる」

 

シギュンは機体から降りる時、そうライガットに言葉を掛けた。

 

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ゼス率いる、ワルキレウス部隊は渓谷を超えていた。

隊長の撤退という命令から部隊は、思い雰囲気を有している。

 

「ふーん、ふーん」

 

だが、微妙に鼻歌を歌うクレオだけが空気を読まずいつもどうりだった。

最後尾のクレオは、前を歩くアルガスのゴゥレムが脇に抱えたリィを覗き見る。

 

「こっちを見るな」

 

リィは、破壊された胴体部に入ったまま運ばれている。

その方が、効率よく運べるからだ。

だが、その表情はあまりよろしくなかった。

 

最初は、クレオが運んでいたのだが谷から降りる際、細かい操作が出来ないクレオが危うく握りつぶしかけたのでアルガスに交代となったのだ。

リィとしては、自分だけが機体を失った状況で、しかもそのせいで撤退しようとしているのだと考え気分は良くなかった。

 

「いいから早く、あんたは索敵を続けな!」

 

だからいらいらをクレオにぶつけ、クレオはしゅんとした声で返事をする。

と、そこでゼスがクレオの行動に気が付いた。

 

「クレオ、足跡を消す踏込は何回していた?」

 

「えっと、二回ですけど……」

 

「馬鹿クレオ!」

 

リィが罵声を浴びせ、さすがにクレオも委縮するが、それをゼスが宥めた。

すぐさまゼスは、機体から降りると岩場に上り、敵影を確かめる。

だが、

 

「包囲されかけている!撤退するぞ!」

 

ゼスは危機的状態をすぐに悟り、行動に移った。

 

(まさかこのエルテーミスに追いつかれるとはな……さすがに敵に地の利ありといったところか)

 

相手に気が付かれない様に、一気に二発を射出。

奇襲をついた攻撃は見事にクリシュナ軍のゴゥレムを倒す。

それから空に意識を向けた。

 

(敵影……なし)

 

あの空を飛ぶゴゥレムは追跡してきていない。

クリシュナ国がこちらを追跡してきているという事は、やはりあの搭乗者の言葉……リィを生かしたのも撤退の勧告もあいつ自身の意思だったということか。

追跡してこないのには、何か理由があるのか……?

 

「ゼス隊長!」

 

エレクトの声とともに、いつのまにか近寄っていたゴゥレムは撃ち倒された。

ゼスは舌打ちをしてから、倒したゴゥレムの盾を拾い装備する。

そのままさらに二機ゴゥレムをプレスガンで破壊した。

 

「ポイント19まで下がるぞ。敵を引き離す」

 

エレクトと共に包囲網に穴を開けたゼスは、部隊に命令を出す。

ポイント19の平野なら、エルテーミスの機動力に追いつける機体はない。

大分差を引き離せるはずだ。そのまま国境まで撤退する。

 

 

リィを抱えるアルガスのカバーに回っていたクレオは、最後尾に回る。

平野に降り立った全員は、少し気を休めた。

 

「ちゃんと着いてきなよ、クレオ!」

 

動き始めた部隊に関わらず、動かないクレオにリィは声を掛ける。

リィが見るクレオは、じっと平原の向こうの方を見渡している。

 

「何か……光るものが……ッ!!」

 

クレオは一瞬で、把握した。

重厚な鈍い色の塊が、ものすごい速さで迫ってくるのを。

重厚音に部隊は、全員向かってくるものに気が付く。

 

「クレオ!離れるんだ!」

 

ゼスが声を上げたが、クレオは動こうとしなかった。

だって自分が逃げれば、後ろにはリィを抱えるアルガスさん。

もう、誰も失いたくないクレオは、プレスガンを構えた。

 

「だめだ、クレオ!逃げるんだよ!!」

 

リィが叫ぶと同時に、クレオはプレスガンを狙いを脚部に合わせて、撃った。

だが、その速さは常識外だった。そして、

 

「えっ、えっ……」

 

常識外のゴゥレムにゴゥレムをぶつけてこようとする動きに、クレオは固まった。

 

「躱せ、弾かれるぞ!」

 

ゼスの言葉が聞こえる頃には、デルフィングはクレオのほぼ目の前にいた。

クレオは自分が死ぬという事を知る。

だが、次の瞬間考える間もなく、体は動いていた。

 

「このおっ!」

 

デルフィングに向かって飛び、クレオの機体はデルフィングに手を付いた。

そのまま体を持ち上げる要領で、背面の空気を射出。

機体を浮かし、真横に躱そうとする。

だが、デルフィングの速さは想像以上だった。

 

デルフィングは左肩にかちあげるように、クレオの機体を弾き飛ばした。

その勢いのままクレオの左半身はもげ、機体は地面を転がる。

 

「きゃあああああっ!!」

 

デルフィングを操るライガットは、かすかに響いてきた声から搭乗者が女性だと知った。

思わず顔に苦渋がよぎり、機体の速度が少し遅くなる。

 

(ッ!!女!?……なんで、クソッ、クソッ、クソッ!!)

 

「ゼスだったら躱されてたんだ!!……いまさら止められるかよッ!!」

 

目を強く瞑り、それから全てを振り払うように前を向いた。

それを見ていたゼスは壮絶な表情を浮かべていた。

 

(まただ、また俺はミスをした。……そして今度こそ部下を失くした!)

 

ゼスはライガットが搭乗していると知るデルフィングを睨む。

 

「アルガス、避けろ!……貫通させる!」

 

デルフィングは真っ直ぐ、三方を囲まれるようにゼス目掛けて突っ込んだ。

 

「弾が重い……あれがゼスかッ」

 

ライガットは、装甲に打ち込まれる弾の重さから前方の敵をゼスだとわかる。

デルフィングは、左右の剣の握った両手を交差させ、その上にファブニルの装甲をかませてある。

だが、それが左半分だけが見事に、ゼスによって削り取られていく。

 

(くそっ、ここまでか……!!)

 

ライガットは盾を捨てることを選んだ。

防御の強化に回していた剣を解き放つ。

弾き飛ばされるように飛んだ左右の剣が、装甲という鞘から抜かれた。

そして、

 

(早いッ!!)

 

一気に踏み込みとともに、ゼスの予想を裏切る速さで跳ぶ。

だがゼスのプレスガンを狙った攻撃は、軽々と躱された。

 

(着地した後に倒せれる……だが……)

 

ゼスは悩んでいた。

突然、告げられた真の契約内容。

 

(と、いうことはライガット、お前はホズルとシギュンを守り、俺と戦うと決めたという事なのだろう)

 

全て変わらずにはいられない。

あの時、戦う事を選ばなかったお前が、こうして俺と殺し合いをしている。

それでも俺は、あの頃のライガットだからこそ……。

一瞬の間の後、

 

「エレクト、アルガス、撃つな!」

 

ゼスは叫び、ライガットを一人で仕留めると決めた。

 

空を飛ぶゴゥレムといい、こいつのゴゥレムの機動性といい、クリシュナには特別なものがあるようだ。だが、もし魔力を持たないライガットが乗れるのがこの機体だけならば……!

 

「これを潰せば、ライガットは殺さずに済む!」

 

だが、ゼスが視線を向ける先のライガットは信じられない行動をしていた。

剣を地面に打ち立て、着地を辞め、強引に軌道変換を行おうとしている。

けれども戦闘経験のなかったライガットは、剣を足場にするもすぐ次の行動に移れなかった。

 

ゼスはそれを見て、一瞬の時間が生まれる。

そして選択肢が浮かんだ。

コイツを止めるには、プレスガンで操縦席を撃つか、それとも盾で防御するか……。

 

そして、ゼスは盾を選んだ。

 

「ぐあああああッ!!」

「うおあッ!」

 

ゼスの機体にはライガットの剣が刺さり、ライガットの機体にはゼスの盾が激突し、相討ちとなった。

 

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