シギュン・エルステルは今までの人生で一番興奮していた。
数日前に第118石英採掘所で発見された二体のゴゥレムが原因だ。
どちらも地層からいって、推定千年前のアンダー・ゴゥレム。
黒銀に黒白の二体のゴゥレムは、異様な雰囲気を放っていた。
どちらを先に掘り出すかと言われた時、シギュンは黒白のゴゥレムを選んだ。
黒銀の方はまだ、現存するゴゥレムと形が似ていたが黒白のゴゥレムは、どこか異質なものを感じたからだ。
そして掘り出して、ハンガーに運び石英を剥がした所、またしても驚愕に襲われる。
黒白のゴゥレムは、石英ではなく鉄で出来ていたからだ。
錆びたり腐ったりしていることもなく、光沢を放つ装甲。
そして黒白のゴゥレムは、分解することも、現存の技術では装甲を傷ひとつ付けることすら不可能だった。
確認出来たのは、ゴゥレムの溝に刺さっていた生き物の牙のようなもの。
そして戦闘の後なのか肩部と大腿部に装甲の歪みが確認された。
また装甲には書かれた文字は、古代語のどれにも当てはまらず解読不能だった。
二日連続でシギュンは、根を詰めて少しでも解析しようと頑張った。
だが何一つ進展はなく、ようやく今日になって、周りの人達に休むように乞われた。
シギュン自身もとりつかれた様になっていた自覚はあった。
アッサムで内乱が起こり、クリシュナにもその戦火が及ぶ日が近づいているかもしれないのだ。
ゴゥレムの強化は、シギュン達王立魔動研究員の努め。
シギュンは、何人もの説得で作業を中断すると、後ろ髪を惹かれながら自室に戻って行った。
最後に振り向いて見たのは、今にも動き出しそうなアンダー・ゴゥレムの姿だ。
レイトは格納庫に誰もいなくなるのを数時間待って、操縦席を開いた。
通信デバイスを取ると、地面に降り立つ。
「重力はきっちり1Gか、前の漂流部族と比べると天国だな」
「アイン、空気はどうだ?」
『主成分は窒素、酸素、二酸化炭素。生存に理想的な比率である。他、微細成分もあるが有害物質は検出されず』
そうか、とレイトは呟くとヘルメットを開いた。
「手持ちの空気を温存するためにも、吸える空気は吸っておくか」
だが、すぐにレイトは口を押さえた。
埃が感じられ、においも少ししたからだ。
しかし、我慢できないほどではない。
レーザー銃を構え、周囲の探索にはいる。
「なんだ……これは……」
それからレイトはそばの机の上に置かれていた道具を手に取って、眉をひそめた。
慣れ親しんだ金属ではなく、石の感触がしたからだ。
「おいおい、いくらなんでも原始的するだろ……」
それからレイトは気になっていた場所に近づく。
レイトのマシンキャリバーと同じく、人型の機械。
「てっきり、漂流部族のパワーローダーぐらいかと思っていたが……何で石なんかで作ってんだ?」
近くに近づいて、それに触っているが同じく、石の感触。
遠目で金属に見えたのは、恐ろしい程に磨きこまれていたからだ。
「っ……」
そこで格納庫から通じる廊下から、人が近づく足音が聞こえた。
レイトは急いで、横たわるアインの影に隠れる。
「シギュン様、まだおやすみになってたったの三時間です!」
シギュンは護衛の兵士に付き従われながら、再び格納庫に戻ってきていた。
着の身着のまま自室のベットに倒れこみ、すぐさまシャワーを浴びただけだ。
それほどまでに、アンダー・ゴウレムはシギュンの興味を誘った。
「…………」
発光石英で格納庫の明かりをつけ、シギュンは異変に気がついた。
(……さっきと道具の場所が違う)
自分以外の道具に触る魔動技術士はここにはいない……。
シギュンは急いであたりを見渡した。
まさかと思いながらシギュンは、アンダー・ゴウレムに近づいた。
と、そこでいきなりゴウレムの影から飛び出してきた人に後ろを取られる。
首に腕を回されて、頭に見たこともないプレスガンを突きつけられた。
シギュンはいきなりの事に驚き、体が固まる。
だが、護衛の二人の女性兵士は、いきなりの乱入者にプレスガンを構える。
「この!シギュン様を放せ!!」
「エフレイネ、フェルハ!」
近づいてきた兵士にレイトは、足元にレーザーを照射し、シギュンを前に出し人質にする。
シギュンは聞いたことのない言葉を聞き、ゆっくりと自分を拘束する者を見た。
見たこともない黒い服を着た青年だ。
ツンツンと逆立った銀色の髪に、鋭い目つきの紫色の瞳。
理由はわからないが、唇を噛み、困惑した様な表情を浮かべている。
(もしかして……この人は……あのアンダー・ゴウレムから出てきたの?)
「このままで。私は大丈夫ですから、彼に危害を加えない様に皆に伝えてください」
兵士に伝えると、一人の兵士が他の者に伝えに走り出す。
言い終わった後、青年はシギュンを引っ張り、元来た廊下を走り始めた。
残った兵士もすぐにその後を、追いかける
レイトは先刻も見た女性の腕を引っ張りながら、自分の頭を掻き毟りたい思いになっていた。
(というか、なんで俺はこんな事をしているんだ!)
自分の疑問を代弁するかのように、相棒から質問が来る。
『貴官の行動に論理性を見いだせない。説明を要求する』
「……仕方がないだろ!成り行きだ!」
『以前、惑星アロイナ探索任務でも、成り行きと答えた貴官は、原生生物に襲われ孤立無援の状態となった』
「わざわざ失敗を思い出してくれてありがとうよ!」
レイトは荒い息をする女性を引っ張り、階段を昇る。
「いいからアイン、余計な事を言うより、ここの構造の解析を始めろ!」
『了解。映像を記録し、解析する。レイト中尉の現在地を確認。可能な限り広範囲に移動されたし』
「構造を把握したらお前を起動し、最短距離でここを脱出する」
廊下を登りきったところで、隔壁が閉ざされているのをレイトは確認する。
今にも倒れそうな表情をした女性を申し訳なく思いながらも、さらに移動を続けた。
人質としてこの女性を選ぶには、最悪の人選だった。
体力がないのか病弱なのか、女性はよく転け、レイトをわざと足止めしているのではないかと疑うくらいだ。
後ろからはなんの有用性がるのかわからないヘルメットを来た者が、言葉を発し、追いかけてきている。
「まだ、こいつらの言語は解析できないのか!?」
『解析進捗率は推定40パーセント。より多くの語彙のサンプルが必要である』
「とはいってもこの女性には、期待できそうにはないなあ……」
曲がり角で足を止めたレイトの足元で、女性は座り込んでしまっている。
レイトは女性に、これ以上無理をさせるのを躊躇しながらも手を伸ばし、起こした。
その頃、連絡に向かった兵士の報告は王宮全体に伝わり始めていた。
まだ夜も開けてすぐの王の寝室にも連絡が入る。
「報告します。何者かが、格納来にてシギュン様を人質にとり、逃走しています」
「何!シギュンが……!?」
クリシュナ王国、9世の王ホズルは、飛び起きた。
魔道士達の部屋にも賊が王宮に侵入されたという情報は伝えられた。
その中のトゥル将軍に代わって報告書を書いているナルヴィ上等重騎士の耳にも届く。
「うるさ~い!!、どこのどいつだ。騒いでいるのは!」
バルト将軍の部屋にも伝令がいち早く駆けつけた。
取るものも取らずばると将軍は、伝達兵に指示を伝える。
「急いでゴゥレムの用意をしろ。それから環状内門、外門を閉鎖。誰も通すな!」
バルト将軍はそれから、部屋の来客者を振り向くと、何かを言いかけたがやめて、部屋を飛び出た。
レイトの包囲網は着々と迫りつつあった。
「それにしても……」
レイトは上の階を目指しながら、呟いた。
レーザー銃を持ったまま壁に手を伸ばし、石の感触を確かめた。
「これは、一体何なんだ、アイン!?」
『鉱石に分類されるものである。主成分は二酸化ケイ素』
「石英か!?なんでこんなものが漂流部族の隔壁に使われている!それほどまでに資源がないのか?」
『懐疑提言。この集団を漂流部族とは断定出来ない』
「何故だ、アイン!」
『これまで収集された映像の全てにおいて、重力変化、放射線、気密性に関する設備や配慮が一切見当たらない。それどころか隔壁において意味をなさない鉱石という物質を使用している。よって、この施設は真空や無重力とは全く無縁の環境下において設計されたものと推測される』
「んな、馬鹿な……!じゃあ、まさか……!?」
レイトは一つだけ、心当たりを覚える。
はやる気持ちとともにシギュンを引っ張り、階段を昇る。
―――その先の場所には、光が満ちていた。
そしてテラスにたどり着いたレイトは、驚愕に目を大きく見開いた。
「なっ……」
レイトは思わず言葉を失った。
人質を掴む手を離し、放心したようにテラスを歩いていく。
最初は、映像を映したモニターかと疑い、ゆっくりと手を伸ばし突き抜けることで否定する。
遥か彼方にまで続く荒野の大地。
ごこまでも広がっているかのような空。
頭上には暖かな感触を得る太陽の姿。
「ははっ……ここは一体、どこなんだよ……」
そのレイトの姿を床にほとんど倒れ伏したシギュンは、不思議そうな顔で見つめた。
放けている時間は数秒、すぐに大勢のプレスガンを構えた兵士がテラスを取り囲んだ。
それから重低音の連続音とともに、上と下のテラスから先程見た石の機械が姿を現す。レイトはあれが動くことに驚愕を覚えるとともに、巨大な銃に身構えた。
「ここまでか……仕方がないな。来い、アイン!!」
レイトの声と同時に、通信デバイスが光り、アインは格納庫の天井を一瞬のビーム放射で破壊。フローターを作動させ、一瞬の内に王宮を飛び出し、レイトがいるテラスの前に浮上した。
それに皆が驚愕の視線を向け、驚きの声を上げた。
レイトはあたりを見渡しながら、アインに声を掛ける。
「何がどうなっているんだ……アイン」
『貴官と当機は呼吸可能な大気を備えた惑星の地表ににいるものと推察されるのである』
「ありえないだろ……」
『観測可能な天体を称号検索―――不明』
「何!?」
『該当するデータはなし。よってこの星は、人類銀河同盟が最初に発見した人類生息可能な惑星である』
「嘘……だろ」
レイトは呟きとともに、体の力が抜けていくのを感じる。
目の前に広がる空に大地、いずれも間違いなく現実だ。
―――レイトが長年求めてきたものが、そこにあった。