突然だが、俺はナイトレイド全員の顔を知っているわけではない。
中には手配書に載っていない人物もいるだろう。
そんな時は、そいつの殺気や覇気から実力を見極める力が必要になる。
「ふふ、久しいなラバック。やはりお前も革命軍に寝返ったか」
「……おいおい、帝都教育係がなんでこんな所にいるんだよ」
糸の帝具の上に乗っているラバックとピンク髪の女にかなり警戒されているな。
下ではアカメと帝具インクルシオを纏った野郎、そしてシェーレが次々と敵を圧倒していた。
……よく見ると金髪の女もいるな。
「こいつが、将軍クラスの教育係?」
「……ヴァルバトーゼ、まだ帝具は持ってないのか?」
「言ったはずだ、俺には帝具など必要ないと」
ラバックとはナジェンダが将軍時代の頃によく話をした仲だ。
だからこそ、ナジェンダのいる革命軍に寝返ったのも理解できる。
「……とはいえ、お前もあいつも外から変えることを選んだか」
魔剣良綱を構える。
本物のヴァルバトーゼにはなれなくても、誇り高き悪魔にはなれる。
なら、俺は誇り高き悪魔であるようにしよう。
「っ、確かに今まで見てきたのとは全く違うわね」
ピンク髪が帝具パンプキンをこちらに向ける。
……こいつが、ナジェンダの帝具を使うか。
「……だが、まだ使い手が未熟だな」
瞬時にピンク髪のもとまで近付き、良綱を首筋付近で止める。
ラバックが足を糸で絡めているが、この程度なら簡単に千切れる。
「ナジェンダなら動いて俺の眉間にパンプキンを構えていたがな」
まさに為す術もなくといった感じだ。
完全に遠距離特価のパンプキン使いなのだろう。
……だとしても、噂のナイトレイドの一人がこの程度とは。
これならセリューでも勝てるな。
「……な、なによ。トドメを刺さないつもり?」
「うむ、まだ約束を果たせていないからな」
糸を斬り、下にいるインクルシオのもとに向かう。
後を追ってくるかと思ったが、動く気配はない。
「……インクルシオ。俺の予想が正しければ……」
アカメが標的を狙ったことで残党刈りをしているインクルシオに一文字スラッシュで攻撃を仕掛ける。
「……なっ、ヴァルバトーゼだと!?」
「やはり気付いていたか」
インクルシオがカウンターを狙っていたため攻撃を途中で止め、普通に地面に着地する。
「インクルシオを使える人間は限られる。貴様、百人斬りのブラートか?」
「……裏の帝国最強に知られているなんて光栄だな」
ブラートの構えには一切の油断もない。
噂には聞いていたが、百人斬りの異名は伊達ではないようだ。
「……貴様は堕ちていなくて安心したぞ。上司は堕ちてしまったからな」
「なに!? リヴァ将軍が生きてるのか!!」
「いや、かつてのリヴァ将軍は死んだ。今はエスデスの忠実な下僕だ」
鎧越しだが、悲しさのようなものが伝わってくる。
生きていたというのに、敵側についているという事実はやはり悲しいものか。
「……まさか、それを言うためだけに来たわけじゃねえよな」
「インクルシオの正体に確信が持てなかったからな。その話はついでのようなものだ」
ブラートが武器を構えて殺気を向けてくる。
だが、ここで戦えば確実に殺してしまう。
「……アカメはどこだ。奴に話がある」
「教えると思ってるのか?」
簡単に通す気はないか。
なら、仕方ない。
「――殺しはしないが、本物の恐怖というものを教えてやろう」
俺は、ブラートを闇の中に引きずり込んだ。
「……朝の日課に危険種狩りを入れたのは正解だったな」
ブラートを圧倒したとはいえ、アブソープションで強化されていなければもしかすると互角だったかもしれない。
「……来たか、ヴァルバトーゼ」
そして、いいタイミングで俺の目当てが現れた。
意識はあるが身動きの取れないブラートを持ち上げ、アカメの方に渡す。
「話を聞きそうになかったからな、適当に動けなくしてしまった」
「……ブラートと戦って無傷で勝つか。相変わらず化け物だな」
少し怒っているように見えるが、それもそうだろう。
これだけ仲間を傷つけられて怒らない奴なんていない。
そんな感情を抑えて冷静に話し合おうとしているアカメの精神力は相当なものだ。
「来たということは、決心がついたんだな」
「あぁ、俺は革命軍側につくわけにはいかない」
諸悪の根源であるオネスト大臣を許すわけにはいかない。
もし帝都教育係にならなければ、セリューと出会わなければ、皇帝に勉強を教えなければ、俺は革命軍に入っていただろう。
だが、ヴァルバトーゼの名にかけて交わした約束を違えるわけにはいかない。
「ナジェンダやお前との約束を果たすために大臣を討つ決起の時は俺も手を貸すが、それ以外は中立として……敵にも味方にもなるだろう」
「……変わらないな、お前も。お前が来ているとラバックから聞いてから、約束通り標的は生かしておいている」
念の為に確認してみると確かに父親と娘は縄に括りつけられていた。
金髪の女がここに連れてこられていた男を拉致していたが、そこは無視してもいいだろう。
「……噂には聞いてたけど、そんなオーラ放ってて将軍じゃないのかよ」
「将軍の地位よりも教育係のほうがやりがいがある」
金髪が珍しいものでも見るようにこちらを見回してくる。
男が離せだのなんだのと騒がしいためあまり会話に集中できない。
「俺は! 殺し屋になんかなるつもりは……!!」
「ええいやかましい! イワシでも食べて落ち着け!!」
イワシを口に突っ込む。
人はものを食べると落ち着くから俺の飯だったイワシを仕方なく与えてやった。
ほら見ろ、イワシのおかげで男は落ち着いて次第に話さなくなった。
「……お前、鬼か」
「いや、悪魔だ」
種族的なことを聞かれたと思い、咄嗟に悪魔と答えてしまったが、状況を再確認して理解する。
……なるほど、男は落ち着いたのではなく気絶しているのか。
まったく情けない。
「……さて、ナイトレイドが暴れたおかげで合法的に家の中を探り、裁くことが出来るな」
話を逸らすように縛られた二人に注意を向ける。
「なら私たちはアジトに撤退する」
「仲間には出来なかったけど、将軍クラスと協力関係を結べただけいい成果だ!」
アカメは男を、レオーネはブラートを背負ってこの場を去ろうとする。
去る途中にアカメが「落ち着いたらとりあえず一発殴らせろ」と言っていた気がするが今は放っておこう。
そして、この二人の処罰についてだ。
まあやることなんて決まっているからとりあえず口を塞いでいた縄を解く。
「……ぷはっ、私たちをどうするつもりだ!!」
「縄を解きなさい! 教育係風情が……!」
「……貴様たちは再教育プログラムが適用される。覚悟しておくことだな」
再教育プログラム
罪人が教育係に連行された場合、その罪人は「プリニー」という畜生以下の身分として使役される。
プリニーには専用のHLというお金が用意され、一億HLを返済しなければ一般人としての扱いを受けることはできない。
ただし、奴隷とは違うので一応部屋の支給と性的暴力等からの保護はされている。
「さ、再教育プログラム!!?」
「お願いします! 何でもしますから再教育プログラムだけは……!!」
かなり緩くしているとはいえ、こんな意地汚い者共を再教育するには丁度いい。
「連れて行け、プリニー共」
どこからともなくプリニーにされている奴等が現れる。
プリニーには特殊な紋章が刻まれているため、俺が来いと言えばこうして現われる。
「や、は、離して!!」
「む、娘に手を出すな!!!」
「大丈夫ッス、すぐになれるッスよ」
「同じ罪人同士仲良くするッス」
「「や、やめろーーー!!!!」」
二人の抵抗虚しく闇の中へと消えていく。
この屋敷も後日撤去されるだろうしこれで任務完了だ。
「さて、今日はイワシカレーにするか」
腹が減ったところで、俺もこの場を去った。
次回予告
アリ「タイトルの割に出番のなかった私たちに新たな試練が!!」
ヴァル「名前がプリニーになっていないではないか!」
プリ「次々と私たちから金目のものを奪おうとする輩が……って、名前がプリニーになってるじゃないの!?」
ヴァル「だが再教育の甲斐あってか、次第に金目のものよりも大事なものを彼らは見つけていく!!」
プリ「か、金より必要なもの……?」
ヴァル「……イワシだ!! その栄養満点さと豊富な種類にいつしか心を奪われ、遂にプリニーイワシ漁船団を結成してしまう!!」
プリ「……あの、これ私の次回よこ」
ヴァル「イワシによって一致団結したプリニーたちが目指すはまだ見ぬ新たなイワシを探し始める!! あ、あのイワシはなんだ……!?」
ヴァル「次回、イワシバカ日記第十九話「それは、きっとカタクチイワシだった」」
ヴァル「俺は、イワシと解り合えた」
プリ「結局貴方の次回予告になってるじゃない! 覚えてないさいよ……」
ヴァル「貴様、「〜ッス」はどうした?」
プリ「………ッス!!!」