吸血鬼が教育する〜帝都教育係と正義の少女〜   作:カナタナ

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首斬りを斬る(2)

 

ーセリュー視点ー

 

 私が正義の味方を目指すきっかけになったのは父の影響だった。

 悪は断罪されなければならない、正義は悪に屈してはならないという考えで昔は生きていた。

 

 そんな私に現実を突きつけたのが師匠、ヴァルバトーゼだった。

 

 何を基準に正義とするのか、何を根拠に悪と断定するのかという質問に対して私は国を守るものが正義で革命軍なんてものは全て悪だと胸を張って言ってみせた。

 ヴァルバトーゼはその答えを鼻で笑い、私に最初の任務を与えた。

 

 

 ――それは、私の知りたくなかった帝国の実態ばかりだった。

 

 私が信頼していた者が悪党で、私の仲間だった皆は罪を着せられて理不尽に殺さる。

 ……そんな極悪非道を許すようになった諸悪の根源はよりにもよって国のトップであり、国を守るべきはずの大臣であった。

 

「……ここか先は人気が少ないから慎重に動くよ」

「おす」

 

 帝国こそが正義だと洗脳教育を受けた人間は少なくはない。

 そんな人たちを正すこと、教育することこそが私にとっての正義だと今は信じている。

 

「コロ、敵は近くにいないよね?」

「キュウ!」

 

 ……その最初の一歩として、先ずはイエヤスとサヨを師匠と一緒に教育しないと。

 先輩としてカッコイイところも見せてあげるんだから。

 

「そういえば、帝具ってセリューの生物型とアカメってやつの刀以外にはどんなものがあるんだ?」

「……他にはナジェンダ元将軍が使っていた銃型の帝具に百人斬りのブラートが使っているらしい鎧の帝具とかかな?」

「へー、帝具って色んな種類があるんだな」

 

 中には私も知らない帝具だって存在する。

 首斬りザンクが所持している帝具も私は知らないものだ。遠距離型の帝具ってことはまず有り得ないだろうけど、油断は出来ない。

 

「イエヤスも縁があれば帝具を持つことも……!」

 

 殺気が放たれる。

 首斬りザンクか?

 だとすると師匠に連絡しないと……

 

「……、そこか!!」

 

 警備用の銃を装備し、殺気に向かって二発ほど撃つ。

 コロにも殺気の場所へと向かわせて警戒態勢を強める。

 ……が、壁に当たる音ばかりでどれも外れたことが分かる。

 

「首斬りザンクか!」

 

 まだ、確証があるわけではない。

 もしただの悪党だった時に師匠を呼んでしまえば無駄な時間のロスになる。

 慎重に、でも確実に正体を暴かなければならない!

 

「ここから離れたらダメだよ、イエヤ……」

 

 とてつもない胸騒ぎがした。

 殺気に気を取られすぎて、一瞬警戒すべき場所を私もコロもそこばかりに目を向けていて……。

 

「……イエヤス?」

 

 気が付けば、私一人だった。

 

 思い出す、親を殺されて何も出来なかった小さい頃を。

 ……同じ悲劇を繰り返してはならない。

 

「……首斬りザンクゥ!!!」

 

 私は声が枯れるほど叫び、イエヤスを探した。

 

 どこ? どこにいるの?

 いるなら返事をして……返事をして……!!

 

 ――私に、正義を貫かせて!

 

 

「こんの野郎がぁ!!」

 

 ……声が聞こえた。

 そして、微かだが剣の音も聞こえてくる。

 

「……そこに、いるの?」

 

 まだ声も威勢がいいってことはダメージは負っていても瀕死ではない。

 なら、助けられる!!

 

「コロ! 咆哮!」

「キュウ……グオォォォォ!!!!」

 

 コロに戦闘態勢に入らせ、指示通り位置を教える。

 そして、即座にトンファーを構えてイエヤスのもとに向かう。

 

 

 

「……へっ、持久戦は俺の勝ちだ」

「運がいいねぇ、まさかもう見つかるとは」

 

「貴様を首斬りザンクと断定ッ!!」

 

 後ろに回り込み、そのままの勢いで攻撃を加える。

 

「っ、速い……!」

 

 だが、ザンクも私の動きに合わせて剣を振っていたため、一時イエヤスのもとに回避する。

 まだまだ元気はあるとはいえ、既に満足に動ける体ではないイエヤスを見て一緒に戦うことは不可能だと確定する。

 

「……っ、気をつけてくれ。そいつ、頭に付いてる帝具で動きを読んでくるぞ……」

「……そういう能力か」

 

 動きを読まれているとなると私単独で戦うのは不利。

 だが、相手が悪かったな悪党よ。

 

「コロ、敵を捕食しろ!!」

 

 巨体となったコロを突進させ、ザンクを上に飛ばす。

 剣のほうは帝具ではないためコロを相手にするのは厳しいはずだ。

 

「それを待っていた!!」

 

 トンファーは物理攻撃を行うためだけにあるのではない。

 

「悪は拘束させてもらう!」

 

 中に仕込んでいた鎖を使い、ザンクの動きを拘束しようとする。

 

「それも読めているんだよ、この未来視でなぁ!」

 

 仕込んでいた鎖をいとも簡単に回避するが、それでコロの手が休まることなんてない。

 

「コロ、奴にたたみかけろ!」

 

「キシャァァァァア!!!」

 

 コロの猛連撃なら奴も捌ききれまい。

 あとは捕食さえ済めば……!

 

「こうなったら……! 幻視!」

 

 今度は何か仕掛けて来るつもりか。

 だが、そんなもの私には――。

 

「……お父、さん?」

 

 バカな、有り得ない。

 さっきまでそこにザンクがいたはずだ。

 なんで、お父さんが……。

 

「キュウ!」

 

「っ、止まって、コロ!」

 

 コロの動きを止める。

 ……分かっている、これはきっと罠だ。

 罠だと分かっているのに、体が動いてくれない。

 

 お父さんはあの時の優しい笑顔で、ゆっくり、ゆっくりとこっちに近付いて来る。

 ……こんなの、卑怯だ。

 お父さんの姿を斬るなんて私には出来ない。

 

「愉快愉快、最愛の人に斬られるのってどんな気分だ?」

 

 お父さんの攻撃に反撃出来ない私は、ただ守るだけで一方的に傷が付けられる。

 コロは私を助けようとするけど、私がその度に動かないでと目で懇願するため動けないでいる。

 

「目を覚ませよ!」

「無駄無駄、幻視は一人にしか効かぬが効果は絶大」

「このままじゃ……くそ、動けよ、俺の体……!!」

 

 ……ここで死ねばイエヤスが……!

 動いて、動いてよ私の体!!

 

 

「愉快愉快、お前にとってそれは余程大切な者なのだろうな。あの威勢はどこにいったのやら」

 

 お父さんの手には剣が、あって、それで、私を……。

 

 

 

 

「――約束を破るつもりか」

 

 闇が私を支配した。

 その闇は正義とは程遠いもののはずなのに心地良い。

 

「言ったはずだ、正義を貫くまでは死ぬことは出来ないと」

 

 暗い闇が消え、普通の夜が戻ってきた時にはお父さんの姿はなかった。

 代わりにあるのは見るも無残な姿となったザンクの姿に、

 

「……間に合ってよかった」

 

 いつもとは少し姿が変わった、怖いけどカッコイイ師匠の姿があった。

 

「……任務、成功、ですか?」

「あぁ、奴は俺の手で始末した」

「被害、は……」

「ない。今夜は誰も死なずに済んだのだ」

「……よか、た……」

 

 

 誰一人死ななかったことに安堵し、そのまま気を失った。




次回予告

ヴァル「帝具使いとの戦闘を終え、心身ともに疲労した俺たちを狙う新たな影!」

セリュ「え? 次の話って原作的に私の回だけど話的に無理なんじゃ……」

ヴァル「彼らの名はSIS「死んだイワシ戦線」! 彼らの目的は全世界のイワシを救済することだった!!」

セリュ「……って、イワシですか!?」

ヴァル「イワシは弱いから我々が管理しなければならないだと? いいだろう、貴様たちのやり方が正しいというのなら……」

ヴァル「まずはそのふざけた幻想をぶち壊す!!」

ヴァル「次回、とあるイワシと吸血鬼の神隠し第一話「イワシは漢字で書くと魚強と書く」」

ヴァル「さあ皆でイワシを食べよう! イワシは俺たちを、待っている!!」



セリュ「……今回、かなり強引にイワシ持ってきましたね」

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