千年栄えたとされる帝都。
そんな場所でさえ今じゃ腐敗して生き地獄。
人の皮をかぶったような人間がうじゃうじゃと蔓延るこの場所で、俺は転生した。
■ ■
「その程度で将軍になれると思ったか! レベル一からやり直せ!!」
将軍を目指しているという男を完膚なきまでに叩きのめし、道場を後にする。
「師匠! 待ってください!!」
疲れているため即刻帰りたかったが、弟子が相手となれば話は別だ。
セリュー・ユビキタス。
人一倍正義感の強い少女で帝具ヘカトンケイルの使い手。
そして、俺が最初に教育した一人でもある。
「セリューか。また愚痴を言いに来たんじゃないだろうな?」
教育終了後に配属されたオーガという男がかなりの屑野郎だったらしく、稽古ついででいつも愚痴を聞かされる。
「私をいつも愚痴いうだけの女と思わないでください!」
頬を膨らませてムクーとしているが、そういうところがまだまだ女の子だなと思わせる。
「今日は愚痴じゃないのか?」
「違います! とにかく、急いで!!」
何を急かしているのか知らないが、とにかく後を付いていくことにした――。
……帝都で暮らし始めてから数年も経った。
不慮の事故で死んでしまった俺は、気が付くと知らない土地にぽつんと立っていた。
体も自分のものではなく、けれど俺のよく知る人物の肉体でこの世界に転生してしまったのだ。
当初はここがどういう世界かも分からなかったため、一年ほど食事、睡眠、戦闘を繰り返して自分磨きを始めた。
その結果、気付けばブドーとエスデスとかいう将軍と同レベルにまでなった。
………らしい。
ある日、もっと自分磨きをしようと相変わらず危険種とかいうのを倒しに向かった時、一つの転機が訪れた。
「そなたか、帝都付近の危険種狩りをしている男というのは」
「……まあ、そうですね」
兵士みたいな格好の男に呼び出されたかと思えば皇帝の玉座に呼び出され、俺を将軍職に就かせる話になっていたのだ。
しかし、
「いえ、俺は将軍よりも望むものがあります」
いい職について前世とは違った生活を楽しむ……そんな考えは毛頭なかった。
一年も経てばこの世界がどういう所か理解し、将軍になることよりもやるべき事をこの体が教えてくれた――。
「お、やっと来てくれましたか!」
「騒がしいな、何があった?」
セリューが連れてきたのは大雑把にいえばギルドのような施設だ。
どうやら役員と男女二人が揉めているみたいだ。
そして、やっと俺が連れてこられた意味を理解する。
「……貴様ら、軍に入隊希望なのか?」
「そうだ! 俺の腕なら隊長のクラス辺りなら余裕だぜ!!」
自信満々に豪語する少年にもうここから出たそうな少女。
確かにそれなりの実力はあると見えた。
「……いいだろう。俺を倒せたなら隊長クラスでもなんでも仕官させてやろう」
「……ホントか!?」
二人の視線はこちらに向く。
少女の方も一瞬にしてやる気の目になっている。
「し、しかしそれでは……」
「ただし、俺に負ければ所詮はその程度だと諦めて出直してこい」
場が引き締まるのを感じる。
なにせ勝てばいきなり上の地位からのスタートになるんだ。
これを逃さない手はないだろう。
「よ、よろしいのでしょうか? そんなことを……」
「構わない」
負けるつもりなんて微塵もない。
そして、負けるはずもない。
「約束しよう! 帝都教育係ヴァルバトーゼを倒すことが出来たなら、俺の権限を使って二人を仕官させてやろう!!」
――今の俺は、ヴァルバトーゼなのだから。