漂流者 ~異世界転移~   作:ぺこぽん

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第八話 アンダー・ゴゥレム

レイトは首を伸ばして、目の前に広がる巨大な穴を見つめる。

 

「レイト殿、こっちです」

 

シギュンに声をかけられて、レイトは顔を上げた。

レイトは暑いため、パイロットスーツを脱ぎ、腰の部分で括っている。

太陽の位置はちょうど、穴の中まで光が届く位置に来ていた。

 

 

今は、レイトとアインがクリシュナ国にやってきて一週間ほど経った頃。

シギュンに案内されて、第118石英採掘所にレイトはやってきていた。

レイトは数時間前に、シギュンに依頼された事を思い出す。

 

----------------------------------------------------------

 

格納庫でシギュンは、レイトの前に立った。

 

「レイト殿には、掘り起こされたアンダー・ゴゥレムの調査を依頼したいのです」

 

「アンダー・ゴゥレム?」

 

レインはアインの翻訳のホロから、顔を上げてシギュンに伺った。

翻訳対象はレイトがアインに向けて、開いて見せている本だ。

 

内容は石英を操る魔力についての研究内容。

もっぱらこの国にやってきてから、レイトはこの部分に特に興味を持っていた。

 

『それはクリシュナ王国としての、正式な要請か』

 

「そうです。王立魔導研究所からの正式な依頼です。貴方達に報酬を払う代わりに働いていただきます。また住居の用意が出来ましたので、レイト殿にはそこに移っていただきます」

 

「イヤ、俺はここ、でいい」

 

レイトはゆっくりと首を振って、断った。

しかしシギュンは無表情で、レイトに告げる。

 

「しかし、それでは契約不履行になってしまいます。それに格納庫の一角を占拠されることも迷惑です。多分に機密情報もありますので……」

 

「どこでも、無意味、だ」

 

「どういう意味です?」

 

『当機の収集、解析能力をもってすれば、この国に機密など存在しないとレイト中尉は述べているのである』

 

シギュンはますます、冷たい目になった。

 

「アインのそば、がいい。それだけ、望む。邪魔はしない。約束する」

 

次にシギュンは少しばかりむすっとした顔を浮かべた。

 

「……わかりました。でしたら、格納庫の破壊した修復費用、ならびに格納庫の一部を使用する費用を報酬の中から払っていただきます」

 

「構わない」

 

『契約内容を更新。レイト中尉はクリシュナ王国の要請を受諾する』

 

レイトは頷くと、本をパタンと閉じた。

 

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「アイン、周囲の状態はどうだ?」

 

レイトは採掘所の階段を降りながら、アインに聞く。

 

『問題ないと思われる。大気の状態は問題なし。空気の循環が行われていると推測。また地殻の変動は観測されず』

 

そうか、と呟くとレイトは耳にかけた通信デバイスを触って確かめた。

地下に降りたため、通信状況が時々悪くなる。

 

アインはエネルギー補充のため、格納庫に待機させていた。

相変わらず量子インテークの調子が悪いため、総エネルギーが20%を満たない。

空気を入れても、萎んでいく風船のようだ。

 

「キャッ!」

 

と、そこで目の前を進むシギュンが足を滑らたので、レイトは手を伸ばして体を支えてやる。

 

「あ、ありがとう」

 

恥ずかしそうに顔を赤らめたシギュンに、レイトは無表情に横を向いたままだ。

 

『レイト中尉の心拍数の異常を計測。状況の報告をされたし』

 

「だまれ!ただのアクシデントだ。いちいち報告してくるな」

 

全く、とレイトは頭を振って息を吐く。

 

自分の異性に対する心の動揺というのは、レイトは以前から自覚していた。

恐怖心や緊張というのは、経験により打ち消せるというのは兵士として学んでいる。

しかし、レイトの女性経験というのは全くといっていいほど少なかった。

 

(相手は、この国の王妃で人の妻だぞ……)

 

アインが勧めたカウンセラーを別の意味で必要とするかもしれないと、レイトは本気で考えた。

 

しばらく進むと、目的の物が見えてきた。

まだ、半分近くが石英に埋まっているが、操縦席はすでに開かれていた。

 

「レイト殿とアイン殿はこのアンダー・ゴゥレムの少し上で発見されたのです」

 

「……ここに転移したのか」

 

レイトが呟くと、アインがシギュンの発言に言葉を挟む。

 

『提言。クリシュナ王妃。当機に殿という敬称をつける必要はなし。当機は人工知能であり、人間では非ず。訂正を求む』

 

「では、なんと呼べばいいのですか?」

 

『正式名称は、マシンキャリバーI-4825である』

 

「アイン、と呼べばいい」

 

「なら、私も王妃ではなく、シギュンと呼ぶことをお願いします」

 

『了解。シギュン殿』

 

レイトは、アインが話している間に、足元のシートの上にミイラを見つけた。

 

「ッツ……」

 

見ていて気持ちがいいものではない。

レイトは生身で宇宙空間に投げ出された仲間の姿を思い出してしまった。

 

「搭乗していた古代人です。調査の結果分かったことは、その古代人は石英を使用した形跡が無い事、このゴゥレムが魔力では動かないという二つのみです」

 

シギュンが眼鏡を掛けて報告書を読んでいると、通信デバイス光った。

 

『報告。ここより234メートル下の地中に対ヒディアーズ用の携行装備ファランクスを感知』

 

「何!?なんでここにある?」

 

『ワームホールの崩落に巻き込まれる寸前まで、貴官が保持していたものである。

当機と同じようにここに転移したものと思われる。登録番号から、機体ナンバーJ-2219の兵装と判明』

 

レイトは拳を握ると、唇を噛んだ。

そうだ、この瞬間にも同盟は、ヒディアーズの危機に晒されている。

逸る想いが一瞬、レイトの体を支配する。

 

『当機の出力の3%を消費するならば、回収することは可能』

 

「……いや、彼らに頼もう。このゴゥレムの事もある。この採掘所を使い物にならなくするわけにはいかない」

 

『了解』

 

「それでゴゥレムの方については何かわかったか?」

 

『通信デバイスによる解析のみでは、不明である』

 

通信デバイスによるサーチはせいぜい数メートルが限界だ。

レイトは仕方ないな、と呟くと石壁まで下がる。

それから助走をつけ、ゴゥレムめがけてジャンプした。

 

「レイトッ!?」

 

シギュンが慌てて声を上げるが、レイトは採掘所の深い穴を飛び越え操縦席の入口に危なげなく、掴まった。

慌てて、兵士がゴゥレムに掛ける梯子を持ってくる。

 

ふう、とシギュンは息を吐いて、安心した。

レイト殿の行動には見ていてはらはらさせられるものがある。

 

(まるで……よく知っている人を見ているみたい)

 

シギュンは昔を思い出して、少し微笑んでしまった。

それから梯子を使い、レイトの後から操縦席に入る。

 

『このゴゥレムには動力源が使用されている模様』

 

「まだ、動くのか?」

 

『起動スイッチは右側の円形の石英である』

 

シギュンはレイトとアインの会話はわからないが、レイトが石英に手を伸ばすのを見た。

そこは何度もシギュンが調べ、高位魔動士が何人も触れた場所だ。

……何も起きなかったのだけれど……

 

『起動を確認』

 

いきなり発光系石英、前方のモニターが光り、いくつもの文字列を表示した。

 

「アイン、翻訳できるか?」

 

『この大陸の古代語に類似。……解析進捗率は約80%』

 

通信デバイスのホログラムに翻訳された文章がずらりと、並べられた。

特殊任務……搭乗者死亡……全管制塔応答無し……初期化……

目では追いきれないほどの文字が表示された後、二つの選択肢が画面に残った。

 

「なんだこれは?」

 

『この機体の搭乗者登録の申請を求めている。右が登録。左が保留』

 

「なら保留だ。俺はお前のパイロットだからな」

 

『了解である』

 

保留を触ると、機能を停止したのか、発光していたモニターは消えた。

それからレイトはシギュンと一緒に、古代人がいる場所に戻る。

シギュンは速く解析した情報を知りたがっているが、レイトは古代人の前でしゃがみこんでいる。

 

「レイト殿、何がわかったのですか?」

 

『解析した情報は、情報の精度を上げた後にクリシュナ王国に提出する』

 

そこでレイトが立ち上がって、シギュンの方を向いた。

その手には長いガラス瓶の中に、茶色い切片が沈んでいる。

 

「それは……?」

 

『古代人の皮膚の一部である。遺伝子情報を解析するため採取した。しいては比較対象としてシギュン殿の遺伝子提供を求む』

 

「遺伝子って?」

 

『口の粘膜の提供で結構である。二つを比較することから何故、この国の魔道士が起動出来なかったアンダー・ゴゥレムが石英を操る力を持たないレイト中尉に、反応したのか考察出来るのである』

 

「わかりました。協力、感謝します」

 

レイトは再び古代人の方をじっと見た。

この惑星の人間が持っている、魔力という不可思議な力。

 

(人類銀河同盟では、肉体の改造は禁止されている……)

 

だとしたらこの惑星で繁栄している人間の魔力は、一体どこから来たんだ?

同じような生物がこの惑星で、自己進化したのか?

 

レイトは自分の能力を超えた問題だと思いながらも答えを探す。

それは、現状から闘いには戻れない焦燥から逃れるためだった。

 

 

その姿をシギュンが眺めている。

魔力がないもの……能なし。

もし、古代人がそうだというなら、レイトも古代人である可能性がある……。

シギュンは顔に手を当てて、そう考えた。

魔力を持たない者だけが、このアンダー・ゴゥレムを起動出来るのだとしたら……

 

「ライガット……」

 

シギュンは小さく呟いた。

 

 

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