「~♪」
軽快な音楽が彼の耳に入ってくる。イヤホンをつけたとある少年は自動販売機の前に立っていた。時刻は午前9時47分。一般的な学生であれば既に学校に到着しているどころか、1時間目の授業すらも始まっていることであろう。無論、少年も一人の学生である。
「ん~」
どうやらこの自動販売機は彼の好みには合わなかったらしい。というよりは学園都市にあるすべての自動販売機を彼は好ましくは思っていないだろう。
(まぁ、いいか)
いつもなら諦めてコンビニに行くところだが今日は始業式である。あまり時間の猶予はない、と彼は判断したのだろう。自動販売機に500円玉を入れてヤシの実サイダーを選択する。ちなみに今の時刻は午前9時50分、始業式の開会時刻は午前9時である。
(眠い)
ガシャン、と思いの外勢いよく出てきたサイダーを手に取り、学校へ向かうため彼は歩みを再開しようと後ろに振り返った。
瞬間、彼は目を細めた。イヤホンをしていて気づかなかったのであろうか、彼の回りを5、6人の不良が囲んでいた。
「やっと気づいたか」
「早いとこ巻き上げて帰ろうぜ」
どうやらカツアゲというやつである。少年はイヤホンを外し、ヤシの実サイダーなるものを開けた。
「おいおい、随分と余裕じゃねぇか?」
「自分の置かれた立場を考えた方がいいぜ?」
男たちは口々に呟いていた。
「あれ、ヤバイんじゃねえのか?」
「一応、風紀委員に連絡しておくか」
偶然に通りかかった人達が、不良に絡まれた少年を心配しているのであろうか。それとも、身の程知らずの不良を心配しているのだろうか、少年は即座に後者だと判断した。
「いつまで無視してんだ。コイツ?」
「まぁ、焦るなって。この人数ならどのみち.....」
少年は周りにいる不良たちの言葉には耳もやらず一人呟いた。
「ほんと、退屈しないねぇ。この街は」
「はぁ」
とある少女が溜め息をついていた。ここは第七学区風紀委員177支部。この少女、もとい「白井 黒子」は目の前のパソコンを睨み付けていた。
「どうですか?白井さん」
黒子は声が聞こえた方に意識はやるものの、依然目の前の電子画面に目を向けていた。
「やはり、何度探しても見つかりませんの」
溜め息混じりにそう言って黒子はパソコンを閉じ、5月を過ぎても尚、頭に花を満開に咲かせている少女「初春 飾利」に体を向けた。
「そうですか.....」
黒子と初春はここ最近、1ヶ月前に起きたとある事件を調べていた。事件といっても大したことではなく、ある学生が不良に絡まれた、という学園都市にとっては日常茶飯事のことであり、その事件の結末も、絡まれた学生は能力を使用して不良を追い払った、との報告書が既に提出されている。しかもこの報告書を執筆したのは他ならぬ黒子であって腑に落ちない点などあるはずもないのである。
(問題なのは.....)
「やっぱり、能力ですよね」
黒子は初春の言葉に首肯した。その事件当時、通報を受け駆けつけたのは黒子であり、バックアップを任されていた初春も事件の結末を目にしていた。その光景は不良ら全員どころか路地裏一体が凍りついていたのである。事件後、二人は学園都市のバンクにアクセスし、この学生の特定を試みた。風紀委員として活動を続けていた中でこのような光景を目にしたことがなく、初めは興味本位に調べてみただけであった。
しかし、バンクからそれらしき人物を見つけることは出来なかった。
「これだけ探しても見つからないのであればやはりこの学生じゃないんですか?」
「数人どころか周辺一帯を凍り付けにできる能力だとしますと、レベル4以上としか思えませんの。レベル2ごときにこのような芸当は出来ないと思いますわ」
そう言って、黒子は初春が再び開けたパソコンの画面に目をやる。そこには一人の学生のデータが映っていた。
「柵川高校 1年 佐藤 零 レベル2
能力名 氷点突破」
時及び場所が代わって、ここは柵川中学の正門前、また放課後である。入学式並びに始業式から既に一ヶ月が経ち、新入生はようやく学校に慣れ学園生活を謳歌し始め、在校生も新たなクラスメイトと打ち解けている頃合いである。
そんな新入生の一人、初春は愛用している小型電子機器の画面を見つめていた。その横顔はどことなく嬉しそうである。無論、後方から接近してくる危険人物の事など気付いていない。
「う~い~はぁ~るぅ~!」
瞬間、視界に紺色の布が現れた。それが自分のスカートだと気づくのに2秒とかからなかった。否、かかってしまった。
「キャぁぁぁぁぁぁぁ
「酷いです、佐天さん」
初春は顔をしかめつつ、前方の少女「佐天涙子」を睨み付ける。
「いや~、ごめんごめん。ほら、スキンシップってやつ?
クラスメイトと親睦を深めるには大事じゃん?」
さして悪気も無さそうに話す佐天に初春は溜め息をつくしか無かった。
「そういや初春はさっきから何みてんの?」
「ああ、これですか。先月に起きた事件の現場ですよ。」
事件と言うほどでもないですけど、と初春は付け加え、手元の画面を佐天に見せ事の次第を説明した。
「ふぅ~ん、確かに不思議だね。まぁ、レベル0の私には関係無さそうだけど」
そう言うと佐天はすぐに画面から目を放した。
「てか、この人柵川高校じゃん!」
興味を無くしたかと思えば佐天は突然声を挙げた。
「ええと、確かにそうですけど.....」
「じゃあさ、今から会いに行かない?ほらすぐ近くだからさ」
「でも、まだ学校にいるか分かんないし、それに.....
「そうと決まれば善は急げだ。しゅっぱぁぁつ」
「ちょ、佐天さぁぁん」
佐天は初春の腕をつかみ走り出し、突然のことに初春は反論できる余地など持たず、強引に連れていかれる身体も従うより他無かった。だが自分に気兼ね無く接してくれる佐天に初春は少々嬉しさを感じていた。
「はぁ」
ここにも溜め息をついている人が一人。佐藤零は目の前に積み上げられたプリントの山とにらめっこを続けていた。
時は同じくして放課後であり、教室に残っているのは零だけである。この大量のプリントはというと
「お前、始業式遅れただろ。その分な」
と、一言担任からお言葉を頂くとともに職員室から帰ってみれば眼鏡をかけた如何にも真面目そうな女子生徒がせわしなく自分の机の上にプリントを積み重ねていたのであった。
(あぁあ、どこ間違えようかなぁ)
零にとってはこのプリントの山の内容など一枚のプリントにしか思えないのだが、零は表ではレベル2だが勉学には少々難をきたす学生という設定であり、迂闊に全問正解という訳にはいかないのである。
ガラガラ、
「失礼しまーーす」
さして失礼を感じていないような声とともに二人の中学生が零のいる教室に入ってきた。
(ん?誰だコイツら)
零は疑問を浮かべ二人の少女を見つめるが全く心当たりが無い。
「あなたが佐藤さん?」
ロングヘアーの少女の方が零に話しかけてきた。
「そうだけど.....
にこりともせずに零は答えたが、少女はさして気にしてもいないようだ。零はもう一人の少女に目を向けると、面白そうなものが目に入った。
(風紀委員か.....)
片方の少女が腕につけているワッペンを見て二人に気づかないよう零は静かに笑みをこぼすのであった。
「つまり、君達は一ヶ月前の件の能力者が俺ではないかと考え、ここに来たわけだね」
「そうでーーす」
初春と佐天は自己紹介及び用件の説明を済ませ、零の反応を伺っている。
(いいんですか?佐天さんこんなことして)
(大丈夫って、ここの先生に見つかってもこの人の親戚か何かっていっとけば問題ないって)
(そんな適当な.....)
二人は零に気づかれないように話しているが、零は二人の会話に興味をやらず手元の携帯電話をいじっている。
(それにしても、思ったより普通の人ですね。)
初春は佐天にそう告げた。初春はもちろん佐天も画面越しでこの学生の姿を確認しており、バンクの写真はどことなく掴みがたい雰囲気が滲み出ていたが、実際にみてみると見た目は普通であり、髪も真っ黒、顔はどちらかと言えば良い部類の方に入るのであろうが、普通の一学生に見える。不思議と零に対して嫌悪を抱かなかった。
「その能力者、多分俺で合ってるよ」
「ほんとですか?」
初春は零の発言に身体を前にしてくらいついた。
「ほんとほんと」
「でも、佐藤さんってレベル2なんじゃ.....」
「うっ」
痛いところを突かれたと言わんばかりに零の動きが止まった。
(どう説明しようか.....)
無論、説明できるはずはない。幻想御手を持ち出してもいいが、相手は風紀委員である。下手に情報を渡して風紀委員に付きまとわれるのは零としても面倒だし、何より学園都市暗部がそれを良しとしないだろう。即ち零に残された選択肢は一つである。
「おっといけねぇ!終バスの時間だ!」
零はそう言うと手元のショルダーバッグを背負い逃げるように教室から出ていった。補足しておくとこの男、通学方法は己の足である。
「えぇぇ.....」
あまりの突然の出来事に初春、佐天は初対面の相手に対して驚きを通り越し、呆れを感じていた。
言うの忘れていましたが不定期更新です..........
すみません.....