呆然とレイトが呟く間にも、大勢の兵士がテラスを取り囲んでいく。
さらに二体のゴゥレム現れ、レイトの後ろに浮くアインにプレスガンを構えた。
「おいおい、あのゴゥレム浮いてんぞ。どうなってんだ!?」
ナイル一等重騎士が隣のロギン上等重騎士に、思わず呟いた。
「ああ」
ロギンは驚愕を浮かべながらも、自信のロングプレスガンを構える。
そしてテラスには、周りの臣下を振り切って走ってきたホズルも現れた。
アインは、それと同時にゆっくりとレイトの上を超え、テラスに降り立つ。
「…………」
シギュンはアインの両足に挟まれる形になり、興味津々な表情で見つめる。
「飛んだぞ、あれ!!」
「どうなっている!どこの国のゴゥレムだ!?」
「掘り出したゴゥレムじゃないのか!?」
兵士達はシギュンが間にいるため、レイトに銃口を向けられない。
まして、不用意に近づくことも出来ない。
『状況の危険度は124%増大。先制攻撃を提言する』
「駄目だ、アイン。彼らは人間だ。こちらには敵意がない事を示すぞ」
レイトはレーザー銃の銃口を上に上げたまま、シギュンの元まで行き、手を貸して起こす。
それからこちらから離れるように、ジェスチャーで伝えた。
だが、それがさらに兵士達を刺激してしまった。
一斉に銃口がこちらに向けられる。
「この女を人質にするつもりはない。アイン、こちらに敵意はないことを伝えろ」
『攻撃、をやめて。こちら敵意、否定するのである。こちらの女性、返す。武器を収めるを望む』
「搭乗者がいるのか……!」
兵士がさらに警戒心を強くしたところで、兵士達の中から前に出てきた人達がいる。
長い黒髪に、浅黒い肌の気の強そうな女だ。
ナルヴィはゆっくりとプレスガンを構えたまま近づいた。
「クリシュナ国、トゥル将軍旗下、ナルヴィ上等重騎士だ。貴様、シギュン様を放せ!」
『人質、否定。この人、離れない』
アインのわかりにくい言い方に、いらいらとした表情をナルヴィは浮かべた。
そしてシギュンは、射線を防ぐようにレイトの前に立った。
「皆さん。私は大丈夫です。ですから彼とこのゴゥレムにプレスガンを向けないようにお願いします」
「何故ですか!?」
「彼に聞きたいことがあります。その間、手出ししないようにしてください」
ナルヴィは王妃の言葉に、戸惑いを覚えて、後ろの兵士に囲まれた王を振り返った。
ホズルはゆっくりと頷いて、それを見たナルヴィはゆっくりと周りに合図をして、戻った。
レイトはそれを見て、いぶかしんだ表情を浮かべる。
「さっきから何を言っている……?」
『貴官の処遇について、議論を交わしているようである』
そしてレイトの目の前の女が、レイトに振り返った。
「私はシギュン。あなたは何者なのですか?」
レイトは前に表示されたホロから、今まで連れ回していた女性の名前がシギュンだと知る。
『貴官の姓名、所属の提示を求めている』
「了解した。アイン、通訳しろ」
『対ヒディアーズ殲滅兵器、アイン操縦者。レイト中尉』
「……レイト」
シギュンは呟き、次の質問を口にしていく。
「ヒディアーズとは何のことですか?」
『敵、共存、不可能。貴君らは人類同胞、同盟に参集せよ。対話を要求する。指揮官は誰か』
その途端、テラスにいた兵士達が銃口を向けないまでも、身じろぎした。
「アイン、何を言ったんだ!?」
『対話の要求、及び同盟標準の啓発表現を翻訳した』
「本当か、余計な事は言ってないだろうな……」
レイトはじとっとアインを見つめて、それからシギュンに向き直った。
「レイト殿、私達はあなたに攻撃する気はありません。ただ、知りたいだけなのです。そちらのゴゥレムの搭乗者も姿を現すことを望みます」
「なんだって?」
『不明、当機は無人である』
「えっ……」
シギュンは、呆然と口を開き、ゆっくりと目の前のアインの姿を見上げた。
急遽開かれた会議にクリシュナ王国の重要人が集まる。
当然、議題は突然動き出したアンダー。ゴゥレムについてだ。
朝の騒動から数時間、一応事態は沈静化に向かっている。
「フン、一体、なんなのだあのゴゥレムは!?」
大声で響き渡る声は、トゥル将軍のものだ。
その隣には済ました表情を浮かべるナルヴィがいる。
「あのゴゥレムはつい、先日第118採掘所で掘り起こしたアンダー・ゴゥレム二体の内の一体です」
机の角を挟んで、ホズルの右隣に座るシギュンが答えた。
「青年とあのゴゥレムの搭乗者。どこからやってきたのかわかりますかな?シギュン様」
バルド将軍は両手を組み、シギュンに訪ねた。
シギュンは少し、困った表情を浮かべる。
「あのゴゥレムは千年前の地層から掘り出したものです。当然、後から乗り込んだと考えるべきでしょう」
シギュンは続けて話す。
「ですが、信じられないことなのですが先程、レイト殿と会話した時、あのゴゥレムには搭乗者はいないと言っていました」
それに一人の書記官が反論した。
「そんな馬鹿な。どんな技術が使われているのか検討もつきませぬが、動き、話しをしていたではありませぬか!」
「そうですが……あのゴゥレムは、金属という媒体で作られており、未知の技術が使われています。到底、私達の技術では測れないものと考えています」
シギュンは、そう告げると、外を指差した。
「彼は敵ではありません。私は、彼と話し合うことを提案します」
それに反論を出したのはトゥル将軍だ。
「あの青年はシギュン様を人質に取った。到底看過出来ることではない。
あのゴゥレムは破壊し、解析する。そして青年は捕まえて、情報を吐かせればいい!」
トゥル将軍の言葉にうんうん、とナルヴィは頷いた。
それにバルド将軍は首をゆっくりと振った。
「格納庫の天井を一撃で破壊した力。空を飛ぶ力。果たして我々の力で破壊する事が出来るでしょうかな」
「臆病風にふかれたかバルト将軍。もしあのゴゥレムがアテネスにでも飛んで行ってしまったらどうなると思う。敵が力をつける一方だぞ。一刻も速く、破壊するべきなのだ!」
バルド将軍は悩むように腕組をした。
しばらく沈黙の時が流れる。
「私はやはり彼と協力関係の道を探っていくべきだと考えます」
手を上げたシギュンは皆に言う。
「ゴゥレムの強化、もう一体のアンダー・ゴゥレムの解析のためにもレイト殿の協力が必要不可欠だと思います」
それに賛成と頷くものと、反対に動じないものが半々の数。
困った表情を浮かべた書記官は、王の椅子に体の向きを変えた。
「陛下、どう決断されま……陛下?」
すると、そこにホズルの姿はなかった。
椅子の背に、服が掛けられているだけである。
「まさか……」
シギュンは心当たりを誰よりもすぐ思いつき、立ち上がった。
あの人がしそうな事は、昔からよく見ている。
窓から階下を見下ろすと、レイト殿がいるテラスに向けて歩く人がいる。
周りの兵士を振り切るようにして、近づく者だ。
「あの、王さまは……」
どこか呆れるような口調で、隣に立つナルヴィが呟いた。
駄目だ……誰が誰やら口調がわからなくなってきました。
『報告。レイト中尉が初めて異性の体に触れた事を観測。感想を求む』
「なんか……柔らかかった……じゃなくて!!……ていうか初めてじゃないしッ」
『懐疑提言。当機が観測しうる中で初めての事例である。おめでたである』
「お前と出会う前だってなあ!それにお前がブッ壊れてた時だってあったし!」
『ではその先に進んだ事はあるのかどうか、当機は深く興味があるのである』
「その先って……ッ!あ、あ、あるさ!!当然、お前が観測してない時だ」
『報告、レイト中尉の脳波に乱れあり。この計測値は以前のデータから鑑みるに、貴官が嘘をついているものであると推測される』
「黙れ、余計な事を言うなッ」
『要求、当機は当機の破損破壊記録第一位の時のデータはあらず。その時の状況を聞きたいものである』
「ああ、漂流部族に助けられた時か?……また今度な」