吸血鬼が教育する〜帝都教育係と正義の少女〜   作:カナタナ

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外道貴族を教育する(1)

 帝都教育係ヴァルバトーゼの朝は早い。

 朝五時に起床し、軽く危険種を倒して能力を上げる。

 ヴァルバトーゼの魔ビリティーであるアブソープションによって強化されるのは一日が限界ということを知って以来、こうして朝にレベル上げも兼ねたステータス強化をおこなっている。

 それに、危険種狩りは帝都周辺で困っている人を助けることにも繋がっているため、無駄に倒しているわけではない。

 

 そうして朝の運動が済めば次は朝食だ。

 

 

「遅いぜヴァルっち!」

「イエヤス! 師匠に向かってヴァルっちはないでしょう!」

「わ、悪かったからそのトンファーを片付けろ!!」

「まったく……」

 

 道場の食堂コーナーに向かえば使用人が俺とイエヤス、サヨに何故かセリューの分まで用意して待っている。

 

 今日の献立は唐揚げ定食に新鮮なイワシだ。

 だが、俺以外は新鮮なイワシではなくイワシの塩焼きだ。

 

「……あの、ヴァルバトーゼさん。いつも生のイワシを?」

「あぁ、イワシは俺の力の源だからな」

 

 ヴァルバトーゼの体だと分かった当初、吸血鬼だから血を吸いたいと思うようになるかと思えばそうならなかった。

 その代わり体はイワシを覚えていて、今では大好物はイワシになった。

 

 使用人が様々な知恵を使ってイワシ料理を提供してくれるが、フェンリッヒがいないため、中に人間の血を入れているということはない。

 

「お前たちもイワシを食え! そうすれば俺のような強さを手に入れられるぞ!!」

「「本当か(ですか)!?」」

「そこは師匠がただのイワシバカなだけだから気にしなくてもいいよ」

 

 む、失礼な。

 俺は真剣にイワシの凄さを教えようとしているのに。

 

 ……いや、俺も元々はこれほどイワシ信者というわけではなかった。

 やはりこれもヴァルバトーゼの部分が色濃く出ているのだろうか。

 

「……それより師匠、気になる話があります」

 

 そう言うと俺に一枚の紙を渡した。

 内容は以前から調べていたナイトレイドに関しての資料だ。

 読み通り、彼らが殺しているのは俺の教育プログラムリストに入っていた者ばかりだ。

 中には隊長もいるため、かなりの手練れ又は帝具使いと思われる。

 

「……その中にアカメもいるとなると、彼等を止められる者なんて限られるでしょう」

 

 冷静に状況を報告してくる。

 ここに来たばかりのセリューと比べると本当に頼りになる人物に育った。

 ……あとはイワシパワーに目覚めてくれれば完璧なのだが。

 

「アカメって?」

「帝具村雨の使い手で、その実力は帝都でもトップクラスだった人よ」

 

 それに加えて帝具村雨はかすりでもすれば即死というまさに一斬必殺の刀というわけだ。

 いくら俺でも即死は対処のしようがない。

 

「……そもそも、帝具って何ですか?」

 

 サヨが申し訳なさそうに質問をした。

 だが、地方から来たなら帝具の存在すら知らないことだってあるから気にはしない。

 

「例えば私のコロも帝具なんだよ」

「キュー!」

 

 コロと名付けられた帝具ヘカトンケイルは美味しそうにイワシを食べている。

 ヘカトンケイルは食事時と俺とセリューの任務時以外は殆ど見ないため、俺の中での印象は薄い。

 

 二人がその外見に驚かないのを見るに、昨日ヘカトンケイルの紹介もしたのだろう。

 

「さっき言ったアカメの帝具はかすりでもすれば即死という厄介なものだ」

「てことはヴァル……バトーゼ、さんも帝具使いなのか?」

「言い難いならヴァルっちでも構わん。俺には帝具なんぞなくてもイワシパワーがある」

「イワシパワーすげー!?」

 

 イエヤスがイワシに目覚めたかのようにイワシを食す。

 

「……そのアカメなんですが、近々彼らが狙いそうな標的が現れました」

 

 またセリューはイワシの話を……と言いたいが、ナイトレイドの情報となれば話は別だ。

 

「いよいよオーガが標的に入ったか」

「いえ、次の標的も富裕層の人という噂があります」

「……となると、まだ奴に暗殺依頼は来ていないということか」

 

 ナイトレイドが依頼を受けてしか殺しをしないことは判明している。

 やはり、隊長クラスの殺しとなれば失敗した時の報復が恐ろしいのだろうか。

 

「それで、奴等が狙いそうなところは分かっているのか?」

「候補は三件。その中でも特に気を付けるべきは先日師匠の道場を見学に来ていたアリアという少女のいた家でしょう」

 

 アリアという名を聞いて思い出す。

 道場に来ていた時はただの子供だなと思っていたが、後から両親も含めて地方の人間を玩具かなんかと思っているような連中だと判明した奴等だ。

 確かにいつ殺されてもおかしくはないと思っていたが、あそこが特に狙いに来そうな場所か。

 

「……なんか、物騒な話だな」

「安心しろ、今回は俺一人で行く」

「師匠!」

「……今回は戦いでもなければ教育でもない」

 

 俺は初めからナイトレイドと敵対する気はない。

 少し過剰ではあるが、お互いに目的は同じなのだから――。

 

 

 

 それから、俺は毎晩人が寝静まった後にアリア一族の家を監視するようにした。

 流石にすぐに来るとは思っていなかったが、二日、三日経っても奴等は来なかった。

 少しだけ変化があったとすれば、昨日また新たな人間を入れ込んだくらいだ。

 何もなければ彼も殺されてしまう。

 今日も来なければ、ナイトレイドは関係なく彼を助けよう。

 

 ――そう考えていた時だった。

 

「……む」

 

 穏やかだった雰囲気が一変し、ピリピリとしたものに変わる。

 見ると、長い髪の女が大きなハサミを持って中に入っていく。

 

 ……間違いない、彼女は指名手配中のシェーレで手に持っていたのは帝具エクスタス。

 

「……ふっ、今日は長い夜になりそうだな」

 

 転生時から持っていた愛剣でもある魔剣良綱を装備し、俺は動き始めた。




次回予告

セ「悪虐非道の限りを尽くすアリア一家に現れた正義のヒーローヴァルバトーゼ!」

ヴァ?「正義の名のもとに、俺参上!」

セ「愛と勇気と正義の力で圧倒するヴァルバトーゼだが、そんな彼の前に新たな敵が……!」

アカ?「示して見せろ、汝の正義とやらを! グェッヘッヘ!」

セ「アカメの闇の力に次第に追い詰められるヴァルバトーゼ」

ヴァ?「ぐえーー!」


セ「しっかーし!! そんなピンチに現れたのは帝都を光で照らす絶対正義のヒーローだった!」

セ「次回、絶対正義計画最終話!「その少女は、絶対正義だった」」


セ「さよならヴァルバトーゼ、貴方の正義はこのセリュー・ユビキタスが継ぎます!」



ヴァル「……おい、勝手に殺すな」
アカ「私もそんなキャラではないぞ」

セ「正義に犠牲とキャラ崩壊は付き物なんですよ。多分」

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