クレオはシギュンの部屋で夜空に浮かぶ星を眺めている。
と、そこにシギュンが音を立て入ってきた。
「クレオ、あなたのおかげでエルテーミスの再建がなんとかなったわ」
「いえ……」
クレオの表情は険しいが、以前に比べて大分打ち解けて来ている。
元々、クレオとリィの友人関係を利用して情報を聞き出すため、二人の別々の牢に入れていたのだがシギュンが口利きをして、クレオはこの部屋の中に監禁状態となっている。
これはただのシギュンのわがままだ。
「リィに会わせてくれるのはいつですか……?」
「近日中には必ず。約束するわ」
軍規に違反してでも協力してもらう条件として、捕虜に危害は加えず、なお面会の機会を与える事を提示したのはクリシュナ国だ。そして二人は互いの命が人質となっている。
脅しでリィは屈しなかったが、軍人として甘いのかクレオは少しずつ情報を漏らし始めていた。
「あっ……」
クレオがいきなり驚いた声を上げるので、シギュンが窓の外を見ると格納庫の上に光がある。
浮遊したアインから降りたレイトが、星を眺めるように立っていた。
「あの、聞いてもいいですか。彼、レイトさんって……そのどういう人なんですか?」
「レイトに興味があるの?……ああ、確かに空を飛ぶゴゥレムなんて見た事がないでしょうからね」
「いえ、それもそうなんですけど……」
クレオがシギュンを見ると、無表情が多いこの綺麗な女性は困った表情を浮かべているように思えた。じっとレイトの方を見詰め心配しているようにも見える。
「わからない……ただ、知ってるのは遠い遠い空の上からやってきたというだけ」
クレオとシギュンは、レイトと同じように遙彼方から届く星の光を見上げた。
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「全機、構え」
レイトは告げると、周りに並ぶ四機の遼機を見まわした。
宇宙の深淵とも呼べるべき暗い場所で、マシンキャリバーの光だけが灯って見える。
恒星の光が届かない星の影で、レイトは作戦を告げた。
「アルファ小隊の任務は、味方母船に群がる敵の排除だ」
レイトを先頭に、部隊は星を周っていく。
「各機、一騎当千で臨め」
星を周回し終わった先の光景は戦場だった。
母船はすでにヒディアーズの群体に包囲されつつある。
戦力差は明らか、だが不可能ではない計算結果だ。
「全機、突撃体型」
五機が寄り集まり、シールドで敵の初弾を防ぐとともに一気に突っ込んだ。
おびただしい敵の攻撃を躱し、囮となるように敵の優先破壊対象をこちらに変更させる。
すぐに五機はバラバラに引き離されるが連携は怠らない。
各機の位置情報を元に惹きつけたヒディアーズを先回りして一斉掃射する。
母船から情報が送られ、砲口部の射線から退く。
『本作戦終了まで、残り300秒』
アインが告げた無機質な報告からレイトは、作戦の終わりを予感した。
人類銀河同盟の最終目標は敵の巣の破壊。
それがもうすぐ成されようとしているのだろう。
「援護要請!援護要請!」
だが、近くで突撃支援艇がヒディアーズにより取り囲まれた。
救出に行けば、部隊の連携が乱れる事になる。
「アルファ3、母船下方の敵をひきつけろ」
冷静にレイトは、救出は不可能と判断し、即座に敵の殲滅に移る。
だが、それでもなお敵の数は増大してゆく。
隊の仲間が次々に撃墜され、レイトが一瞬だけ崩壊した味方機に視線をやる。
そしてそこに、空白の数瞬が生まれた。
ビーーー!!
そこで盛大な音がして、眼前の戦争は黒いモニターにと変わった。
「はー…………」
息を吐くと共に、シュミレーションの終了の赤いアラームを見詰める。
味方損耗率43%、小隊生存率18%、撃墜ヒディアーズ数447。
モニターに表示される数字を見て、最後に小隊の安否を確認する。
「撃墜2……か」
シミュレーションでしかも正体はAIだといえ、これが実戦だと思うとやり切れない。
自分の指揮で選択し、彼らを生かすことが出来なかったのだ。
同時に諦めと絶望に似た感情が思い浮かぶ。
何故なら、実際の戦闘での消耗率で言えばこの数字はさらに過酷に変わるのだから。
と、俯いた所で外から叩いてくるものがある。
「レイト少尉」
外部スピーカーで呼びかける声から、上官の中佐殿だとわかる。
彼がシミュレーションを停止したのだろう。
レイトはすぐに体を起こし、シミュレーションから降りると敬礼を交わした。
「はっ、何でしょうか中佐殿」
「……いやはや、これはすごいな。……シミュレーションレベルで言えば戦闘部隊のエースにも劣らぬ働きだ。彼らが知れば喉から手が出るほど欲しがる人材かもしれんな」
「いえ、自分の任務は補給船の護衛であり過ぎた事です……それにこれはただのシミュレーションです」
レイトは、目の前の背の高い上官に自然に述べる。
神妙な顔で頷いた中佐は話題を切り替え、背筋を伸ばしてこう告げた。
「レイト少尉、中尉への昇進おめでとう。正式な辞令はおって知らされるだろう」
「……はっ」
レイトにさらに言葉が送られる。
「それと君が以前から望んでいた、人類銀河同盟支配領域外円への赴任だが、これも問題なく決まりそうだ」
と、そこで初めてレイトが少し誇らしげな表情を浮かべた。
「本当ですか!ありがとうございます」
「しかし、本当に良かったのか?君が望むのならコロニーへの赴任も決めることが出来たのだが……」
「いえ、自分が希望するのは外円にて開拓に加わりたいのです」
「しかし、開拓、君が常々言っていた、新しい星を見つけると言っても実際には天文学的手法を使った高度な分野だ。マシンキャリバー乗りが行うにしては畑違いだが?」
中佐の言葉にレイトは、苦笑する。
そういう分野は、本当は別の奴が望んでいたことだと思い出す。
「開拓講義なら十分な成績で納めました。理解しています。ただ、自分はマシンキャリバー乗りとしてその開拓に関わりたいのです」
「そうか……」
理解出来ないと言う風でもある中佐はそれでも頷いた。
「赴任先では中尉として小隊を率いる事になるだろう。これまで以上の健闘と成果を期待する。では」
レイトは三年の付き合いだった上官と別れ背を向けた。
こんな風に何度も上官や同僚と別れ、二度と再開を果たせなかったことを思い出した。
自室に戻り、部屋を引き払うために準備をする事にした。
だが、見渡して何もない事に気が付き、頬を掻いた後椅子に腰かける。
「アイン、先ほどの戦闘データの検証を始めろ」
『了解、秒刻みで貴官の行動の成否を判断する』
さっきと同じ光景が部屋のモニターに表示され、それをじっとレイトは見つめる。
マシンキャリバー隊に配属され、コロニー周辺の補給船の護衛任務についてから三年。
毎日ずっとこの行動を繰り返してる。
と、そこで欠伸を噛み締めたレイトはアインの機体のデータファイルを検索し、隠れ潜んでいるデータを取り出した。本来許されないが、友人がこっそりとやってくれた。その写真には全部で5人の男女が映っている。
左上に立っているのが、手足がひょろりとした神経質そうなジェイト。
右上には、ホログラムで表示されたにっこりと笑っている少女のジーンが映っている。
右下にはまた同じくホログラムの、小柄少年ケイラ。
左下の長い髪の少年は椅子に座り、腕組みをしてるロットだ
そして一番真ん中にレイトは仏頂面に座っている。
今の自分でもわかるぐらいによほど気に食わない表情を浮かべている。
一体何が気に食わなかったのか、この時の気持ちをレイトはもう覚えていない。
だが、少し口元が弧を描き笑うようにレイトは言葉を漏らした。
「っ、どうだ……ここまで来てやったぞ」
挑発するように笑い、彼らが望んだ場所に自分が行ける事に喜びを感じたる。
頭のよかったケイラ。本当は彼がレイトの様に外宇宙に出たかったはずだ。
いつも問題行動を起こし、隊の規律を乱していたロット
絵がうまかったジーン。その意味が分かる前に彼女はいなくなった。
それに、いつも絡んできたよ弱っちいジェイト。
この中で卒業後の情報があるのはジェイトだけだ。
母船パーシヴァルで通信兵の仕事をしているらしい。前に合同訓練の時に、偉そうに指令を飛ばしてきた。
だが、他の仲間の情報は……何も知らない。
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ガツン!
と、振動が走りレイトは、自分がどこにいるのかしばらく気が付かない。
どうやら少し前の夢を見てしまっていたようだ。
ここは恒星間移動の船の中だ。
ワープを抜け、安定航行に入ったのだろう。シートベルトを外して、しばし伸びをする。
また音がしだした。この小さな振動音は、衝突しても問題ない大きさのデブリがシールドに当たる音だ。
音につられるようにレイトは、壁面に手を伸ばし、外部カメラの様子を見る。
巨大な土気色の惑星があり、そこに向かっていくつもの発掘用のエレベータが伸びている。
資源を運ぶ機会いくつも移動しているのがわかる。
それに繋がり、惑星に影を行くっているのは人類銀河同盟の基地だ。
その周りにいくつもの揚陸艇がつながれ、その一つにレイトの船もなろうとしていた。
「ずいぶんとやられているようだな」
レイトは、他の船の砲塔部の消耗具合から、近頃何度か戦闘があったことを知った。
だが、今は新しい場所の事で胸がいっぱいになっていた。
ああ、確かこれから色々な事が起きるんだ。……そう、たくさんの事が起きた。
何故か、そこで予知の様に頭に浮かんできた記憶が、レイトに疑問を抱かせる。
……、ああそうか。これは過去の記憶でここは夢の中か。
そう意識した途端、レイトの乗った船は撃墜され火を吹き、レイトはいきなり宇宙に放り出された。
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すでに太陽は高くのぼり、歓声は鳴り響く。
クリシュナ王国民総出での、見送りだ。
そう、今日は両将軍が戦争へと出発するのだ。
普段、格納庫や研究室にいる人も、今はほとんどおらず静けさがある。
その中でレイトはテントの中で毛布を深くかぶり寝ていた。
昨日の夜が遅かったせいもあるのだが、次第に騒音から意識が浮上してくる。
だが、まぶたが揺れ動き、眼球運動が激しくなり、レイトはうなされ声を上げた。
『急速な心拍数の上昇を確認。レム睡眠時の脳波を計測』
アインが起動し、レイトの意識を目覚めさせよとする。
『以前から問題視されていたPTSDの脳波と合致。これよりレイト中尉の無意識領域に介入。催眠にて安定を図る』
すぐにレイトは落ち着き、ゆっくりと呼吸は落ち着いた。
瞳が開き、体を起こす。
それから頭に手をやり、一瞬の内に掻き消えた夢の内容を拾い集めようとする。
「くそっ……」
だがそれは出来ず、ただ立ち上がった。
そこに声が響く。
「レイト!大変なの、いますぐ来て!!」
シギュンが呼んでいるので、レイトは上着を取り出口に向かう。
久しぶりに