吸血鬼が教育する〜帝都教育係と正義の少女〜   作:カナタナ

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オーガを斬る

「――どうした? 道場で何かあったのか?」

「……ん、急にどうした」

 

 勉強を教えている最中に皇帝に話しかけられた。

 よく見ると俺のことを心配そうに見ていた。

 

「いつもと違って厳しい目をしていたからな、何かあったなら余も何か手伝いたいのだが」

「……この程度、皇帝の手を煩わすまでもない。だが、その気遣いは感謝する」

 

 相変わらず国語と数学は満点で歴史は弱い。

 となると、ここからは歴史を中心的に学ばせるべきか。

 

「暫くは帝国史と世界史を中心として学ばせる」

「そうか。……意外と国語の言葉遊びというのは面白かったのだがな」

「……仕方ない、国語は続けようか」

 

 面白いと思ったことを止めさせる必要はない。

 そう思えたのなら最後まで、飽きるまで学ばせ続けよう。

 

「……で、余はヴァルバトーゼになにかあったのか聞いているのだが」

「……さっきも言ったがこの程度何でもない」

「だが、どんな些細なことでも余は知る必要がある。余は皇帝だからな」

 

 むう、今日はやけに食い気味だな。

 そんなに表情に出てしまっていたのか?

 だとすれば反省しなければ。

 

「……今日入ったプリニーが中々の曲者でな、どう教育すべきか迷っているのだ」

「そうだったか!」

 

 まあこの辺の言い訳が妥当だな。

 少し賢くはなっても皇帝は基本単純だ。

 こう、うまく言ってしまえばそうかと納得してくれる。

 この辺の単純さは大臣に感謝だな。

 

 やったぞ大臣、お前への好感度がミジンコ以下からミジンコ以下+に変わったぞ。

 

「なら、今日はもう休んでおけ。毎日働き詰めでは体に良くないぞ」

「……甘えさせてもらうとするか。……宿題は怠らないように」

「分かっている。大臣の負担を少しでも減らせるように余自身が優秀な皇帝にならなければな」

 

 相変わらず大臣に依存はしているが、最近は自分で考えて処罰を下すことも増えてきた。

 その大半は大臣のでっち上げだが、それで死ぬ人間もかなり減っている。

 ざまーみろだ。

 

「……では行くとするか」

 

 向かうはオーガと約束をした場所、メインストリートの一角にあるバーへ。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー」

「オーガはいるか?」

「オーガ様ならあちらです」

 

 手前のカウンター席に案内され、先に待っていたセリューとオーガの反対側に座る。

 

「久しぶりだな、オーガ」

「あのヴァルバトーゼ様から酒の誘いなんて光栄です」

「ふっ、そう畏まることもない」

 

 指示通り他には誰も……

 

「……」

 

 ……。

 

 誰かいた。

 

「オーガ、そこの人間は誰だ?」

「も、申し訳ありません! どうしても話があると言って聞き分けなくて……」

 

 フードの男を見る。

 不味いな、これじゃあ迂闊に手は出せないか。

 

「……セリューの調子を聞きに来ただけだから問題はないが、以後気をつけるようにしておけ」

「は、はい!!」

 

 しかし、オーガに話があるってことはまさかガマルの使者か?

 今回の殺しもガマルが関与してるって話だし。

 

 もしくは……。

 

 

「……青春謳歌」

「! ……焼肉定食」

 

 よし、こいつはそういうことだな。

 

「ヴァルバトーゼ様、一体何を?」

「昔の合言葉だ」

 

 男は剣を構え、女はトンファーを構え、店員は店を閉じて完全密室にした。

 オーガを葬りたい派がこの場に二人もいるなら止める気はない。

 

「貴様はこの国に必要ない。ナイトレイドに殺されるか俺たちに殺されるかの二択しか残されなかった己が罪を呪うがいい」

「ふ、ふざけるなぁ!! 教育係如きが何の権利があってこの俺様を――」

 

 オーガが言い終わる前にフードの男が背中を斬った。

 ……よく見るとアカメたちが拉致ったあの時の男か。

 

「なんだ、結局ナイトレイドに入ったのか?」

「イワシの人……じゃなくてヴァルバトーゼさん、俺も今の帝都の話を聞いて……」

 

 アカメたちから話は聞いたのか。

 なら俺から話すことは何もないか。

 

「新人とはいえ、暗殺者としてまだまだだな」

「……え」

 

 後ろからの攻撃を見切り、即座に回避する。

 オーガの一撃が床に直撃したことで木片が飛び散る。

 ……これ弁償するの誰だと思っているんだ。

 

「セリュー、そこの新人ナイトレイドに手本を見せてやれ」

「……同じ正義を志す者として、しっかり見てくださいね」

 

 声は至って普通だが、そのオーラはドス黒い怒りそのものだ。

 ……どれだけやればここまで怒らせれるんだ、頭をかち割って研究してみたいな。

 

「重罪人はここで処刑する。ろくでもなかったこんな私を、それでも正義の味方であり続けてもいいと言ってくれた人のために……!」

 

 トンファーでまず武器を破壊し、顔面二発、お腹に一発重たいものを喰らわす。

 だが、剣を破壊されたところでまだ体術が残っているオーガはすかさず投げの大勢に入る。

 

「――悪は!!」

 

 零距離で腹部を瞬時に蹴り上げる。

 セリュー曰くこれぐらい俺から学べば当然のように出来ると言うが、俺は人間を辞めるようなプログラムは一切導入してないはずだ。

 

「絶対に断罪する!!!」

 

 壁に叩きつけられるが、気を失う様子もなくこちらを睨みつける。

 ……まあ、相手が悪かったな。

 

「コロ、捕食!」

 

 壁の向こうから巨大な手が現れ、オーガを握りつぶす。

 

 

「な、なんだこいっ、や、やめ……」

 

 最初はきっと抵抗しようとしたのだろう。

 声が聞こえていたのに、今では多分骨のゴリゴリという音しか聞こえてこない。

 

「さて、俺も帰ると……」

「お待ちください、ヴァルバトーゼ様」

 

 かなり力強く俺の両肩を掴まれる。

 店員二人の笑顔がとても怖い。

 

「床、壁、テーブルに椅子、割れたジョッキ等……」

「ここを使っていいとは言いましたけど、いくらなんでも壊しすぎじゃないですか〜?」

 

 視線でセリューと男に助けを求めるが、セリューとヘカトンケイルは敬礼だけして帰り、男は「任務を終えたら報告しなくちゃ」と完全に俺を無視して帰ってしまった。

 ……嘘だろおい。

 

「……そうだ、ついでに今夜一杯行きましょう」

 

 もう、俺は覚悟を決めた。

 どうせ今回も愚痴を聞かされるのだろう。

 

 ……主に俺の。

 

「……分かった。だが、程々に飲め」

「「はい!」」

 

 俺たちは壊れた店に暫く休みますの看板を立て、近場の飲み屋に向かう。

 ……まあ、なんだかんだ言っても帝都は今のところ平和(?)だな。




次回予告

セリュ「私のペットである帝具ヘカトンケイルにはなんと知られざる秘密があった!」

イエ「秘密〜?」

コロ「キュー?」

セリュ「コロに搭載されたコアユニットが覚醒した時、ヘカトンケイルプスレクスへと進化する!!」

コロ「ギュゥ!?」

セリュ「コロの拳が真っ赤に燃える! 正義を貫けと轟き叫ぶゥ!!!」

コロ「キュ、キューー!!?」

サヨ「コロちゃんどうなっちゃうの!?」

セリュ「次回、機動新世紀ヘカトンケイル第十四話「コロ、戦地に立つ!」」


セリュ「私のコロは凶暴です」

コロ「キュー……」

セリュ「コロー、貴方も気に入ったのねー♪」


コロ(んなわけねーよ)

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