漂流者 ~異世界転移~   作:ぺこぽん

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第二十二話 優劣

レイトは再び、孤児院を訪れていた。

昼間に第一独立戦隊に参入して、とシギュンに言われた後だ。

勿論、参入は形ばかりでレイトは、独自に依頼を受けて動くことになるだろう。

 

「レイトお兄ちゃん……?」

 

ふと、下を見るとベットにいるアテナがレイトの袖を引っ張っていた。

視線を窓の外に向けていたレイトは、表示されたホログラムに視線を戻す。

 

「なんでもない」

 

二度に渡るアテネス国の王都侵略で、アテナは発作を何度も起こしていた。

ストレスが掛ったせいだとアインは判断し、今は落ち着いている。

無理やりアインに理由をつけて、アテナに操縦者用の強心剤を注射したおかげだ。

 

「来てくれて本当にありがとう。一時はどうなることかと思ったわ」

 

「いや、俺は……」

 

孤児院の女性の院長がお礼を言い、それにレイトは表情を曇らせた。

自分の行動に、矛盾を感じてしまったからだ。

 

(そう、俺は何故彼女を助けたのだろうか……)

 

アテナ以外にもレイトが、手を貸せる病人はいくらでもいるだろう。

だが、レイトは知り合いの彼女のみ無償で治療を施した。

それでは、依頼のみでしか行動しないこの国での、俺の行動理念に反している……。

 

「アテナ!無事でなによりだわい」

 

「トゥル将軍だー!!」

 

するとそこにトゥル将軍が、入って来てアテナの頭を撫でた。

それ幸いと、部屋の外でアテナの様子を窺っていた子供達も入ってきた。

院長がそれを病人がいるのだから静かになさい!と宥める。

 

「ふん、一応、感謝はいってやる」

 

ナルヴィに続き、ナイル、ロギンとよく訪れるメンバーが部屋に入ってきた。

 

「将軍、明日出陣なんだろー」

 

子供達がトゥル将軍を取り囲む間に、ナルヴィは睨んできた。

 

「レイト、先日お前がした敵を生かすという行為、やはり信用ならないな」

 

「元より信用してもらうつもりはない。俺は依頼をこなしただけだ」

 

レイトは同じようにナルヴィを睨み返した。

思えば、レイトがこうもぶつかり合うのは、クリシュナ国でナルヴィだけだ。

 

「いつ裏切るかわからない。……お前はこの国の人間じゃないからな。本当は何が狙いでここに来ているのか……」

 

「やめんか、ナルヴィ」

 

いつもの様にトゥル将軍が、突っかかるナルヴィを止めた。

 

「ですが、こいつがこの国のために働くとは思えないのです!依頼、依頼とまるでこちらと関わりあおうとしてこない」

 

「ナルヴィ……良くも悪くもこやつは兵士なのだよ」

 

「?……それは私達だってです」

 

トゥル将軍が言った言葉に、ナルヴィは疑問を浮かべる。

 

「その通りだ。じゃがワシは将軍であるとともに、お前の養父でもある。家族を持ち、この孤児院の経営者でもある」

 

「…………」

 

レイトは黙って聞いていたが、次にトゥル将軍は聞いてきた。

 

「レイト、お前にはあるのか?故郷に家族は?」

 

家族……、呟いてからレイトは、怪訝な表情を浮かべた。

アインから聞いた話じゃ、非効率な血縁者が集まった形態、というものらしい。

 

「そんなもの存在しない。何故なら必要ないからだ」

 

「そうか……人類銀河なんたらというものがどんなものかは知らぬが、この惑星では誰もが役割を持っておるのだ。兵士に農民、商人。……誰もが何かを守るために戦っておる」

 

「そういうものなのか……」

 

「お前は兵士としての役割しか持たぬようだな……ならば、守るものがないこの国で戦えぬと言うのは無理もあるまい」

 

そこでじゃ、と前置きしてからトゥル将軍は、レイトの肩に手を掛けた。

 

「レイト、もし故郷に帰れぬというのなら、この国に住んでみたらどうだ?子供達が好きならここで働いたらどうかの、職員の手は常に不足しておる」

 

「正気ですか将軍!?こんな訳のわからない奴でも立派な戦力なんですよ!!」

 

唾を撒き散らすナルヴィに、トゥル将軍はやかましそうに耳を塞いだ。

 

「ただの例えだ!とにかくここに住んで、家族を持つというのはどうかと尋ねているのだ。……まっ、主がワシの部隊に入ってくれると言うのならいう事なしなのだがな」

 

「って、結局それが狙いですか!」

 

ナルヴィは突っ込むもトゥル将軍は、がっはっはと笑うとレイトの肩を叩いた。

 

「そんなもの……」

 

深刻な表情でレイトが言うのを見て、トゥル将軍は唸ってから離れた。

 

「なあに、この戦なぞ客人の手を借りるまでもなく終わらせてやるわい」

 

そう豪気に言うトゥル将軍をレイトは、嫌いではなかった。

どこか上官の事を思い出すし、何より何か温かいものを感じた。

 

(だが、俺は帰らなくちゃいけないんだ……)

 

トゥル将軍は別れを言うと、ナルヴィを引き連れて部屋を出て行った。

ロギンに続き、最後尾のナイルがレイトの肩を再び叩く。

 

「まっ、対して気にすんなよ。いっつもあのおやじはその場の乗りであることない事言い出すんだから」

 

「気にするなって……」

 

ロギンもレイトに話しかけてきた。

 

「君がどんな立場でも、同じ部隊の仲間だ。私は歓迎する」

 

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夜になって子供達からようやく解放されたレイトは、格納庫に戻ってきた。

ゆっくりと二階のテラスを歩いて、アインのいる場所に向かう。

 

「アイン、起きているか」

 

レイトは発言してからAIに対する言葉ではないな、と苦笑する。

どうやら、ずいぶんとこの国の人間の対応に、感化されているようだ。

 

『当機は起動状態を維持しているのである』

 

「なあ、もしこのまま、同盟に復帰出来なかったら俺達はどうなる?」

 

『貴官と当機はその存在意義を失くすものである』

 

「それはつまり……いやいい。それよりハッチを開けろ。記録データを見たい」

 

言葉を打ち切りレイトは、アインに頭部のハッチを開けさせた。

随分久しぶりに入るが、どうしても見たい記録データがあった。

 

すると下を向いて考え事をしていたせいで、近づく人に気づかなかった。

赤い髪がちらりと見えて、ミリアかと思って顔を上げると、

 

「ぐっ……」

 

だがいきなり下から救い上げるような掌底が、レイトに入った。

目の前に細面の青年が、笑顔を浮かべている。

 

「落ちろ、宇宙人君」

 

いっきに浮遊感とともに、テラスからレイトは落下する。

だが、下から伸びてきたアインの手がレイトを受け止めた。

 

「へえ、自動で動くとは驚いたね、けど……こいつは貰い受けるよ」

 

と、ジルグは開いていた頭部の操縦席に乗り込んだ。

 

「ぐあ!」

 

しかし、いきなり操縦席が揺れ動き、その反動でジルグは二階の壁に叩きつけられた。

眼鏡がずれ、痛みにうめく顔を浮かべる。

 

『許可なく操縦席に立ち入るな』

 

「誰だ、何が目的だ!」

 

レイトはアインの手から二階に戻り、レーザーガンを突きつけた。

 

「なるほど……これは、ひさしぶりに殺したくなったね」

 

「なに……」

 

両者に緊迫した空気が流れるが、それをぶち破る笑い声が響く。

 

「きゃ、あははははっ!!」

 

見ればレイトの向く側から、ミリアがお腹を押さえながら来ている。

 

「馬っ鹿ー!!お兄ちゃん、私と同じことしてるしー!」

 

「黙れ、馬鹿妹。それは暗に自分は馬鹿だと宣伝しているのか?」

 

ジルグは立ち上がると、眼鏡を直し、妹の方に向いた。

 

「あっれー、そんな事言っていいの?私が口添えしなきゃ、牢から出られなかったかもしれないのにー」

 

「誰が頼んだ。お前こそ口のきき方に気を付けろ。今度は本当に殺すぞ」

 

凄惨な笑みをぶつけ合う二人を、レイトはぽかんと見つめていた。

会話からこの青年は、ミリアの兄だと理解する。

 

「はいはい、わかってるって。私はお兄ちゃんの奴隷ってね」

 

ミリアは両手を上げると、ジルグはレイトの方に向き直った。

 

「やあ、宇宙人君、君の事は牢屋にいる俺にも噂がとどいていたよ……敵を殺さない、傭兵ってね」

 

興味深そうにジルグはレイトの方をなめまわすように見る。

初めて会うタイプの人間にレイトは、判断をこまねいているとジルグはただ笑った。

 

「君なら……わかるかな」

 

それだけ告げると、二人の兄弟はゆっくりと離れて行った。

なんなんだ、とレイトは呟くと後ろからバルド将軍がやってくる。

 

「さっそくか……済まないレイト」

 

「バルド将軍、あれはあなたの息子か」

 

レイトはレーザーガンを降ろし、ため息をついた。

またも、勝手な個人の判断でレイトにクリシュナ国の人間が接近した。

それに、今回の殺されかけたのには、文句も言いたくもなる。

 

「ああ、名はジルグ。妹以上に訳の分からぬ息子でな。自分の妹がいる部隊を壊滅させ、その内の一人を殺した犯罪者だ」

 

「なんでそんな奴が牢から出てくるんだ」

 

きつい口調で言ってから、レイトは少し思案した。

そういえば、将軍の息子という事は、彼の評価は親の評価にも関わってくると言う事だったな……

だが、バルド将軍は気にした様子はなくこちらを向いていた。

 

「議会での決定だ。新型の操縦者が必要でな。……議会の決定といえば、レイト。お前に対する依頼もほぼ決まった」

 

「依頼、か……確かに、アインのエネルギーもほぼ回復した」

 

「ミゾラム要塞まで行き、敵の殲滅と補給線を破壊して欲しい。そうなれば領内に侵入した敵兵も退き、戦いは終わるだろう」

 

バルド将軍は、そういうと次に言葉を続ける。

 

「もしくは第一独立部隊と同時に正面から叩き、ボルキュス将軍を倒せば、同様に戦は終わる。……私はどちらかといえばライガットを鍛え、命を守りながら、正面から敵を排除していく事を望む」

 

「何故だ?」

 

バルド将軍は、少し考え込む様に間を開けた。

 

「彼がいなければ、陛下はとっくに降伏を決意していたかもしれないからだ、彼の存在は大きい」

 

レイトは黙ったままその言葉を受け止めて考える。

 

「バルド将軍、あなたも明日出陣するのか?」

 

「ああ」

 

「何故だ、俺だけにまかせておけば味方の損害は減らせるはずだ」

 

それにバルド将軍は険しい表情を浮かべた。

 

「レイト、お前は結局は傭兵という身分だ。陛下のご意志で監視の目をつけてはおらぬが、議会からは信用されていない。……いつ裏切るかわからぬ、とな」

 

「では、あなたは俺の事をどう思っている」

 

「私は……陛下の意思に従うのみだ。どんな手を使っても陛下と国を守るために戦う」

 

「守る……」

 

レイトはその言葉に、じっと下を向いて考え込んだ。

バルド将軍はそれをじっと見てから、声を掛ける。

 

「お前は、敵の兵すら生かした。確かにこの惑星の戦いなど、どうでもよいものかもしれん。だが、この大陸では味方と敵と区別をつけ、人間同士で戦うのだ。それが戦というものだ」

 

バルド将軍は、続けて告げた。

 

「優劣を付けぬ限り、大事なものを失う。そう、敵を一人救えば、味方を三人失うと思え」

 

その言葉にしばし、レイトは黙った。

 

「俺とアインなら、そうはならない」

 

「……そうか、どちらの依頼を受けるかは、お前に任せる」

 

バルド将軍はもういう事なしと、口を閉じた。

後ろから坊主頭のダンと言った騎士がやって来て、将軍を呼んだ。

レイトは黙ってバルド将軍の姿を見送り、呟いた。

 

「俺が……この国で守りたいものなど……ないはずだ」

 

俺が守りたいものなど……、とうの昔に……。

レイトは少し昔の事を思い出していた。

 

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